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第3章 取り組み事例「札幌この実会センター24」

第2節 各ケースの記録

(1)各ケースの属性

図表3-7 各ケースの属性
  ケースA ケースB ケースC ケースD ケースE
属性 男性 30歳代
知的障害
自閉症
女性 20歳代
知的障害(境界域)
男性 20歳代
知的障害
男性 20歳代
知的障害
男性 20歳代
知的障害
生活歴
  • 企業で勤務中(非常勤)
  • 精神科受診(てんかん)
  • 小学校普通学級卒業
  • 中学校特殊学級卒業
  • 療育手帳取得
  • 特殊学級高等科卒業
  • 職場適応訓練を活用し、就職
  • 企業で勤務中(非常勤)
  • 母親が行方不明となり、児童相談所入所
  • 私立高校中退
  • その後、療育手帳取得
  • 入所施設入所、退所後利用開始
  • 企業で勤務中(非常勤)
  • 小学校2年生より特殊学級
  • 療育手帳取得
  • 高等養護学校(寄宿舎利用)卒業
  • その後、旧通勤寮より活用
  • 企業で勤務中(非常勤)
  • 小学校普通学校卒業
  • 療育手帳取得
  • 中学校特殊学級卒業
  • 高等養護学校卒業
  • その後、旧通勤寮より利用
  • 企業で勤務中(非常勤)
  • 小学校2年より特殊学級
  • 中学校特殊学級卒業
  • 療育手帳取得。
  • 高等養護学校卒業
  • その後、旧通勤寮より活用
家庭環境
  • 両親、弟、妹
  • 母親が過干渉な傾向あり、当事業所より助言
  • 両親ともに不明 兄弟なし
  • 母、兄、弟
  • 母、兄ともに知的障害(年金受給)
  • たまに帰省する
  • 母、兄2人、姉
  • 母親との関係が密
  • 両親、兄、姉、弟
  • 関係良好 しつけ甘い傾向
経済環境
  • 障害基礎年金2級
  • 給与所得(約10万円)
  • 障害基礎年金2級
  • 給与所得(残業含約15万円)
  • 障害基礎年金2級
  • 給与所得(残業含約5万円)
  • 障害基礎年金2級
  • 給与所得
  • 障害基礎年金2級
  • 給与所得(月15万円程度)
接点開始
利用開始
  • 就職先企業(障害者多数雇用事業所)からの紹介
  • 家族が在宅での就労の継続に不安を感じた面もある。
  • 児童相談所より相談あったが、入所施設に入所
  • 同施設より依頼があり、入所
  • 地元に就職先がなく、札幌での就職を目指していたため、出身高等養護学校から紹介
  • 地元に就職先なく、札幌での就職を目指していたため、出身高等養護学校から紹介
  • 地元に就職先なく、札幌での就職を目指していたため、出身高等養護学校から紹介
利用終了後
  • ケアホームに居住
  • 困った時にいつでも支援できる体制をとっている。
  • ケアホームに居住
  • 困った時にいつでも支援できる体制をとっている。
  • グループホームに居住
  • 困った時にいつでも支援できる体制をとっている。
  • ケアホームに居住
  • 困った時にいつでも支援できる体制をとっている。
  • 民間アパートに居住
  • 困った時にいつでも支援できる体制をとっている。

(2)各ケースの支援経過

以下、各ケースの支援経過を記載する。なお、内容は支援をしていく中で大きな変化があったポイントを記載している。矢印はその変化にもとづいた継続的な支援をさしている16

図表3-8-1 ケースAの支援経過

図表3-8-1 ケースAの支援経過

図表3-8-1を拡大する【PDF:83KB】

図表3-8-2 ケースBの支援経過

図表3-8-2 ケースBの支援経過

図表3-8-2を拡大する【PDF:88KB】

図表3-8-3 ケースCの支援経過

図表3-8-3 ケースCの支援経過

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図表3-8-4 ケースDの支援経過

図表3-8-4 ケースDの支援経過

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図表3-8-5 ケースEの支援経過

図表3-8-5 ケースEの支援経過

図表3-8-5を拡大する【PDF:88KB】

(3)各ケースの支援のポイント

ここでは、各ケースの支援の特徴を示す。特に、支援を実施することで生じた利用者の行動変容に着目してそのポイントを示す。

①Aケース

Aケースは知的障害と併せて、自閉症の症状があり、こだわりや自分の意に反することへの気分易変や易怒が見られ、集団生活を行うことやコミュニケーションを図ることが難しいケースであった。職員はこの点に向き合い、当事業所での共同生活を通して、相手の気持ちを受け入れられるように支援していった。

