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平成19年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

【チー・ホン博士 招へい報告】

竹島 正
国立精神・神経センター精神保健研究所

Ⅰ 招へい理由

Chee Ng(チー・ホン)博士はメルボルン大学精神医学部門の准教授であり、臨床活動に関連した優れた研究業績を挙げている。また、アジアにおける地域精神保健活動の推進に尽力しており、Asia-Pacific community Mental Health Projectという共同研究を立ち上げ、事務局としてアジア諸国のすぐれた地域精神保健の実践をまとめる中心人物として活躍している。

わが国との関連においては、1998年に日豪両国が保健福祉政策において経験を共有するために緊密な協力を行うことを目的として「日豪保健福祉協力」の共同研究が開始された。2001年から2007年は、その第二フェーズとして「精神保健」をテーマに共同研究が実施されてきたが、Chee Ng博士は日本側研究者の豪州の精神医療保健福祉の現状および精神保健戦略(Mental Health Strategy)についての情報収集および施設の視察に中心的に協力された。

豪州では、精神医療保健福祉について1992年より National Mental Health Strategyとして改革が始まり、現在第3次National Mental Health Plan(2003-2008)が実施されているところである。一方、わが国においても、2004年に精神保健改革ビジョンが出され、2005年に障害者自立支援法が成立するなど、過去に例のない精神保健システムの改革期が始まったところである。両国の精神保健福祉制度と抱えている課題には異なる点も多いが、地域精神保健の推進は共通の課題である。このため、豪州における精神医療保健福祉の改革に寄与し、また日本を含むアジアの精神医療保健福祉システムについて造詣の深いChee Ng博士にわが国の地域精神保健の訪問調査を依頼し、その結果を報告書にまとめてもらうことは、わが国の精神保健福祉の発展に大いに貢献するものである。

Ⅱ 日程および訪問先

1)日程(別紙のとおり)

2)訪問先

  • 巣立ち会退院促進プログラム(東京都三鷹市)
  • 千葉病院(千葉県船橋市)
  • 神奈川県精神保健福祉センター
  • 国立精神・神経センター司法精神病棟
  • さわ病院(大阪府豊中市)
  • 松原病院(石川県金沢市)
  • E-JAN(遠州精神保健福祉をすすめる市民の会、NGO)、メンタルクリニックダダ、ピアクリニック(静岡県西部)
  • 浜松市精神保健福祉センター

3)重要な関係機関でのミーティング

  • 厚生労働省社会援護局障害保健福祉部精神・障害保健課
  • 日本精神科病院協会
  • 日本精神神経学会
  • 国立精神・神経センター

Ⅲ Chee Ng博士の設定した目的

  • 日本の精神保健システム、特に地域精神保健ケアの現状を多面的に理解する
  • 日本における将来の地域精神保健の発展のために、訪問先で学んだことを確認し、共有する
  • 厚生労働省、日本精神神経学会、日本精神科病院協会、国立精神・神経センター、民間精神科病院、非政府組織(NGO)、精神保健の専門家を含む様々な関係者と議論する
  • 日本における精神保健改革のために、日本の強み、将来の発展のための戦略そして検討が必要な課題について報告書を作成する

Ⅳ 訪問調査の概要

1.巣立ち会(1月7日)

巣立ち会モデルは日本のNGOによって運営されている、地域中心のすぐれた退院プログラムであり、126人もの患者を退院させてきた。非医療型の就労リハビリテーションプログラムと地域生活支援を行っており、利用者はそれぞれの生活をしながらも、継続して通院治療を受けている。これは、医学モデルを超えた地域精神保健の考え方の延長上にあるものであり、医療機関外でリハビリテーションを提供している。ひとつの課題は、このプログラムへの参加希望に効率的に応えること、プログラムを終了した者がより適した場に卒業していくことに一層の注意を払うことである。このプログラムは非医療従事者のスキルを効果的に活用しているが、今後は職員の就労意欲を高めるために体系化されたトレーニングとよりよい給与体系を提供することが必要である。このプログラムは職員と地域の見方を変え、精神障害のある患者も病院から退院して地域で自立して生活することが可能であることを示している。いつでも利用可能な居住施設のないことが、必要以上に長期間の入院をもたらしているのである。

