第2章 聴覚障害学生の在籍調査(第1次アンケート調査)

1.調査目的

医療系大学等における聴覚障害学生の情報保障を研究するにあたって、医療系高等教育機関の聴覚障害学生の在籍状況の実態を把握しておく必要がある。そのために、本調査は、医療系学部を持つ高等教育機関(大学、専修学校、高等学校)に対して、聴覚障害学生の在籍および問い合わせの有無、また、「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律」制定年(2001年)を境とした変化を明らかにすることを目的として実施した。

2.調査方法

(1)調査項目

調査票を作成するにあたって、今回の調査で重要となる「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律」制定年(2001 年)を境として、医療系高等教育機関に進学を志す聴覚障害学生の変化を明らかにする必要があると考えた。そこで、2001 年を境として、聴覚障害学生の在籍、問い合わせ、受験を把握する調査項目を作成した。なお、調査項目については、過去に遡る調査項目もあるため、調査回答者が過去のデータから簡便に回答できるようにできるだけ簡略化した。(調査票85ページ添付)

(2)調査対象

調査対象は、全国の医療系高等教育機関とし、医学部を持つ大学(80校)、薬学部を持つ大学(74校)、獣医学部を持つ大学(16校)、歯学部を持つ大学(29校)、保健師・助産師・看護師・准看護師養成校(大学、専修学校、高等学校)(1,496校)を対象とした。

対象校は、複数学部を併せ持つ高等教育機関は1 校とし、合計1,162 校とした。

(3)調査期間等

本調査は質問紙郵送法とし、2008(平成20)年9月19日より随時郵送し、10月31日を締め切り日とした。

郵送宛名は各校で障害学生支援担当窓口が異なるため一律学校長宛とした。なお、障害学生支援担当窓口より回答を得られるよう、封筒に「厚生労働省委託 医療系大学等における聴覚障害学生への情報保障のための調査研究事業」というシールを貼った。

3.調査結果

1.貴校には、現在、聴覚障害学生が在籍していますか。
1)いない、2)いる( 名)、3)不明

1.現在、聴覚障害学生の在籍の割合
調査対象校 1,162校
  回答校数 割合(%)
1)いない 745 64.1%
2)いる 125 10.8%
3)不明 14 1.2%
未回答 278 23.9%

1.現在 聴覚障害学生の在籍

1-2.現在、聴覚障害学生が在籍している学部
  全校 回答校数 割合(%)
医学部 80 11 13.7%
薬学部 50 21 42%
獣医学部 7 2 28.5%
歯学部 11 0 0%
看護学 保健師・助産師・看護師・准看護師養成校
(大学・専修学校・高等学校)
1,014 91 8.9%

1-2.現在 聴覚障害学生在籍学部

1-3.1校あたりの聴覚障害学生在籍人数
回答校数 125校
  校数 割合(%)
1人 78 62.4%
2人 30 24%
3人 4 3.2%
4人 3 2.4%
5人 1 0.8%
6人 1 0.8%
9人 2 1.6%
未記入 6 4.8%

1-3.1校あたりの聴覚障害学生在籍人数

2.貴校では、過去、聴覚障害学生が在籍したことがありますか。
1)在籍したことはない、2)在籍したことがある、3)不明
調査対象校 1,162校
  回答校数 割合(%)
1)在籍したことはない 601 51.7%
2)在籍したことがある 190 16.3%
3)不明 81 7%
未回答 290 25%

2.過去 聴覚障害学生の在籍

2-1.過去に在籍した場合、その学生の入学年はいつですか。(複数回答あり)
1)2000年以前、2)2001年以降

2-1.聴覚障害学生入学年
回答校数 190校
複数回答:202校
  校数 割合(%)
1)2000年以前 69 34.2%
2)2001年以降 133 65.8%

2-1.聴覚障害学生入学年

3.貴校では、過去に聴覚障害学生やその保護者、担当教員から 受験についての問い合わせがありましたか。
1)問い合わせがあった、2)問い合わせはない、3)不明

3.問い合わせ
調査対象校 1,162校
  回答校数 割合(%)
1)問い合わせがあった 194 16.7%
2)問い合わせはない 570 49%
3)不明 120 10.4%
未回答 278 23.9%

3.問い合わせ

3-1.問い合わせがあった場合、その時期はいつごろですか。(複数回答あり)
1)2001年以前、2)2002年以降、3)不明

3-1.問い合わせ時期
回答校数 194校
複数回答:218校
  校数 割合(%)
1) 2001年以前 44 20.2%
2) 2002年以降 139 63.8%
不明 35 16%

3-1.問い合わせ時期

3-2.問い合わせがあった場合、実際に受験されましたか。(複数回答あり)
1)受験した、2)受験しない、3)不明

3-2.問い合わせ後の受験
回答校数 194校
複数回答:217校
  校数 割合(%)
1) 受験した 122 56.22%
2) 受験しない 50 23.1%
不明 45 20.7%

3-2.問い合わせ後の受験

4.結果の概説

集計結果を見ると、聴覚障害学生が在籍すると回答した医療系高等教育機関が全国で125校に上った。ただし、医療系学部のある大学が社会福祉系など他の学部に在籍する聴覚障害学生を含めて回答した例があることが第2 次調査の段階で判明している。正確な数字は第2 次調査の結果報告をご参照いただきたい。

学部別に見ると、看護学部が91校と圧倒的に多く、薬学部21校、医学部11校、獣医学部2校と続き、歯学部はゼロである。

在籍数については、1名と回答した機関が78校、2名と回答した機関は30校、3名以上になると極端に少なくなっている。聴覚障害は外見では分かりにくい障害と言われている。2名以上が同じ学部に在籍しお互いに交流がある場合は手話などのコミュニケーションにより回りから見て聴覚障害学生がいることが分かりやすくなる。この意味で、1名しか在籍しない状況が全国的に多いことには重要なポイントである。

聴覚障害者に医師等の免許を与えないとする絶対的な欠格条項が撤廃されたのは2001年である。2000年以前に入学があった機関は69校、2001年以降は133校になっている。また2001年以前に問い合わせを受けた機関は44校、2002年以降は139校である。この結果から、法律改正を契機に医療系高等教育機関に進学するまたはその関心を持つ聴覚障害学生の数が増加の傾向にあることが分かる。

以上が第1次調査の回答結果を集計して明らかになった点である。また、この第1次調査では回答をいただいた機関名と担当者の記載をお願いしており、結果として訪問調査及びアンケートを使う第2次調査を行うための基礎データとして活用することができた。

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