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広汎性発達障害の子どもを持つ母親の子ども・家庭・学校認知に関する研究

加藤 公子
中京大学 現代社会学部

1.はじめに

広汎性発達障害は近年の研究からその病因が中枢神経系の障害であることが明らかになってきた。しかし、病因が明らかになっているにもかかわらず、障害に関する知識のなさから周囲の理解が得られず子どもの障害を自分のせいであるという認識を持ってしまうなど、障害をもつ子どもを抱えた親、特に母親は自責的になったり孤立したりする傾向があると考えられる。こうした親の心理的負担を軽減するためにも発達障害児・者をもつ家族への支援は重要な取り組みである。しかし、現在のところわが国では家族の精神的健康度の把握も十分ではなく、また、実際の取り組みのモデルや有効性についての実証的な把握も十分ではない。

現在、悩みを抱えている発達障害児・者家族のため、あるいは今後同様の悩みを抱えるかもしれない家族のためには精神的健康度を把握し、その家族にとって必要なことは何であるかを考え支援することが彼らのQOLを向上させることにつながると予測できる。このような予測のもと、家族支援サービスの開発及び普及と家族支援の背景となる家族の精神的健康に関する心理学医学的な研究を主任研究員である辻井をはじめ、分担研究員の野邑や宮地がすでに取り組んでいた。筆者は発達障害児に対する有効な家族支援サービスの開発と普及の研究に従事するこれらの研究の補助を務めた。本稿ではその研究について報告するものである。この研究においては、谷 伊織(浜松医科大学こどもの心の発達研究センター 特任助教)と大西 将史(浜松医科大学こどもの心の発達研究センター 特任助教)を研究協力者とするものである。

2.研究の目的

発達障害児に対する介入として、本研究の中でもペアレント・トレーニングの有効性が明らかになってきている・ペアレント・トレーニングで親にとっての変化しうる要因として抑うつ状態などの精神的健康があることは明らかになってきた。しかし、そうした介入によってまず変化しうるのは親の認知枠組みのはずであり、どのように変化するかを把握することが重要であると考えられる。ここでは、そうした全体となる一般的な養育認知の把握と、それが子どもの発達状況とどう関連するかを明らかにすることを目的とした。

この研究では、幼児期の子どもをもつ親を対象に、実態を調べることを、大規模な全数調査によって実施する。しかし、そのような調査はわが国では見られない。そこで、本研究では単一市内の全数調査データに基づいて、保育園における児童のADHDに関する行動評定と、親による行動評定と親の養育態度の関連を検討した。

3.方法

1.調査時期および調査参加者

2008年9月に調査を実施した。調査参加者はA県X市の全保育園の年長・年中・年少児(男子529名、女子487名、不明14名、合計1,030名)の親1,030名であった。内訳は、母親971名、父親37名、その他12名、不明10名、平均年齢は34.58(SD=5.19)歳、範囲は21~78歳である。これまで子育てした人数は、平均2.20(SD=.0.88)人、範囲は0~8人、対象となった子どもは上から何人目という質問に対しては、0人から7人までの回答があった。その内最も多かったのは、2人目であった(37.5%)。児童の学年・性別ごとの人数はTableに示す。対象児には学年・性別ごとの人数は偏りがなかった。

なお、特に断り書きがない限り、欠損値は分析ごとに除外して処理しているため、分析によってデータ数は若干異なる。

Table 調査協力者の内訳

  その他 不明 合計
度数(人) 37 971 12 10 1030
比率(%) 3.59 94.27 1.17 0.97 100

Table 調査協力者の年齢および子育て人数

  M SD MIN MAX 度数(欠損数)
年齢(歳) 34.58 5.19 21 78 968(62)
子育て人数(人) 2.20 0.88 0 8 870(160)

Table 対象児の学年・性別ごとの人数

性別 年少 年中 年長 合計
男子 175 159 195 529
女子 146 174 167 487
  321 333 362 1016

2(2)=3.73., n.s.

