音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

3.触法等の障害者の社会復帰における更生保護と福祉等の連携に関する現状と課題

清水義悳(更生保護法人 日本更生保護協会 常務理事)

司会●続きまして「触法等の障害者の社会復帰における更生保護と福祉等の連携に関する現状と課題」について、分担研究を行っていただきました清水先生のご報告をお願いいたします。

清水●皆さん、こんにちは。紹介いただきました清水と申します。どうぞよろしくお願いをいたします。私の分担につきましては、お手元にお配りしました通り「触法等の障害者の社会復帰における更生保護と福祉等の連携に関する現状と課題」でございますけれども、これにつきましては、知的障害を有する受刑者・少年院退院者について引受人がない等のために、更生保護施設、これはお配りした資料をご覧いただきたいと思いますけれども、更生保護施設に帰住する人たちを中心に、その社会復帰をはかる上で、更生保護施設が果たしている役割とかで、社会福祉につなぐため等につきまして、制度運用の経緯、その他、現状の実態調査を中心にいろいろと検討してまいりました。

まず前提から申し上げたいと思いますけれども、皆さんを前にして、当たり前のことを申し上げ、またこの研究を通じて、非常に私、改めて痛感をしたことを申し上げたいと思いますけれども、更生保護が関わる刑事司法におきまして、きちんと接点を結べないとしているわけでございます。その刑事司法の領域というのは、仕事の文化と言うんですか、見られているのは人単位というわけです。もっと言えば犯罪という合計累計単位となるわけでして、したがってその一人ひとりは孤立した単位、存在でもあります。

実施主体も地域性を持たない国である。それが刑事司法の世界であるわけですけれども、一方で社会福祉は、地域福祉と言われるように地域単位です。実施主体も地域、すなわち自治体にあるわけです。更生保護は、いわばオールジャパンと言いますか、地域性とは離れたところで、人単位で管理をしている、人の管理をしている刑事司法と、地域単位でそれぞれの支援をしている社会福祉。その狭間で、社会で見守って支援するために、個々の人単位から地域単位。地域生活者への移行をつなぐ役割を整合しなければいけないと。そういうことが一番のポイントであります。

また社会復帰は、地域生活において初めてなされるわけで順番があります。更生保護関係者にとっては、地域生活、社会福祉の視点から関わることの大切さをずっと長い間痛感をしながら、制度としてこれは伝わらないということで、先ほど苦闘をし、あるいは苦悶してきた歴史があったというふうに思っています。そういう前提でこれまで関わってきました。

ある事例を申し上げたいと思うんですけれども、いろんな課題がありますけれども、一番大事なのは、孤立のままで生きられないということです。ある更生保護施設におきまして、施設長さんは朝4時ごろから働きに出る人がいるわけです。夜中にまた働いてくる人もいます。夜中に働いて帰ってくる人を見守って、自分が寝て、4時ごろまた、朝早く出て行く人を見送って、4時に起きて事務所に行っていたら、前の道路で黙ってラジオ体操をしている人がいました。「どうしたんですか」ということで声をかけたら、見たことがある人だったそうですけれども。その人は、昔この施設でお世話になって、今は何とか1人で頑張って生活をしているけれども、やはり誰にも話をすることができないので、くじけそうになる。くじけそうになると、この施設の前に朝誰もいないときにやってきて、黙って立っているわけにいかないので、体操しながら、ボチボチ自分で元気を取り戻して、また頑張っていると言っていましたけれども。

やはり自立していくということは、孤立していくことではなくて、色々社会的な関係性があって初めて成り立つ、そういうものですけれども、孤立ということは非常に大きな要因であって、また刑務所に戻るような結果を招くことが往々にしてございます。

また、これはかつて私がある受刑者の人から教わったんですけれども、自分たち受刑者の間で、今はどうか分かりませんけれども、3つのランクがあった。1番上を向いているのは、身内が引き受ける人。2番目は更生保護施設で引き受けてくれる人。3番目はどうするかと、いつも下を向いてしまうのは、誰も引き受けてくれない人。自分が社会の中に居場所がある、どこかに帰っていける、見守ってくれている人がいるという、それはまさに刑務所の中での服役生活、教育を受ける上でも、非常に大きな励みと言うか、社会につながっているということが、どれだけ大きい動機かということだと思います。

