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1.わが国の矯正施設における知的障害者の実態調査

藤本哲也(中央大学法学部 教授)

司会●最初に「わが国の矯正施設における知的障害者の実態調査」をしていただきました藤本先生から、研究の報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

藤本●皆さま、こんにちは。ただ今ご紹介いただきました藤本でございます。私たちの研究班ですけれども、私たちは今回の研究の中で財団法人矯正協会附属中央研究所と、それから法務省矯正局の成人矯正課、それと少年矯正課のご協力を受けまして、わが国の矯正施設における実態調査に携わりました。

皆さま方にこれからご紹介しますのは、その調査の中の一部でございますけれども、20分ほど時間をいただいておりますので、わが国の実態として刑事収容施設あるいは少年院においてどれぐらいの知的障害者がいるのかという実態調査についてご報告をしたいと思います。

特に罪を犯した、または、罪を犯すおそれのある知的障害者の、地域社会での自立支援をはかる観点から実態調査を実施しまして、現状における問題点を探るとともに、就労、生活訓練、地域生活支援への移行のあり方、あるいは社会復帰に向けた福祉分野の役割と、矯正及び更生保護の関係機関等との連携の具体的な枠組み、法的整備に関する課題等を分析するにあたりましては、ぜひともデータが必要であるということで今回の調査に至ったわけですが、もう1つ重大なことを申し上げておきますと、実は平成13年、14年、15年、16年と、皆さまもご存じかもしれませんけれども「矯正統計年報」の中で、新しく刑務所に入る新受刑者、これが平成13年に28,469人いたわけです。その28,469人のうちの6,596人(23.2%)は、いわゆる文部省のCAPAS(キャパス)という知的水準を測るものがございますけれども、このCAPASによって知能指数を測りますと69以下の者が23.2%いる。そして平成14年に、新しく刑務所に入った30,277人のうち7,079人、パーセンテージにしますと23.4%の者が、CAPASによる知的障害者の基準になる69以下がやはり同じように23.4%いる。同じように平成15年の新受刑者3万4,351のうちの6,959人、22.2%。それから平成16年の32,090人のうちの7,176人、言い換えれば23.3%がやはり69以下である。

こういったものが出てきまして、果たして本当にこれだけの「知的障害者」と呼ばれる者が刑務所にいるのであろうかということが、今度の実態調査の主な目的です。

そこで今回の報告は刑事施設における知的障害者、それから少年院における知的障害者、それと、この2つを用いての調査結果に基づく若干の政策提言ということでお話をさせていただきたいと思います。

パワーポイントをご覧になりますと、そちらのほうに詳しく書いておりますけれども、多分お手元の資料と合わせていただければ中身がお分かりいただけるだろうと思います。何よりも刑事施設や少年院における知的障害者の実態を知ることが肝要であるというのが田島班の認識であったわけですけれども、プライバシーを理由として、どうしてもデータというのが表に出ていない。事前やあるいは出所の情報が地元自治体や福祉関係者には伝わっていない。こういう実態を踏まえました上で、知的障害者に対する十分な支援ができないということは、やはりそういうデータがないからではないかということで、まず刑事施設における知的障害者の実態調査をしたわけでございます。

その結果、平成18年10月31日時点で、全国の15庁を調査対象にしました。一番下にございますように、犯罪傾向が進んでいない者を収容する刑務所、A系列、A執行と言いますか、この犯罪傾向が進んでいない刑務所が4庁。そして犯罪傾向が進んだ者を収容する刑務所、B系列でございますが、これが11庁になっています。言い換えれば、これは特別調査、サンプル調査ですので、これをもって全体に及ぼすことはできませんが、今現在わが国で、全国で収容されている約8万のうちの27,024という数字でございますが、3分の1強のデータを調査したわけですけれども、それを考えますとB系列ということは犯罪傾向が進んでいますので、何度も何度も刑務所に入っている。もともと累犯者が多いということを頭に入れて、このデータを読んでいただきたいと思います。そうしなければ間違った評価になってしまう可能性があります。