4.調査内容および手続き

児童の発達状況の尺度として、60項目からなる行動評定尺度を作成して用いた。また、児童のADHD傾向を測定するためにADHD Rating Scale-IVを用いた。さらに、親の養育態度を測定するために、3領域、各10項目からなる養育態度尺度を作成した。いずれも保護者による他者評定式の尺度である。

発達状況を測定する尺度は、「生活(22項目)」、「対人関係(9項目)」、「手先(3項目)」、「運動・遊び(13項目)」、「言葉(9項目)」、「情緒(4項目)」の6つの下位尺度の計60項目とから構成される3件法の尺度である。得点は、「できないもしくは当てはまらない」、「少しできるもしくは少し当てはまる」、「できるもしくは当てはまる」にそれぞれ1点、2点、3点を与えた。これらの尺度の得点が高いほど、発達の度合いが早いことを意味する。

ADHD-RSは18項目から構成される4件法の尺度である。「ないもしくはほとんどない」から「非常にしばしばある」までの4段階で回答を求め、それぞれ0点から3点を与えた。尺度の得点が高いほど、ADHDの疑いがもたれる行動の頻度が高いことを意味する。

親の養育態度を測定する尺度は「養育肯定感(10項目)」、「育児肯定感(10項目)」、「養育感(10項目)」の3つの下位尺度、合計30項目から構成される5件法の尺度である。「全くそうではない」から「とてもそう思う」までの5段階で回答を求め、それぞれ0点から4点を与えた。これらの尺度の得点が高いほど、養育態度がポジティブであることを意味する。

調査は、保育園より配布を行い、研究の趣旨に賛同いただいた親御さんのみに協力をお願いした。

5.結果

1)基本的な特性の検討

調査項目について、基本的な特性を把握するために、記述統計量を算出した。まず、項目単位で検討し、次に、項目を合計して算出した尺度得点について検討を加える。

①子どもの発達に関する項目

調査協力者に、自分の子どもの発達について尋ねる60項目に回答を求めた結果をTableに示した。項目は、「生活」「対人関係」「手先」「運動・遊び」「言葉」「情緒」の6領域に分類される。その結果、全ての項目において2点以上を示しており、親たちは、様々な領域の発達の指標に関して、自分の子どもが「できるもしくは当てはまる」と考えている傾向があることが示唆された。また、全ての項目においてIT相関の値が.30以上であり、尺度を構成する項目として信頼性があることが示唆された。

②子どものADHD傾向に関する項目

子どものADHD傾向を測定する18項目については、その結果、全ての項目において1点未満であった。また、IT相関の値は全ての項目において.60以上であり、尺度を構成する項目としてかなり信頼性があることが示唆された。

③親の養育スタイルに関する項目

親の養育スタイルを測定する30項目は、この項目は、「子どもに対する肯定的感情」「養育に対する肯定的感情」「養育観」の3領域に分類され、それぞれ得点が高いほど肯定的な意味を持つ。

集計の結果、全般的に中間得点である2点よりも高い得点を示す項目が多く、親たちは、全般的には自分の子どもや子育てに関して肯定的に評価していることが示唆された。また、IT相関では、全般的に.30前後の値が得られたが、一部に.10未満の項目もみられた。IT相関の値が低かった項目は、「私の子どもの苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R)」や「私自身の苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R)」などの項目であり、他の項目とはやや異質な内容を尋ねるものであった。