このような見事な先導的な取り組みが行なわれているが、他の施設や団体からの支援は不足している。地域、国レベルで精神障害者の権利擁護を高めるべきである。もっと多くの支援と激励があれば、同種のNGOも、患者は地域に戻れるのだと楽観的に伝えていけるだろう。

2.千葉病院(1月8日)

千葉病院は、病院を拠点とした地域精神保健サービスの例であって、病院を基盤に、多くの地域を拠点にした臨床実践を試みてきた。それぞれの入院患者に個人空間を提供し、患者の権利とニーズを尊重するという千葉病院の物理的環境は素晴らしい。千葉病院は他に先駆けて窓から鉄格子を取り外し、より家庭的な病棟にした病院のひとつである。病棟をより開放的にし、患者の権利を尊重することを通じて、入院患者の行動制限を少なくすることは、患者のノーマライゼーションに役立つだろう。そのような民間病院の機能と役割は、さらに地域を志向した精神保健サービスを供給することになるだろう。

デイケア施設の利用を増やすことは、入院の回避、退院計画の支援、再発防止、生活技能の向上のために役立つかもしれない。デイホスピタルの役割は、個別の患者への介入を目的として利用されてよいかもしれない。心理教育、家族支援、社会活動、レスパイトケアは、リハビリテーション施設にとって重要な役割であるが、このような役割をNGOや地域資源と連携して提供することはさらによいことである。患者や家族が地域資源を利用しやすいように、地域のなかに地域生活支援センターを設置することも検討されてよい。

3.神奈川県精神保健福祉センター(1月9日)

精神保健福祉センターはその地域における地域精神保健ケアをコーディネートし、支援する中心的役割を果たすことができる。地域精神保健改革において精神保健福祉センターのできる最も大切なことは、施設ケアを少なくして、地域を拠点とした精神保健サービスを促進する、地域に合った方法を振興していくことである。このような取り組みは、当初は財政的なうまみを生じないかもしれないが、長期的にみれば、地域処遇はケアの質と費用効率を高くする。精神保健福祉センターは、患者のアウトカムに対する責任を共有することで、医療セクターと福祉セクターの橋渡しをすることができる。この達成のための戦略には、ケア調整機能、すなわち医学的ケースマネジメントと福祉的ケースマネジメントの緊密な連携、情報共有、データ収集、合同研修を主導することなどが含まれる。セクター間の良好な関係を促進するには、合同の委員会、業務契約そしてサービス計画を立てることが役立つであろう。

4.国立精神・神経センター司法精神病棟(1月10日)

このモデルは多くの資源とスタッフを必要とするが、もし高い国際的なケア基準を満たすならば、急性期およびリハビリテーション期の病棟は優れた治療アウトカムを出すことができることを示している。このようなモデルをすべての一般の精神科病棟に取り入れることは財政的に不可能であるが、よい実践理念(他職種チームアプローチ、個別のケアプラン、行動制限を最小にすること、良好な環境、適切な量での効果的な薬物治療、等)を広く取り入れることは可能であり、すべての精神科入院患者にとってプラスになる国としてのケア基準として考慮されるべきであろう。他のモデルと比較して、このモデルのアウトカム評価が行われるべきである。

5.さわ病院(1月11日)

さわ病院は先進的な民間病院であって、財務的に可能な方法で、地域のなかで治療とリハビリテーションを提供している。財務的にも、社会的にも、民間病院に患者を入院させておくほうがよいという多くの圧力が存在するにもかかわらず、さわ病院は、ケアと理念に関する近代モデルのトレーニングとリーダーシップの発揮により、精神科患者の治療に地域中心のアプローチを採用することができている。さわ病院は、より多くの患者を地域でケアするために、包括的精神科救急サービスを提供することの重要性を認識している。すべての病院に対するコメントとして、再発や再入院率を最小限に抑えるためには、医学的アウトリーチやケースマネジメントは福祉的ケースマネジメントと密接に連携して行われるべきである。しかしながら、そのためには医学的アウトリーチサービスを提供することへの財務的なインセンティブが働くべきである。さらに、患者のリハビリテーション活動には、各患者のニーズにあった生活技能向上のための個別の活動プログラムとケアプランが役立つであろう。それによって、就労訓練や就労プログラムは各患者に合わせたものになり、より「患者中心」になるだろう。

