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シンポジウムI
不動産事業者から見た精神障害者の住居確保の課題

蓑輪 裕子
(聖徳大学短期大学部 准教授)

司会●ありがとうございました。引き続き、「不動産業者から見た精神障害者の住居確保の課題」として、聖徳大学短期大学部、蓑輪先生より発表をお願いいたします。

蓑輪●それでは続きまして私、蓑輪のほうからご報告をさせていただきます。

これから松戸の皆様に順次報告をいただきますけれども、松戸の状況などはまた話の中で出てくると思いますので、まず私の方ではその前段としまして、不動産事業者さんに調査をさせていただいた内容を簡単ではございますけれどもご報告させていただきます。

資料、シンポジウムⅠの1枚目を開けていただきますと、パワーポイントの資料がございます。ご報告の内容は、4つございます。

まず「賃貸住宅および家主の現状」。これは実は今日は、建築関係の方とかコンサルタントの方がとても大勢来てくださっているので、よくご存知のかたも多いと思うのですが、ざっくりとご紹介いたします。

それから2番目、「不動産業者への意識調査の概要と結果」ということで、簡単な調査ではございますが、千葉を中心として実施した調査をご報告いたします。

それから今までの調査を踏まえて、私は建築の方の立場ですので、「精神障害者の方が住みやすい住宅について」ポイントをご紹介します。

それから、「地域の理解を得るために」どんな工夫をなさってきたかについて、いろいろな調査の中で見えてきたことがございまして、それも「手引き」の方でご紹介させていただいておりますので、時間の範囲内で簡単にご紹介させていただければと思います。

まず1番目、「賃貸住宅および家主の現状」というところですけれども、「持ち家と借家の現状」。これは住宅土地統計調査という国が5年に1回実施している調査の結果で、平成15年の統計結果なのですが、住宅総数が5,389万戸、それに対して総世帯数が4,726万世帯ということで、住宅総数が総世帯数に対してかなり多くなっている。600万以上多いという現状があります。年々そういった傾向が強くなっております。

それからその下、居住者のいない住宅が703万戸、そのうち賃貸・売却用の住宅は397万戸という、非常に多くの住宅が今、余っているという状況がございます。日本の住宅はもう既に量的には十分に満たされているという状況がございます。

それから「家主の状況」ですが、賃貸住宅経営の方の実態調査の結果では、民間の賃貸住宅の経営は個人経営が最も多く、9割近くが個人経営です。それから経営者の年齢は、60歳以上が65%ということで、高齢化がどんどん進んでいくという現状がございます。

ですので住宅が余っている、それから民間賃貸住宅は高齢の方が個人経営をしていて、この先どういうふうにしようかと、恐らく思案していらっしゃるだろうという現状があるということを最初にお伝えさせていただきます。

それから2番目ですけれども、「不動産業者への意識調査」をさせていただきました。

調査対象は松戸を中心とした地域ですが、千葉県には全国に先駆けて「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」があります。また、市川市には、大規模な国立病院の精神科病棟があります。調査は、千葉県北西部の市川、松戸、柏、流山、鎌ヶ谷といった地域の、宅建協会に所属されている不動産業者さんの全数を対象に発送しました。調査のテーマが精神障害の方の住宅問題ということもありまして、返ってきたのが約2割ちょっとで、23%くらいが返ってきております。その調査結果の報告になります。

調査項目としましては、精神障害の方に賃貸住宅を仲介した経験があったかどうか。仲介時に難しかった事柄があったかどうか。入居前後で難しかったこと、何かトラブルのようなことがあったかどうか。それから、安心して住宅を仲介するためにどんな支援策が必要かということ。それから、あんしん賃貸支援事業という国が進めている不動産紹介の事業がありますが、そちらへの協力の意向はどうかということ。そして、会社の概要などを聞いております。

その結果ですが、精神障害の方に賃貸住宅を仲介した経験というのは、「ない」という方が約7割となっています。「数件はある」という方が2割。返ってきた2割くらいの方の中ですが、こういった結果になっています。

次のページになりますが、仲介時に問題があったかどうかということを伺いますと、「まったく問題がない」という方が0%ということで、ほとんどの方が「やや問題がある」、あるいは「かなり問題がある」とお答えになっていました。

