寄稿 聴覚障害学生同士の交流の重要さ

全日本ろう学生懇談会
2008年度会長 横尾 友美

毎年、高等教育機関に進学する学生が増加している一方、聴覚障害学生に対する支援制度の質が問われる今日この頃です。この本稿では、聴覚障害学生に対する支援制度のあり方などではなく、聴覚障害学生当事者の心の交流を中心に執筆します。

2007年度障害学生修学支援に関する実態調査(独立行政法人日本学生支援機構,2007)によると、1,355人聴覚障害学生が存在しており、支援を受けているのは923人。その中で、“充実”した学生生活を送っている聴覚障害学生はどれ位いるでしょうか。さらに少ないのではないかと思われます。

本会では、聴力のレベルを全く問わず、聴力に障がいを持った学生を「ろう学生」と呼び、全国各地からろう学生が集まって交流する場とろう学生を中心に活動する場を作っています。

会長という立場から様々な場所へ行く機会がありました。全国各地のろう学生と出会えることができ、その中には、手話を覚えたばかりのろう学生もいました。その学生は、同じ障がいを持ったろう学生と交流したことがないと言っていた時の笑顔が少なかったことが印象に残りました。さらに、医療系高等教育機関で専門的専攻であることと、大学内でもろう学生は彼1人で、ますます彼の立場は厳しい状況であると分かりました。このような状況は珍しくありません。この調査結果報告集から分かるように、全国各地には沢山の学生が存在しています。しかし、彼らの学生生活が充実しているかどうかはデータや数字からでは把握できないものです。

では、“充実“とは何でしょうか。人によって捉え方はそれぞれ違いますが、簡単に言えば、「楽しい」、「心から話せる」、「良かった」という言葉だと思います。先ほど述べたように、“充実”している学生生活を送っているろう学生は、どれ位いるでしょうか。

本会に入ってくる会員の中には、ずっと地域の学校に通ったという環境もあって、手話が分からず、あるいは講義保障の意味も分からず、自分が何者なのかもはっきり分からないまま入ってくる人が沢山います。また全国規模的団体であるため、地域ごとに考え方や表現方法が異なります。

しかし、共通しているものは皆同じです。それには、聴力に障がいを持っていることと、学生であることの2 つです。そして、本会での交流や活動には、手話が不可欠です。手話が分からない人でも、交流や活動を通して段々と手話を身に付けられるような機会を与えています。手話を通して、多くの仲間と交流し、自分の考え方を主張したり、相手の考え方を聞いたり、自分とは何かを考えたり、あらゆることに対する視点を積んだりすることができます。ある意味、“自分探し”旅とも言えます。

私自身、ずっとろう学校経験で、ろう学生の交流の意義にはあまり意識していませんでした。しかし、全国各地のろう学生と出会い、交流を通して、ろう学生同士の交流には大変大きな意味があると思い知らされました。それは、自分の障がいをきちんと受け止められず、また環境によっては手話やあらゆる視点への認識が得られず、大学生活においても、情報不足で講義保障の意味や交渉のやり方が分からず、困難している学生が沢山いるという現状が、現在においても存在していると目の前に突きつけられたからです。

聴学生(1)との交流も大切ですが、自分の障がいをきちんと受け止め、自分の世界を深めていくためには、同じ障がいを持った仲間との交流が大変重要であると思います。なぜなら、交流を通して、コミュニケーション方法や大学生活での過ごし方、生活面での過ごし方などの情報へのアクセスを学び、経験を積み、心に余裕を持ち、心が豊かになれるような生き方を学ぶことができるからです。それは、専攻が異なっても、聴力のレベルが異なっても、生きる上で必要なプロセスではないでしょうか。

本会では、全国の多くのろう学生と出会い、一緒に活動し、色々な考え方とぶつかり合い、自分なりの考え方や豊かな手話を身に付けて卒業していく先輩を多く見てきました。皆どの顔も、充実した顔で輝いています。それは、多くの仲間の中で“自分探し“の終焉を得た結果ではないかと思います。

まだまだ全国各地には、独りぼっち(2)の学生がいると思います。私たちの力ではとても足りません。本稿をご覧になったら、近くにいるろう学生に呼びかけてください。また直接見たろう学生の貴方、ぜひ自分探しの機会としても来てみてください。そして、全国各地の仲間と出会ってみてください。その後は、貴方次第です。

(1)聴力に障がいを持たない健聴学生のことを「聴学生」と呼びます。

(2)情報がない、同じ悩みを持つ人と出会えない、同じ障がいを持つ人と出会えないという悩みを持つ学生を指します。

【参考URL】

独立行政法人日本学生支援機構
平成19年度(2007年度)障害学生の修学支援に関する実態調査

http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/chosa0701.html

【全日本ろう学生懇談会】

本会は北海道から沖縄まで全国各地に支部を持つ団体であり,全国ろう学生の集い,会員の集いを全国各地で開催,支部合同企画などといった活動が行われています。本会は次のような目標に基づいて活動しています。

<目標>

  • 独りぼっちのろう学生をなくそう
  • 聴く権利・学ぶ権利
  • 社会改革

<会員>

  • 会員:大学生、短大生、大学院生、専門学校生、聾学校専攻科生、高校生、通信大学生、浪人生
  • 準会員:聴者学生(上記同様)
  • 購読会員・賛助会員:社会人

<URL>

http://zenkon.yu-yake.com/index.html

<連絡先>

全日本ろう学生懇談会 事務局

〒540-0004 大阪府大阪市中央区玉造1-4-14

FAX 020-4667-8779

zenkon_jimu@yahoo.co.jp

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