2.実証の目的

視覚障害者の日常生活における最大の障害は、視覚からの「情報取得」の障害であり、家庭に届く郵便物や新聞のチラシ広告、薬の処方箋や食料品の賞味期限などの身近な情報、自治体から発信される公共的情報などが自由に取得しにくい現状である。

これらの「情報取得障害」を改善しようと、晴眼者(目の見えるもの)からの言葉による情報提供や、パソコンの読み上げソフト、パソコンが利用できない人は専用読み取り機器、一部の携帯電話を利用している。

また、家庭において、単身世帯では読んでもらえない、家族がいても時間がない。パソコンを使用しているが、日常の情報は取得できない、専用機器ではすべての文字情報は得られない。高齢でその専用機器を使用できないなどの事情があり、情報に対する格差は広がるばかりである。このことから視覚障害者は多くの必要な情報を得られずに生活している状況下にあるといえる。

正確な情報という場合において、晴眼者からの音声による情報取得は、文章の理解力や読みのテクニック(発音やアクセントなど)、図表など読み取り方など個人差が大きく問題である。また点字による情報取得は、点訳の知識いかんによって、正確性、利便性の問題がある。IT機器に至っては操作訓練等を要し、即時性に欠ける。

また全国にある視覚障害者情報提供施設や、リハビリテーション施設、日本盲人会連合の当事者組織でも、日常性の高い情報提供は行っていないのが現状である。中でも情報提供施設は情報に特化した専門施設でありながら、一般図書や雑誌などの情報の点訳、音訳などを行っているのがほとんどで、日常性の高い電化製品の取扱説明書や、個人的に知りたい情報は個別のサービスとして細々と行っている。この個別のサービスにおいても、すべての情報提供施設で行っているわけではなく、視覚障害者に対する情報提供を補完している施設とは言えない。

そこでどのようにしたら日常性の高い情報取得ができるかを考察した。

最近は障害者自立支援法の介護給付によるサービス提供を受けている人が増えていること、地域生活支援事業において移動支援サービスの提供を受けていること、ボランティアなどの活動が活発になってきていることから、人による情報取得を中心に考えた。

しかも正確で記録力が高く、容易に情報提供、情報取得が可能というのが必須条件である。

そこでピックアップしたのが市販品の「デジタルペン」である。

支援者(ヘルパー)の協力を得て、必要で適切な情報提供、情報取得が可能かどうかの実証を行った。

中途視覚障害者の場合は、以前に墨字(活字など晴眼者が使用する文字)を使用していたことから、文字の記憶を保てるよう、視覚障害者自らが「書く」という行為を実践することで効果が上がるのではないか。それがリハビリテーションの一つと考える。

さらには視覚障害者自身が様々な情報を即時に収集し、情報障害を克服し、豊かな日常生活を送れるよう、個の実証をもとに発展させたい。

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