Table 親の養育スタイル項目の得点の平均と標準偏差およびIT相関

項目 M SD IT相関
子ども肯定
1 私の子どもは、育てやすい子どもだったと思う 2.86 0.97 .55
2 私の子どもは、育てにくい子どもだったと思う(R) 2.83 1.03 .58
3 私の子どものいいところを具体的に10個程度あげることができる 3.06 0.90 .32
4 私の子どものがんばっているところ(努力しているところ)が具体的に10個程度あげることができる 2.92 0.90 .26
5 私の子どもの苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R) 1.56 1.07 .07
6 私の子どもの困ったところを具体的に10個程度あげられる(R) 1.78 1.11 .19
7 私の子どもの性格や個性がよくわかっている 3.21 0.73 .36
8 私の子どもの性格や個性がわからないと思う(R) 3.02 0.91 .41
9 私の子どもは、とてもかわいい 3.79 0.56 .34
10 私の子どもは時々かわいくなくなる(R) 2.39 1.34 .39
育児肯定
1 育児期に子どもの育児が楽しいと思ってきた 3.14 0.84 .47
2 育児期に子どもの育児がつらいと思ってきた(R) 2.61 1.16 .46
3 育児期に子どもの育児がうまくいっていると実感してきた 2.34 0.86 .60
4 育児期に子どもの育児がうまくいっていないように感じてきた(R) 2.36 1.02 .62
5 私自身のいいところを具体的に10個程度あげることができる 1.97 1.04 .35
6 私自身のがんばっているところ(努力しているところ)が具体的に10個程度あげることができる 2.18 1.07 .27
7 私自身の苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R) 1.57 1.01 .03
8 私自身の困ったところを具体的に10個程度あげられる(R) 1.74 1.02 .09
9 子どもを誉めることが多い 2.65 0.89 .38
10 子どもを叱ることが多い(R) 1.23 0.91 .29
養育観
1 子育てにおいては、悪い行動を叱って正さなければならない 3.28 0.84 .12
2 子育てにおいては、よい行動を誉めて教えなければならない 3.75 0.55 .32
3 子育てで困ったときは、自分の配偶者や親に相談してきた 3.49 0.88 .42
4 子育てで困ったときは、自分の友人たちに相談してきた 3.11 1.03 .23
5 子育てで困ったときに、相談する相手がいなくて苦労することがあった(R) 3.29 1.00 .32
6 自分の子育てのやり方はうまくいっていたと思う 2.25 0.81 .40
7 自分の子育てのやり方がうまくいっていなかったと思う(R) 2.32 0.95 .35
8 子育てによって、子どもの個性や性格は決まると思う 2.72 0.93 .06
9 自分は叱られて育てられたと思う(R) 1.94 1.23 .14
10 自分は誉められて育てられたと思う 2.03 1.04 .32

(R)は逆転項目

④尺度得点の検討

各項目の得点を合計して尺度得点を算出し、さらに、その平均値、標準偏差および尺度のα係数をTableに示した。子どもの発達に関する尺度およびADHD尺度では、子どもの発達の「手先」と「情緒」を除いてα係数が.80以上の値であり、十分な信頼性を持つことが示された。「手先」と「情緒」については、α係数の値が.70を下回ったが、これらは項目数が少ないためと考えられる。親の養育スタイルについては、α係数の値がいずれも.70を下回っていた。これらのついては、尺度構成について再検討する必要がある可能性がある。

Table 各尺度得点の平均,標準偏差および信頼性係数

尺度 M SD α
子どもの発達
 生活 56.73 6.03 .86
 対人関係 24.56 2.92 .84
 手先 7.89 1.20 .62
 運動・遊び 34.98 4.13 .87
 言葉 23.56 3.07 .81
 情緒 10.45 1.51 .68
ADHD 8.24 9.14 .95
親の養育スタイル
 子ども肯定 27.43 4.90 .67
 育児肯定 21.77 5.04 .68
 養育観 28.19 4.27 .57

2)性差・学年差の検討

まず、項目単位で性差および学年差の検討を行い、次に、尺度得点について検討を行う。

①子どもの発達に関する項目

子どもの発達に関する項目について、男女で平均値が異なるかを検討した。その結果、60項目中50項目で男女の間に有意差がみられた。50項目全てにおいて、女子の方が男子よりも得点が高かった。このことから、男子よりも女子の方が、より発達していると親たちから評価される傾向があることが示唆された。

同様に、情緒の4項目を除く56項目において、学年差について検討を行った。その結果、56項目中48項目において、有意な学年差がみられた。ほとんどの項目において年長、年中、年少の順に得点が高かった。しかし、「友だちと簡単なルールを作り、遊びを発展させる」「目標に向かって友達と協力してやり遂げる」においては、この順が逆転していた。

