第7章 取り組み事例「ノンラベル」
第2節 各ケースの記録
(1)各ケースの属性
ケースA | ケースB | ケースC | ケースD | ケースE | |
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属性 | 男性 10歳代 発達障害 アスペルガー症候群 |
女性 20歳代 発達障害 アスペルガー症候群 |
女性 20歳代 発達障害 アスペルガー症候群 |
男性 30歳代 発達障害 高機能広汎性発達障害 |
女性 30歳代 発達障害 アスペルガー症候群 |
生活歴 |
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家庭環境 |
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経済環境 |
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接点開始 利用開始 |
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利用終了後 |
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(2)各ケースの支援経過
以下、各ケースの支援経過を記載する。なお、内容は支援をしていく中で大きな変化があったポイントを記載している。矢印はその変化にもとづいた継続的な支援をさしている。
図表7-5‐1 ケースAの支援経過
図表7-5‐2 ケースBの支援経過
図表7-5‐3 ケースCの支援経過
図表7-5‐4 ケースDの支援経過
図表7-5‐5 ケースEの支援経過
(3)各ケースの支援のポイント
ここでは、各ケースの支援の特徴を示す。特に、支援を実施することで生じた利用者の行動変容に着目してそのポイントを示す。
①Aケース
思春期の暴言、暴力から発達障害であることが分かり、両親がノンラベルの月例家族会を中心に特性を学び続け、個別相談支援で具体的対応を積み重ねてきた。
生活訓練(別室で安心できる支援員と共に麻雀をする)等の訓練を通じ、母親同行から一人での通所ができるようになり、二次障害としてのパニック障害、社会恐怖症が軽減してきた。「暴力をふるう対象がいるから、暴力が出る」ことから、弟の別居、暴力による母親の入院、実家での療養、父子2人の生活の中での父との会話の成立を経て、本人、家族との相談支援を続け、理事長自ら作成したソーシャルストーリ―による心理教育を本人及び家族に対し実施した。また、通信制高校との協働支援も効を奏し、暴力もほぼなくなってきている。不安定さもありながら、通所による対人関係トレーニングを継続している。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
利用開始後4か月目頃に、母親より8か月遅れで父親が月例家族会で障害特性を学び始めた。これにより、父親は母親と共に本事業所の定期的なカウンセリングを受け、ただ叱るだけの対応から、少しずつ本人の特性を理解する対応に変化し始めた。最近は本人より、「お父さんにも職場で苦手な人がいるのだな」との、本人の独り言も聞かれるようになっている。
利用開始後4か月目頃から、ノンラベルに通所する利用者が本人の家庭教師を担当するようになり、対人関係に恐怖を感じている本人の行動が少しずつ変わり始めた。
このような経過をたどる中、利用開始後、12か月目頃から本人の定期通所が始まった。当初は理事長と他スタッフ、もしくは、同行した母親3名と本人の4名で2階の会議室で麻雀を始めることからスタートした。そのうち徐々に人慣れ、場慣れが進み、現在では、他の利用者がいる1階の談話室で職員が一人一緒にその場にいれば、他の利用者と共に麻雀やゲームを楽しむことが出来るような行動の変容が見受けられている。
②Bケース
自閉症スペクトラムの主な特性である対人関係が幼児期から顕著に表れていることが特徴である。女性グループに入りづらく、通所開始後1年余りはスタッフ以外では特定の男性としか関係を築けなかった。
パソコンでの情報処理、WEB関係、動画編集等を得意とし、他の利用者のPC訓練等のノンラベル内の作業を手伝う。自己変容したいという気持ちが強く、利用開始よりほぼ毎日通所が続いている。手工芸品の手作り作品にも意欲的に取り組んでいる。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
福祉サービス受給者証の申請に関し、半年以上の日数をかけてノンラベル担当者が利用者の生活している地域の行政担当者とやり取りをしたことが、本人との信頼関係構築に繋がった。
また、利用者へのPC訓練の指導的立場で役割を果たすことにより、スタッフとの関わりが増えた。通所が安定し、日数が増えてきていると比例して、雑談力が向上してきている。関わりの長い利用者との会話が成立し始めてきており、苦手なタイプな方とのパーソナルスペースの持ち方についても徐々に学んできている。
③Cケース
精神科による誤診、誤薬、二次障害による様々な精神症状等の体験、母親喪失、いじめ体験などの、フラッシュバックから乖離状態(意識、記憶障害)が生じている。
他者を傷つけるのではないかという意識が強く、深読みしすぎて、感情のコントロール力を失うことがしばしばある。相談支援面接で不安の要因を明らかにすることで、正常な感情レベルを直ぐに取り戻せるようになってきた。明るくコミュニケーションも利用中基本的に問題はない。
高校とのチームサポートを継続しており、スポット的なサポートのみで安定して、通学、通所している。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
はじめて父親がノンラベルを訪問してから約半年後に、本人の障害理解の月例家族会参加が始まった。本人の通所は利用開始当初から「お世話になります」との礼儀正しいあいさつがあり、対人関係構築のスキル上は問題ないと考えられた。他の利用者が参加する定期的な余暇活動にも積極的な参加を見せている。
転居に伴い、ノンラベルが転院の手配、電化製品の調達へのアドバイスを含め、きめ細かな支援が本人との信頼関係構築に大きく影響していると考えられた。また、日頃の関わり以外に、法人提携の個別カウンセリング(有料)も受け、課題整理を行っている。
④Dケース
自己知覚、自制心、他者の気持ちを読み取る力、親和性、日常生活能力など特に問題はないと判断される。パソコンプログラミング開発など高機能な能力を有しながら、それらの能力と不釣り合いな国語力の弱さ、対人関係の苦手さなどがある。それらの能力をつけたいという意思から、継続的に通所し、対人関係トレーニングを受けている。
高機能の自閉症スペクトラムの特性のある人が持つ能力を活かしながら、働ける場を作るという法人の新たなる課題に一緒に取り組んでいる。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
両親が月例家族会にて障害特性を学び始めて間もなく、父親の本人への関わりが以前より積極的になるという変化があった。また、本人が先述のAケースの家庭教師を請け負うことにより、もともと親和性が高く、ピアと利用者同士間では兄貴的存在として認められている。
他の利用者への学習指導の協力、IT全般の知識や技術の提供から職員間、利用者間の信頼関係構築に寄与している。現在は、働く場としてノンラベルと事業提携関係で起業する企画メンバーに加わっており、そのインフラ整備の担当として重要な役割を担っている。これらのことから話し方、対人関係距離の持ち方の向上に繋がっていると考えられている。
⑤Eケース
明るい性格で愛嬌があり、一方、学ぶ意欲、理解力(特に自己知覚)が強い。障害特性を語り合える「場所」「人」を持てたことから、自己評価、安心感が高まり、出産を決意した。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
2009年(平成21年)2月からの「30歳以上の女性の居場所」利用、本人と母が月例家族会に継続参加することを通じ、夫や舅・姑との関係構築について同様の状況下にいる職員や利用者から関わりのポイントや配慮事項を必要に応じて聴くことができたことが信頼関係構築に繋がり、出産の決意に至った。また、出産後も直ぐに「居場所」や月例家族会に顔を出していることから、本人にとって「30歳以上の女性の居場所」(現在は生活訓練プログラムの一つ)が結婚生活、家事、育児全てにおいて安心して頼れる存在となったことが、本人の安定した生活及び自立に大きく影響していると考えられる。