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平成18年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

オーストラリアおよび近隣諸国における精神保健システム

Community Care Team(CCT)はケアマネジメントに基づくサービスで、20人の多職種チームからなる。主にクリニックでサービスを提供するが、訪問も行う。スタッフ一人あたりのケースロードは25-35人で全体として300-400のアクティブなケースを対象としている。勤務時間は週5日8:30-17:00である。アセスメント、治療、リハビリ、心理療法などの介入を行う。精神科病棟との連携も密に行っており、ケースワーカーが病棟を訪問することでケアの継続性を保っている。

Mobile Support and Treatment Service(MSTS)は重度の障害をもつ患者への訪問型サービスであり、週7日、8:30-20:30にわたりサービスを提供する。精神科医を含む10人程度の多職種チームからなる。ケースロードは8-10人である。対象者は、ニーズが高く、頻回入院で、治療への抵抗性が高い患者である。居宅に訪問して治療、心理教育などを実施する。初発精神病患者への早期介入も行う。ケアマネジメントは個人及びチームで行う。

Homeless Outreach Psychiatric Service(HOPS)は精神障害をもつホームレスへのサービスである。彼らの生活場所に訪問し、心理社会的治療を含む介入を行う。キャッチメントエリアを越えてサービスを提供することができる。

以上は成人へのサービスであるが、児童思春期および高齢者についても同様のサービスがある。児童思春期および高齢者については成人のキャッチメントエリアを2,3統合したより広めのキャッチメントエリアが用いられている。基本的には成人同様、アセスメントチームがあり、訪問・ケアマネジメントチームがあり、急性期病棟がある、という構成である。高齢者に関しては地域にある小規模(30人程度以下)の居住型施設やナーシングホームがある。

また成人と思春期の間のサービスとして、統合失調症等の精神病の早期介入を行うサービスもある。これは、サービスにエントリーしてきた若年の患者にスクリーニングを行い、統合失調症などの前駆症状がある者や、統合失調症の初発患者に対しモニタリングおよび早期治療を行うものである。これはまだすべてのキャッチメントエリアで行われているわけではないが、今後順次拡大予定である。

Victoria州全体のサービスとして、司法病棟、Dual Diagnosis(精神障害と薬物アルコール)、Dual Disability(精神障害と知的障害)、摂食障害、人格障害、神経障害、脳障害、母子などを対象とした専門サービスがある。

またリハビリテーションサービスはPsychiatric disability rehabilitation and support services(PDRSS)と呼ばれ、NPOによって行われている。NPOは州と直接契約しており、何施設もある大きなNPOから一カ所のみのNPOまで規模は様々である。種類については主に4種類ある。

  • 心理社会的リハビリテーションデイプログラムおよび訪問サービス
  • 居住型リハビリテーション
  • レスパイトケア
  • ピアサポート・自助グループ

(5)オーストラリアの精神保健福祉の課題

1993年の改革開始より10年以上がたち、いくつかの文献がその課題を指摘し始めている。以下に、それらの文献や、聞き取り調査から得た課題についての情報をまとめる。

Whitefordら(2005)は、州の間で精神保健に費やす予算が異なるため、提供されるサービスの水準に格差があることを指摘している。そのため治療のアウトカムの評価の妥当性を高めアウトカムの価値の重要性を見直す必要があること、改革による変化は迅速かつ充分であるかが重要であり、実際にはサービスへの期待も高まっているのに現状はそのニーズを満たしていないことを述べている。そして費やされた予算に見合ったアウトカムを得ることが重要な点である、と結んでいる。

Hickieら(2005)は、アクセスの悪さや早期介入がうまくできていないことなどを課題に挙げ、精神保健戦略が標的とすべき以下の5つの目標を提案している。

  • 精神障害者の60%がいかなる12カ月間においてもケアを提供されるようになる(現在38%)。
  • 精神障害に起因する国の障害コストを27%から20%に削減する。
  • 精神障害に起因する国の15-34歳における障害コストを60%から40%に削減する。
  • 精神的な理由による障害支援年金受給者の仕事参加率を29%から60%に増大させる。
  • 全国的な自殺率を人口10万人に対し11.8から8に減少させる。

Victoria州政府が示した、これからの精神保健施策の次の5年間の課題としては、サービスの容量を高めること、新しいタイプのサービスを提供すること、予防と早期介入を促進すること、熟練したスタッフを養成すること、利用者の参加を促進すること、保護者の参加を促進すること、が挙げられている。これらの課題に対応するものとして、急性期病床を増やすこと、亜急性期のベッドを増やすこと、GPの教育をすること、などを約束している。

(6)Council of Australian Governments (COAG)によるNational Action Plan on Mental Health 2006-2011

2006年7月、オーストラリア首相、各州・準州の首相、地方自治体協会長からなるCouncil of Australian Governments(COAG)において、精神保健についての話し合いが行われた。その結果、National Action Plan on Mental Health 2006-2011への合意が行われた。

このAction Planは、オーストラリア政府、州政府、民間およびNGOが協調し、より連関したシームレスなケアサービスの提供を目指しており、以下の4つのアウトカムを達成することが目的である。

  • オーストラリアの精神障害の有病率と重症度を減少させること。
  • 精神障害の発症と長期リカバリーを阻害するリスクファクターを減少させること。
  • 精神障害を発症あるいはすでに持っている人が、適切な時に、適切なケアや地域のサービスを提供される割合を高めること。特に早期介入に焦点を当てる。
  • 精神障害を持つ人が地域生活、雇用、教育・トレーニングに参加する能力を高めること。安定した住居の確保を通しての援助も含む。

これらの目標を達成するため、5つのアクションエリアがある。

  • 啓発、予防、早期介入
  • ケアシステムの統合および改善
  • 地域生活や雇用への参加、および住居
  • ケアの協調
  • 労働力のキャパシティの増加

これらの対策のために、オーストラリア政府および各州政府は、5年間で40億Aドル(約3800億円)の支出に合意している。