しかも「知的障害者」とここに書いていますが、これは、医師によって知的障害として診断を受けた者または療育手帳を所持している者を知的障害者、その「又は」の後ろに「知的障害が疑われる者」とございますが、これは医師の診断は受けていないものの臨床判断によって知的障害が疑われる者でございますけれども、これが410名いた。男子のみです。平均年齢が48.8歳、そして療育手帳保持者が28名ですから、これはごく少ない数字である、特に療育手帳保持者が少ないことがこれで皆さま方にも歴然とお分かりいただけると思います。

次は調査結果の概要として、「罪名」「犯罪動機」「職業」「学歴」「入所回数」と書いてございますけれども、改めて詳しく説明するまでもなく、罪名では窃盗、詐欺、放火。犯罪動機は困窮・生活苦、利欲、性欲。職業としては無職が80.7%。学歴は残念ながら中学校卒以下が86.1%。入所回数としましては、B系列(犯罪傾向が進んだ者)ですけれども、これが平均しますと6.75回。5回以上の者が約半数の54.4%というデータが証明されました。

そこで今回の調査で受刑が2回目以上、累犯ですが、285名について調査をしましたところが、前回出所時に仮釈放であった者が20%。言い換えれば80%は満期釈放ということになります。そして前回出所時の帰住地が判明している者が約半数の56.5%ですが、ここで注意していただきたいのは、親元に帰った者、親族に帰った者はわずか27%しかいないということです。多くは更生保護施設あるいは知人、社会福祉施設のほうに入っている実態があります。

それから下のほうを見ていただきますと前刑からの再犯期間が3か月以内の者が33%で、60%の者が1年未満で再犯を犯している。これは少年院についても同じです。わが国の全体的な再犯率は大体46%から49%ですから、そういう意味では、一度施設に入っても再犯を犯す者が多い。そのパーセンテージから言いますと、普通5%以下が知的障害者の場合は10%を超えているということになります。

そこで今度は処遇上どのような処置を講じているかということについて書いてございますけれども、まず居室の配置について、かなり気を配っているという所が、我々のデータで報告書に書いております。

その他に、今ご覧になって分かりますように、作業としてもあまり危険な作業に携わることはありませんし、あるいは単純な作業ならば継続して同じ作業ができますので、そのあたりのことを考えて作業の配置を考えているということになります。

それからさらに生活指導という面でも、十分、直接、行動観察を通じて得た情報をもとに一人ひとりの能力あるいは個性を踏まえた処遇を行い生活しております。

さらに保護という面で講じている対策としましては、入所後早い段階で引受環境の調整が行われています。具体的にはパワーポイントをご覧になっていただくと分かると思いますが、第一に居室配置については、3つ書いていますけれども、対人適応能力を見ながら行うというのが中心ですし、昼夜も独居処遇を原則とする。なるべくトラブルを起こさないようにして、独居で処遇をするのを原則とする。どうしても今過剰収容なものですから集団室に入居させることが必要な場合には、同室者の人選に配慮するということをやっております。

作業という意味では、能力・適性を充分に考慮した上で選定をすることにしていますし、先ほどお話ししました危険性の高い作業は避ける。できるだけ養護工場で就業させるようにしております。また生産工場で就業させる場合には、作業内容を特化して、特に周りとのトラブルを避けるように対人関係に配慮しております。それから紙細工や除草等の軽度の作業あるいは比較的単純な作業を選定しておりまして、これで十分対応していけますので、こうした作業内容で今のところ処遇をしています。

生活指導としましては、とにかく面接をし、行動観察をして個性を踏まえた処遇をしておりますが、規律違反があっても本人の資質に応じて根気よく指導するということを前提にしております。また精神科医との情報交換・連絡を密にしておりまして、この点においても知的障害者の処遇がかなり有効に行われていると思います。

その他に入所後早い段階で引受環境の調整を行う。引受先さえありましたら仮釈放が可能になりますので、早い段階で引受環境の調整を行っておりますし、引受人等と電話・面談によって連絡を密にし、円滑な受け入れを図るように努力しております。また釈放後の不安や生活設計について相談・助言に配慮することにしておりますし、福祉施設等への入所が必要な場合には、帰住先の関係機関との協議をするなど可能な限り調整を図っています。これはまた後で他の方から報告が出てくるだろうと思います。それから引受人に満期釈放と仮釈放の説明をするなどして受入計画を立てさせておりますが、残念ながら先ほどのデータにありました通り、80%が満期釈放になっているというのが実状でございます。

