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シンポジウムI
退院支援の進め方

竹村 良子
(中核地域生活支援センターまつど ほっとねっと)

司会●では引き続き、3番目として、「退院支援の進め方」について、中核地域生活支援センターまつど ほっとねっとの竹村様、お願いいたします。

竹村●中核地域生活支援センター、ほっとねっとの中で障害者のグループホーム等支援ワーカーを担当しております竹村と申します。私は、前職が精神科病院の中で退院支援を行っていました。そのことからお話ができればと思っております。

では、「精神科病院からの退院準備」ということで、長期入院を送られてきた方が地域生活にどのような準備を経て移行されていくのかということをお話ししたいと思います。

まず長期入院の現状です。精神科病院に長期入院していらっしゃる患者さんには2タイプいらっしゃいます。一つは精神症状が顕著な方。そういった方にはやはり薬物療法だとか精神療法で症状を安定させるということが中心となります。二つ目が、受け入れが困難で退院する先がない。精神症状は安定しているのに家族が受け入れられないという方。そこで後者の方々については家族が受け入れられないのであれば、家族と住まないという選択をとってみるのはどうだろうということで進めてまいりました。

地域ではかなりフォローの制度というのがたくさんできているのに、何で退院に結びつかないのだろうかということを考えますと、ここに挙げた5つの理由が浮かびました。一つは環境の変化が不安であり、病院の居心地がとてもよい。長いこと入院していらっしゃる方からすれば、急に住む場所が変わってしまうというのはとても不安になると思います。それから、受け身の生活に慣れてしまっている。与えられることに慣れてしまっていて、主体的に生活することというのがとても不安に感じてしまう。3つめに、地域社会の大きな変化についていけない。何度か入退院を繰り返していて自信かない。最後に、せっかくの制度やサービスに結びついていない。こういった理由が挙げられると思います。

そこで先ほどの、病状が安定しているのに入院している人たちに対して、環境に変化に段階をつけて慣れていき、主体的に生活することが楽しいということを知って、それから退院の準備段階でいろんなサービスを利用しながら社会の変化になじみ、きちんと決められたお薬を飲んで、ときどき休息で入院という形を利用すれば、安定した精神症状の維持というのは、外来通院でも可能なのではないかと考えました。

そこで、10項目で退院準備をしてみます。主治医との相談。評価やアセスメント。退院への意志確認。日常生活への頭ならしや体ならし、服薬講習や管理の練習、制度利用の講習、身近な役所への見学や手続き、物件探し、生活必需品の買い物、外泊練習。こういった10点の項目を挙げさせていただきました。

まず一つひとつ説明させていただきます。1番の主治医との相談です。入院すると、「今すぐ退院したいんです」とおっしゃる方、結構いらっしゃるのですけれども、まず病状が安定していなければどんなに退院したくても、地域の生活というのは長続きしにくい。入退院を繰り返したり、再入院したときに、入院期間がすごく長くなってしまったりします。そこで、主治医の先生に、精神症状が安定しているか、本当にこの人に入院生活が必要なのだろうか、それから退院という大きな環境の変化へどれくらい耐性があるのかということを相談します。そこで患者様と周りの支援者とともに、主治医に必要なことを相談できる関係、主治医の先生はなかなか敷居が高くてお話ができないという方、結構いらっしゃるんですけれども、何でも困ったときにきちんと相談ができる環境を作っていくということが必要だと思います。

次に、評価・アセスメント。支援者だけでなくて患者さん自身も自分自身のことを知っていただきます。やはり生活環境が変わるので、知っておいてほしいこととしては、生活をしていくための能力、生きる力、生活力、問題解決の能力とか、人とのお付き合いの仕方、それから現実検討など。さらに、導入できるサービスやそのスタッフ。これは病院以外のスタッフです。地域で支援してくださる方々。それから経済的背景。自分にどれぐらいお金があるのか、どれぐらい1ヶ月に使えるのか、そういったことです。また、家族との関係や友人の支え。生活をする上での楽しみや喜び。やはり彩りがなければ生活はとてもつまらないものになりますので。そういった、できること、できないこと、それから必要なことと必要じゃないことというのは一体何なんだろうということを、みんなが知る必要があります。

3番目に、退院への意志確認。やはり1回やり始めちゃうともう後戻りできないんじゃないかと、周りも本人も思ってしまうんですけれども、退院の準備っていつでもやめていい、でもいつでも始めてもいい、失敗しちゃっても退院してからでももう一回入院できるということをわかってもらった上で、本当に頑張れるかな、大丈夫かなということを確認します。患者さんや支援者がともに心がけることとして、長年生活していた場所から大きく変化するということがあります。障害がなくても20年、30年一つの家に住んでいて、そこから改めて違う場所に行きましょうというのは結構しんどいことだと思うんですね。次に、今までずっと受け身の生活をされていた方が主体的に生きていくということはとても大変だということ。次に、やはり希望を持って、いつでも退院ができるんだ、頑張ればできるんだということを、希望を持つということの大切さを確認していきます。

最後に何度も申し上げていますけれども、やはり病状が悪化する前に休息入院をする心づもりも必要です。

それから

4つめは、日常生活の頭ならしや体ならし。とっさの判断や周囲への配慮、見通しを立てて行動するといった総合的な能力です。よく、病院の中で「訓練」という言葉があると思うんですけれども、病院は訓練をするところではなくて、治療をするところなんですね。ただ、慣れるということはとても大切だと思いますので、まず慣れていこう。ただ入院生活で電車に乗ったりバスに乗ったりということがなかなかなかったり、買い物に行くといってもせいぜい病院の中の売店だったり。それからインスタント食品をなかなか使うことがありません。もっとないのはゴミを分別するという経験も、恐らくないと思います。それを、院内の作業療法に参加したりだとか、それからこの後ご紹介していただきますが地域生活体験事業を利用してみて、自分の生活力を取り戻していくということです。