6.松原病院(1月15日)

松原病院の入院病棟は非常に質が高く、空間が広く、明るく、適度な個人空間のある清潔な環境であって、適切な援助が提供されている。明確な役割分担を持った多職種による支援がなされ、患者に対するスタッフの比率が高く、短期入院を目指した地域を指向したアプローチによって、人間味あふれる環境で患者を治療している。地域中心のサービス体系に不可欠な包括的救急対応と急性期ケアサービスを提供するために、公立病院と連携しているのはユニークな点である。地域の患者に医師が訪問する医学的アウトリーチサービスの拡大や、現在ケースマネジメントを受けていない患者への医学的ケースマネジメントの拡大により、さらに再入院率を低下させることができるだろう。

7.浜松における精神保健サービス(1月16日)

E-JANは浜松市のNGOで、浜松地域における地域精神保健のネットワークを構築し、その促進・コーディネイトを行う。メンタルクリニックダダは、児童と思春期の患者を対象にした浜松市の精神科クリニックで、発達モデルに基づいたサービスを提供している。ぴあクリニックは多分野の専門家からなるチームで医療的なアウトリーチを提供する点に特色がある。

これらの施設が直面した課題は、多職種のスタッフを募って育成すること、医療と福祉的サービスにチームアプローチを取り入れることであった。精神的な問題を抱える人々を広く受入れ、このように広範にわたるサービスを提供するためにはスタッフのトレーニングは決定的に重要である。もうひとつの重要な課題は、行政的サービスエリアと重なるキャッチメントエリアアプローチを展開し、地域福祉や社会サービスの提供を促進することである。NGOと、地域の実力者、大学、著名な専門家との連携は精神科病院や施設からの信用を得ることにつながるだろう。

8.浜松市精神保健福祉センター(1月16日)

浜松市精神保健福祉センターも自助グループの発展を支援している。地域精神保健に対するニードの高さを考えると、政府がNGOと共同し、精神障害者に非医療型の地域を拠点としたサービスを提供することは重要である。精神障害者に非医療型の福祉的支援を提供することは、再入院を防止し、地域で生活する機会を最大限に高めるためにきわめて重要である。それゆえ、地方自治体は民間病院が提供する臨床サービスを補完するサービスに資金を援助できるよう、実行可能な仕組みを見いだす必要があろう。地域ケアの従事者を増やすだけでなく、精神保健サービスのNGOとプライマリケアの関係を強化する必要がある。次に、E-JANは精神保健福祉センターのサービス計画の策定に参画しているが、地方政府レベルで地域の関係者が政策やサービスの発展のために意見を述べることのできる公的な仕組みが必要である。サービス利用者や患者のニーズにあったサービスを提供するためには、利用者や患者がサービスの発展に参画することは不可欠である。

Ⅴ 重要な関係機関でのミーティング

1.厚生労働省(1月9日)

オーストラリアの精神保健システムについてのプレゼンテーションを行った。精神保健システムに関する現在の重要な課題として、高齢の入院患者、特に認知症の患者の急速な増加等が挙げられた。慢性患者の置かれている状況には変化は無く、地域に代替の居住施設がないために、相当な数の慢性患者が入院したままになっている。病院は急性期医療から慢性患者の居場所に至る様々な役割を果たしているが、その機能分化が求められている。幸運にも、精神科入院患者数は増加しておらず、新規入院患者の入院日数はそれほど長くない。退院できない高齢患者を含めた数多くの慢性患者の処遇方針を立てる必要がある。

2.日本精神科病院協会(1月17日)

