10.実証

文字情報提供の中身やどのような情報が必要であるのかが不明な方々に対して、さまざまな試みをする期間初動実証期間を設け、本実証へ向けた足掛かりとした

(ア) 協力人数 26名

(イ) 期間

①初動実証12月から1月

②本実証 2月から3月

(ウ) 活動時間数(延べ時間数)448時間

(エ) 活動回数 71回

①自宅において 44回 189時間

②外出先において 27回 259時間

(オ) 情報提供数 各活動中に提供された情報を項目ごとに分類し、活動時間とは異なる、延べ情報数を数えた

一回の活動において、数種類の情報提供をする場合があることと、記入時間などに個人差があることで時間数での比較検討が困難なことから、利用者の必要とする情報数を数えるため延べ情報提供数を算出した (資料15参照)

(カ) 墨字情報の主な内容

①自宅における情報

利用者の自宅に支援者が訪問し、利用者が必要とする情報をデジタルペンにて記録。在宅中において書き続けるわけではなく、口頭(音声)による情報提供や専用ノート以外の記録も同時に行う。

利用者と支援者が会話をしながらの活動となるため、利用者が必要とする情報を簡潔にまとめることができる。

また支援者も記録する際、机やテーブルなど記録しやすい環境にある。

円グラフ 自宅内における情報拡大図・テキストデータ

1.電化製品・薬等の取扱説明書

(ア) 利用者が自宅で使用している電化製品付属の取扱説明書は、使用方法を利用者家族に聞いても全てを答えてくれるわけではなく、どのような機能や注意書があるのか理解することができなかったため、今回必要な箇所を記録して残すことは有効との意見があった。支援者と利用者が実際に機械に触りながら、説明書を読み上げつつ、必要と思う箇所を記入していく場合が多かった。説明書全てを書き写すことは時間的に困難なため、このような流れになったものと思われる。また機械に説明書がない場合もあったが、実際に操作を確認しながら説明を記録することができ有効であった。薬の説明は電化製品と同じく利用者の自宅にあるもので、墨字の説明書・注意書きしか付属していないので有効であった。特に使用期限や効能、使用上の注意等を記録しておくことは健康上の理由からも必要ではないかと思われる。

(イ) 実例

①電話機取り扱い説明書
②IH電気調理器
③ジューサー・ミキサー
④ICレコーダー
⑤エアコン
⑥エビオス錠の説明
⑦デジタルムービーカメラ(お客様相談窓口、品番、製造番号等)
⑧医者から処方された薬の説明
⑨鎮痛剤・冷却シートの説明

2.手紙(年賀状)、名刺住所、差出人住所、コメント等

(ア) 年賀状は年末年始の活動に希望が多数あり、昨年届いた年賀状で今年、送っていない方の住所、氏名の記録、また新年明けて届いた年賀状の中で墨字によりコメントが書かれていた方の名前と、コメント・挨拶などの記録。新たに送ってきた方の住所、氏名をデータとして残しておきたい要望があった。

(イ) 名刺は今までもらった名刺の中で必要と思われる方の氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどを記録

(ウ) 利用者からの意見として、今後は名刺をいただく際に、相手の方にデジタルペンで名刺の内容を直接記録してもらうとよいのではないか、という意見があった

(エ) 漢字、英語の大文字・小文字、記号があるので、音声で聞くだけでは正確な情報となりにくいが、書くことにより確認ができる

(オ) 実例

①年賀状(差出人、住所、コメント)
②名刺

3.図書、雑誌(冊子)等からの記録

(ア) 自宅での情報提供の中では一番多く、内容は多岐にわたった。

(イ) 利用者が所有する墨字図書からの転記があり、これは利用者が必要とする箇所を支援者が記入していくもので1度の活動で終了することができた。

(ウ) 利用者の所有する冊子の全部を転記するものは、数ページの冊子であったが1週間以上かかった。これは絵や写真を多用した冊子で(ストレッチ体操のマニュアル)、文字情報だけを記入しては伝わらない為、支援者が利用者に絵や写真の説明をし、それを文章化してノートに記入した。

(エ) その他、点字のテキストを書き写すケースがあったが、6点の点字をペンで記入しても、パソコンで取り込んだ際に画像として認識し文字変換ができないため、読むことができなかった。そのため利用者と相談し、1~6の点の数字で記録し、文章説明する形に修正し提供した。点字の知識の必要性を認識する

(オ) 主に、利用者からはプライベートサービスで点訳・音訳してもらうほどでもないが、気になる墨字情報を、その場で支援者に記入してもらう手軽さが好評であった。但し、本1冊や長い文章のもの等は記入に時間がかかり、また誤字・脱字等をチェックする校正もない為、支援者も気を使ったようである。

