1章 総括研究報告

発達障害児に対する早期からの地域生活を効果的に行うための調査研究

主任研究者 米山 明(心身障害児総合医療療育センター外来療育部長 小児科)

調査研究の要旨

「発達障害者支援法」に定義される「発達障害児」は保育園・幼稚園において早期に気付かれ療育機関や医療機関に紹介されることが増えた。 しかし、問題行動や偏った集団行 動やコミュニケーションなどをもちながら、発見されずに放置され就学して学校で気付かれることも多い。

そのため「発達障害児」やその周辺に属する行動面でつまずきある子どもの早期発見が非常に重要であり、 5歳時健診など、各地方自治体や療育機関でその発見のためのシステ ム作りが行われている。 一方、発見や診断をされたものの、その子どもの発達特徴に配慮 した子育て(療育)の支援や手だては、 専門機関に委ねられることが多いが、その子ども の数の多さや発達特徴などから、発見や診断はされたものの対応ができなかったり、 保育園や幼稚園での具体的支援の方法が普及していないのが現状であり、 障害特徴に配慮した 保育園などの現場での適切な対応や支援の充実が必須であり支援システムの構築が必要である。

また、発達障害児と定型発達児(いわゆる健常児)の統合保育がより安定的に行われることで、 障害児との望ましい関わり方を定型発達児が経験し、地域社会の理解と差別や偏見のない社会作りにつながると考える。

さらにその様な観点とともに、保育園の役割として親支援や虐待予防も重要となっており、 保育士が発達障害児への関わりについて専門的で具体的なスキルを持つことが期待される。

それにより発達障害児だけでなく、定型発達児の安心感を育て、青年期の抑うつや引きこもり、 さらに行動化し反抗挑戦障害、行為障害や人格障害などの二次障害と呼ばれる精神疾患の予防や学齢以後の社会適応の向上にもつながると考えられる。

研究結果要旨

今回、われわれは、発達障害者支援法の趣旨に基づいて、発達障害児に対する早期から の地域生活支援を効果的に行うための調査研究をおこなった。

本研究は、主任研究者らが所属する心身障害児総合医療療育センターが、センター周辺の「発達障害児者」の外来療育相談、 治療相談とさらに地域連携として、保健所、保育園、幼稚園、障害児通園施設、学校などと連携して療育センター機能を果たしており、 この数年は相談件数が増加している実情を踏まえ、当センターが位置する東京都板橋区(人口51万人、子ども人口およそ5.8万人、年間出生数 4200人) とその周辺地域を調査研究の対象とし、「発達障害児への支援が早期から効果的に行われるための調査研究 」として、 保育園等の現場における発達障害児の対応の現状と支援を「ペアレントトレーニング」の手法を用いた保育実践と、感覚統合療法の手法を用いた支援の調査研究を行った。

1)長瀬、北分担研究者は、発達障害児の支援において保育現場の実践に役立つ手法としての「ペアレントトレーニング」の手法を用いた支援の研究のテーマを、 (1) センター周辺の保育園の発達障害をもつ子どもとの関わりの状況、また発達障害の保育園での支援のあり方について把握する、 (2)講習会を通し、保育園に於けるペアレントトレーニングの手法を用いた保育(ペアトレ的保育)が子どもの行動改善に有効であるかについて検討する、 (3)保育園で実際に実践可能となることを目標とした、保育士向けペアレントトレーニング講習会のあり方について検討する、 (4)保育園での『ペアトレ的保育』実践の啓蒙的リーフレットを作成する、という4つのテーマを調査分析、保育士向け講習会を開催実践しその結果を考察した。 「ペアレント トレーニング」講習会を ①小グループ(3∼6名規模)、講習5回」(北グループ、 長瀬グループの2グループ)と  ②大グループ(30名規模)講習2回(第1回、2回 両方を参加の原則とし、北、長瀬が同じ内容の講習会それぞれ2回開催実施)の2つの種類の講習会を開催実施し その効果と研修会のあり方考察し今後のあり方について提案を報告した。なお、「ペアレントトレーニング」については北研究者が報告書の中で概説している。

(1)については、平成17年に「発達障害者支援法」が施行され、3年が経過し、「発達障害」「注意欠陥多動性障害:ADHD」「自閉性障害・広汎性発達障害(PDD)」 についてはその発達や行動特徴は理解がある程度進んでおり、特に保健所、健康福祉センター関係の保健師や相談員は理解は多かったが、 一方、具体的な対応については、手探り状態であること、「ペアレントトレーニング」は多くで知らなかった。 このことは、当研究調査の事業内容である講習会を通じて啓蒙、普及に努める必要、 価値がある結果であった。

(2)講習会を通し、保育園に於けるペアレントトレーニングの手法を用いた保育(ペアトレ的保育)が子どもの行動改善に有効であるかについて検討では、 アンケートの結果から、①参加者の多くが、子どもが望ましい行動をすることが増えたと感じ、 また自信がでて、意欲的になったと感じており、 子どもに対してペアレントトレーニングの手法はよい効果があった。②行動を分類する、ほめる、無視、指示の各プログラムが有用だと感じている。 特に行動分類によって、子どもの理解が深まり、 ほめることのパワーを感じている感想が多かった。また技術的には、指示のCCQも利用しやすく、有効であった。