日本精神科病院協会で、会長、副会長、その他役員が参加する中で、プレゼンテーションとミーティングを行なった。オーストラリアにおける地域精神保健改革についてのプレゼンテーションを行い、次のような議論を行った。日本とオーストラリアの精神保健システムには明確な差異がある。そのひとつは、日本では医療サービスと福祉サービスが分離していることであって、患者が両方のサービスを必要としていても、その財源は別々である。日本精神科病院協会のリーダーは地域精神保健を発展させることが最善の戦略であって、日本精神科病院協会内でのコンセンサスづくりが重要と考えている。改革の障壁となるのは、地域サービスと資源が不足してきたことである。また、地域精神保健サービスの提供に当たって、どのようにすれば医療専門家がリーダーシップを持続できるかも課題となっている。さらに、改革を達成するためには、政府からの資金と厚生労働省の明確なリーダーシップも必要である。

3.日本精神神経学会(1月7日)

「オーストラリアにおける地域精神保健改革」について、理事長、学会の役員メンバーを対象に講義を行なった。講義後のディスカッションでは、オーストラリアでの改革のプロセスに焦点があてられ、精神科病院の閉鎖、地域施設の展開、スタッフの再教育と採用、財源と古いシステムから新しいシステムへの移行における課題、地域ケアのコストについて議論が行われた。また、オーストラリアと日本のシステムの違いも多く挙げられた。地域ケアの理念は、オーストラリアのモデルやシステムそのものを取り入れるよりは、共通のゴールとすべきであることが強調された。こうした理念には、病院拠点から地域拠点のサービスへの移行、医療モデルを心理社会的リハビリテーションモデルに広げていくこと、治療をケースマネジメントを含む幅広いものにすること、処遇を行なううえでケア従事者やサービス利用者の見方を取り入れること、医療のヒエラルキーから多職種チームアプローチへの転換などが含まれていた。小島理事長と役員メンバーは、地域精神保健改革における日本精神神経学会の役割が確立されつつあることを強調した。すなわち、(1)様々なセクターと関係組織の見解を集積する、(2)特別委員会を設立し、地域ケアについての大規模戦略と政策の助言と提言を行う、(3)専門医の認定を行っている日本精神神経学会の教育的役割を確立する、ことである。

4.国立精神・神経センター(1月10日)

プレゼンテーションに続いて、国立精神・神経センターの研究者と、医療のケースマネジメントと福祉のケースマネジメントシステムの統合について議論した。医療が包括的医学的アウトリーチを行なうためには、何らかの担当区域制を導入しなければ実用的ではない。人的な体制の充実やケースマネージャーのトレーニングも、精神保健ケアシステムの実現には重要である。リハビリテーションモデルを広く取り入れることが必要であり、それに応じてトレーニングも行なわれるべきである。また、医療と福祉財政の再構築によって積極的なマネジメントと地域サービスを促進させるべきである。

Ⅵ 日本とオーストラリアの精神保健システムの差異

  日本 オーストラリア
財源 国民皆保険制度。10%以下の自己負担 州が直接公的サービスに資金を提供。患者は無料
制度基盤 保健と福祉は財政的にも行政的にも分かれている いくつかの州で、医療、地域と居住サービスはひとつの行政部門にある
精神医療 80%以上が民間セクターによって提供されている 80%以上の専門的サービスが公的セクターによって提供されている
キャッチメントエリア なし。患者は同じ医療費で、自由に医療機関や医師を選択できる あり。公的サービスは重症の精神障害者に限定されている。重症でない患者はGPや民間部門を受診する
病院の役割 多様な役割を果たし、長期在院の慢性患者のケアも行なう 短期間の急性期向け病床が多く、機能分化されている
サービス提供者 主に精神科医。他の職種によるサービスは限られている GP、サイコロジスト、NGO、家族が地域ケアの大きな担い手である
精神保健法 患者は、医学的な治療を受ける権利、病院で治療を受ける権利がある 患者は、「もっとも行動制限の少ない環境」で、地域で治療を受ける権利がある
その他 ↑病床率
↓支援付き住居
↑身体的治療の使用
患者を地域で生活させることについて、スタッフと家族の信頼が低い
↓病床率
適切な支援付き住居の供給
↑心理社会的治療の使用
患者を地域でケアすることについて、スタッフやケア提供者がよい働きを示す

