平成１９年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

スイスにおける精神障害の普及啓発とその日本への援用

Ⅷ　専門職を対象とした普及活動の実践

１．研究目的

スイス・チューリヒ州における精神科医療について、専門職を対象とした研修プログラムを開発し、チューリッヒ州でのメンタルヘルス・サービスに関する情報の提供と知識の普及を図る。

２．研究方法

2008年1月に、スイス・チューリッヒ州における精神保健医療に関する研修コーディネーションを、チューリッヒ法務局精神医学・心理学サービス部門にて受け入れた。日本人精神科医師および研究職等を対象とし、精神障害者の正しい理解が図られるよう各研修機関とプログラムの開発を行った。ここで提供されたプログラムのスケジュール等を示し、専門職を対象とした精神保健医療に関する普及活動の課題について検討する。

３．研究結果

１）精神障害者の社会復帰に関する研修

対象：精神保健福祉士（２名）

プログラム：

第一日：Zurich Department of Justice. Psychiatric/Psychological Service

　講師 Dr. Astrid Rossegger Dr. Jerome Endrass,

第二日：Psychiatric hospital “Rheinau”

　講師 Ulf Sternemann, M.D.

第三日：Integrated Psychiatry Winterthur

　講師 Michael Braunschweig, M.D.

第四日：Prison “Pöschwies”

　講師 Amay Villazan, M.D.

第五日：Probation office

概要：

精神障害者の社会復帰に関する研修では、精神科医療機関におけるインフォームド・コンセントの在り方や、治療共同体での自己効力感を高める技法を通し、精神障害者のもつセルフスティグマを軽減する取り組みについて情報提供を行った。
精神保健福祉士を対象にしたことで、社会復帰への支援に不可欠となるこれらの要因に焦点を当て、当事者に対する普及啓発活動の取り組みに示唆を与えた。

２）司法精神医学に関する研修

対象：精神科医師（２名）臨床心理士（１名）研究職（１名）

プログラム：

第一日：Prison “Pöschwies”

　講師 Amay Villazan, M.D.

第二日：Zurich Department of Justice

　講師 F. Urbaniok, M.D. Dr. M. Manhart

第三－五日：Zurich Department of Justice. Psychiatric/Psychological Service

　講師 Dr. Astrid Rossegger Dr. Jerome Endrass

概要：

司法精神医学に関する研修では、触法精神障害者に対するアセスメント技法に焦点を当て、他害行為の再発に関する評価に客観性を与えるとともに、社会復帰の可能性を量ることで、専門職のもつ先入観を払拭することを試みた。
ここでは、精神科医師、臨床心理士ほか、多職種間の連携において、犯罪と精神障害という多重のスティグマを軽減する取り組みのモデルを示した。

３）老年精神医学に関する研修

対象：精神科医師（６名）

プログラム：

第一日：Integrated Psychiatry Winterthur, outpatient unit

　講師 Michael Braunschweig M.D.

第二日：Integrated Psychiatry Winterthur, inpatient unit

　講師 Benjamin Dubno M.D.
　　　　Psychiatric University Hospital Zurich, “Burghölzli” “Demenz-Station”

　講師 Gabriela Künig M.D.

概要：

老年精神医学に関する研修では、入院および通院治療の両面における地域とのネットワークの状況や、家族に対する普及啓発の実際を紹介し、地域のなかで孤立化しやすい高齢精神障害者の社会的不利の解消に努める戦略を提示した。
とくに、精神科医師を対象にしたことで、日常的な臨床場面で陥りやすい偏見について意見交換を行い、エンパワメントを図った。

４．考察

専門職を対象とした普及活動の効果的な実践に向けた展望を得、総合的な普及啓発システムを開発する契機を得ることができた。

さらに、研修先において、メンタルヘルスの専門職と日本人精神科医師および研究者等との意見交換を行ったことによって、我が国の行政現場や精神保健医療福祉関係団体等との交流を一層促進することができた。