(3)ペアトレのあり方については、今回、2回コースと5回コースと講習会を実施したが、アンケートや実践の報告などによる理解状態の評価などより考察し、 10名以上の大グループロールプレイ、宿題を含めた講習会開催を想定すると、1回目:① 行動分類、ほめる、2回目:①行動分類・ほめるの宿題の数名の検討、 ②無視+ほめる、3回目:①行動分類、ほめるの宿題の全体の検討、②無視+ほめるの宿題の数名の検討、③指示、のような3回講習会コースが望ましい。 また、少人数グループの体制では、より詳しく理解するためには、5回の講習会コースが望ましいと結 論しており今後、 地域でのペアレントトレーニングの手法の啓蒙にあたっての提言できる結果報告である。

(4)保育園での『ペアトレ的保育』実践の啓蒙的リーフレット作成した。内容は、子どもたちに「肯定的な注目」をするために、行動を焦点にあて、 「ほめる」こと、「ほめる行動」の見つけ方、「好ましくない行動をとり去り、待つ」「指示を効果的にだす」、 さらに応用編①で「ほめる・注目を取り去る・指示の組合せ」、応用編② で「発達障害のある子ども達(注意欠陥多動性障害、広汎性発達障害)」 へのアドバイスを入れており、定型発達の子ども、発達障害をもつ子どもの子育てを支援する保育士へ啓蒙しそれが発達障害やその疑いのある子ども、 さらに定型発達をしていても子育てに悩んでいる親への具体的なアドバイスとなるリーフレットとなっている。それを啓蒙するために関係諸機関へ配布した。

2)「発達障害児」に多く見られる、バランスの悪さ、不器用、感覚の過敏、鈍感といった行動特徴に対しての配慮、 支援スキルとして小児リハビリテーション手法の一つである「感覚統合」の手法が注目されている。 実際に「特別支援学級:情緒」いわゆる「通級」の体育や自立活動のプログラムには多く取り入れられている。

佐々木分担研究者は、乳幼児が日中の多くの時間を過ごす保育園や幼稚園において、 「感覚統合」の手法を保育士などのスタッフに感覚統合療法についてのアンケートを 実施するとともに、研修会を通じて紹介と実体験をしてもらい、 そのスキルを現場に持ち帰り指導に役立ててもらうこととした。 参加者への事前アンケートでは、参加者の多くが「発達障害児」と関わりがあったが、その子ども達の不器用や感覚過敏(鈍感)さの改善をねらった 「感覚統合療法」については知らない人も多かった。施設で行われている遊びについては、1:運動系の遊び、2:触覚系の遊び、 3:手の巧緻性の遊びの実施状況のアンケートとともに、4:日常生活上気になる行動の自由記載では様々な困っていることなどの情報を得た。 研修後の実践についてアンケートを行い、研修会が役に立ったと評価を得た。 研修会とアンケート結果を考察し、保育園などの現場に役立つ実践のためのガイドブック「乳幼児のための豊かな遊びと便利なグッズの紹介」 とリーフレット「乳幼児のための遊びと生活の支援 ─作業療法ってなあに? 歩けるようになったけど ちょっと気になるお子さんへの支援─」を作成しそれを啓蒙するために関係諸機関へ配布した。

3)主任研究者 米山と研究協力者 児玉、岩崎が所属する心身障害児総合医療療育セ ンターが、センター周辺の「発達障害児者」の外来療育相談、治療相談とさらに地域 連携として、保健所、保育園、幼稚園、障害児通園施設、学校などと連携した療育セ ンター機能を果たしており、この数年は相談件数が増加している実情を踏まえ、当セ ンターが位置する①東京都板橋区(人口51万人、子ども人口およそ5.8万人、年間出 生数 4200人)とその周辺地域における発達障害児への支援の現状の把握、②5歳時 健診の(試みの)実情など、他県地域での発達障害児への支援の現状、③全国の療育 機関(肢体不自由施設、重症心身障害児者施設を含む)での支援の現状の把握、④そ の他、第4の発達障害とも言われているADHDやPDDと同じような症状を呈する 「被虐待」ケースへの対応の注意点などの報告や資料、調査などをもとに分析調査を 実施し、今後の療育機関のあり方と今回の研究の主要内容である「発達障害児に対す る早期からの地域生活を効果的に行うための調査研究」の保育園等の現場における 発達障害児の対応の現状と支援を「ペアレントトレーニング」の手法を用いた保育実 践、と感覚統合療法の手法を用いた支援の必要性を報告した。

4)お二人の学識経験者に研究協力をいただき、それぞれの研究者の専門的立場から、 「ペアレントトレーニングの手法を用いた保育実践の効果と啓蒙」の意義について奈 良教育大学特別支援教育研究センター 教授 岩坂英巳先生より講評とアドバイスを いただいた。さらに、研究協力者 お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター 教授 榊原洋一先生より「発達障害児に対する早期からの地域生活を効果的に行うた めの調査研究」についての評価と今後の課題などについてアドバイスをいただいた。

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