それで考えられるのは、実は何か問題が顕在化してきたことで恐らく精神障害の方が住んでおられるということをお考えになって、特に問題がないと思っておられる方は、知らずにそのまま過ごしておられるのではないかということがあります。調査では、精神障害の方の定義には特に何も触れずに、「精神障害の方に仲介した経験はありますか」とそのまま聞いております。ですので、こういう結果となっていますが、多分、精神障害の方とは知らないで貸していて、「特に問題はない」という方がかなり多くいらっしゃって、問題が顕在化することで、「あ、精神障害の方だな」と思っていらっしゃるのだと考えております。

それから入居前後の困難事項としてどんなことがあったかを聞きますと、「火災・ガス漏れなどの緊急時が心配」ということが約7割と一番多くなっていました。その次に「ゴミの出し方等生活ルールの遵守が難しい」とか、「近隣の方の理解を得ることが難しい」といった項目が挙がっていました。

自由記入欄でもいろいろと書いていただきまして、その次に文章で書いてあります。仲介時や入居前後で難しかった事柄として、契約とか支払いの問題とか、日常生活のさまざまな側面などを自由記入で書いてくださっていました。

次に、安心して仲介をするためにあるとよい支援策ということを聞きますと、やはり先ほどの困難としてあげられた事柄をどう解決するかということで、項目が挙がってきております。一番多かったのが「入居後の生活面に関する相談先の確保」、そして、「夜間などの緊急連絡先の確保」、「ホームヘルパー等による生活面への支援」といったことに対する要望がとても高くなっていました。

次に、「あんしん賃貸支援事業」という国土交通省の方で進めておられる事業がありますが、この概要を簡単に書いてございます。高齢者・障害者・外国人・小さな子どもがいる世帯など、さまざまな人を受け入れてくれる民間賃貸住宅を「あんしん賃貸住宅」としてあらかじめ登録をし、インターネット上で安心賃貸ネットというサイトがあるんですが、そこで検索できるように情報提供していこうというものです。探したい方がすぐに見つけられるように情報提供をしていこうという制度ができております。これはまだ全部の都道府県が参加しているわけではなく、一部の都道府県や市町村が実施なさっている状況です。国の方ではこういった制度を普及させようという方向性がございます。

そういった制度について、協力してもいいかどうかというのを聞いたのがその次になります。「大いに協力したい」が14%、「少しでも協力したい」、「どちらともいえない」を含めて、約5割以上の方が何らかの協力をしたいということで、かなりの方から、協力してもいいという意向がうかがえました。

その次のページですが、協力の可否の理由ということで、どうして協力したいのか、どうして協力できないのかということを聞きましたところ、協力したいという方の中には、「社会貢献をしたい」、「人として当たり前」、「時代の流れ」というようなお話がございました。逆に協力できないという方は、やはり「オーナーに納得してもらえない」、「トラブルの問題」というようなことも書いておられました。

以上、簡単ではございますがまとめますと、精神障害の方に住宅を貸した経験があると答えた人の約7割以上は何らかの問題を感じている。その中身は、入居の際に困難なこととして、緊急時の対応とか生活ルールの問題、近隣の理解の問題などがありました。それから必要とされる対策として、やはり入居後の生活面に関する相談先とか、夜間の緊急連絡先、ホームヘルパー等の支援が必要とされました。

こういった不動産会社さんの意向が、見えてまいりましたけれども、実はこういった事柄に対するさまざまな支援制度が既にできつつあるということがあります。これから私の後にご報告をいただきますけれども、非常にさまざまな支援制度が地域で今、動いていて、そういったことを不動産業者さんにお伝えして安心していただくということが、これからとても大事なのではないかと考えています。

それから、精神障害の方が住みやすい住宅とか、地域の理解を得るためにということで、「手引き」の方では、今までの調査の中で見えてきた、住宅のあり方とか、地域との関わりなどについても触れております。この辺は、試行錯誤で書いているところでありまして、皆様から逆に、もっとこういうところもあるとか、ご意見がありましたら伺って、よりバージョンアップしていければと思っております。後でご覧いただければと思います。

それでは時間になりましたので、とりあえずご報告を終わらせていただきます。ありがとうございました。