いずれも社会につながっている、人につながっているということの重さを示唆しているわけですけれども、まして障害という、やっぱり強い生きにくさを抱えた人たちにとっては、再び犯罪を犯すことがないように生きていく上で、適切なと言うよりも十分な社会的関係性、支援環境が必要とされるということだと思いますが、触法障害者の地域生活ということは、そういう支援ニーズに見合った社会的な関係性ですとか、支援環境があることを意味していると、当たり前のことですけれども、今回改めて痛感をしました。逆に言うと、そういったつなぎ方ができていなかったということだと思います。

もう1つは、重い処分だから少年院での処遇は別にしましても、刑の執行制度は、まずリスク対応と言いますか、リスク管理だろうというふうに言っても過言ではないと思います。障害を抱えた人であっても、基本は受刑者としてはそういうことなのではないでしょうか。

一方、そういった人たち、すなわち一度犯罪を犯した人でリスク管理という中に置かれていても、リスクではなくてニーズ、支援ニーズという点から見ると、まったく違った面が見えるわけでして、そういった強い支援ニーズを抱えた人たちの社会復帰、地域生活移行支援、それはまったくリスクへの対応と違う面をおさなければいけないということです。そういった面を、新たに今回の研究で発見と言いますか、非常に顕著に問題提起させたということだと思います。

高い支援ニーズを抱えた、つまりリスク管理か支援ニーズかということの結果において、高い支援ニーズを抱えた人たちも、世間ではリスク管理という視点から、そういう環境から見ると、非常に処遇が容易な人たちかもしれない。管理がしやすいと言うか。そういう目で見ると、支援ニーズというのは見過ごされてしまう。一定の環境の中では見過ごされてしまっていたのではないか。しかし社会生活での自立という視点から見ますと、あるいは社会生活の自立のための環境という視点から見ますと、まったく違ってきて、支援ニーズへの対応がなければ逆にリスクが顕在化するという、社会に置かれて顕在化する、そういうこともある。それが結局支援なしに再犯を繰り返して、マイナスのスパイラルで受刑者という、リスク管理の環境がだんだんより広いものになってきている、という現実が、今の山本さんのお話にもあったと思います。

私どももこの研究に関わってきて、福祉の専門のスタッフの方のいろんなお話を伺ったり、実際の支援の現場を見学、勉強させていただいたりして痛感をしましたのは、支援ニーズに対応した専門的なメニューですとか、スキルですとか、ケアプランそういったものへの移行が何よりも求められている。更生保護施設で抱えきれない。早く社会福祉につなげたいという、そういうこと以上に、本来、今申し上げたような専門的なメニューとかスキルとかケア、そういった支援を受けなければいけない人たちを、そういう支援に乗せるような移行ができてこなかったということが一番大きな、できてこなかった、あるいはできにくかったということを含めて、それが極めて大きな課題だったということを、今改めて痛感をしております。

今回の政策提言あるいは制度設計を含めて、専門の実務家、施設職員、それから実際に、どのように移行していくかということは、改めて実務上の対策は講じられたけれども、これからのスタートという報告です。

これまでも、そうでしたけれども、個々の人たちに対しては更生保護施設関係者は非常にそのためにいろいろ苦闘をしてきたわけでして、あるいは社会福祉関係者の方々も個々のケースに対応してつないでいただいてきて、おそらく本日の参加者の方々、皆さんそういう人たちだろうというふうに思います。しかしながら制度なり、その一般的運用の実情からは、様々な経緯とか現実的な課題があって、その溝を埋められないで来たということでもあろうと思います。今申し上げたような、文化の違いもあると思いますし、リスク管理とニーズ対応という目的、機能の違いもあります。それから社会福祉事業、今は社会福祉法ですけれども、これと更生緊急保護法という、それぞれの法制度の歴史が作ってきた溝というのも、これは詳しく述べませんけれどもあると思いますし、あるいはそれぞれの法制度の中で、他法優先という規定もあります。あるいは社会福祉事業には更生保護事業を含まないということでして、これも単に社会福祉の機関が更生保護事業の監督には及ばないというだけのことなんですけれども、もっと広い意味で社会福祉事業に更生保護事業を含まないというふうな誤解がずっと続いてきた。

さらに刑務所出所者、特に満期釈放者は、住所が定まらない段階で、福祉の実践主権者が不定と言いますか、結果的には手続き上の排除となったといっても過言ではないと思いますけれども、そういったことから、何をするにも金がかかった時間がかかった。

様々な背景がこの50年間、ずっと溝をつくるという結果を招いてきたというふうに思います。そういう意味で、今回、地域生活定着支援センターなどの制度設計が法務省、厚労省合同でなされていくというのは、非常に画期的。50年の戦後の歴史で初めてのことだろうというふうに思っております。