それからもう1つの対策として、保護の面で、県の福祉事務所と帰住について調整を図ることが行われております。この数年間、ということは我々の調査が始まってからだと思いますが、かなり福祉関係との連携が密になっておりまして、我々の刑事政策においては、将来的には多機関連携。各省庁を通じてのみならずNPOを通じての連携が必要であると認識しておりますけれども、そういう意味でお互いに一歩として、まず福祉関係との連携がかなり充実しているということが、我々の調査によっても分かってまいりました。

また満期釈放者を、そのままにすると困りますので、保護カードを公布しておりますから、それを持って近くの保護観察所に行けば、何らかの対応をしてくれるということになっております。また福祉機関への相談方法についても助言・指導しておりますし、必要時には精神科医等による病状に関わる紹介状の公布等がなされております。

その他の刑事施設における知的障害者の対策としましては、福祉機関の職員に矯正施設内を見学してもらい理解と協力を求めております。実際に8施設には社会福祉士が常駐しておりますので、そういう意味でも、かなり福祉との連携がうまくいっているだろうと思います。また保護観察所の協力を得て生活保護の手続きに関して便宜を図ってもらっておりますし、全国に101か所の更生保護施設がありますので、一旦更生保護施設に入所させ、そこから福祉施設への入所手続きを取ってもらう。その他に帰住地や保護観察所までの地図あるいは帰り方を作成したものを持たせている。迷うこともあるようですけれども、一応、こうした対応をしております。これが第一の刑事施設における処遇ということでございます。

次に少年院における知的障害者の調査も同時に行いました。これは少年矯正課のほうのご協力を得て調査をしたものでございますが、詳しい内容はそちらのパンフレットの中に入っておりますので、それを後に見ていただくことにしまして、少年の場合には、平成19年1月1日の時点で、全国の少年院に収容されている知的障害者及び知的障害者に準じた処遇を必要とする者についての調査。下に書いてありますけれども、同時期4,060人、そのうちの130人が知的障害者になる。男子113名、女子17人という数字でございます。平均年齢が17.5歳、療育手帳保持者が29人。成人よりも遙かに、少し多いということになるわけです。

少年の場合の犯罪ですが非行名としては窃盗が多いことになりますが、その他に強制わいせつ、傷害、放火が入っております。

非行動機としては、利欲、遊び、共犯の誘いあるいは性欲が入っていますし、学歴としては中学校卒業が43.8%とその他が15.4%。

また今回初めて少年院に入院した者が92.3%。今回の入院が2回目以上の者10人のうち、前回出院後1年以内に再非行した者60%ですから、先ほどの成人の場合の数値と同じように、1年以内に60%の者が再犯を犯している。これを何とかしたいと思うのは、我々の自然な要求ですが、今回はそのお話ではございませんので省略いたします。

また非行時に家族と同居している者が80%。引受人が実父母またはその一方の割合が82.4%ですから、成人よりも少年のほうが遙かに身内の者の引受人が多いことがこれで分かります。

そこで対象者に対する教育内容として、教育への配慮と、保護環境の問題と打開策が、そこにあります。次に述べることにしますけれども、まず教育の配慮として考査期間あるいは新入時オリエンテーションを延長して分かりやすく説明をする。個別面会回数を増やす、個別処遇を増やす。あるいは個別・集団の心理療法を実施する。あるいは被承認体験、自分が認められている、こういうことをやれるんだということを分からせるような、また自信を持たせるような対応をしておりますし、資質に適した教材を準備しています。そういうのが、まず第一の教育の配慮。

