1.浦河べてるの家とは

べてるの家(以下、べてる)は、1984年に設立された精神障がい等をかかえた当事者の地域活動拠点である。10代から70代までの100名以上のメンバーが活動しており、地域で暮らす当事者達に「住まいの提供」「働く場の提供」「ケアの提供」という3つのサービスを提供している。

べてるのはじまりは、1978年に浦河教会旧会堂にて、浦河赤十字病院精神病棟を退院した精神障がいを持つ仲間たちの会、「回復者クラブどんぐりの会」の有志たちが始めた活動である。その目的は、孤立を防ぎ、過疎化がすすむ地域の活性化に精神障がいを持った町民の立場から取り組もうと言うものであった。その一環として、1983年には浦河教会の片隅で地元の名産、日高昆布の袋詰めの下請け作業をはじめ、その後「“地域の抱える苦労”への参加」と「“自分らしい苦労”の取り戻し」をスローガンに、浦河の特産物である日高昆布の産地直送や介護用品の提供をする事業を立ち上げ、1998年に有限会社福祉ショップべてるを設立、2003年に日高昆布の産地直送を仕事とする社会福祉法人浦河べてるの家を設立し、地域の中に10数箇所の住居を整備した。

これらの活動は総体として「べてる」と呼ばれている。当事者が社長や理事長の職を担いながら事業を展開し、最近では当事者支援を目的としたNPO法人セルポ浦河や、「一人1起業」の精神から生まれた当事者が立ち上げた起業グループなどが活発な活動を展開している。

この30年の歩みを通じて、幻覚や妄想を披露する「幻覚&妄想大会」、当事者が自分自身の経験を仲間とともに研究という視点からアプローチする「当事者研究」等の活動が育ち、世界の精神医療の最先端の試みとして精神保健福祉のみならず、多くの分野で広く注目を集めている。べてるでは「自立」とは、「一人でなんでもできる」ことではなく、「一人では何もできないからこそ助け合いができる」というところにあるという自立観を中心に据える。そして精神障がいをもつ町民として、様々な苦労の体験を好条件として活かし、地域のために当事者の力を活かすことを目指している。

「弱さを絆に」「病気でまちおこし」などをキャッチフレーズにはじめられたべてるの活動は、現在、国内外からの年間見学者2500人(延べ)を迎えるまでになった。また2007年に厚労省から日本を代表する精神保健福祉のベスト・プラクティスに選定されている。

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