補装具(※)としての重度障害者用意思伝達装置(以下、「意思伝達装置」という。)は、以下のように規定されています。
ソフトウェアが組み込まれた専用機器及びプリンタで構成されたもの、もしくは生体現象(脳の血液量等)を利用して「はい・いいえ」を判定するものであること。その他障害に応じた付属品を修理基準の中から加えて加算することができること。
(出展:平成18年9月29日 厚生労働省告示第528号 最終改正:平成20年3月31日)
ここでは、大きく分けて、2種類の意思伝達の方式が示されています。
⇒ それぞれの特徴や製品例は、「A.1 「重度障害者用意思伝達装置」とは」をご覧下さい。
専用機器とは、「意思伝達装置として製造された機器」というイメージがありますが、実際には「パソコンを主要なハードウェアとしてソフトウェアを組み込んだ機器」もあります。
このように、「パソコンをベースとした意思伝達装置」の場合、以下の要件を満たす製品を「専用機器」と見なすことが妥当と考えます。
⇒ 補装具事業者の責務は、「A.2 「重度障害者用意思伝達装置」が「補装具」であること」をご覧下さい。
(関連情報)
利用者のご希望により、利用者が所有するパソコンに「意思伝達装置の機能を有するソフトウェア」をインストールして利用する場合には、そのソフトウェアにかかる購入費用は、特例補装具費としての対応は可能と考えますが、パソコン本体にかかる購入費および、その修理費は補装具費支給対象外と考えます。なお、操作スイッチ類等は、本体が専用機器(購入基準内)か、特例補装具かに関わらず、補装具費の支給対象と考えます。
⇒ 特例補装具費での取扱いは、「2.2 特例補装具費としての判定」をご覧下さい。
※詳しくは、「A.2「重度障害者用意思伝達装置」が「補装具」であること」を参照して下さい。
告示の購入基準の中では「・・・及びプリンタで構成されたもの」とされており、プリンタは必須と読めますが、近年のIT環境の進展から、実際にはプリンタを使用しない利用形態があることも事実です。そのため、支給に当たっては「プリンタの要否」について利用者へ確認を行う必要があると考えます。利用者が印刷による意思伝達は想定しておらず、プリンタの支給は不要であることを確認できる場合には、プリンタは支給せず、その分の額を控除することができるものと考えます。
なお、プリンタの考え方は以下のとおり整理しました。
生体現象として「脳の血液量」や「脳波」を利用して「はい・いいえ」を判定するものがあります。生体現象の変化を基に判定するものであるため、「能動的な意思伝達ではなく、支援者からの呼びかけへの応答という受動的な意思伝達」となりますが、「反応に時間がかかること」、「正確な意思が反映されていない場合もあること」、「本人の覚醒レベルによっても反応が異なる場合があること」等に留意し、有効性を見極めることが必要です。
⇒ 詳しくは、「A.1 「重度障害者用意思伝達装置」とは」をご覧下さい。
修理基準は、故障に対する修理だけでなく、「その他障害に応じた付属品」として、固定具や入力装置(操作スイッチ)にかかる費用の、購入基準への加算額の根拠ともなります。
操作スイッチは、利用者の障害状況の変化(病状の進行)に応じて、その都度申請することができます。適切な操作スイッチを組み合わせることで、同じ意思伝達装置を継続して利用し続けることが可能になります。
意思伝達装置の使用に当たっては、操作スイッチの適合が必要不可欠であり、本体とスイッチの両方がそろうことで機器全体のシステムを構築していますので、障害状況の変化に合わせたスイッチの交換が「修理」として認められています。スイッチ交換の要否については、身体障害者更生相談所(以下、「身更相」という。)によるフォローアップ調査(⇒2.3参照)や、在宅への訪問リハビリテーションサービスなどで確認されることもあります。
補装具費支給制度においては、意思伝達装置を、補装具費の支給により購入している場合に限らず、要件を満たせば、障害者自立支援法施行以前(以下、「旧制度」という。)の日常生活用具給付等事業や難病患者等日常生活用具給付事業により給付されている場合や、本人が自費購入あるいは他人からの譲渡による入手の場合も、修理の対象とすることが可能です。