②子どものADHD傾向に関する項目

子どものADHD傾向を測定する項目について、男女差の検討を行った。その結果、18項目中14項目において有意差がみられた。有意差のみられた全ての項目で、女子よりも男子の方が有意に得点が高く、ADHD傾向は男子において顕著であることが示唆された。これは従来の知見と一致するものである。

なお、ADHD尺度は年長を持つ親のみに回答を求めたため、学年差の検討はできなかった。

③親の養育スタイルに関する項目

親の養育スタイルに関する項目について、男女差の検討を行った。その結果、30項目中、「私の子どもは、育てやすい子どもだったと思う」「私の子どもは、育てにくい子どもだったと思う(R)」の2項目のみにおいて、有意な男女差がみられた。いずれも、男子よりも女子の方が高い値を示しており、女子の方がより育てやすいと評価される傾向があるといえる。その他の項目では有意な男女差はみられなかった。

同様に、学年差についても検討を行った結果、「私の子どもの性格や個性がわからないと思う(R)」においてのみ、有意な学年差がみられた。多重比較の結果、年少よりも年中の方が有意に得点が高いことが示唆された。その他の項目では有意な学年差はみられなかった。

Table 親の養育スタイル項目得点の男女別の平均と標準偏差およびt検定の結果

項目 男子 女子 t
M SD M SD
子ども肯定
1 私の子どもは、育てやすい子どもだったと思う 2.76 1.00 2.96 0.92 -3.25 **
2 私の子どもは、育てにくい子どもだったと思う(R) 2.72 1.07 2.95 0.98 -3.54 ***
3 私の子どものいいところを具体的に10個程度あげることができる 3.03 0.94 3.09 0.87 -0.98  
4 私の子どものがんばっているところ(努力しているところ)が具体的に10個程度あげることができる 2.88 0.92 2.96 0.87 -1.42  
5 私の子どもの苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R) 1.54 1.08 1.57 1.08 -0.45  
6 私の子どもの困ったところを具体的に10個程度あげられる(R) 1.76 1.12 1.81 1.10 -0.77  
7 私の子どもの性格や個性がよくわかっている 3.19 0.76 3.22 0.71 -0.67  
8 私の子どもの性格や個性がわからないと思う(R) 2.98 0.94 3.07 0.89 -1.52  
9 私の子どもは、とてもかわいい 3.80 0.54 3.78 0.59 0.42  
10 私の子どもは時々かわいくなくなる(R) 2.40 1.34 2.38 1.34 0.27  
育児肯定
1 育児期に子どもの育児が楽しいと思ってきた 3.11 0.84 3.17 0.85 -1.16  
2 育児期に子どもの育児がつらいと思ってきた(R) 2.58 1.16 2.62 1.18 -0.57  
3 育児期に子どもの育児がうまくいっていると実感してきた 2.34 0.87 2.33 0.84 0.09  
4 育児期に子どもの育児がうまくいっていないように感じてきた(R) 2.31 1.03 2.40 1.00 -1.45  
5 私自身のいいところを具体的に10個程度あげることができる 1.94 1.06 2.00 1.02 -0.96  
6 私自身のがんばっているところ(努力しているところ)が具体的に10個程度あげることができる 2.16 1.10 2.19 1.03 -0.40  
7 私自身の苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R) 1.56 1.06 1.58 0.97 -0.17  
8 私自身の困ったところを具体的に10個程度あげられる(R) 1.73 1.07 1.74 0.97 -0.10  
9 子どもを誉めることが多い 2.63 0.91 2.67 0.87 -0.71  
10 子どもを叱ることが多い(R) 1.20 0.91 1.26 0.92 -1.05  
養育観
1 子育てにおいては、悪い行動を叱って正さなければならない 3.29 0.83 3.26 0.86 0.65  
2 子育てにおいては、よい行動を誉めて教えなければならない 3.75 0.56 3.75 0.55 -0.09  
3 子育てで困ったときは、自分の配偶者や親に相談してきた 3.53 0.82 3.43 0.95 1.69  
4 子育てで困ったときは、自分の友人たちに相談してきた 3.10 1.04 3.12 1.04 -0.25  
5 子育てで困ったときに、相談する相手がいなくて苦労することがあった(R) 3.28 1.03 3.30 0.99 -0.32  
6 自分の子育てのやり方はうまくいっていたと思う 2.27 0.82 2.24 0.80 0.45  
7 自分の子育てのやり方がうまくいっていなかったと思う(R) 2.30 0.95 2.33 0.94 -0.54  
8 子育てによって、子どもの個性や性格は決まると思う 2.72 0.86 2.72 0.99 -0.01  
9 自分は叱られて育てられたと思う(R) 1.94 1.22 1.93 1.25 0.08  
10 自分は誉められて育てられたと思う 2.04 1.04 2.00 1.05 0.67  

