IV. この取り組みからみえてきたこと

津波注意報の中の避難訓練、メンバーだけの冬期避難訓練、メンバーによるDAISY避難マニュアルの作成などの活動が行われ、昨年度までの取り組みで、防災について練習してきたことが、実際に被災したときにできるということが証明された一年だった。

1.メンバーによる防災プロジェクト

本年度は、DAISY避難マニュアルの更新や、避難訓練の実施、避難グッズの準備、他地域の防災事業での知恵と工夫を生かすこと、そして防災プロジェクトの運営にメンバーが携わり、多くはメンバーが中心となって実施した。彼らの半数以上はメンバースタッフの立場にいるが、いずれも病気が軽いわけではなく、幻聴やひきこもりの状態に陥ることもある。各人がそれぞれの病気と付き合いながら、プロジェクトを進めてきたのだ。災害に襲われたときも、周囲の環境や不安がいつもと異なっているだろうが、べてるの普段の生活や防災事業のときのように、それぞれの病気や苦労と付き合う工夫を重ね、仲間とともに苦労を分かち合うことができれば、災害時にも命を守り、安全を確保するために行動できるという確信を得ることができた。

2.本番でも大丈夫

べてるでは、メンバーに重度の精神障がいによる病気があっても、病気と上手に付き合いながら仲間とともに生活することを応援している。防災事業も同じように行なっていけばよいという成果を得ることができた。京都での報告で記したように、災害が生じたとき、どうすればいいか分からずオロオロする状態だったメンバーたちも、4分で10mの場所まで逃げるという具体的な対処方法が身につき、仲間とともに声を掛け合いながら逃げるのだとイメージできるようになってきた。

さらに、9月11日、ニューべてるに朝MTをやっているとき、大きな地震がきてみんなはっとした。いつも一人だったら逃げなかったけど、仲間と一緒にいたので、これも避難の練習だと話し、さっと避難訓練をすることができた。津波注意報が流れる中で、全員で落ち着いて避難場所に移動できたことは、このプロジェクトの成果である。

3.地域とともに

最後に、べてるも防災プロジェクトを進めていったが、ご協力いただいた地域の方との連携も広まっていくことができた。浦河町では町役場、自治会など、それぞれの機関が防災への取り組みが進められ始めている。それぞれの防災活動と連携しながら、確実に命を守れる方法を増やしていく基盤が作られていることは、この事業とご協力いただいた諸機関の成果といえるだろう。べてるでも、自分たちが住む地区、「東町の防災事業にも参加できてよかった」という感想があった。今後も、より具体的な、生活上の細かいところまで目配りしながら、命を守るノウハウを蓄積していきたい。

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