【訪問調査⑥】F大学 薬学部

F大学薬学部は6年制のカリキュラムで、聴覚障害学生が2名在籍している。調査者は平成21年2月にF大学薬学部を訪問し、学生課課長、教務課課長に聞き取り調査を行った。(記録⑥-1)

F大学に在籍している聴覚障害学生は2人おり1人は軽度であり、ほとんど支障はないようであったので、もう1人の学生について話を伺った。聴覚障害学生(105デシベルの聴力損失)は非常に積極的な性格であり、周囲の学生とも友好的な関係を築き、友人として支援してもらいながら学生生活を送っているようであり、これまでのところはうまくやっているとのことであった。

ただ、学業の面となると、努力は認めるが、どうしても他の学生と比して評価が低くなることもあるとのことであり、早急に講義における情報保障体制を整備する必要性を感じた。

今後、学年が上がるにつれて増える専門的な講義、実習における情報保障のニーズにどう対応していくかが課題となっているが、F大学としては、上級生からノートテイクボランティアを募り、彼らにノートテイクをお願いし情報保障を行うことを考えているとのことであった。これについては、それも1つの方法であるが、学生ボランティアでは限界がある場面も予想されるので、聴覚障害者情報提供施設等による要約筆記者の派遣も組み合わせて最も適切な情報保障体制を整備していく必要があろう。

また、薬学教育カリキュラムが変わったことにより、OSCE(客観的臨床能力試験)が新たに設けられ必須となったが、このOSCEは大学とは別の機関が実施するため、実施機関と聴覚障害学生に対するOSCEの実施と評価の方法について協議する予定とのことである。

これも新たな課題として、当事者団体、聴覚障害者情報提供施設なども交えて協議することも必要ではないかと思われる。

全体的に感じたことは、大学側が非常に聴覚障害学生支援に積極的であるということであった。今後のF大学での情報保障の体制整備などの支援の取り組みが成功すれば、薬学部における聴覚障害学生への支援のモデルとなるし、大学側もそうなることを目指しており、私どもも積極的に協力していきたい。

調査員:河原 雅浩、新中 理恵子

【記録⑥-1】F大学学生課課長、教務課課長への聞き取り調査メモ(手話通訳利用)

調査日2009年2月25日

聞き取り調査相手 F大学 学生課課長、教務課課長

1.学内での教育保障

■1学年:300人(授業形式:300人、150人、80人)。

■授業における情報保障について当該学生からは特に問題がないとの報告がある。

(1)専門用語が多用される授業での支援内容とその効果および問題点

■板書が少なく、プリントを使用した進行。

■特別な支援:

  • 教員が個別フィードバック(補習)をする。
  • 友人よりノートを借りる。
  • 試験時に分かりやすく説明をするように教員に指示。

今後、専門的な領域になるため、特別な支援が必要と考える。

■パソコンノートテイク:1講義に2人派遣

■支援者:大学院1年次学生にボランティアを募集。

■再来年度以降は大学院入学者がいない(6年制に移行)ため、来年度と同様の支援は今後は不可能。

→アドバイス)聴覚障害者情報提供施設など地域資源の活用。

(2)集団学習(ゼミ、グループワーク等)での支援内容とその効果および問題点

■当該学生:

  • 一生懸命聞こうと努力をしているが、他の学生と違う結果が生じる。
  • 正面を向いての話は理解できる。

■担当教員:

  • 当該学生の懸命な姿は評価したいが、他の学生同様の点数は与えられない。考慮はしている。
  • 終了後、個別フィードバック(補習)を実施すれば理解はできる。

■スモールディスカッション:

  • 今後増えるために早急の対応を模索中。
  • 4年次模擬患者への服薬指導開始。

2.病院実習等での教育保障

■実習:3年後の5年次に病院(薬局)にて11週間実施。

■実習先:大学から関係のある病院・薬局に当該学生の実習受入れを依頼。

■患者とのコミュニケーション:問題意識あり。今後の授業で検討。

■現在3年次に聴覚障害学生がいる他大学の実習結果を聞き参考にする予定。

→アドバイス)聴覚障害をもつ医療従事者の会には、多くの聴覚障害を持つ薬剤師がいるので、現場で活躍している薬剤師の意見も参考にしてはどうか。

3.国家試験準備、就職支援についての支援内容および課題

OSCE試験について

■試験実施:2年後の4年次。来年他大学の現在3年次学生が試験を受けるので、試験方法や結果等を聞き、対応予定。

■試験評価機関:他大学の教員(第三者評価)なので、事前に試験管轄機関と当該学生の障害及び試験の評価点について協議が必要。

4.当該学生に対する個別相談支援およびその効果と課題

■当該学生との対応担当:学生課 課長

■教員との対応担当:教務課 課長

5.教職員、同級学生との協力関係作りについて、内容と課題。その支援の必要性に係る要否

■当該学生の一生懸命な姿に同級学生・教職員ともに応援をしている。

■同級学生とのコミュニケーション

  • コミュニケーション能力:長けており、同級学生・教職員との関係も大変良好。積極的な性格で学園祭の実行委員にも立候補。
  • コミュニケーション方法:1対1での口話。ボディランゲージをうまく使用。
  • 友人:手話を学ぼうとしている友人もいる。

■当該学生のコミュニケーション能力の高さに大学としても助かっている面がある。

6.教職員および同級学生に対する研修体制

■研修会:特に実施していない。(実施の必要性は感じる)

■全教員に当該学生の障害及び配慮事項について周知徹底をしている。

7.支援組織のあり方など

(1)支援組織のあり方

■支援組織は無いが、担当教員全てに当該学生がいることを周知徹底。
当該学生、全教員、学生課、教務課で、当該学生の就学支援(単位習得)の協議。
非常勤の教員には、別途教務課より当該学生の障害について連絡。

■当該学生担当:学生課 課長

■教員担当:教務課 課長

(2)財政支援の考え方と規模

■学生支援費:予算計上済み。

■支援学生への謝金:全額大学より支払い予定。(金額は未定)

(3)本人負担の考え方と内容

■支援への当該学生の財政負担:なし

8.その他

■学生課課長、教務課課長:

今後現場で活躍する聴覚障害を持つ薬剤師が誕生すると、新しい仕事の分野も開拓される。聴覚障害者の患者の気持ちが良く分かる薬剤師の誕生に期待したい。

薬学部における聴覚障害学生支援の先駆者(校)となることを目指して、来年度はしっかりとした支援を実施したい。

■今後聴覚障害学生の入学に対応できる体制を整備するために、来年度から支援を開始。(聴覚障害学生の入学に特に困惑する等のことはない)

■当該学生からは、「後輩の聴覚障害学生が入学してきた時のための準備をするつもりで検討してもらえたら良いと思う」という言葉がある。

menu