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4.現行制度における虞犯・触法等の障害者の地域生活の現状と課題

高橋勝彦(社会福祉法人 宮城県社会福祉協議会/宮城県船形コロニー 総合施設長)

司会●次に「現行制度における虞犯・触法等の障害者の地域生活の現状と課題」について分担研究を行っていただきました、高橋研究分担者より報告をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

高橋●はじめまして。高橋と申します。よろしくお願いいたします。私どもの研究の資料・報告等は185ページからになりますので、見ていただければと思います。

最初に研究の目的でございますが、田島班の全体の研究目的を踏まえまして、私どもの班の研究目的。福祉施設における取り組みの現状と課題についての検証。それから矯正・更生保護事業と連携するための必要な事項。この2つの研究目的を立てまして3年間研究をしてまいりました。

福祉施設における取り組みですが、今まで入所施設では、こういった罪を犯した障害者について表に現れてくることはあまりありませんでした。でも実際には入所されて生活をされている方々というのは結構いらっしゃるということです。特に入所の授産施設では、こういう方々は結構な数いらっしゃるということが分かりました。ではそこで、どういう支援をされていたのかということを研究してきたということです。

それから矯正・更生保護事業との連携ということですが、これは今まで我々福祉サイドは、なかなか司法との連携がなかったものですから、実際に司法の方々とお会いしてお話をする中で、矯正・更生保護の事業の内容を、我々福祉の側が学ぶ必要があるのではないかというところで取り組んできました。

具体的に3年間の研究方法を年度ごとにお話をしていきたいと思います。まず18年度ですが、先ほど申し上げました通り、福祉施設において現在・過去において罪を犯した知的障害者への支援の内容の調査をしてまいりました。それから東北地区における矯正・更生保護事業施設の知的障害者への支援の内容に関する研究、18年度は2つの目的に沿って方法を立てました。

19年度は、救護施設における罪を犯した知的障害者の受け入れ状況と支援及びその課題についてということで、今日も会場に救護施設の方がいらしてますが、アンケートに非常に協力をしていただきまして、多くの施設から回答をいただき感謝を申し上げます。それから矯正・更生保護施設との連携による罪を犯した障害者への支援についてということで研究をしました。

20年度は、研究の3年目の最後ということで、これは相談支援事業所における罪を犯した障害者の相談・支援の状況調査と課題の検証ということで、地域で生活をするときに、地域でこういう人たちを支えてあげるには、相談支援事業所が今、全国どこにでもありますので、そういったところでの実態はどうなのかということを調査しました。それから平成18年度に調査事例をした中から、その人の地域生活への課題の検証をさせていただきました。

年度ごとの結果と考察についてお話をさせていただきます。まず18年度ですが、施設の調査からということで、先ほど申し上げましたように、入所施設で、そういった方々を受け入れて、どのように支援をしているのかを東北にあります4県6施設に対して調査を行いました。その中から23の事例をいただきまして、具体的にどのようなことなのかということを調査しました。お手元の報告書に、詳しく調査項目等々書いてありますが、大きな問題だけをここで拾い上げてみました。反社会的行為に至った背景と要因の共通性ということで、罪を犯した方々のところで共通の要因性があるということが23の事例から分かりました。これはどういうことかと言いますと、いわゆる育てられた環境ですね。生活環境が、非常にその後大きく作用して、そういうふうな状況になってしまった。そういうことが23の事例から分かりました。

では実際にそういう方々が施設に入って、実際にどのようなトレーニングを受けて、そして地域生活へ移っていったか。そしてそれを地域でどのように支えているかというようなことも分かりました。施設では一人ひとりに合ったプログラムを用意して支援をして、そして本人の希望にそって地域へ移っていくんですが、なかなか地域に移っても、地域の社会資源が整ってなかったりしているものですから、なかなか難しい現状があるのですが、ただ調査した事例の中では、地域にすぐ定着して生活をされている、そういった方々もいらっしゃるということであります。

それから施設でそういう方々を受け入れて、福祉施設だけでは当然いろんな支援ができませんので、では矯正・更生保護事業と福祉事業の関係はどうなのかということで調査をしたのですが、先ほども言いましたように縦割りの行政になっていますので、福祉は福祉、司法は司法ということで、なかなか横の連携が取られていないために、非常に福祉側とすれば欲しい情報も、なかなか矯正側からもらうことができないために非常に苦労していると。そういった実態も分かりました。

そして矯正・更生保護事業からということなのですが、なかなか司法と福祉は横のつながりがなかったのですが、この研究を通して、我々が矯正・更生保護事業の中身を知る、それを福祉の施設の職員に伝えることによって、お互い共有ができるようになるだろうと思います。そして福祉施設の職員には、それを啓蒙したというようなことが1つありました。

それから矯正施設職員も、福祉のサービスですとか福祉の制度について、まったく分からない方々が多かったので、我々福祉サイドでそういったことを情報提供、あるいは制度の中身を教えることによって連携の有効性を確認できたということが分かりました。

19年度は救護施設でのアンケート調査をしました。救護施設で、そういった方々をどのくらい受け入れられて、どのように支援をしているかというアンケート調査をしました。おかげで全国に182の救護施設があるのですが、119の施設から回答をいただきまして調査をしました。

その中から見えてきたこととして、ここに5点ほど挙げております。1つは個別プログラムの必要性。2つ目が専門性を持った職員の配置。それから3つ目が情報の共有化と有効活用。それから4つ目が関係機関とのネットワークの構築。5つ目が矯正施設と福祉施設をつなぐ機関の設置ということです。

