D校は、医療系の大学であり、第1次アンケート調査において、9名の聴覚障害学生が在籍している、との回答があり、その後の電話による聞き取りでも、3学部8学科に聴覚障害学生が在籍していることがわかっていた。調査者は平成21年2月にD大学を訪問し、教務課の担当者と3学科の教員も同席の上、聞き取り調査を行った。(記録④-1)
現在在籍の聴覚障害学生の障害程度はいずれもごく軽いものであり、日常生活や授業を受けることについての支障はなく、授業や実習等での配慮は必要ない程度のものであった。
D校では、現在、発達障害(アスペルガー)を持った学生がいたことで、本人や保護者との話し合いを持ち、障害理解についての講演会を企画したり、本人や両親からも話してもらい、全学で共通した理解が持てるように取り組みを行っている。新カリキュラムに「障害の世界」という授業を設けており、全学学生が障害について知る機会を設けている。
また、昨年度(平成19年度)に立ち上げた学習支援委員会が本年度(平成20年度)より活動を本格化した。この委員会は、教職員(各学科代表、健康管理センター、精神科医、看護師等)と学生委員会代表や教務委員会代表で組織され、約30名が年に2~3回の会議を開いている。委員会には、第1専門部会(身体障害学生支援)」、「第2専門部会(発達障害群及び精神障害学生支援)」、「第3専門部会(修学困難群学生支援)」が設けられており、部会は1ヶ月に1~2回の会合を開き、取り組んでいる。障害学生の把握を目的としてポスターを学内に貼り、当該学生自身から障害の申告をしてもらうよう呼びかけた。その結果、今年度、聴覚障害については10名の申告(後に1名追加)があったものである。
聴覚障害学生については、これまでに聴覚障害が一番重い学生で平均聴力レベル30デシベルであった。その学生は言語聴覚士を目指す学科であったが、学力が低く、追試、再試、補習等を行っても追いつけなかった。基礎学力の不足、専門知識の不足があげられる。ゼミやグループワークについても、自分勝手な判断があるなど、他学生から担任教員に相談があった。4年次までは進級したが、4年次になっても3年次の臨床実習の単位が取れないため、学生本人と保護者にも来てもらい、話し合った。本人は「頑張る」とずっと言っていたが、このままでは卒業が延びる見込みであることから、保護者の意向により退学した。(現在は会社に勤め、元気でいる様子)
聴覚障害学生にとっては、障害そのものは軽くても、これまでの人との関わり方の希薄さや基礎学力の不足などによって、専門職者としての学習には耐えられない状況となった例と言えよう。言語聴覚学科では、授業の中で聴力検査を実施し、当該学生自身が聴覚障害について客観的に受け止めることが可能になった例もある。
なお、D校では、車椅子を利用する身体障害者のために一部の施設の改造を検討している。また、重度の聴覚障害で手話をコミュニケーション手段とする学生の受験相談があったため、こうした学生への対応についてもさらに検討を進めていく予定である。
調査者:新中 理恵子
白澤 麻弓
調査日 2009年2月19日
聞き取り調査相手 D大学 教務課 職員、医療技術学部 言語聴覚学科 講師、医療技術学部 義肢装具自立支援学科 教授、健康科学部 看護学科 講師
第1次調査結果:現在9名の聴覚障害学生がいる。
電話による聞き取り:
(1)専門用語が多用される授業での支援内容とその効果および問題点
本学科には2名の聴覚障害学生がいる。2名とも片方のみの障害である。1人は小さい頃からの障害で、補聴器をつけている。もう1人は大学に入学後、突発的な疾患で障害となった。
支援としては、一般の学生と同様に行っている。本人たちも特別な配慮を希望していない。ただし、本人に聞こえるよう教員は配慮している。
修学状況としては、特に問題はないと思われる。
(2)学内の実習での支援内容とその効果および問題点
実習マニュアルの充実化を図り、わかりやすく指導できるよう心掛けている。また、本人への個別実習指導(全学生対象)も行い、技術が身につくようにしている。これらに関しては、確認試験にて、習得レベルを把握している。
実習に、機会・工具の扱い方には、十分な説明を行い、常に教員が立ち会うようにしている。また、緊急時のマニュアルを作成し、対応できるようにしている。
(3)集団学習(ゼミ、グループワーク等)での支援内容とその効果および問題点
1年次の基礎ゼミⅠ、Ⅱにおいて、まわりの同級学生が本人にわかるよう気を遣って話す以外には特に配慮してなかったようである。本人たちも、それを希望していなかったようである。
(1)患者などの安全確保や同意の方法および問題点
集団(基礎ゼミ単位6名)による1日実習を行ったが、特に問題は見受けられなかった。患者などの安全確保や同意については未。(3年次の授業で、対応マニュアルを作成中)
(2)指導者方法上で課題となったこと
マスク等はもともと使用していないため、特に問題にはならなかった。聞こえづらいことを教員が把握し、個別に対応していた。
(3)病院などのスタッフへの周知の方法および問題点
学生の実態を知らせ、指導者に配慮をお願いした。
(1)国家試験準備の支援内容および課題
国家試験対策は全員に行っている。
試験時の配慮はなし。(入学試験と同様)
専門職者としての教育をするのは学校の責任と考えている。
(2)就職支援の内容および課題
