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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

地域づくりと関連した効果的な地域生活支援サービス体制の在り方と「地域力」の再構築に関する研究

平成18年12月9日(土)

第1部 研究成果報告

司会 『平成17年度厚生労働省科学研究発表会、地域づくりと関連した効果的な地域生活支援サービス体制の在り方と「地域力」の再構築に関する研究』の発表会を開催いたします。本日はお足元の悪い中、またお寒い中、遠く東は福島県、西は愛媛県から多くの地域の方にお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。

早速ではございますが、ただいまより第1部、研究成果報告を行いたいと思います。報告者は、谷口明広、愛知淑徳大学医療福祉学部教授、また本研究の主任研究者でもあります。では、どうぞよろしくお願いいたします。

谷口 こんにちは。今日は本当にありがとうございます。今、司会からもお話があったように、北は福島、あるいは和泉村からも来ていただいておりまして、経済界からもいろいろな方が来られ、福祉業界からも来ていていただき、本当にたくさんの方に来ていただいて喜んでおります。

今日は、この「地域力」の発表会をさせていただきますが、これは17年度厚生労働科学研究でありました。17年度と申しますと、支援費制度が非常に危機的な状況になってきまして、法律が変わるのではないかと言われていた時であります。そうなったときに、今のようなサービスが継続して受けられるのかどうか。もっともっとボランティアとか地域力というのを必要としているのではないかということで、いろいろなところからいろいろな呼び方でこの「地域の力」というような言い方をされてきました。

たとえば、最近よく使われているのは福祉力、地域の福祉力とかですね、地域の支援力とか、我々はその中でも、地域の力で「地域力」という呼び方でこの研究を始めました。

1.はじめに

支援費制度は、時間単位で支給量が決められているので、障害をもつ人たちとサービス提供事業所との間で個々の契約が結ばれ、相談支援従事者が関与しなくても、サービスが円滑に遂行できてきたと考えられる。要するに、「公助」を組み合わせて、事業所が単独で提供することが通常となってきている。このような傾向は、支給量が十分に提供されている自治体であるならば、問題がないのかも知れないが、支給量が乏しい地域においては、障害をもつ人たちのQOLやエンパワメントさえも保障できないような状況になってきている。

ケアマネジメントの真髄であるフォーマルサービスとインフォーマル・サポートの組合わせを強化し、地域社会において機能させていくことは、「公助」の適応範囲が限定される介護保険の例を見ても、必要不可欠とされる。ボランティアや近隣住民として活動していた人たちがホームヘルパー等の資格を取得し、有料介護者に変容している現状において、「互助」や「共助」そして「自助」というものを再認識し、再構築していく必要がある。

どのような要件が整備されている地域が、障害をもつ人たちをエンパワメントさせ、QOLの高い生活を保障できるのかを明確化していくことは、コミュニティの再編成という大きな命題に接近するための一里塚と言える。

震災時の緊急対応という観点において、「介護保険や支援費制度のヘルパーには、救いを求めることができなかった」という言葉を耳にすると、障害をもつ人たちのエンパワメントとともに、「地域力」の強化は重点課題であると再認識している。なお、この研究は、厚生労働科学研究からグラントを受けて実施したものである。

2.フリードマンの「力の剥奪モデル」を基盤とした調査

●調査対象地域 ①旭川市、②郡山市、③渋谷区、④津島市、⑤旧和泉村(大野市)、⑥十津川村、⑦尾道市、⑧善通寺市、⑨宮古島狩俣地区

(1)障害者が地域で自分らしく暮らしをしていくための社会的基盤

フリードマンは、「力の剥奪モデル」において、世帯経済が生活条件を改善するための要素として社会的な力の8つの基盤を提示している。社会的な力の8つの基盤とは、「①防御可能な生活空間」「②余剰時間」「③知識と技能」「④適正な情報」「⑤社会的組織」「⑥社会的ネットワーク」「⑦労働と生計を立てるための手段」「⑧資金」である。フリードマンは、こうした基盤へのアクセスを欠いていることを「貧困」と定義しており、同時にこうした基盤に各々の世帯がどの程度アクセス可能であるかによって市民社会の力が規定されると述べている(フリードマン、前掲書、p115)。まず、この社会的な力の8つの基盤について検討しよう。

「①防御可能な生活空間」とはフリードマンによれば、親しく助け合える近隣社会の中で、安全で恒久的な足場を得ること、としている。「②余剰時間」とは、生存のために必要な時間の確保を超えて自由になる時間として規定されている。保健医療施設などが身近にあり、アクセスに過度の時間がかからないことなども「時間」を生み出すためには重視される。「③知識と技能」は、経済的にうまくやっていくために必要とされる教育や技能訓練をいう。「④適正な情報」とは、意味のある情報、すなわち、公共サービスへのアクセスや、就労や生活等にかかわる情報に接する機会のことをいう。「⑤社会的組織」とは、世帯のメンバーが所属するフォーマル、インフォーマルな組織であり、生活を楽しむための手段である場合や、意味のある情報や相互手段、集団行動の手段ともなりうるものをいう。「⑥社会的ネットワーク」は、加入する社会組織が増えるにつれて増加するものとされており、その意味で「⑤社会的組織」との関係が深い。ただし、ネットワークには「水平的な」ネットワークと「垂直的な」ネットワークがあるとされる。「⑦労働と生計を立てるための手段」は、世帯が生産のためにアクセスできる資源を大まかにとらえた概念である。「⑧資金」は、所得であり、フォーマル・インフォーマルな金融へのアクセスと説明されている。

フリードマンは、開発途上国における貧困を単なる所得水準が低いこととみなすのではなく、以上のような「社会的な力の8つの基盤」へのアクセスの不足として説明している。本研究は、障害者が当たり前の暮らしをしていくことを可能にする地域社会の保有する資源の総体や、その資源へのアクセスを「地域力」として概念化し、資源の内容については、一応「人」「物」「金」「とき」(機会)「知らせ」(情報)として示しておいた。フリードマンの「社会的な力の8つの基盤」は、そのまま本研究の障害者にとっての地域力の基盤と同じということはできない。しかし、「力の剥奪」を「反=エンパワメント」としてとらえ、社会的な力の基盤へのアクセスを増加させること(エンパワメント)を開発の尺度とするモデルは、障害者の社会的な力への基盤へのアクセスがどの程度達成できているかを見る尺度として、また同時に地域社会において、エンパワメントの程度を測る尺度として構成できると思われる。以下では、地域社会の資源の内容として暫定的に示した「人」「物」「金」「とき」(機会)「知らせ」(情報)を具体的に障害者が社会的な力を得るための社会的な基盤として、再構成してみたい。

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