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5.現行制度における虞犯・触法等の障害者の就労と地域生活の現状と課題

酒井龍彦(社会福祉法人 南高愛隣会 常務理事/長崎就業・生活支援センター 所長)

司会●それでは最後の研究分担報告になります。「現行制度における虞犯・触法等の障害者の就労と地域生活支援の現状と課題」について、分担研究を行っていただきました酒井研究分担者より報告をお願いいたします。

酒井●皆さん、こんにちは。酒井と申します。酒井グループの中心的にやってきたことは、実際の受け入れです。矯正施設あるいは保護観察所のほうと連携をして、福祉サービスにつなげていく、またあるときは南高愛隣会の方と連携をして、受け入れて、その手続きの流れ、どういう課題、問題点、課題があるのか、それを洗い出して、どういう解決策があるのかということを協議させていただきました。

まずこれが今の定着支援センターの架け橋となる、一番設計図になった課題かなと。合同支援会議ですが、構成員としては、矯正施設、福岡矯正管区、長崎保護観察所、九州地方更生保護委員会と、南高愛隣会と、長崎鑑別所と合同で、受け入れのための合同支援会議をやりました。その会議の内容としては、受け入れ対象者の選定、絞り込みから、福祉サービスをする上での、事務手続き上の進捗状況の確認です。あと、この合同支援会議を通して、それぞれの、最初はそれぞれの制度も分からないで我々もいたんですけれども、そういう中で、お互いの制度のすり合わせ、共通の認識というような、ある意味では勉強会も兼ねての合同支援会議でした。

それぞれ麓刑務所、長崎刑務所、中津少年学院と、この厚生労働科学研究の受け入れのための研究計画の合意書を結んで、モデルとしての受け入れをさせていただきました。

南高愛隣会のモデル事業として8名の受け入れをいたしました。この8名の方の特徴というのが、療育手帳の「あり」の方と「なし」の方がいらっしゃいます。「あり」の方は、矯正施設に入る前から何らかの、福祉の手だて、関わりがあるということですね。回数というのは刑務所に入った入所回数。両方とも初回ということになっています。ただ、刑務所に入るとき、あるいは出た後も、まったく福祉のほうと関わりがなかった「なし」の方は、3回だとか4回。あるいは多い人で10回ということで、非常に再犯が繰り返されている。いわゆる累犯障害者と言われるのは、どうしてもわが国の福祉の仕組みとして申請主義というのが原因にあります。この申請主義という仕組みが、かえって、この本人さんたちの犯罪の要因になっている制度ではないかということが言えると思います。

我々、人というものは、母親を基地として家族を中心として、いろんな人たちの関係性の中で存在をしていくということが言えると思います。ただ、こういう罪を犯す障害者の方というのは、もう生まれたときから、この家族の関係性がほぼ崩壊状態にあると。非常に家庭環境が脆弱で劣悪であるということが言えます。そういう中で犯罪を繰り返し、居場所がなくなり、人間不信に陥る。それで、再犯を繰り返す。この負のスパイラルの中でどうしても支援が届かないということで、ここから抜け出ることができない人たちだと思います。この負のスパイラルの中に陥ることで、さらに生きづらさが増幅されてしまっているということが言えると思います。

それでは実際南高愛隣会で、受け入れた3名の方の証言です。Bさんです。満期出所の方です。店によっては窃盗では警察に連絡をしてくれない。刑務所に戻るには、車への放火が逮捕されるには一番良いと教わったと。Dさんですけれども、出所後はホームレス。男性に襲われたこともあり街の中は怖かった。護身用ナイフを持ち歩いて、刑務所の中が安心だった。Fさんですが、出所後は親身になってくれる人がいなかったということで、刑務所の中というのは、居心地が悪いと思うんですが、ただ、その居心地の悪い刑務所よりも地域の中が怖い。刑務所の中が安心だという本人さんたちの証言を聞いて、我々福祉の職員は、いったい今までどういう支援、こういう人たちに対して、今まで表に出てこなかったこういう人たちに対して、どういう支援をしてきたんだろうということを反省をしております。