他の学生同様に考えている。ただし、聴覚障害であることを、就職先に理解していただくようお願いする。
(以前、補聴器使用の聴覚障害者がいたが、就労についての問題はなし)
(1)学生の相談相手および相談内容
当該学生の相談相手としては、学科のゼミ担当教員を中心に行っている。この他、学年担当、卒研担当がおり、3つのセーフティネットで当該学生のサポートを行っている。当該学生からの相談は学科会議にて各教員の共通認識として、本人への対応に生かしている。
精神衛生に関する相談についても同様で、基本的にはゼミ担当教員を中心に学科会議等で、対応を決めている。
(2)有効な相談方法
学生7~8人に対して1人の教員がいるため、きめ細かく対応できていると思っている。
(1)基礎教養課程
他の学生同様、特に大きな問題はなかった。しかし、8年前の学生のみ若干、学力に問題があるようであったため、補講、補習等で学力を強化した。
(2)基礎課程
今のところ、特に問題はないと思われる。
(3)専門課程
今のところ、特に問題はないと思われる。
(1)研修の内容と時期
研修会について、今後、企画する予定はあるが、これまでにはない。ただし、聴覚障害学生の入学の可能性があるため、どのような支援が必要かは、調べている。
同級学生や支援学生に対する支援・相談担当者は特に決まっていない。聴覚障害学生に対する支援のあり方については、事前に勉強会を開き、知っておく必要があると認識している。
この他に、発達障害学生に関する研修会は現在も実施しており、1年次の夏頃に教職員や学生を交えて勉強会を実施した。実施時期は早ければ早いほうがいいと思う。ただ、現実的には問題となる学生の存在がある程度学科全体で周知され、学生にも余裕が出てきた時期を見計らって実施することになるため、今回のケースでも秋口になってしまった。ただ、早すぎると周囲の学生も受け止めきれないので、結果的には良かったのではないかと思う。勉強会では専門家より発達障害に関する知識を説明いただいたほか、学生本人や両親からもそれぞれ話をしてもらった。
(1)支援組織のあり方
大学としての支援組織は、はじめはなかった。
昨年度(平成19年度)に、学習支援委員会を立ち上げ、本年度(平成20年度)より活動を本格化した。各学科代表、健康管理センター、精神科医師、各領域専門家(看護・臨床心理士等)で組織した。その他に、学生委員会代表と教務委員会代表が入り、約30名が集まって、年に2~3回の会議を開いている。委員会には、3つの部会をおいている。「第1専門部会(身体障害学生支援)」、「第2専門部会(発達障害群及び精神障害学生支援)」、「第3専門部会(修学困難群学生支援)」の3つで、各部会は月に1~2回の会合を開いている。
障害学生の把握を目的として、ポスターによる呼びかけをして、10名の学生から申告があった。
(2)財政支援の考え方と規模
特にない。(これまでは必要なかった)
来年度は、身体障害者対応支援として助成金200万円を申請する予定。
(3)本人負担の考え方と内容
現在のところ、本人負担は考えていない。
(以上の3、4、5、7は全学科にわたる内容です)
現在2名の聴覚障害学生がいる。本人の申告により把握した。
基礎看護学での聴診器の扱いもクリアしており、学習には支障ない程度。
成績は芳しくない。のんびりした性格で、レポートは毎回遅れる。
グループワークでの発言はあり、聴力による問題はないのではないか。
看護学科では3年次に実習があるが、担当教員が一緒にいるので様子を見ることができると思っている。ただし、他学生以上に精神的負荷が大きくなるのではないかと思われるため、少し心配はしている。
既に退学しているが、以前、難聴学生がいた。
入学時の健診で聴力検査(スクリーニング)でひっかかり、精密検査をしたところ、感音性難聴が見つかった。平均聴力レベルは30 デシベル。1000Hz は10デシベル程度だが、高音部が聞き取りにくいため(4000Hzが55デシベル、8000Hzが60デシベル)、語音によっては聞き取りにくい。乳幼児期にろう学校での相談経験あり。小学校、中学校とも普通校に通学していた。
補聴器は試したが、本人はあまり進んで使用しようとはせず、本学では、授業によってはときどき使用していたときもある程度であった。
本人は一番後ろに座っていたが、聞き取りやすいようにと、教員が一番前の席に座るように指示した。小さい頃からの積み重ねで、学力不足があり、追試、再試、補習等でも追いつけなかった。実習前の必修科目についても、専門知識の不足、患者との関係作りが困難となることが予想され、クラスでも自分勝手な判断があると他の同級学生からの相談があった。ゼミやグループワークで他の同級学生がサポートしてきたが、本人は自分が分かったことだけを主張し、協同できず、障害の認識もないため、自分の思い込みや曖昧な聞き取りを確認しない。専門用語の聞き取りにはさらに困難が生じた。
3年次の実習前に、個別に、病院の医師についての見学実習を行ったが、再実習となり、大学側でカバーできない状況だった。
4年次になっても、3年次の実習がとれず、臨床実習を実施するのが困難な状況で、本人と保護者を呼んで話し合った。この調子では、卒業が延びる見込みであることを話した。
本人は「頑張る」とずっと言っていたが、保護者の意向で退学した。
現在は親の知り合いの会社に勤め、元気でいる様子。学友が今でも時々飲み会に誘ったりしている。