5つ目に、服薬講習や管理の練習。退院した後、必ずお薬を続けていかなきゃいけない。長いこと付き合っていかなきゃいけないものですので、薬を飲まされるのではなくて、自分から飲むということ。で、再発とか再燃を防いでいく。じゃ、いきなり1ヶ月分どーんと自分で練習してみましょうと言われてもなかなか難しいと思うので、まずはやっぱり1日分の練習から1週間分の練習と、徐々に段階づけて始める。それ以外にも再発予防のために、自分はどんな薬を飲んでいるんだろう、どんな飲み合わせがいけないんだろう、それから薬を飲むことに慣れる。飲み忘れない工夫とか忘れたときの対処方法って何だろう。それから、どうやったら自分は具合が悪い証拠なんだろうというサインを知る。病気や薬との付き合い方、心理教育とも言われるんですけれども、そういったことを勉強していく。

6つめは、制度利用についての講習です。最初に、せっかくの制度やサービスに結びついていないというお話をしましたが、それ以外にもやはり経済的な部分で、1ヶ月生活するのにどれぐらいお金がかかるのか、生活を手伝ってくれるどんなサービスがあるんだろうということを勉強していく。

具体的に挙げさせていただいた中で、退院後に利用できる制度やサービスとして、年金だとか手帳だとか、自立支援医療だとか、介護保険だとか、かなり難しいややこしい制度、支援者もなかなか理解できないというぐらい難しい制度ですが、そういった制度や法律を納得できるまで話し合うということが必要だと思います。

7番目として、身近な役所への見学と手続き。やはり退院してアパートを借りるとかヘルパーさんを受け入れるというのは、すべて契約になります。そのためのID、身分証の発行だとか、退院後に利用するサービスの準備を病院スタッフ以外とします。今まで入院中というのは看護師さんかワーカーさんか主治医の先生かという、限られた病院スタッフとしかお話ししたことがないんですけれども、近くの市役所に行って、自分が病気だということを知らない人とお話をするという練習です。公共機関として三つ挙げさせていただきました。こういった実質的な実践的な手続きを行ったり見学をしたりすることで、体力がどれぐらいあるかを評価できますし、頭ならしという効果が得られます。

そしていよいよ物件探しです。住みたい家をイメージして実際に生活する場所を探すということで、部屋探しで考慮すべき点というのを挙げさせていただきました。アパートって大体2年契約のところが多いので、この先どうなっちゃうんだろうという、あまり先のことを考えすぎず、きっとよくなるだろうという見込みもせず、今どうなんだろうということで住居を選んでいく。で、グループホームというのは体験することは可能ですので、実際に体験してみる。この辺の詳しいお話は後で桑田さんからお話があると思います。

そして、生活必需品の買い物ということで、やはり入院中の生活物品はとても少なくて、通信手段である携帯電話も必要ないですし、お布団も病院にありますし、食器や調理器具も不要ですし、家電も必要ないし。これらもろもろ全部、生活必需品です。やはり経済的に限られている方が多いですので、通販やリサイクルショップを上手に利用して、新しい生活の準備を楽しむことが大事なんじゃないかな。ワクワクと希望を持ちながら、こんな生活したいなと考えられるといいかなと思います。

最後に外泊の練習。実際に退院後の生活を体験してみる。自由な生活を送るということと、自分の生活に責任を持つことって、結構大きいことなんですね。これを実際に生活してみていただくということが重要じゃないかなと思います。結構、外泊してどうだった?と聞くと、すごい夜が寂しかったよという方が結構いらっしゃるので、一人で寝るという経験も、長いこと入院している方は大部屋でみんなで生活していると、あまりないのかなと思いました。

こういった10個の項目ですね、患者さんを主体にして、退院の準備を急がずゆっくりかけて行うことで、患者さん自身に自信がついて、それから社会資源との連携が図られていく。で、退院後も症状が安定して、重大な状態、危機的状態になる前に社会資源との連携が図られているということで、すぐに対応することができるようになりました。

下の図は、今まで医療と福祉がバラバラでした。精神症状の変化という医療的な部分を退院後には福祉の方が関わったり、もう症状が少なくなってきたのに生活の場として病院が抱え込んだりというような現状が起こって、本来の機能が果たされなくなっていました。しかし患者様を中心にさまざま取り巻く支援、みんなが手をつないで連携をしていくということで、そういう状態は減ってきたかなというふうに思います。

最後になりますけれども、ゆっくりですけれどもスムーズに地域移行するために、まず患者様には主体性を持っていただく。支援者が生活をするのではなくて、あくまでも患者様が生活を送る。それから支援者の主観で患者様の生活を作らない。意外に病院に行くと、こんなことできないよねと思っていたことができたり、逆に、こんなことできるでしょと思っていることができなかったりとかということがあります。それから、いろんなスタッフと関わるときには、徐々に。新しい人が入ってくるのにいきなり全然知らない人が入ってこられるととても抵抗感がありますので、少しずつ少しずつ連携をとっていく。

そして、あせらない、あきらめない、途中でやめる勇気を持つ。これは精神論になってしまうんですけれども、何度もチャレンジして、人の不安の大きさというのはそれぞれなんだなということを思っておく必要があるんじゃないかなと感じました。以上です。ありがとうございました。