保護環境の調整上の問題としては、帰住環境が劣悪で引受人の元へは帰せない。実は親が同じように知的障害者であって、十分に自分の子どもを引受人として引き受けていく能力がないという場合も、我々の調査では分かってまいりました。また更生保護施設に少年枠が少ないばかりか、なかなか引き受けてもらえない。確かに約100施設、約2,000~3,000名のキャパシティがあるんですけれども、今、70%~80%も収容しておりますけれども、なかなか枠がないということが一つ大きな問題点です。また広域収容施設では遠方の帰住調整が非常に難しいということ。特に性犯罪や放火犯の場合には地域感情が極めて悪く、帰住調整に苦慮する。今、法務省の本部のほうでは更生自立支援センターを考えていますけれども、なかなかこれも地域の反対が多い状態。

それから保護環境の調整上の問題として、もう1つ、続きですけれども、住民票があっても生活の拠点がないとして福祉サービスを拒否される。あるいは障害者自立支援法の施行によって、利用者負担が多額になって、保護者が負担できない。それから保護者がいないという場合には施設を利用できないという欠点がございます。また引受に積極的でも監護の能力のない親、子どもの収入が目当ての親など、引受人として不適切な親がいるということも分かってまいりました。

そういう意味では、この保護環境の調整というのはなかなか難しいということになりますが、打開策としましては、保護観察所及び福祉事務所との連携で施設帰住を図るということ。それから地方更生保護委員会との連携を密にして、更生保護施設への帰住をはかるということ。あるいは療育手帳の発行・再発行手続きを進めるために、判定のための外出、判定会議への出席等について手を尽くして調整方針を定めるというのが打開策として提案できる。

また、近隣地域の障害福祉課に連携・協力を求めて、施設の紹介、面接さらには入所をお願いすると。さらには少年・保護者ともに知的障害がある場合、保護観察所、帰住地の社会福祉協議会との連携を取って、出院後福祉サービスを受けられるようにする。このことも少しずつですが進んでいるようでございます。また少年・保護者双方が問題点について理解が深められるように保護司等の第三者に協力を求めるというのも打開策の1つではないかと思います。

時間があと2分しかありませんので簡潔にお話ししますと、調査結果に基づく若干の政策提言としてそこに3つほど提言しております。矯正施設に収容されている知的障害者が療育手帳を容易に取得できるような体制が取れないだろうか。もう1つは知的障害者に対する社会内での受け入れ態勢の整備と社会福祉施設を支援する体制を充実できないだろうか。あるいは関係機関の連絡協力体制をとれないか。

それについて簡単に書いておきましたが、療育手帳を容易に取得できるような体制ということを具体的に考えてみますと、療育手帳の所持率が低いということが今回の調査で分かってまいりました。成人の場合には410人中26人、少年の場合には130人中29人。それで取得申請の煩雑な事務手続きには問題がないかというので、認可や診断の確実性を担保しつつ、手帳取得関連のための行政手続きを柔軟化、簡便化するような方策の整備はできないだろうかという提言でございます。

前回の出所時に親族のもとに帰住した知的障害受刑者は27%しかいませんので、再犯防止のために安定した帰住場所が必要である。特に受入態勢の整備等、社会福祉施設を支援する体制が必要であろうと。そういう意味で第二の提言をしております。

第3番目の、関係機関と連絡のとれる体制ですが、矯正施設収容中から福祉関係者と調整をはかって、出所後の福祉支援を円滑に行う必要があるというのが我々の若干の提言の最後のところです。都道府県単位等の福祉関係者と矯正・保護関係者による定期的な協議会を開く。あるいは矯正施設所在地とは異なる都道府県に帰住する者や住所が定まっていない者の福祉支援に向けた協議や調整を行う体制の整備が必要である。

こういうことが、簡単ではありますが、我々の刑事施設における知的障害者、少年院における知的障害者の矯正実態から上がってきたときのデータでございます。もう一度お断りしておきますが、この調査はあくまでもサンプル調査であって、これを全体に及ぼすことはできません。特に15施設のうち、成人の場合は11施設が累犯の刑務所であったことを改めて考えていただき、したがって累犯率は高いですけれども、もともと何度も何度も犯罪を繰り返している施設を中心に調査を行った。その事実を認識した上でデータを解釈していただければと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

司会●藤本先生、ありがとうございました。