(カ) その他、自宅ポストに投函されるチラシや広告、飲食店の宅配サービスのメニューなどは希望が多かった。

(キ) 料理本のレシピは、所有する本の料理名を読み上げ、利用者が作ってみたいと思う料理の調理方法を記入した。口頭で伝えるだけでは、情報として消えていってしまうので、手順や分量を記録して残すことで、再度作る際に活用できる。調理しながら読むことを考慮し、提供媒体は特に点字の希望が多かった

(ク) 実例

①「いきいき筋トレ体操」冊子全記入
②「点訳のてびき」必要箇所
③ジャズ雑誌の中の記事
④利用者が趣味で作る「メッセージカード」に入れる文例集
⑤自宅ポストに入る宅配ピザ屋や宅配レストランのメニューチラシ
⑥「家庭でできるスッキリ刺激療法」書き写し
⑦「駐車禁止除外指定車標章のしおり」書き写し
⑧TV情報雑誌・春の新番組情報(スタート日時、タイトル、出演者等)
⑨図書「スギナの凄い薬効」の本文、著者、監修の略歴
⑩料理本のレシピ

4. CD、DVD等のブックレット、歌詞カード

(ア) 利用者が所有するCDやDVDに封入されているブックレット、歌詞カード、アーティストによる曲解説の記入

(イ) CD外側の、セロファンのカバーに張ってあるシールの内容やパッケージ内に同封された誤字訂正文の小紙の記入

(ウ) その他小さな部分にも様々な情報が書いてあることに利用者は初めて気づき、感動した様子だった。

(エ) 実例

①CDに書かれている曲名
②歌詞
③作曲者
④編曲者の名前
⑤アーティストによる曲紹介文
⑥映画DVD付録小冊子内容

5.食品のラベル記入(賞味期限・原材料等)

(ア) 自宅にある食品の賞味期限の記入

(イ) 食品ラベルに書いてあるメーカー名、メーカー連絡先、原材料、栄養素の記入

(ウ) 利用者が以前使ってみてとても美味しかった醤油を購入したいとのことで、メーカーの連絡先の記入。

(エ) 実例

①調味料の賞味・消費期限
②アレルギーなどの確認のために原材料の読み上げと種類の確認

6.その他

(ア) 自宅にある日めくりカレンダーの一日名言集(どのようなことが書いてあるか気になったとのこと)

(イ) 鍼灸治療院を開業している利用者からは病院の患者名簿

(ウ) 利用者が所有する自分の遺言証書や権利証書類なども、どのようなことが書いてあるか知りたいという理由から希望があった。

(エ) 利用者は普段、家族に読んでもらうことが多いが、なかなか全部を読んでもらうことは難しい。何度も使用するものや記録として残しておきたいものをデジタルペンで記入してもらい、自分が読める文字に変換され提供されることは、知りたいという気持ちを尊重するためにも有効であった。

(オ) 実例

①日めくりカレンダーに書いてある一日名言集
②利用者が開業している病院の患者名簿(名前・電話番号)
③遺言公正証書
④登記済證書
⑤権利證書

②外出先における情報

デジタルペンは小さくて軽く、持ち運びが容易なため、外出先でも記入が可能である。また、メモをとる行為も普段日常的に行われるものであり、人の目を気にせず行うことができる。これらの点から外出しての情報提供活動の希望は多くあり、活動時間も自宅での活動より回数は少ないものの1回の活動時間は長くなる傾向であった。また利用者から、外出先では点字のメモは大変なので、デジタルペンで記入する方が有効であり、新しい発見が多いため、楽しく外出ができる。との声があった。支援者からは、屋外でノートに記入する難しさ、また移動しながら記入する苦労があったという意見があり、より書きやすくするための工夫が必要と思われる。

円グラフ 外出先での活動内容拡大図・テキストデータ

1.飲食店メニュー

(ア) 外出先での活動で、多く利用されたのが飲食店におけるメニューの書き写しである。

(イ) 利用者からは、同行者や店員にメニューを尋ねてもなかなか全部を読み上げてくれず、お店にどんなメニューがあるのか知ることができなかったという不便があった。デジタルペンで記入したデータを電子メールで送信し、携帯電話に保存しておくことで、今後役立てられると好評であった。

(ウ) 飲食店の種類としては、自宅近くの喫茶店やレストラン、最寄り駅付近で24時間営業している食堂など、多岐にわたった。

(エ) またメニューは概ね短く簡潔なため、支援者と利用者が食事をする間に記入ができることも利用が多い一因と考えられる。

(オ) 実例

①クレープ店メニュー(外看板のメニューは本人のみでは読めず、テイクアウト式で他の客が並ぶと店員にメニューを聞くことが難しいため)
②駅構内うどん屋のメニュー
③喫茶店メニュー
④名鉄岐阜駅近辺にある食堂メニュー
⑤弁当屋メニュー

