第4章 訪問調査

1.調査目的

「聴覚障害学生の在籍調査(第1次アンケート調査)」および「聴覚障害学生への支援体制調査(第2次アンケート調査)」にて、「現在、または過去に聴覚障害学生の在籍がある」と回答のあった医療系高等教育機関にヒアリングを行うことにより、情報保障の詳細を探ることを目的として実施した。

2.調査対象箇所の選定

「聴覚障害学生への支援体制調査(第2次アンケート調査)」にて回答が得られた医療系高等教育機関の医学部、薬学部、獣医学部、看護学部の7校とした。

過去に医学部に在籍した聴覚障害学生の修学を経験した大学も1校も含めた。

調査対象学校
学部 学校数
医学部 2校
薬学部 3校
獣医学部 1校
看護学部 1校

その他、医学部の聴覚障害学生支援のために手話通訳者を派遣した経験のある事業所(1機関)も調査対象とした。

3.調査方法

医療系高等教育機関7校、手話通訳派遣事業所1機関に訪問調査を実施した。

医療系高等教育機関7校の内、2校は学校関係者だけでなく、聴覚障害学生本人にもヒアリングを実施した。

医療系高等教育機関7校の内、1校は地域の手話通訳派遣事業所にもヒアリングを実施した

4.調査報告

【訪問調査①】A大学 医学部

A大学医学部は過去に聴覚障害学生が1名在籍していた。調査者は平成20年11月にA大学医学部を訪問し、聴覚障害学生の支援に携わった准教授に聞き取り調査を行った。(記録①-1)

1.障害学生支援と普遍化の課題

報告書の教訓でもふれたように、聴覚障害学生の教育支援のリソースを、各大学で保持していくのは困難であり、リソースをプールし、必要なときに取り出す仕組みが必要である。また、聴覚障害学生の支援には、各大学が個々で取り組むのではなく、社会的なバックアップが必要である。そのための、各大学で個別の障害学生支援センターを設置すると同時に、各大学の経験を交流し、外部からの指導助言を行うことのできる「支援センター」の設置が望まれる。

2.当該学生に対する個別支援の充実および同級学生に対する支援

「教養課程から専門課程へ進む中で、学習量の急激な増加や実習カリキュラムの追加など高校までの当該学生の学習方法では到底対応できない状況が生まれる。」「専門課程になると、科目数が増え実習が入り、情報量が莫大となる。当該学生にも、あふれる情報を、選択し、取りまとめる力が求められるようになる。」ことについて、個別的な支援の必要性が印象に残った。

想像を絶するメンタル面でのストレスに対応するためのカウンセリング等の継続的な支援の必要性である。

また、「日常余談・雑談から得ている情報を得ることができない」「副次的情報の蓄積による主たる情報の取得」といような作業ができにくいという特性がある。同じ「場」を共有している集団内での所謂「暗黙の了解(メタレベルでの共感)」を読み取ることに課題があるとの指摘がある。

最終的には、同級学生が「障害学生と一緒に学んでいくことに対してマイナス評価はなく、医者になる上で、貴重な体験だったなどの評価を得ることができた。」と評していることが多いことが教訓になるのではないかと思われる。すなわち、当該学生のみに支援の視点をあてるのでなく、繰り返し行われたFDも含め、一緒に学ぶ同級学生に対する適切なアドバイスや支援が不可欠であり、その条件が整えば、障害学生の学習教育権の保障は、大学全体の質の向上にもつながっていくということである。

調査者:近藤 幸一

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