資料の102ページ以下に更生保護施設の中では、知的障害を有する人たちの事例について、どういう役割を果たしてきたかということを、サンプリング調査で平成18年、19年と2年間見てきました。

更生保護施設はもともと、刑務所出所者のうち仮釈放については22%ほど受け入れておりますし、満期釈放者を含めますと13%を受け入れるという大きな役割を果たしているわけですけれども、今回約470人についてのサンプリング調査をしましたけれども、そのうち、IQ相当値69以下の人たちの割合が20%弱でした。これはさっきの統計でもありましたけれども、刑務所の受刑者のうち、約21%がこれに相当する人たちでした。ほぼそれに近い数字で更生保護施設も受け入れてきております。決してこういう人たちを受け入れなかったわけではなくて、むしろ受け入れて、いろんな意味で日常生活上の相談助言ですとか指導ですとか、福祉との連携について、こまごまとした配慮をしながら従来支援をしてきたというふうに思います。

しかしながら、その資料の図表の中にもありますけれども、退所時の状況を見ますと、自立したという状況・評価で見られる人が60%。40%は、やっぱり委託期間が終わって、行き先が定まらないまま退所したとか所在不明になったとか、やっぱり4割ぐらいは自立できたという状態ではなく退所しております。

4割というのは、簡単に類推はできませんが、例えば平成19年の更生保護施設での、すべての受け入れ数というのは、約7,700人です。そのうち約2割がIQ69以下の方々だとすれば、約1500人。ただこの人たちが、4割は退所のときに自立できないで、色々不安定なままで退所しているとすれば600人は非常に不安定な人という状態で、更生保護施設を経過したとしても退所しているというわけで、非常に残念な数字でもある。そのため更生保護施設は、まとめにも書いてありますけれども、更生保護施設が受け入れてきた知的障害を有すると思われる方たちというのは、実際には更生保護施設での集団生活に適応できず、あるいはそれなりに仕事について生活できるという人たちはどうしても限定されて、これらの方々の就労を見ても、実際にはなかなかやはり就労のままならない方が多かったり、就職できたとしても、本当に限られた協力事業所に個別にお願いをしたということが、この統計上もものすごく出ております。

そんなことで、個々の更生保護施設のヒアリング調査の結果を確認する限りでございますけれども、知的障害のある方を積極的に受け入れている更生保護施設におきましても、多様な支援ニーズを抱えた人たちの、複合的な生活支援の施設でありますので、さらにまた、今申し上げた通り、専門的な技術とかノウハウを持っているわけでもございませんから、刑務所から受け入れて、社会福祉の「つなぎ」として、更生保護施設がどれだけ役割を果たし得るか、さらにこういった面について積極的に活動している更生保護施設においても、やっぱり1か月がギリギリだからという声が多かったです。

しかし、すべて出口の見える受け入れが、もう少しできるのではないかというのが実態ではというふうに思いますし、この辺が今回のいろいろな制度設計の中で、どういうふうにうまく広げていけるかというところであろうと思います。

時間になりましたので、結びにさせていただきますけれども、結びについては、最後のまとめのところをお読みいただきたいと思います。やっぱりつないでいかないといけないという、一番大きなことは、刑務所を満期で出た人たち、特に多くの人たちが自分で自分をあきらめている人たちです。累犯になればなるほどそうです。自分で自分をあきらめている人たちに、一人ひとりに即して、どのようにもう一度心に火を付けるか、これに尽きるんです。制度もそうですけど、実際の社会復帰の支援というのもこれに尽きるわけです。自分で自分をあきらめている人たちに、もう一度心に火を灯すという、これは、障害者、知的障害者の人たちにとっては、さらにこれは非常に大きな、更生保護施設にとっての課題です。どういうふうにしていくのか。利用者として見ても、福祉施設での支援に、積極的にぜひそういう人をと、必ずしも多いわけではありません。更生保護施設のヒアリングでも、やっぱり障害受容ということで非常に大きな壁があります。そういう人たちの利用者としての力を引き出すことから始めて、この制度、新しい仕組みをどういうふうに活用していくかという、むしろこれからの課題であり、私たちもつながっていかなければいけないということ。

そこにやはり私の刑事司法の領域で、いろいろ努力していかなくてはいけないところがあるとしても、福祉のほうから、福祉の方々のほうから、いろんなノウハウ等をぜひ持ち込んでいただいて、そういう目で見て、我々更生保護施設も含めて、刑事司法の中の役割を新たに開拓していくという、そういうつながり方。お互いに入り合うつながり方が非常に必要だと思っています。以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

司会●清水先生、どうもありがとうございました。