2.店舗内での売り場案内、商品情報

(ア) 買い物へ行った際の店舗内の売り場案内や商品情報の記入。

(イ) デパートや大型店舗では、各階ごとの売り場案内がパンフレットで配られているが、その中で必要なものを記入。特によく利用する売り場に関しては、どこにどのような商品が並んでいるかも記入した。

(ウ) 書店では、利用者の趣味に必要なコミック本のタイトルやキャラクター名を書いたり、映画館では、上映時間(○時~○時まで)を書き写すなど、必要な情報がたくさんあることがわかった。これも、支援者とコミュニケーションをとりながら、必要と言われるもの、利用者が書いて欲しいものを記入していった。

(エ) 実例

①東急ハンズ各階売り場案内(パンフレット)の記入
②書店に並ぶコミック本のタイトル、キャラクター名、書店営業時間
③アニメ専門店新規カード申込書
④デパート内での商品情報(食器、衣類等の商品名、価格、形、サイズ)
⑤映画館の上映開始時間
⑥ホームセンターでの商品情報(レンガ、タイル、材木、ポンプの種類、価格、材質、サイズ等)
⑦京都の授産所商品取り扱い店舗「ハートプラザkyoto」、取扱商品、価格

3.目的地までの行程(道順)

(ア) 利用者が、ある目的地まで行きたい場合、その道順やどの電車に乗れば良いかを記入。

(イ) 記入したデジタルペンデータを、点字印刷して渡したところ、利用者が今まで一人で行けなかった場所へ、その点字印刷を頼りに行くことができたという声があった。

(ウ) 点字ブロックや壁などを目印にし、道順を記入していくことで、後日再確認ができる。晴眼者であれば、案内板を頼りにすることができるが、視覚障害者は案内板等を記録し、持ち歩くことができれば便利ではないだろうか。

(エ) 実例

①JR岐阜駅から駅付近のお店への道筋
②中部国際空港への行程
③京都ライトハウスまでの行程

4.建物物構内(駅など)の見取り図、周辺地図

(ア) JR岐阜駅構内の階段やエレベーターやエスカレーター、トイレ、お店の位置などを記録し、全体像の把握を助けることができた

(イ) 今までは、所々に点字ブロックがあるな、という感じだったのが、デジタルペンで記入することで、全体の雰囲気も掴めるようになり、確認することで更に記憶に残ったという意見があった。視覚障害者が1人で外出する際の活用が期待される。

(ウ) 実例

①JR岐阜駅構内見取り図(改札口の位置と周辺、柱の本数、歩数にて間隔を測り立地を把握、ホームにでるまでの階段、エスカレーター、点字ブロック位置、トイレ、キオスクの位置など。)
②自宅付近の地図
③利用者が通うデイサービス施設の部屋見取り図(施設のパンフレットから転記)
④地元市役所内の福祉関係の位置
⑤京都駅ビル内、目的地までの見取り図

5.公共交通機関(電車・バス)時刻表

(ア) 電車やバスの時刻表を、利用者最寄りバス停または駅まで行きメモをしてくる。または配布されている時刻表やメモを持ち帰り、デジタルペンで記入。

(イ) 提供データは主に携帯電話へのメールで、いつでも確認できるようにすることが希望であった。携帯電話やパソコンの苦手な利用者へは、持ち歩いても曲がりにくい厚めの点字用紙に時刻表を印刷してお渡しした。

(ウ) 利用者に感想を聞いてみると、時刻表の一覧から必要な情報だけを抜き書きできるので、コンパクトにデジタル化できる点が便利とのことであった。

(エ) 各社ホームページで時刻表を確認できることが多くなったが、時刻が変更になった直後などは直に確認した方が早いので、そこはデジタルペンでのメリットが感じられた。

(オ) 実例

①高速バス時刻表(最寄りバス停から名古屋行き発時刻と帰りの時刻)
②よく使用するバス停へ行っての時刻表記入
③最寄り駅の電車の時刻表

6.外出中(旅行中)の記録またはメモ

(ア) 自宅周辺にあるお店に何があるかを1軒1軒記入したり、商店街に以前行ったことのあるお店がまだ残っているか、など晴眼者が普段歩いていて何気なく得られる情報を、支援者と利用者がコミュニケーションしながら必要なものを記録する。後に1人で歩いてもどこに何があるかをイメージしながら歩けるため楽しい、という意見があった

