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総括報告 罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究

田島良昭(社会福祉法人 南高愛隣会 理事長(研究代表))

司会●これまで5人の研究分担者の方々から、それぞれのテーマに沿った研究報告をしていただきました。これを受けて、研究代表者から田島班の総括の報告をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

田島●今日は、厚生労働科学研究の発表会に非常に多数の方がご出席いただきましてありがとうございます。今5人の先生方がそれぞれ報告したところでありますが、私のほうから総括をさせていただきたいと思います。

その前に、お詫びを申し上げたいことがあります。と言うのは、私自身もこの30数年間、障害をもつ人たちの福祉の仕事をさせていただいてきました。相当自分たちでは一生懸命やったつもりでありました。ところが、このように、今、私どもが知らないところで、すなわち刑務所とか少年院という、そういう所で罪を犯した人たちの中に、そういう人の中に、たくさんの障害をもった人たちがおられて、しかもその罪を犯した人たちが本当に不幸な状態で人生を送っておられるということに気づきませんでした。

そして、そういう、本来福祉の我々が主体でしなければいけなかったことを、法務省の特に矯正施設の中で働いておられる職員の皆さんたちが、本当に必死で支えていただいている。そしてまた、そういう人たちが出てきたところを、更生保護の担当しておられる皆さんが、今回の調査でお会いした保護司の先生方が、本当に地域の中で、大変な思いをしながら支えていただいた方に、たくさんお会いをいたしました。

そういう皆さまのご苦労、本当に感謝をしながら、ただ我々福祉をしてきた者は、本当に申し訳ないことでありました。気づきませんでした。気づかなかったために、我々は、そういう本来支えなければいけないことを、役割を果たしていなかった。そういうことについては心からお詫びを申し上げたいと思います。今日参加の皆さま方にも、相当数、法務関係でお仕事をしていただいている方がおられると思います。まず心からお詫びと、それから感謝の思いを申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

今後は、私どもも、果敢にみんなで気づいたテーマです。福祉の関係者も気づいてまいりました。ぜひしっかりこの実態を見据えて、しっかり活動をしてまいりたい。そして役割を果たしたいと思っております。

この厚生労働科学研究のこういう機会を与えていただいて、今回研究分担者5人の先生方にお力添えをいただきました。そしてその皆さまたちがそれぞれグループをつくって、研究協力者、それから法務省、厚生労働省、あるいは内閣府から、それぞれ現職の公務員の方たちが研究協力者あるいは研究助言者という立場で参加をいただきました。そして本当に問題がそれぞれ出てきた場合、すばやくいろんな対応をしていただきました。そのことにも本当に感謝を申し上げたいと思います。

特に、私がこの厚生労働科学研究のところで一番注目いたしましたところは、刑務所の中に相当数、障害をもった人がいるとかというお話をいろいろ聞いてきて、そして実態を調べていったときに、山本譲司先生、今日、発表いただきましたけれども、山本先生からも相当しっかりお話を伺いました。そして、そういう漠とした形で、障害者が相当いるそうだということでお話を聞いて、そしてそれを調べていくうちに、本当に相当いそうだということになりました。

しかしそれでは「相当いそうだ」だけではどうにもならない。実態をきちっとした数字で捉えたいと思いましたときに、手がかりになったのが「矯正統計年報」であります。その中に、矯正統計年報で、藤本先生からお話いただきました表に、平成13年度ぐらいからずっと知能指数が出ていた。その中で注目すべきは、20数%の、知的障害ではないかと思われる人たちの数が載っていたということであります。そこから注目いたしまして、「知的障害」という数字的に捉えやすいところから入らせていただきました。もちろんその周りに精神障害や、あるいは認知症の人たち、あるいは発達障害の人たちや、いろんなハンディキャップをもった人たちが相当数おられるということは、はっきり見えております。しかし数字的にしっかりつかめる。「何人ですか、どういう人たちなんですか」「こうです」というのをつくるためには、どうしてもきちんとした人数から捉えたかったという点もございます。そういう意味で、知的障害というところから、この厚生労働科学研究を始めさせていただいたということであります。ここはぜひご理解をいただきたい。別に知的障害者だけがということではない。そこから見ることによって、その全体の数字がきちんと見えてくるのではないかという具合に考えたわけであります。そういうことで、知的障害を中心に、いろいろ見ていただきました。

そこの中で、先ほど申しました通り、矯正統計年報では、早くから新受刑者の中にどのくらいの知的な水準の人たちが、どのくらいいるかということがずっと出てきていたわけです。そこから見ますと、およそ私どもが見なしている、知的障害者と見なす、知能指数が75以下ぐらいで、それから社会適応能力が著しく劣る者、これ両方が重なった人たちを、我々は「知的障害」と申しております。わが国は法律的に、知的障害者とはという定義がありませんから、各市町村、各都道府県でそれぞれその判定をするというルールになっております。統一して、知的障害者の定義をきちんとつくりたいと、我々も長い間そういう悲願をもって、いろいろ工夫をしてきましたけれど、うまくまだつくりあげられていないということであります。