**p<.01 ***p<.001

(R)は逆転項目

Table 親の養育スタイル項目得点の男女別の平均と標準偏差およびt分散分析の結果

項目 年少 年中 年長 F 多重比較
M SD M SD M SD
子ども肯定
1 私の子どもは、育てやすい子どもだったと思う 2.80 0.98 2.87 0.91 2.90 1.02 0.92  
2 私の子どもは、育てにくい子どもだったと思う(R) 2.72 1.04 2.88 0.98 2.89 1.07 2.83  
3 私の子どものいいところを具体的に10個程度あげることができる 3.06 0.87 3.05 0.90 3.07 0.94 0.05  
4 私の子どものがんばっているところ(努力しているところ)が具体的に10個程度あげることができる 2.92 0.86 2.93 0.90 2.92 0.93 0.00  
5 私の子どもの苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R) 1.52 1.04 1.52 1.05 1.62 1.13 0.97  
6 私の子どもの困ったところを具体的に10個程度あげられる(R) 1.75 1.09 1.74 1.09 1.84 1.15 0.81  
7 私の子どもの性格や個性がよくわかっている 3.19 0.68 3.24 0.70 3.19 0.81 0.68  
8 私の子どもの性格や個性がわからないと思う(R) 2.96 0.88 3.13 0.81 2.99 1.01 3.16 *年中>年少
9 私の子どもは、とてもかわいい 3.82 0.48 3.83 0.48 3.74 0.68 2.85  
10 私の子どもは時々かわいくなくなる(R) 2.27 1.32 2.44 1.33 2.45 1.36 1.76  
育児肯定
1 育児期に子どもの育児が楽しいと思ってきた 3.13 0.84 3.17 0.80 3.12 0.88 0.36  
2 育児期に子どもの育児がつらいと思ってきた(R) 2.60 1.14 2.62 1.14 2.60 1.21 0.06  
3 育児期に子どもの育児がうまくいっていると実感してきた 2.30 0.84 2.35 0.86 2.37 0.87 0.63  
4 育児期に子どもの育児がうまくいっていないように感じてきた(R) 2.32 1.02 2.32 0.99 2.42 1.04 1.12  
5 私自身のいいところを具体的に10個程度あげることができる 1.97 0.98 2.01 1.06 1.95 1.08 0.24  
6 私自身のがんばっているところ(努力しているところ)が具体的に10個程度あげることができる 2.15 0.99 2.22 1.09 2.17 1.11 0.36  
7 私自身の苦手なところや気になるところが具体的に10個程度あげられる(R) 1.63 1.00 1.51 1.00 1.57 1.03 1.14  
8 私自身の困ったところを具体的に10個程度あげられる(R) 1.77 0.97 1.73 1.02 1.72 1.06 0.20  
9 子どもを誉めることが多い 2.69 0.84 2.65 0.88 2.62 0.94 0.47  
10 子どもを叱ることが多い(R) 1.26 0.86 1.16 0.90 1.26 0.96 1.38  
養育観
1 子育てにおいては、悪い行動を叱って正さなければならない 3.24 0.85 3.31 0.80 3.29 0.88 0.65  
2 子育てにおいては、よい行動を誉めて教えなければならない 3.72 0.52 3.77 0.52 3.75 0.60 0.60  
3 子育てで困ったときは、自分の配偶者や親に相談してきた 3.50 0.84 3.50 0.86 3.47 0.93 0.15  
4 子育てで困ったときは、自分の友人たちに相談してきた 3.09 1.01 3.10 1.01 3.14 1.07 0.18  
5 子育てで困ったときに、相談する相手がいなくて苦労することがあった(R) 3.25 1.03 3.24 1.00 3.38 0.98 2.00  
6 自分の子育てのやり方はうまくいっていたと思う 2.22 0.79 2.29 0.80 2.25 0.83 0.55  
7 自分の子育てのやり方がうまくいっていなかったと思う(R) 2.27 0.93 2.27 0.91 2.41 0.99 2.32  
8 子育てによって、子どもの個性や性格は決まると思う 2.67 0.91 2.73 0.95 2.76 0.92 0.89  
9 自分は叱られて育てられたと思う(R) 1.98 1.23 1.87 1.23 1.98 1.24 1.00  
10 自分は誉められて育てられたと思う 2.09 1.07 1.98 1.01 2.01 1.04 1.06  