(イ) また旅行をした際も、その場で何でも記録できるため(例えば、鉄道が好きな利用者が駅のホームで停車中の車両について記録してほしいとの希望があった)、趣味でも実用でも活用ができることがわかった。

(ウ) 但し、特にテーマを決めずに外出すると、支援者が気付いた情報に偏り、後で利用者があまり必要としない情報ばかりになってしまうケースがあったため、常に利用者と支援者がコミュニケーションをとりながらの活動が望ましい。

(エ) 実例

①柳ケ瀬周辺を散策、商店街にて昔行った店が今も開いているのかを確認
②自宅付近のお店を1軒1軒見た様子記入
③中部国際空港内の様子をメモ
④柳ケ瀬アーケード街を散策
⑤ふれ愛ステーションの様子
⑥京都ライトハウス見学のメモ(所長さんのお話、施設見学、作業工程や疑問点等)
⑦「猫カフェ」へ行った際の猫の名前や種類、色、性格などをメモ

③その他

利用利用者が購入した新幹線の特急切符の車両・座席番号を記入し、デジタル化して携帯電話への保存。利用者が参加するテニス会の会員名、参加者の出欠や対戦組み合わせ表。利用者が通う病院の各曜日・時間ごとの医師出勤表。最寄り駅で自動券売機(身体障害者手帳を用いた購入)の使用方法など様々な内容のものが必要とされていることがわかった。また、今回は実証には無かったが、頂いた意見として講演会や会議などのメモとして使ってみたいという声があった。

(ア) 実例

①購入した新幹線切符の指定席番号
②テニスの会員、準会員、参加者の出欠、参加費、対戦組み合わせ
③病院の医師出勤表
④駅の自動券売機での切符の購入方法
⑤講演や会議

④視覚障害者本人によるデジタルペン記入実証

1.在宅において

今回の実証の中で、中途視覚障害者の方が数名おり、文字を以前使っていたということから、直接利用者本人にペンで記入してもらう場面を設けた。ノートに、手紙を書く際に使用する枠を使用し、記入場所をずれないようして自分の名前や住所等、簡単な内容のものを記入してもらった。結果は墨字として充分読めるもので、パソコンへの変換も画数の多い漢字は除いてほぼ問題なくできた。実際に利用者の意見を聞くと、久々に書いたことは懐かしいという声があり、実用の面では以下の意見があった。家の中において、自分でデジタルペンを使用し記録することはないと思うが、お客さんなどに、ペンで住所・氏名・電話番号・メールアドレス等を記録してもらうと便利。(パソコンにとりこめるので)

2.外出先において

相手の人に色々書いてもらう(待ち合わせ場所、日時等)

講演中のメモ(ただし単語程度)点字板、録音等を使うことが多いと思う

名刺を頂いたときその内容を書いていただく。等の意見があった。

課題としては、手紙用の枠が必要であるということと、書いてすぐに記入した内容がわからない(パソコンに取り込む必要がある)点で、これは書きながらペンが記入した文字を読み上げる(「あ」と書くとペンが「あ」としゃべる等)と更に良くなるのではないだろうか。

⑤文字情報提供の種類

1.点字 53パーセント
2.SPコード 0パーセント
3.合成音声 20パーセント
4.拡大文字 3パーセント(利用者記録分)
5.データ 23パーセント

基本は点字の希望が多かったが、並行して合成音声の希望もあり、さまざまな形での情報取得が必要であることがわかる。

約1割超の点字触読率からすると、本実証では手上げ方式にて実証協力者を求めたことから、未だ障害受容の困難な視覚障害者や弱視の方々にとっては「見える」ことを優先であったこと、さらにはデバイスの進化によって、メール、携帯電話、パソコンなどでの文字情報取得が容易であるために、アウトプットの種類が限定されているが、高齢視覚障害者に至れば、当然IT機器の使用が困難であり、音声や拡大文字を希望される方々が多いと推測される。

また多種類の媒体を、知りたい場面で知りたい文字でという晴眼者と同様に必要とされたことから、変換が容易であるテキストデータは情報提供に関して適していると考察される。

新しい媒体としてSPコードがあるが、その機器の普及や容易さからはカセットやデータの比ではなかった。

情報提供の受け取り方はやはり支援者によってもたらされることが多いが増加する高齢視覚障害者や中途視覚障害者の方々にパソコンや携帯電話の操作の研修を行う必要性が見えてくる。これをおろそかにするとますます情報格差が広がることが懸念される。

長期の時間においてさまざまな場所に出かけることにより文字情報の種類が多様になることを考察し行った。場所や時間などは一切の制限を設けず、それぞれの生活パターンでの文字情報提供を行うことにより、具体的な情報提供の必要な場面と内容が把握された。

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