職場は障害者多数雇用事業主であることから、専任の職業指導員の配置があるため、その方の支援を通じて、勤務を継続している。本人の状況を踏まえながら、支援者と職場の担当者との連絡を密にし、支援を行った。

暮らしの場では、適度な緊張感・慣れ過ぎない環境等の提供を行うことが必要であると考え、職員の間では本人との接し方を共有し、支援したケースである。

Aケースの特有の行動(バス停等で突然踊り出す等)については、職場及び本事業の支援の中で暮らす他の利用者は一定の距離をとって接している。

②Bケース

Bケースは児童養護施設退所時、児童相談所より療育手帳の交付を受けたが、「障害」の受け入れができずに苦しんでいた。その後、支援を継続していく中で、自ら療育手帳を持ち障害者割引を活用するなど、少しずつ気持に変化が見られるようになっている。

暮らしの中では、「労働=賃金=生活17」への理解が深まる中で仕事にも自信を持ち、自らコンサートに行くなど余暇活動も充実している。

また、職場では、求められる仕事をきちんとこなしており、継続した勤務ができている。職員も勤務に関しては特に問題ないと感じており、支援を継続しつつ、本人の夢でもある「一人暮らし」を実現するため支援を行っている。

Bケースは、現実を受け入れる気持ちが芽生えているため、より現実的な将来を描くことができるように、支援やアドバイスを行ったケースである。

③Cケース

Cケースはこれまで生活保護世帯で生活してきたため、極端な節約・節制を行うといった独特の金銭に対する価値観をもち、その価値観にもとづく生活スタイルで生活をしている。この価値観と生活スタイルはこれまでの生活の中で培ってきたものであることから、これを変更することは困難であることが推定された。

職員の支援方針としては「できないことをできるようにする」という視点ではなく、「ストレングス・モデル」の考え方を意識して、「できることを伸ばしていく」という視点で支援にあたっている。

生活の場では、自身では判断がつかないことも、誤った先入観で判断してしまうことがあり、指示やアドバイスを素直に聞き入れない傾向があった。そのため、話を聴くこと、何をどのタイミングで誰に伝えるべきかの重要性を伝えている。

グループホームで生活することを目標に据えることで、それに向けた本人の動機づけとなり、それに合わせた支援を行うようにしたケースである。

④Dケース

利用開始当初は、「仲間同士でコミュニケーションをはかることができる」「言葉足らずの面はあるものの、少しずつではあるが本人の気持ちが表出されつつある」というアセスメント結果であった。その後、1年間の関わりを経て、「コミュニケーション」の課題が徐々に見えてきたケースである。職員はこの点を普段の関わりの中で見つけ、普段の会話や面談を通じて改善に向けた支援を行ったケースである。

⑤Eケース

本人及び両親ともに、「障害」の受け入れが十分ではなく、自分が障害者だということへの抵抗感があったようである。このような考え方が背景にあったために、人間関係の形成が十分ではなく、集団生活のマナーを守らないということも多くあった。

同法人が運営するグループホーム、ケアホームを利用するのではなく、民間アパート(下宿)の利用に方針転換をすることにより、Eケースは民間下宿利用に向けた準備等には意欲的に取り組み、下宿生活に移行することができたケースである。


16 点線囲いは事業所による支援、囲いがない文章は利用者の状態を表す。また、網かけは特に強調したい変化のポイント(インシデントポイント)を表す。 GHはグループホーム、CHはケアホームを表す。

17 「労働することで賃金を得て、その賃金で生活する」という当事業所の考え方