Ⅶ 地域精神保健改革の方向性について

日本とオーストラリアの精神保健システムの差異を前提とした上で、日本における地域精神保健の発展のために、今後考えるべき戦略課題についての示唆を幅広く述べる。これら、戦略を実行する前に様々な関係者と広く協議する中で、徹底的に検討し、探索することで、解決すべき重要な課題を浮かび上がらせることを目的としている。

1.政策と戦略の枠組みは、計画と改革過程の実行に必要である。それによって精神保健システムの再発展、地域精神保健サービスの拡大、精神保健財政の再構築、より強い連携の必要な政府の部門について方向性が明確になる。

2.地域サービスや病床に替わる居住施設の整備にあわせて、精神保健システムにおける病床削減を徐々に進めていくべきである(特に長期在院病床)。病床閉鎖により生じる資金は精神保健の領域への再投資に回し、再配分を確認すべきである。

3.病院機能、精神保健スタッフの技術力(すなわちソフトウエア)を強化することは、民間病院や公立病院の建物(すなわちハードウェア)をよくすることよりもはるかに優先順位が高い。

4.病院の機能分化の定義を明確にして、発展させるべきである(すなわち、救急ケア、急性期医療、入院してのリハビリテーション、地域でのリハビリテーション、慢性患者の居場所など)。機能を明確にすることが、既存の病院を新たな方向に導き、分権化させ、多機能の施設へと変化させる。

5.新たな財源配分は、現在行われている投資と地域精神保健サービスの拡大を反映すべきである。資金は地域の患者のためのサービスに割り当てられるべきであり、医学的アウトリーチ、NGO、病院外での非医療型のサービスに資金が投入される仕組みを作るべきである。

6.地域精神保健プログラムが持続可能であることはもっとも重要である。病院と地域のサービスには、利用者が、様々な地域資源につながり、ケアパスウエイのどこかに過剰な負荷がかかるのを避ける、適切な出口を設ける戦略が必要である。

7.入院患者の高齢化、認知症患者の割合の増加、介護者の高齢化はすべて国としての総合的な対策が必要であって、精神医学だけの問題ではない。この間、急速な病棟の閉鎖は不適切であって、精神保健サービスにおける高齢者に対する退院と居住の確保に明確なケアパスウェイを発展させることは喫緊の課題である。

8.地域を指向した精神保健サービスの従事者を増やすことは最優先の課題である。人材プランとトレーニング方法を開発し、新たな専門スキルを獲得し、職場環境を変え、地域における新たな役割機能を得る必要がある。

9.個別化されたケアとリハビリテーション計画は自立を最大限とするために必要である。財源を確保し法的な整備を行うことは、すべての患者が、臨床アウトカム達成のための個別のサービスプランを持つことに役立つだろう。

10.医療部門と福祉部門の連携の確立は、地域のすべての患者の臨床的、福祉的地域サービスの統合に必要である。

11.地域治療命令を制度化することは、地域で生活する治療を受けることに同意しない、もしくは服薬しようとしない患者の治療を促すために検討すべきかもしれない。しかしながら、政策やサービスの枠組みを発展させることを、法律の改定よりも優先すべきである。

12.精神保健福祉センターのみならず病院も、スティグマを軽減し、地域の受入れや精神障害への理解を高めるために、単に精神障害の治療を行うだけでなく、精神保健の取組を促していく役割を務めることができる。

Ⅷ Chee Ng博士招へいの成果の活用

Chee Ng博士は訪問調査を、日本における精神保健改革のために、日本の強いところ、将来の発展のための戦略、そして検討が必要な課題について報告書にまとめた。この報告書は細部の最終確認をChee Ng博士と行なっているところであるが、それが終了すると、国立精神・神経センター精神保健研究所精神保健計画部のホームページにある「精神保健医療福祉の改革ビジョン研究ページ」

http://www.ncnp.go.jp/nimh/keikaku/vision/index.htmlに公開するとともに、その日本語訳を学術誌に紹介する予定である。