**p<.01 ***p<.001

(R)は逆転項目

④尺度得点の検討

尺度得点についても、男女差を検討した。その結果、子どもの発達に関する6つの領域およびADHD、親の養育スタイルの子どもに対する肯定的感情において有意な男女差がみられた。子どもの発達に関する6領域および親の養育スタイルの子どもに対する肯定的感情において、男子よりも女子の方が有意に得点が高かった。ADHDにおいてのみ、男子の方が有意に得点が高かった。

同様に、尺度得点について学年差を検討したところ、子どもの発達の「生活」「対人関係」「手先」「運動・遊び」において有意な学年差がみられた。多重比較の結果、「生活」と「対人関係」においては、年長と年中が年少よりも有意に高い得点を示した。「手先」においても同様の傾向がみられ、年長の方が年少よりも有意に得点が高かった。一方、「運動・遊び」においては、年長および年少の方が年中よりも有意に高い値を示していた。なお、ADHDについては年長児を持つ親のみを対象としたため、学年差の検討はできなかった。また、親の養育スタイルについては、有意な学年差は認められなかった。

Table 各尺度得点の男女別の平均,標準偏差およびt検定の結果

尺度 男子 女子 t  
M SD M SD
子どもの発達
 生活 55.46 6.46 58.01 5.25 -6.84 ***
 対人関係 23.96 3.27 25.19 2.33 -6.86 ***
 手先 7.66 1.30 8.13 1.03 -6.41 ***
 運動・遊び 34.17 4.59 35.82 3.39 -6.47 ***
 言葉 23.09 3.32 24.07 2.64 -5.20 ***
 情緒 10.27 1.65 10.68 1.27 -2.68 **
ADHD 9.62 9.99 6.30 7.02 3.62 ***
親の養育スタイル
 子ども肯定 27.05 5.10 27.80 4.64 -2.41 *
 育児肯定 21.53 5.13 21.98 4.90 -1.40  
 養育観 28.23 4.29 28.10 4.26 0.50  

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

Table 各尺度得点の学年別の平均,標準偏差および分散分析の結果

尺度 年少 年中 年長 F 多重比較
M SD M SD M SD
子どもの発達
 生活 53.97 6.182 57.5 5.38 58.42 5.638 54.91 *** 年長,年中>年少
 対人関係 23.69 3.024 24.81 2.66 25.09 2.893 22.25 *** 年長,年中>年少
 手先 7.7 1.248 7.89 1.11 8.05 1.213 7.39 ** 年長>年少
 運動・遊び 35.09 3.98 34.32 4.21 35.5 4.116 7.24 ** 年長,年少>年中
 言葉 23.5 2.76 23.35 2.9 23.81 3.436 2.13    
 情緒 11.5 0.707 10.44 1.514 0.97    
ADHD 8.25 9.169    
親の養育スタイル
 子ども肯定 27.02 4.653 27.67 4.52 27.56 5.412 1.63    
 育児肯定 21.79 5.101 21.76 4.79 21.77 5.22 0.00    
 養育観 28.07 4.308 28.06 4.05 28.43 4.443 0.88    