但し、補装具費の支給により入手している場合以外においては、修理申請があった段階で、次に示す、補装具費支給事務取扱指針(以下、「指針」という。)が定める対象者に該当するかどうかの確認が必要です。
⇒ 詳しくは、「A.3 重度障害者用意思伝達装置の購入基準・修理基準等」をご覧下さい。
意思伝達装置を補装具費として支給する場合の対象者は、以下のように規定されています。
重度の両上下肢及び言語機能障害者であって、重度障害者用意思伝達装置によらなければ意思の伝達が困難な者。
(出展:平成18年9月29日 障発第0929006号「補装具費支給事務取扱指針について」、最終改正:平成20年3月31日 障発第0331003号)
ここでは、2つの要件が示されています。
基本的には、障害認定を受け身体障害者手帳を保有している者が対象となると思われますが、「重度」の基準は明示されていません。したがって、その必要性の具体的判断は各都道府県・指定都市に設置された身更相の判定によることになります。
重度の基準としては、支給決定を実施している各市町村の判断になります。ここで、具体的に、
などの要件を示しているところもありますが、指針では、障害等級を定めていませんし、このような一律の基準による判定は、制度の主旨にそぐわないと考えます。目安としての基準を示すことは必要な場合もあるかと思いますが、あくまでも、当該申請者の身体状況を判断し、「重度の両上下肢及び言語機能に障害があること」が確認でき、支給対象者になりうるのであれば、障害等級の再認定を求める必要はないと考えます。
進行性疾患においては、申請時の状態のみが判断基準でなく、音声の完全喪失(障害固定)前であっても、進行を考慮して、支給対象とできることも考えられます。(状況によっては、「難病患者等日常生活用具給付事業」(⇒A.4(5)参照)の対象となる場合もあります。)これは、音声言語機能が完全喪失した後に、意思伝達装置の支給手続きを開始することで、実際の利用に至るまでに時間がかかり、家族等とのコミュニケーション手段が断たれてしまう場合があるからです。
しかし、進行性疾患であったとしても、急速な症状の変化(状態の悪化)が予想されない場合、または長期にわたり(ゆっくりと)進行するような疾患の場合は、疾患名が「進行性~」であっても、支給時期が早期過ぎないように留意が必要です。
あくまでも、「重度の両上下肢及び言語機能障害者」であるか、間もなくその状態になることが意見書等で確実に判断できる場合が、対象となる障害状況と考えます。
⇒ 医学的判断は、「3.1 意見書・処方箋に必要な内容」が参考になります。
「重度障害者用意思伝達装置によらなければ意思の伝達が困難な者」が対象となります。「困難」のレベル等については、様々な障害状況や生活環境等の要素があるため、あえて明示されていませんが、障害状況の把握に当たっては、「手指等による文字盤の使用や、携帯用会話補助装置の使用が困難かどうか」を評価し、判断の参考としてはどうかと考えます。
このとき、手指等による文字盤等の使用が短時間のみ可能であっても、意思を伝えるための十分な時間の使用が困難であれば、使用困難と評価することが妥当と考えられます。
ただし、透明文字盤を見つめることで意思疎通を図っている方については、ケースによっては意思伝達装置と併用することで、円滑なコミュニケーションが可能となる場合もあります。透明文字盤の使用が可能な方は、意思伝達装置の支給対象外と判断することは適切でないと考えます。
総合的に評価する場合の例として、
などの場合は支給対象になり得るものと思われます。
また、別の観点からまとめると、「重度障害者用意思伝達装置によらなければ意思の伝達が困難な者」ということは、「意思伝達装置の必要性が高い者」といい換えることができます。必要性と考えれば、単に操作できるか否かだけでなく、本人の意欲や、利用の有用性という生活環境面での判断も必要になると考えます。
⇒ 社会的判断は、「3.2 調査書・事前評価のポイント」が参考になります。