これは仮釈放の有効性とソフトランディングということで、福祉サービスを利用する上では個別支援計画というのがあります。我々としては、満期出所よりも、できるだけ仮出所で受け入れるということです。まだ法務サイドの公権力、あるいは拘束力があるうちに福祉のサービス、環境に慣れていただくということで、この手続きのときから、できるだけ長い期間、仮出所の期間が設けられていれば、手続きに対しても、帰住地の設定を早くして、引受人をつけて、入所中から福祉の手だてをする必要があると思います。福祉サービスは契約制に移行すると、どうしても、人にもよりますけれども契約になじまない人たちが多いのではないかと思います。そういう中で仮出所の期間で福祉の環境に慣れていただく。措置制度という仕組みに代わる導入方法ということで、今、福祉サイドでは措置入所、そういうのが今でも残ってはいるのですが、ただ今の措置入所の制度では、なかなかこういう契約になじまない、比較的能力の高い人たちは措置入所の仕組みが使えないという現状があります。そういうことで、この措置入所の仕組みというのを、もう少し見直していただいて、弾力的に運用ができるように仕組みを変えていただければと思っています。

あと法務サイドの保護観察所との関与があると。ここが一般の障害の方と違うところです。刑務所からの出所をされた方については、支援計画の中でも、社会資源の活用として、この法務サイドの関係機関の活用・関与ということで盛り込む必要があると思います。もう1つは罪の意識が高いうちに福祉支援になじんでいく。これは先ほども報告をした通りです。

それで満期出所から仮釈放へということで、どうしても帰住地、引受人がない方については、入所中から帰住地の設定をする必要があります。できるだけ仮出所の期間を、スパンを長く取るためには、それも早いうちからその手だてを打つ必要があると思います。まず福祉サービスにつなげていく上では、施設長が、あるいは福祉施設が引受人になり、帰住地を定めていく。あと援護の実施市町村を確定する。援護の実施市町村を確定するということが福祉サービスのある意味ではスタートになるわけですけれども、どうしても住所不定、家族がいない、身寄りがいない、手帳もなし、保護観察所のほうと連携をとって、家族あるいは住民票を探していただくわけなんですけれども、住民票の抹消、中には刑務所等を利用して、そこに住んだという期間が明らかではない場合には、職権でもって住民票が抹消されるということを聞いております。ただ入所中の刑務所の所在地に住民票を設定をして、そこを福祉サービスにつなげていく援護の実施機関として設定をしていき、それでもって援護の実施市町村を確定させるということで。

この住所不定者の住所をどこに設定するか、どこに援護の実施機関を確保するかということで、ケースによっては、そういう方がいらっしたわけですが、これは昭和32年の厚生省、そのときの厚生省社会局長の通知ですが、収容前に居住地を有しないか、または明らかでない者、あるいは収容前の居住地に復帰する見込みのない者については、矯正施設所在地の都道府県知事又は指定都市若しくは中核市の市長が身体障害者手帳の交付を行い、また援護の実施に当たるものであること、ということで、既にこの昭和32年に解決がされているということが分かりました。これでもって矯正施設の所在地に住所を置き、そこが福祉の援護の実施の機関ということで設定をさせていただくということが可能になってくると思います。

これは逆に、昭和36年に出ました矯正局長通知でございまして、収容者が、施設を住所として住民登録の届出を出したい旨施設長に申し出た場合は、施設長は、施設所在地の市区町村長にその旨を通知をすると。本人さんの状況、住民票が、例えば住所不定あるいは職権で抹消されているということが生じた場合、それが分かった場合は、本人の申し出により処理してかまわないということになっています。

この2つを活用して、住所不定の場合、住民票がない場合は、これが活用できるということで、福祉サービスにつなげていければ非常にありがたい通達だと思います。

我々が、合同支援会議から実際に南高愛隣会で支援しているというつなぎ役をした時に、我々がやってきたこの期間、実際に受け入れた方というのは、8名いたんですけれども、面接をさせていただいた方というのは20名ぐらいいらっしゃいました。実際、途中で涙を流されたりとか、家庭が本当に辛い状況だったりとか、そういう方ばかりでした。そういう方々のお話を聞く中で、つくづく、この人たちは本当に今まで支援を受けてこなかったのかと。支援を受けてこられなかったのかという思いがしました。