**p<.01 ***p<.001

3)相関関係の検討

子どもの発達、ADHD、親の養育スタイルの尺度について、それぞれの相関関係の検討を行った。

まず、子どもの発達および親の養育スタイル尺度について、それぞれ下位尺度間相関を求めた。その結果、いずれも比較的高い正の相関をみられ、相互に密接に関連していることが示唆された。特に、「運動・遊び」と、「言葉」および「手先」の間にはかなり高い関連がみられた。

次に、各尺度間の相関を求めたところ、いずれも有意な相関関係がみられた。

まず、子どもの発達とADHDでは、いずれも比較的高い負の相関を示し、親によってより発達していると評定される子どもほど、ADHD傾向が低いと評定される傾向にあることが明らかになった。次に、子どもの発達と親の養育スタイルの間には、いずれも弱から中程度の正の相関がみられた。「言葉」および「情緒」が「子ども肯定」と比較的強く結びついており、自分の子どもが情緒的に安定しており、言葉の発達が優れていると評定する親ほど、子どもに対して肯定的な感情を抱く傾向が強いことが示唆された。ADHDは、親の養育スタイルとはいずれも有意な負の相関を示した。特に、「子ども肯定」と相対的に関連が強く、自分の子どもがADHD傾向が高いと評定する親ほど、自分の子どもに対して否定的な感情を抱く傾向にあることが示唆された。

Table 親の養育スタイル尺度の下位尺度間相関

  育児肯定 養育観
子ども肯定 .65 *** .43 ***
育児肯定 .52 ***
養育観  

***p<.001

Table 各尺度の相関

  ADHD 養育スタイル
子ども肯定 育児肯定 養育観
子どもの発達
 生活 -.52 *** .35 *** .29 *** .25 ***
 対人関係 -.52 *** .35 *** .25 *** .26 ***
 手先 -.33 *** .31 *** .24 *** .26 ***
 運動・遊び -.43 *** .33 *** .28 *** .28 ***
 言葉 -.54 *** .42 *** .33 *** .30 ***
 情緒 -.50 *** .43 *** .35 *** .22 ***
ADHD -.47 *** -.32 *** -.17 **

**p<.01 ***p<.001

6.考察

1)基本的な特性の検討

単一市内の全数調査より項目と尺度得点を得ることによって、ある程度の標準値および基準範囲を示すことができたと考えられる。また、それぞれの項目と尺度について検討したところ、いずれも十分な機能を持つことが示された。ただし、養育態度の尺度の一部の項目については再検討の余地があるだろう。

2)性差・学年差の検討

女子の方が発達の度合いが早い傾向が一貫して見られた。また、男子の方がADHDの行動傾向が強いことが示された。これは先行研究における知見と整合的である。また、親の養育態度については女子の親の方がやや肯定的な傾向はあるものの、他と比較すると平均値には大きな差は見られなかった。

発達を測定する尺度については、学年については、年長、年中、年少の順に得点が高かった。一部の項目では逆となるものもあったが、項目の内容を検討したところ低学年を対象とした項目であった。発達を測定する尺度については、性差、学年差いずれも先行研究との整合的な結果が得られ、その基準関連妥当性が示された。また、親の養育態度については学年や性別ごとに差は見られなかった。

3)相関関係の検討と臨床的な適用の可能性

子どもの発達評価、ADHD傾向、養育スタイル、それぞれの尺度の下位尺度間相関についてはいずれも正の相関をみられ、尺度の内的な整合性が示唆された。子どもの発達と親の養育スタイルの間には、正の相関がみられ、発達が順調であると評定されるほど、自分の養育態度を肯定的に捉えていることが示唆された。ADHDと親の養育スタイルとは負の相関があり、自分の子どもがADHD傾向が高いと評定する親は自分の子どもに対して否定的な感情を抱く傾向にあることが明らかとなった。

