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平成18年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

コスタリカ地域住民の生活機能調査

バルバラ・ホルスト(Barbara Holst) コスタリカ国家リハビリテーション・特殊教育審議会、常務理事 (Directora Ejecutiva, Consejo Nacional de Rehabilitacion y Educacion Especial, CNREE, Costa Rica)

1.報告書(主文)

本研究の目的は「コスタリカ地域住民の生活機能調査データ収集」であり、その目的は、日本と同じICF(国際生活機能分類)に基づく調査票を用いて、コスタリカと日本の住民の生活機能の比較研究をおこなうことである(委託研究申込書<Letter of application>および契約書<Authorization and Protocol>参照)。

その目的のために以下の研究を行った。

  1. 日本側(上田 敏博士)から調査用紙および調査マニュアル(英文)の提供を受け、スペイン語への翻訳をおこなった(2006年11-12月)。
  2. それにもとづき調査者(理学療法士、作業療法士の学生)に対し、上記資料を用いて面接法およびコーディング法のトレーニングをおこなった(2007年1月)。
  3. コスタリカ首都(サンホセ市)近郊エレディア郡ベレン地区(人口約35,000人)の全成人人口(18歳以上)から無作為に抽出した1,502名を対象として訪問面接調査をおこなった(2007年2月)。ちなみにこの地区は首都のベッドタウンであり、比較的裕福な、専門職者の多く居住する地域である。
  4. 調査票を精査し、データ脱落のないように調査者に確認した(2007年2月)。
  5. 調査データを3回に分けて日本側(上田博士)に送付した(2007年2月)。
  6. 以上をもって本研究の目的は達成され終了した。

2.追記(本研究データによって得られた知見)

上記データについて2007年3月に上田博士によってデータ分析がおこなわれ、その結果を受領した。さらにその解釈について、インターネットを介し、また2007年3月の訪日(JICA招待による)の機会に討論をおこなった。

以下、その結果の一部を紹介する。詳しい報告は上田博士らにより平成18年度障害保健福祉研究報告書においてなされる。

1)調査内容及び倫理面への配慮

調査内容は次のものを含む。

(1)活動(全章 全中項目あるいはブロック)
(2)参加(6~9章、全中項目あるいはブロック)
(3)心身機能・身体構造(全大項目)
(4)環境因子(全大項目)
(5)主観的側面(活動・参加・心身機能・身体構造・環境因子への満足度5項目と、自尊心その他の総合的主観的状態5項目

なお調査は倫理的基準に立って、対象となる被調査者の文書による同意を得て実施した。また、データはすべて統計的に処理し、個人データとしては用いない。

2)生活機能の状況

(1)「活動」について

ICF第5章「セルフケア」の7中項目のすべてに共通して、加齢とともに評価点0(普遍的自立)の者が減りはじめるが、それといわば逆比例して評価点1(限定的自立)が増え始め、結果として0+1(「自立」一般)はかなり高い水準に保たれるという結果が得られた。その他の章における歩行等の「活動」においても同様であった。

代表例として表1にa520 Caring for body parts(整容)のデータをあげる。

表1.Caring for body parts (a520)

Male

Age(yrs) 18~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65~74 75~ Male
total
0 79
95.2%
78
96.3%
79
100%
84
93.3%
45
95.7%
28
75.7%
22
71.0%
415
92.6%
1 2
2.4%
1
1.2%
0
0.0%
1
1.1%
1
2.1%
7
18.9%
5
16.1%
17
3.8%
2 2
2.4%
0
0.0%
0
0.0%
2
2.2%
0
0.0%
1
2.7%
1
3.2%
6
1.3%
3 0
0.0%
1
1.2%
0
0.0%
3
3.3%
1
2.1%
1
2.7%
3
9.7%
9
2.0%
4 0
0.0%
1
1.2%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
1
0.2%
総計 83
100%
81
100%
79
100%
90
100%
47
100%
37
100%
31
100%
448
100%

Female

Age(yrs) 18~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65~74 75~ Female
total
0 160
98.8%
198
98.0%
227
97.4%
212
97.7%
113
87.6%
51
77.3%
32
71.1%
993
94.2%
1 1
0.6%
3
1.5%
3
1.3%
2
0.9%
11
8.5%
13
19.7%
5
11.1%
38
3.6%
2 0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
1
0.5%
1
0.8%
0
0.0%
2
4.4%
4
0.4%
3 1
0.6%
1
0.5%
3
1.3%
2
0.9%
4
3.1%
2
3.0%
6
13.3%
19
1.8%
4 0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
総計 162
100%
202
100%
233
100%
217
100%
129
100%
66
100%
45
100%
1054
100%

上田博士によれば、これは従来の日本における調査においてもコンスタントにみられる現象であり、「自立」一般ではなく「普遍的自立」(評価点0)と「限定的自立」(評価点1)とを分けてみるという、「活動」の評価点基準確立の根拠となったものである。また実践的な意義として、この2つの「自立」水準を区別することによって、仮に単に「自立」としてみた場合には検知できない、比較的軽度な活動の制限を早期に敏感に察知できること、そして早期に対策をたてうることが重要な点である。

