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平成18年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

オーストラリアおよび近隣諸国における精神保健システム

Ⅱ ニュージーランドにおける精神保健システム

1.研究目的

オーストラリアの隣国であるニュージーランドの精神保健システムについて現状と課題を把握する。

2.研究方法

2007年1月にニュージーランドを訪問し、保健省、大学、サービス提供者等と情報交換を行い、精神科病棟、児童思春期精神科病棟、地域精神保健サービス等を視察した。これらの訪問から得た情報などを元にニュージーランドの精神保健システムについての概要を示す。

3.研究結果

1)ニュージーランド精神保健システムの概要

  • 人口約400万と小国である。一人あたりGDP 21,600ドル。人口の15%が先住民族であるマオリ族。太平洋の島国出身の人、アジアからの移民も多い。
  • 精神保健システムはオーストラリアと類似しており、GP制度、キャッチメントエリア制度を採用している。医療はほぼ公的に行われている。民間の精神科医病院は一つだけ。
  • しかし人口が400万と少ないため、国全体でも21しかキャッチメントエリアがなく、コンパクトにサービスを提供できる。それぞれのキャッチメントエリアにはDistrict Health Boardが設置されサービスの提供を行っている。一つのDHBは約20万人の人口を担当する。
  • オーストラリアと比較すると主に福祉部分を提供するNGOへの支出が多く、費用の約30%をしめている。NGOは就労支援、住居開拓など、精神障害者の社会参加に直接結びつくようなサービスを提供している。
  • 専門職の少なさは大きな問題として指摘されており、専門家のトレーニングは喫緊の課題である。特に児童思春期精神科において顕著である。

2)ニュージーランド精神保健改革の概要

  • 1994年に保健省より始めて提出されたMental Health Policyにより、ニュージーランドにおける精神保健改革は始まった。さらに、1998年にはMental Health CommissionからBluePrint報告書が提出された。BluePrintでは、当時の現状と、実際にはどの程度必要か、それを達成するにはどの程度費用がかかるかが報告された。目標として、人口の3%に精神保健サービスを提供することにおいている。3%に特に科学的な根拠はないが、当面の目標とされている(実際にはもっと多い人が精神障害に罹患する)。
  • BluePrint達成のための精神保健の予算を毎年増額している。
  • 2005年には第二次Mental Health Policyが保健省より出され、さらに翌年には実際に誰がいつまでにそれを実行するかを明示したAction Planも作成された。第二次Mental Health Policyでは以下の10個を課題として挙げている

(1) 予防および普及啓発 Promotion and prevention
(2) 精神保健サービスの発展 Building mental health services
(3) サービス提供の責任 Responsiveness
(4) リカバリーの概念を持つ人材の育成 Workforce and culture for recovery
(5) マオリの人々への精神保健 Maori mental health
(6) プライマリーケアの能力の強化 Primary healthcare
(7) 依存症対策 Addiction
(8) リカバリーを支援するような予算メカニズムの構築 Funding mechanisms for recovery
(9) 透明性と信頼 Transparency and trust
(10) 共に働く-ネットワークの強化 Working together

4.考察

ニュージーランド保健省、大学関係者、サービス提供者と情報交換し、病院および地域サービスを視察することにより、ニュージーランドの精神保健福祉システムの概要を把握することができた。オーストラリアと類似したシステムでありながらも、人口400万と小回りの効くため、より効率的なサービス提供がなされている印象であった。特に今後重要となって来るであろう、福祉的リハビリテーションを担うNGOへの予算を30%も割いているのは驚きであり、就労、住居開拓など精神障害者の社会参加に大きく貢献し、彼らのQOLの向上に役立っていることが推測された。今後日本においても病院から地域へとケアの中心が移行するにつれ、ニュージーランドの試みは大いに参考になると考えられた。