そうすると、都道府県で、ちょっとの違いはありますけれども、概ね知能指数が70ぐらいから以下ぐらいのところで社会適応能力が著しく劣る者については、知的障害と見ましょうと。それで療育手帳あるいは愛の手帳を交付しましょうというようなルールになっているんです。その点から見ますと、この矯正統計年報の数字で合わせてみますと、およそ45%。それから測定不能と言われる人たちまで入れると50%ぐらいの人たちは、どうもおかしいというところになります。そういうものを前提にして、この研究を始めてきました。

先ほどご報告いただきました5人の分担研究をいただきました皆さま方から、それぞれ切り込んでいただきました。わずかな期間で本当に申し訳なかったんですけど、報告をいただきました。そこでお分かりと思いますが、藤本先生のところで特別研究を、調査を法務省のみなさんで着手していただきました。そこから見えてきたものが数字的には非常に大きなものだった。2万7千人の15の刑務所の中にあって見えたものが相当出てまいりました。

それから更生保護施設のところをしっかり調べていただきましたら、何と500人ぐらい更生保護施設を利用した人たちの中でも障害者というのは、一人しかなかった。実際に他はほとんど受け入れてくれない。そうなると、刑務所の中にいる障害をもった人たち、ハンディキャップを持った人たち、これは知的障害だけではないんです。周りも含めて、どうするんですか。しかも80%ぐらいが満期という、すぐ繰り返す人もいるんですね。満期で出てくる。そこで本当にひどい状況が起こっていたということが、はっきり裏付けができる数字として出てまいりました。

そういうものが出てきたときに、次々に我々は、その数字をオープンにして、表に出して、公表して、1人でも多くの国民の皆さんにこういう状態を知っていただきたいという、この知っていただくという活動も本当に大切だと思います。そういうことで、特に藤本先生とか、それから山本先生、それから清水先生には、個別で起こった事件や、いろんな問題が起こったときに、厚生労働科学研究の下のところでコメントをと言われたものはすべて3人の先生方で分担していただきました。残念ですけど、次々にこの3年の間に、いろんな形で罪を犯した人、障害をもった人たちが罪を犯したことで出てまいりましたけれども、先生方にコメントをしっかりしていただいて、そして障害をもった人たちのいろんな犯した罪についても、しっかり皆さんに知っていただくようにマスコミ関係者の皆さまにはお願いして、できるだけしっかり報道していただく。ただ事実をありのままに報道していただきたいということを、お願いをしたところでもあります。すなわち、隠すのではない。隠すのではなくて、起こっていることは、きっちり皆さんにご理解をいただいて、そしてその上で対策をしっかり考えるということが、すごく大切ではないか。そういう姿勢であります。

今、5人の先生方のところでやっていただいた調査の結果で、課題点が相当浮き彫りになっています。それらを平成19年、今から1年半前にまとめました。こういう問題を早急に片付けなければいけないということを、まず厚生労働省に対し、政策提言を出しました。こういう政策提言で、対応してください、あるいはこういうものをやってくださいということで、皆さまお手元の資料で申しますと9ページ。政策提言というのを、厚生労働省に出した部分を載せていただいています。この中で、すなわち刑務所の法務サイドのところでいた人たちが社会に出てきたときに、つなげる。すなわち、まったく違う社会で生活しているわけですから、すなわち刑務所、矯正施設という社会は、一般の社会とまるで違う社会です。まるで外国にいくようなものです。そこに行くときに、いわばパスポートみたいな役割を示す、障害認定をするための、言うなれば療育手帳とか、あるいは障害者の認定ができていない。ですからそのために次の世界に渡れずに、そして谷間に落ちてしまう人たちがたくさんいるということが分かっている。これはつなぐということが大切。どうつなぐか。つなぐためのものをつくる必要があるのではありませんかと。これが、先ほどもありましたけれども、地域生活定着支援センター。そういうようなものをつくったらどうですかということで、社会生活支援センターというものをつくってくださいということをお願いしました。

これは結果的には、今の地域生活定着支援センターという形で制度化をして、そして予算を付けて、各都道府県、全都道府県、47都道府県に、今年7月1日にスタートをしたいということで、今現在、予算答申していただいているところであります。

それから障害手帳がない。要するにパスポートみたいなものがないがゆえに落ち込んでいる人たち、次に渡れないという人たちのために、こういう、障害者認定あるいは手帳をきちんと取れる仕組みを、あるいは取りやすい仕組みを、しっかりつくってほしいというようなことを提言いたしました。

これについても、この応援のところは、定着支援センターが具体的な業務として取り組むということ。それからモデル事業のところでは相当いろんな、市町村との間の話し合いもいたしておりまして、国からも次々と各都道府県や市町村に、いろんな指示をしたり、いろいろ協議をしていただいて、できるだけ認定して手帳を取りやすいようにするということは、具体的に協議が進んでおります。