つまり、子どもの発達が良好と感じられる際には親は自身の養育スタイルに肯定的な評価をしていることが明らかになった。逆に言えば、子どもの発達が遅れていると感じる場合、自身の養育スタイルを否定的に評価していることが示されている。実際のペアレント・トレーニングによって、子どもの発達支援に向けて取り組む場合、非常に大きな枠組みとしては、親の養育スタイルと子どもの発達との両面に働きかけることになるが、その場合、ともによりよい状態に向けた取り組みの方向性が示されたといえる。ただ、実際には、子どもが育てにくい子どもだとわかったことで抑うつ状態が緩和するような場合もあり、症例を母親の認知的枠組みの変化という視点から捉えなおす必要性があると考えられる。

今回の論文化には含めなかったが、すでにある数グループでのペアレント・トレーニングでの症例的な評価も含め、介入の評価に向けてのガイドラインのなかに含めるように今後検討を加えていく予定である。

7.結論

単一市内の全数調査データに基づいて、保育園における児童のADHDに関する行動評定と、親による行動評定と親の養育態度の関連について検討し、尺度の各項目と尺度と得点について、保育園児を対象とした標準値および基準範囲を示すことができ、各項目と尺度の信頼性を検討することができた。さらに、性差と学年差については、いずれも解釈可能な差が認められた。また、ADHD傾向の高い子どもは発達の遅れ、親の養育感情がネガティブとなっていることが示され、家族へ支援の必要性が改めて認められた。

今回の知見をもとに、発達障害児を持つ親の認知的枠組みを一般的な実態と比較し、介入の前後での評価を行っていくことによって、どういう認知的枠組みの変化が、子どもの発達を促進し、親の精神的健康を改善するのかを実証的に明らかにすることにつながると考えられる。

職務外の仕事

これまで脳梁を介した左右大脳半球間相互作用に関する検討を自身の研究テーマとしてきた。言語刺激・顔刺激を用いた意味プライミング課題遂行中の事象関連電位の分析を行い、意味活性化スピードが左右半球で異なることが推測できた。この結果は刺激処理における認知的経済性を高めるための左右大脳半球間の協応的な働きを示すものと考える。

2008年度研究業績

<研究論文>

  1. 加藤公子・沖田庸嵩 (2008). 視野内視野間意味プライミング ―事象関連脳電位を用いた研究―. 心理学研究、79. 143-149. (査読あり)
  2. 加藤公子・吉崎一人・西村律子・沖田庸嵩 (2008) 他者視線が観察者の性ステレオタイプ活性に及ぼす影響:事象関連電位を用いた検討人間環境学研究、 6 (2). 1-6.(査読あり)
  3. 加藤公子・沖田庸嵩 (2009) 抽象名詞に対する意味プライミングの半球非対称性 -事象関連電位を用いた研究- 愛知淑徳大学論集-コミュニケーション学部篇-、 9.65-71.
  4. Yoshizaki、 K.、 Sasaki、 H.、 & Kato、 K. (2008). Interhemispheric interaction in word- and color-matching of Kanji color words. Japanese Psychological Research、 50、 105-116.(査読あり)
  5. Yoshizaki、 K.、 & Kato、 K. (2008). Does an unequal hemispheric division of labor aid mental rotation? In K. Yoshizaki、 & H. Ohnishi (Eds.)、Contemporary issues of brain、 communication and education in psychology: The science of mind (pp. 85-106). Osaka: Union Press.

<学会発表>

  1. 加藤公子・沖田庸嵩・吉崎一人 (2008). 意味処理に関わる大脳半球間相互作用Ⅱ日本心理学会第72 回発表論文集、 623.
  2. 吉崎一人・西村律子・加藤公子 (2008). 知覚的負荷が刺激反応適合性効果に及ぼす影響(Ⅰ)-行動指標を使ったラテラリティからの検討-日本心理学会第72 回発表論文集、 717.
  3. 西村律子・加藤公子・吉崎一人 (2008). 知覚的負荷が刺激反応適合性効果に及ぼす影響(Ⅱ)-ERPを使った心的時間測定-日本心理学会第72 回発表論文集、 718.