この中で情報の共有化と有効活用ですが、やはり救護施設でそういう方々を受け入れても、なかなか矯正施設で行われているいろんな処遇内容、作業内容ですか、そういうものが救護施設のほうに実際に情報として入ってこない。そのために非常に施設としても抱えにくく、あるいは支援をする現場の職員も不安に思っているというような実態がありました。ですからそういう意味では、やはり支援の継続性ということから考えれば、やはり救護施設にも必要な情報を伝えておいて、お互いにそれを活用していくということが大事になっていることが分かりました。

それから矯正・更生保護施設との連携からということですが、これは18年度から引き続いての取り組みで、さらなる連携の必要性をここで感じたということで、いろんな矯正施設の方々が福祉施設を見学に来まして、そして我々といろんな情報交換をしながら連携を深めていったということの確認ができたということです。

それから20年度、最後の3年目の研究なんですが、地域で支える相談支援事業所が、これは宮城県内の事業所、35の事業所あるんですが、そこから26の回答をいただきまして、その中からまとめたものが5点。1点目が関係機関とのネットワークの構築。それから2つ目が一時的な受け入れと対応のための専門機関の必要性。それから3つ目が自立支援協議会の機能充実と自治体の積極的な関与。それから4つ目が支援システムの構築。それから5つ目が情報の必要性と活用。これが相談支援事業所の調査から分かったと言うか、まとめた5点になります。

この中で関係機関とのネットワークの構築ということなんですが、やはり相談支援事業所、一事業所だけでは、なかなかそういう人の相談があってもそれに対応しきれない。いわゆる相談事業所はあくまでも相談を受けるということなので、それを次にどこへつないでいくかという、そういった情報を相談支援事業所が持っていなければ、なかなか支援が難しいということもあるものですから、相談支援事業所の機能の1つとして、そういった地域における社会資源ですとかサービスをきちんと把握しておくと同時に、関係機関がいつでも集まって、その人に対しての会議が持てるような、そういったつながりを作っておかなければ、相談支援事業所で抱えて大変になってしまうということがあるので、そういったネットワークの構築が必要だということが分かりました。

それから、自立支援協議会の機能充実と自治体の積極的な関与ですが、今、自立支援協議会というのは各都道府県あるいは市町村単位、あるいは市町村で作れないところは、いろんなところが集まってそういう協議会をつくられております。宮城県も、県の自立支援協議会というのがあって、あと市町村にあるのですが、なかなかそこがうまく機能されていない。つまり地域で生活をされているこういう方々の問題が、その自立支援協議会に上がってこない、来てないというような実態が分かりましたので、やっぱりこれからは地域で生活をするということが前提になりますので、そういった協議会の機能がますます充実されていかなければならないと思っていますし、あと、それに関わる、いわゆる市町村、自治体がきちんとそういうふうに関与しなければいけないというようなことで挙げております。

それから調査事例からですが、これは18年に4県6施設23事例の中から、支援会議において我々がそこに参加をして、その人が地域でどのような生活をされていて、そしてどのような課題があるかということでした。この事例の方ですが、地域で元気に生活をされているということなんですが、ただ、本人を含めての問題もありますし、それから地域で支える仕方の問題もあるのではないかなと思います。この事例の支援会議では地元の警察署も入っての開催です。ですから他の障害者の自立の支援会議とはちょっとまた異質な部分で、警察側が必ずその支援会議に入って、本人の状況を含めて把握をしている。つまり警察がその人の行動を逐一こうやって把握をしなければならないような人だというようなことなんですが、ただ我々から言わせれば、それは警察署、警察の方々の言い分は言い分としてあるでしょうが、我々福祉に携わる者とすれば、そこまでしなくてもいいんじゃないの、というような、過剰なまでに反応しているところがあるんですが、そういった方々がいて、支援会議にかけられて現状の課題を把握していただくということになります。

この研究3年間を通して、まとめと言うと3つほどですが、1つは犯罪に関わる要因分析の必要性ということなんですが、これは先ほど冒頭でお話ししたように、非常にその人も含めての生活環境が大きく影響しているということが分かったということです。決して知的障害だとか発達障害が犯罪を起こすわけではないということです。彼らを取り巻くいろんな生活環境・家庭環境、あるいは地域社会の環境、こうした環境に影響されているということが言えるということです。

それからネットワーク作りの必要性というのは、これは支援する側が、例えば入所施設であれば入所施設だけで全部そういう問題を解決できませんので、いろんなところといろんなつながりをもって解決をしていく必要性があるということです。

それから3つ目。地域の力を高める必要性という部分ですが、私は入所施設の職員なんですが、やはり別に施設が悪いということではないのですが、基本的には地域の中で当たり前の生活をするというのを前提にして、私どもの宮城県にある船形コロニーという施設は利用者を地域にどんどんどんどん出しております。ですから、そういうことからすると、本人の力はもちろん大事なのですが、地域でそれをきちんと支える、いわゆる地域の力というのも高めていかなければ、そういう人たちを支えきれないのではないだろうかというようなことで、地域の力ということで、こういうふうに3点挙げさせていただいたということでございます。

以上が私どもの報告になります。私どもの研究グループのメンバーをここに記載させていただきました。どうもありがとうございました。

司会●高橋先生、ありがとうございました。