2008(平成20)年春、重度の聴覚障害がある医師が誕生した。2001(平成13)年に「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律」の制定により欠格条項が見直されて以降初めての快挙である。
ご本人及びご家族の努力はもとより、重度聴覚障害のある学生を受け入れ、7 年間にわたり試行錯誤を繰り返しながら、講義保障や学生生活をおくる上での様々な支援を行われた滋賀医科大学のおかげである。
これまで、多くの聴覚障害学生が大学や短期大学、専門学校等で学んできた。
しかし、その大半が文化系の学部であり、理科系であっても絶対的欠格条項のない専門分野である。
2001(平成13)年の法律改正により、様々な分野で欠格条項が見直され、聴覚障害学生にとって、医療分野をはじめとして大きく門戸が開かれたのである。
その最初のケースである滋賀医科大学での取り組みを通じて、医療系学部の授業は、演習、臨床実習等も多く、ノートテイクやパソコンノートテイクだけでは限界があり、どのような方法で講義保障、コミュニケーション環境の整備を行うか、また、大学での学習内容の多様さ、学習量の多さ等大学入学前と比較にならない学習環境の変化に対応できるようにどのような支援を行うか等解決しなければならない課題が山積していることが明らかになった。
そこで、医学部、歯学部、薬学部、獣医学部、看護学部等医療系の高等教育機関で学んでいる聴覚障害学生の実態を把握するとともに、学生を受け入れている学校における支援体制、講義保障の状況、学校が抱えている課題や問題点を調査し、分析することとした。
調査にあたっては、まず第1 次アンケート調査において全国すべての医療系大学、専修学校および高等学校に対し、聴覚障害学生の在籍の有無、また過去の在籍の有無や、事前相談の有無を調査し、「あり」と回答のあった学校に対し、第2 次アンケート調査でその実態を調査することとした。
また、アンケート調査だけでは把握できない様々な状況や、課題、問題等を整理するため、調査研究委員が直接学校に訪問し、支援担当の教職員及び在籍する聴覚障害学生から聞き取り調査を実施することとした。併せて、学校以外の支援機関の課題や問題点を把握するため今回は、手話通訳を派遣している支援機関への訪問調査を実施した。
調査結果を見てみると、調査研究委員会が当初予測したよりも多くの医療系学部に多くの聴覚障害学生が在籍しており、とりわけ2001(平成13)年の法律改正後、その数が増大していることから、法律改正の効果が着実に表われているといえる。
一方で、聴覚障害学生への支援や講義保障については学校間に格差があり、どのように支援すれば良いのか悩んでいる学校も多く見受けられた。
この調査研究の成果が、医療系学部に在籍する聴覚障害学生の講義保障やコミュニケーション環境整備の推進に少しでも役に立ち、さらに多くの聴覚障害学生が医療系学部をはじめ様々な専門分野へ挑戦されることを期待している。
最後に、本調査研究事業にご協力いただいた多くの医療系高等教育機関に感謝申し上げ報告書の序にかえたい。
2009(平成21)年3月31日
社会福祉法人全国手話研修センター 理事長 安藤 豊喜