今回の結果はこれが日本と社会的文化的条件を異にするコスタリカにおいても普遍妥当性を持つことを示すものとして重要である。

(2)「参加」について

第6章「家庭生活」の代表的な項目である調理への「参加」についてみると、上記のセルフケアの「活動」の場合と全く同様の関係が評価点0(活発な参加)と同1(部分的な参加)についてみられる。表2に女性の場合のみを示すが、55歳以降年齢が進むにつれて「0」は少なくなっていくが、その代わりに「1」が増加して、「0+1」はそう大きくは低下しない。興味あることには女性の18~24歳の年齢層でも高齢群と同様に「0」が低く「1」がそれを補うように高くなっている。

表2.Preparing meals(p630)

Female

Age(yrs) 18~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65~74 75~ Female
total
0 133
82.1%
185
91.6%
223
95.7%
203
93.5%
106
82.2%
51
77.3%
30
66.7%
931
88.3%
1 22
13.6%
10
5.0%
4
1.7%
5
2.3%
10
7.8%
9
13.6%
7
15.6%
67
6.4%
2 0
0.0%
1
0.5%
0
0.0%
1
0.5%
1
0.8%
1
1.5%
0
0.0%
4
0.4%
3 0
0.0%
0
0.0%
1
0.4%
0
0.0%
3
2.3%
1
1.5%
0
0.0%
5
0.5%
4 7
4.3%
6
3.0%
5
2.1%
8
3.7%
8
6.2%
4
6.1%
8
17.8%
46
4.4%
9 0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
1
0.8%
0
0.0%
0
0.0%
1
0.1%
総計 162
100%
202
100%
233
100%
217
100%
129
100%
66
100%
45
100%
1054
100%

*評価点9は「非該当」

これら以外の「参加」においても、程度の差はあるが、このような評価点0と同1との間の「相補的」ともいえる関係がみられる。上田博士によれば、これもまた日本のこれまでの研究で広くみられたことである。また実践的な見地からは、活動の場合と同様に、参加についても単に参加の有無ではなく、評価点0:「活発な参加」(常にまたはしばしば全面的な参加を実現している<人的介護の有無は問わない>。注:頻度および人的介護の有無等にかかわらず、高い水準での参加は評価点0とする。)および評価点1:「部分的な参加」(時々または部分的な参加を実現している<人的な介護は受けていない>)を区別することによって、比較的軽度な「参加」の制約を早期に敏感に検知し、早期に対策を講じうるという点で重要な意味をもつ。これが日本と同様にコスタリカにおいても確認されたことは非常に重要と思われる。

3.生活機能の主観的側面の状況

上田博士らが長年重要視してきた生活機能の主観的側面について調査した結果は次のようなものであった。

1)客観的側面に対する満足度

「活動」、「参加」、「心身機能」、「身体構造」、「環境因子」に関する満足度は、いずれの項目においても評価点1(満足している)がもっとも多く、同0(高度に満足している)がそれに次ぐ。評価点2(満足でも不満でもない)以降は激減する。

2)総合的主観的状態

総合的な主観的状態6項目のうち、自尊心、自信、幸福感、自分の存在意義に関する5問の答は多少のばらつきはあるもののほぼ同様で、評価点1(自尊心がある、自信がある、幸福である、意義がある)が半数から6割以上あり、評価点0(高い自尊心がある、高い自信がある、非常に幸福である、高い意義がある)または同2(高くも低くもない、幸福でも不幸でもない、等)がそれに次ぐ。この、評価点2が少なくないという点が、先に1)で述べた生活機能の客観的側面に関する満足度と異なる点である。評価点3、4は極めて少ない。

ただ最後の「人生全体についての満足度」は、上記とまた異なり、評価点1(満足している)が男女とも6割台であり、同0(非常に満足している)がそれに次ぎ、同2以降は激減する。これは先に述べた個別の客観的生活機能に関する満足度とよく似た結果であった。

これらの成績は興味あるものであるが、上田博士によれば、項目間の差については日本におけるものと傾向として一致するが、全体としてプラスの評価の率が高い傾向があるとのことである。これについては社会的文化的差そのものなのか、サンプリング、面接法、その他の技術的な問題なのかについて、今後の検討が必要である。

おわりに

今回、日本で開発された、ICFにもとづく生活機能調査票を用いてコスタリカ住民の生活機能調査をおこない、コスタリカと日本との間の基本的な共通性と一部の差異を確認することができたのは我々にとって貴重な経験であり、今後のコスタリカにおける障害者保健・福祉・リハビリテーションの発展に寄与するところが大きいと考えられる。

このような機会が与えられたことに対し、日本障害者リハビリテーション協会、主任研究者仲村英一氏、上田 敏博士に感謝する。