それから先ほどからお話ししているように、案外能力的に高い人たちがと出ます。こういう罪を犯した人達というのは、障害程度区分とか、あるいは療育手帳のところで言うと、軽度かあるいは中度というぐらい、非常に軽度の人というのが多いということで、程度区分なんかでも非常に低いというか軽く出るということがあります。そうなることによって、サービスを受けるという部分の制限があったり、それからサービス自体が受けられなかったりというのが出てくる。それから程度区分が軽く出るということによって、受け入れる施設、サービス事業者として受けづらいというステップが起こっておりますので、これについては定着支援センターから意見書を出して、それに基づいて程度区分二次審査のところでアップする、程度を上げるというような仕組みをつくる。これも定着支援センターの業務の1つにいたしております。

これは先ほど、酒井研究分担者から報告がありました事例の中で、8例の中の一番上の事例1で、程度区分6というのが出ていました。これは通常であると2ぐらいしか出ない人が、程度区分6と言うのは、これは社会生活がいかに困難であるか。すなわち社会適応能力がいかに問題があるか、それが非常に重いのであれば社会生活をする上でのギャップになっているという意見書を書いて、それで市町村の審査会が「なるほど、そんなに。これは大変だ」ということで程度区分2ぐらいの者を6に上げたという事例です。こういう形で定着支援センターから意見書を書くことによって、程度区分の、二次審査のところの資料にしたいというわけであります。そういう問題をそこで1つずつ解決をしたい。

それから特別加算についてでありますが、これも先ほど言いましたように、程度区分の仕方で軽く出るものですから、費用も少ない。人手は2倍ということになりますので、そのことを加算をいたしましょうということです。これも触法障害者地域生活支援事業という形で、更生保護施設等の受けるところには、いろいろな加算をする仕組みをつくっていく。これも新しい制度をつくって、予算を投じて加算をする。すなわち、より程度区分を上げて、さらに加算をかけていくという、二重の意味での支えをすることによって増やしていくというように変わってきたところであります。

それからあと、措置制度つまり福祉はもう契約になっておりますので、ほとんど基礎構造改革でやって、今までの措置という仕組みから契約という仕組みになっていますので、特に、罪を犯した人たちのところでは契約になじまないというような人たちも出てまいりますので、ここは措置の部分を少ししっかり検討すべきではないかと思います。これについては、具体的事例が出てきたときにそれぞれ協議をするということになっております。

もう1つ私どもは、これは法務サイドのみなさん達も非常に困っておられたのが、援護の実施をどこでするのかです。無職だとか住所がないとかという人たちのことを、どこで援護の実施をしていくのか非常に困っているということで、いろいろ協議をしましたけれど、先ほど酒井研究分担者が報告しましたように、これは昭和32年の厚生省の社会局長通知で既に出ていたものが、どちらかと言うと埋もれてしまっていて、うまく適用されていない。利用されていない。もう1つは矯正局長付けで出ているいろんなものもどこかで埋もれた形になって、具体的にそれがうまく機能していなかったというところもある。こういうところで、昭和32年というのは、知的障害者福祉法はまだ精神薄弱者福祉法という形で出てない時代でありますので、当然、平成7年の法改正でもって、さらにそれは障害者全体でつくる、行いますというような形で、当然使えるという形になっています。

そういう形で、起こってきた問題というのは、具体的に1つずつ解決してまいりました。ですから、今までよりやりやすいというような形のものが、できたのではないかと思います。

これも1つ1つ、いろんな問題が出たときに、それを1つずつそれぞれ話し合って具体的に動いていただいた。例えば矯正施設の刑務官の方が、ご自身で、刑務官で自分の看守という仕事の合間を縫って、やがて出て行く人のために福祉事務所に、こういう書類をつくれと、あるいは施設に来ていただいて、実際にいろんな形で支援を見ていただきました。それから更生保護の保護観察官の皆さん方も、随分走り回っていただきました。すなわち、法務サイドからコンコンコンと叩いていただき、また福祉サイドからもコンコンコンと叩いた。それで体が触れて、言うなれば新しいひなが誕生したというような形になっています。

こうやって、法務と福祉の関係者が一緒に力を合わせて取り組むことによって、今まで非常に難しいと言われていたものが、相当できるようになってきたのではないかという具合に思います。

本当にこういうものをつくりあげてこれたというのは、多くの皆さまのお力添え、ご理解を得たからだと思います。心から感謝を申し上げます。

最後に1つだけ、先ほどの報告からも出ておりますように、こういう仕組みをつくりましたけれど、ちょっとすれ違いが起こっています。1つは、法務サイドでお考えのことは再犯防止。いかに再犯を防止して、そして安心した社会をつくっていくかという、法務省の使命に基づいて考えていただいている仕組み。それから私どもは福祉の人間でありますので、私どもが願っているのは、障害があろうとなかろうと、人は安心して地域の中で幸せな生活を送る、そのための支援を第一義に考えるということであります。第一義に考えるのは、幸せな人生をどうしたら送れるか。それを我々はどういう具合に支援をするのがいいのかということでありました。結果として再犯防止につながっていくということが一番望ましいのではないかという具合に思っています。そういう思いで福祉サイドは基本的に取り組んでまいりたいと思います。

時間がまいりましたので終わらせていただきます。ありがとうございました。

司会●ありがとうございました。この後15時30分まで、20分間休憩をさせていただきます。15時30分よりパネルディスカッションを始めさせていただきます。