後で全国の法人の調査の中でも言いますが、療育手帳を持っている人は福祉サービスにつながっていっています。しかしそれ以外のほとんどは、療育手帳を持っていないということです。持っていない方が、やはり刑務所の中で何かをやらされるけれども、居心地は悪いけれども、地域よりも安心だと言われております。この実態というのも、やはり変えていかなければならない。

人間性、先ほど清水先生のお話にもありましたように、人は関係性の中で、存在、生きていくと。その関係性が崩壊している。既にしてしまっています。再犯することにより、その関係性がますます崩壊して、そこから抜け出せないような人たちです。そういった人たちを救うと言うか、福祉サービスへつなげていく。負のスパイラルから脱却させていく、そういう機関というのが非常に大切だと思っております。

これが長崎で、私がいる定着支援センターのイメージ図ということであります。少年院においては、犯罪そのものよりも問題性、背景、要因というのが重要視されているということが言われます。成人の場合、矯正施設の場合は、犯罪そのものが重要視され、問われるということを聞いたことがあります。そういうことで、少年院においては、療育中心の処遇がされ専門的・教育的な処遇がされております。成人の施設においては、服役作業中心の、罪そのものが問われると。であるならば、遅まきながら、定着支援センターが間に立って、ちょっと語弊があるかもしれませんが、少年院に代わるような、少年同様の療育・福祉的な処遇をして地域移行を目指す必要があるのではないかと思います。

以上の通り、現状としては矯正施設から保護観察所を通して、更生保護施設等から、ワンクッションおいて、定着支援センターを介して福祉サービスにつなげていくということです。福祉サービスについては、ここが注意をしなければならないところなんですけれども、入所施設が第二の刑務所にならないように、定着支援センターとしては、とてもこれが難しいのですが、できるだけ地域移行の実績のある所にバトンタッチをして、本人さんたちができるだけ地域の中で幸せに生活ができるように。こんなはずではなかったと、こんなことではなかったというようなことではなくて、出所して安心をして生活ができる、地域生活できるというような支援をしていき、バトンタッチができればと思っております。そのための、福祉関係者だけではなくて、法務サイドの関係機関とも連携をしながら、あるいはハローワークと連携をしながら、そのネットワークをいかに構築していかなければならないのかというのが我々の課題です。

これは定着支援センターの業務、相談支援事業、コーディネート業務、高齢・障害者等の就労支援ということです。ここで定着支援センターの落としどころというのは、社会の強さと言いますか、地域社会の強さというのは、刑務所に入って出所した人、あるいは出所したい人、すべて障害があろうがなかろうが、そういった人たちをきちんと受け止めていける社会、そういう社会が非常にある意味では強い社会ということを聞いております。定着支援センターの役割というのは、こういった、社会的弱者を、きちんと受け止めるような社会を、あるいはネットワークを構築していく、そういう強い社会をつくっていく1つの役割を担っているんだということを思っております。

これが全国の2,350の知的障害者の施設を運営する法人へのアンケート調査です。調査期間というのは平成15年の4月から平成19年の9月、5年間の、罪を犯した人たちの受け入れの実態です。

平成18年から非常に相談件数が増えてきております。これはこの厚生労働科学研究が始まったということ、もう一つは新法ですね。障害者自立支援法が施行されたということですね。地域ごとに相談支援体制の強化が図られたということがあり、18年度から増えてきております。

対象者の受け入れ、157法人、176施設が実際対象者を受け入れてきているということです。

それらの罪名ですが窃盗が非常に多いということは、言うまでもないことです。

まとめのところにいきます。罪を犯した障害者というのは軽度・中度の方がほとんどだということです。これが障害程度区分とのミスマッチで、職員の配置ができないという、経済的な負担になっているということが分かりました。どこも表には出てこなかったけれども、相当苦戦をしているということが分かりました。

あと、受け入れ施設の負担。受け入れで障壁になった事項ということで、個人情報の不足、経済保障です。生活保護というのがあるんですけれども、これについてはまた後でディスカッションの中で言えればと思います。あと、受け入れてからの困難な事項は、そこに書かれている通りです。この冊子の中の265ページから、酒井グループのアンケート調査の結果についても載せさせていただいていますので、後ほどご覧いただければと思います。

これで酒井グループの、実際受け入れてからの課題点、問題点を洗い出したモデル事業の報告を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。

司会●酒井先生、どうもありがとうございました。