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シンポジウムI
体験宿泊事業

武井 侑代
(NPO法人千葉精神保健福祉ネット 理事長)

司会●ありがとうございました。では4番目、「体験宿泊事業」について、NPO法人千葉精神保健福祉ネット、武井様よりご発表をお願いいたします。

武井●NPO法人千葉精神保健福祉ネットの武井と申します。私の方は、地域で作業所とかそういうところから始まったので、地域で暮らすということが始まったのはまだ経験が浅いんですね。この体験事業ですが、平成17年に千葉県のモデル事業として始まった事業で、平成17年の10月頃から20年の3月までありましたモデル事業の続きとして、平成20年度、去年から千葉県の事業として始まった事業です。今も竹島様からお話があったとおり、精神障害者の場合はストレスに弱いというところから、何か新しいことを始めようとするとき、仕事にしても住居をかえるにしても、新しい環境に慣れていくということは大切なことです。退院の場合も、あるいは長い間一緒に暮らしていた家族から一人暮らしを始めるというときにも、その環境にだんだん慣れるということが、モデル事業をやっているときにも感じましたけれども、単身生活に移る成功の一つだと思うのです。

私どもの方は、体験的に1泊2日から。対象者は施設とか病院、あるいは家族との同居から、地域で一人の生活を希望する障害者の方を自立教育として宿泊をしてもらうということです。1泊2日から利用できます。最長1ヶ月。ただその対象となる利用者さんは、主治医の了解を得ているということが大事なことになります。事業のスタッフは、土曜・日曜・祝日も出ておりますけれども、夜間の対応はできません。

大体のお部屋は4畳半で、居室は各部屋個室ですが、4畳半より少し狭いタイプです。 そこには冷暖房完備でテレビもありますしお布団もありますしシーツもすべてが整っております。台所がありまして、ここは皆さん共有の食堂になっています。地域に出るための体験をするということで、食事も自分で作るということ、買い物も近くのお店に買い物に行って、自分が食べたいものを考えてこの調理場で作るということです。それができない状態のときには、世話人がそれを一緒になってやるということです。

それから、長い間病院にいると、今のお風呂の使い方もほとんどわからない状況も多いんですが、そのお風呂も1人ずつお湯を入れて、終わったら自分でお湯を抜いてお風呂を洗って、次の人に渡すという状況です。

ここでは1人の暮らしの体験ですから、自分で何が足りないのか。例えば調理をする力が足りないのかとか、いろいろな体験を通して、自分の足りないところを知ります。あるいは逆に、1人でも十分にやっていけるんだなという自分を見つける場でもあります。もし自分の足りないところはどう補えばいいのかとか、どんな支援があれば1人で暮らせるのかとか、そういうことを、利用している間に支援者とともに考えます。

ただ、ここを利用するには、利用料金がかかります。1泊2,100円。それで電気・ガスということで1泊冬場は500円いただいていますので、1泊2,600円ということです。そのほかに食事は自費になります。

次に利用の流れですが、まず主治医の了解を得てもう退院をと言われたとか、あるいは家庭に住むひとり住まいをした方がいいじゃない?というようなことになれば、行政の相談機関でも病院の相談機関でも、そこを通して見学に来てもらいます。ある程度詳しい、その人個人の情報をいただきます。どういう薬を飲んでいて病状も何なのかということをかなり詳しく書いていただいたものをいただいて、何らかの変化があったときに連絡がとれる体制をとってから来ていただきます。

どういうところにあるかと言いますと、国立の国府台病院から5分ぐらいのところにありまして、近くに里見公園や医科歯科大、和洋女子大とか学校がいっぱいあるところです。

このハウス里見の利用状況ですが、モデル事業としてやっていた2年半の間には、実際の利用人数は69人でした。千葉県のいろいろなところからいらっしゃっていました。そのうち、地域に移行できた方が22人。去年、千葉県の事業として始まりました。去年1年で実際に利用した人が41人。そして地域に移行できた方が8人という結果になっています。

現在の状況ですが、21年の4月から11月までの状況です。36人の人が利用して8人の方が地域に移行しております。

どのような利用の仕方をしているかということで、事例2の方で簡単に説明していきたいと思います。

この方は20代の男性です。小学校の低学年のときには活発に過ごしていたんですが、小学校4年頃からいじめに遭って、周囲が敵に見え、粗暴行為が目立つようになりました。中学校では成績も悪くなり、思うようにならなくなるとキレるという状況になってきて、平成13年から受診。その後、入退院を4回ほど繰り返しております。ハウス里見は平成18年から、モデル事業のときから利用していました。初めは1泊2日。初めから長い宿泊は無理だということで、まず私たちは1泊2日から引き受けています。そして何回か繰り返すうちに、期間を長め長めにしていって、慣れていってもらっています。

この方も初めは包丁もまず持ったことがないという状況から始まりまして、いろいろ料理の体験をしたりして、好みも難しい方でしたけれども、だんだん料理のレパートリーも増えていきました。

この方は広汎性発達障害と言われる方で、何かに執着するということが強くて、好き嫌いも多かったりして、初めは大変でした。そんな経験から、ひとり住まいが。家に帰れない状況というのが精神障害の方にはかなり多くありまして、この場合も、退院した後は近くで1人で住もうということが課題になっている方でした。アパートに移るということを考えながら体験をしました。

まず精神障害であることの特徴ですが、医療というのはこの場合、ずっと続くわけなので、私たちも体験宿泊をやっていて、地域で安定して維持できる、地域で暮らし続けられるというのは、やはり医療と地域の福祉とがしっかり手をつながないとうまくいかないということを経験しております。それで、主治医とか病院のソーシャルワーカー、あるいは日中をどうやって過ごすかということも地域に出た際には大きな課題ですけれども、この体験をしているときにそういうところを見学して、自分が日中どこで、例えば作業所なのか、あるいは就労なのかとか、少しずつ体験するんですが、それも同行したりして、地域に出たときの経済状況はどうなるのかとか、本当にいろいろな人の支援が必要になっていきます。主治医をはじめ、福祉事務所や就労支援のB型の事業所とか、あるいは中核支援センターの方々とか、ヘルパーさんとかそういう人たち、大勢の支援者を、その体験している間に集めたり、そこにつなげたりということが大切になってきます。地域に出たときに、とにかく1人にさせない、孤独にさせないというか、病状の変化の判断ができ、そういうときにはどこにつなげたらいいのかとか、これら医療と地域の福祉が連携できてから初めて地域の生活が維持できるということになると思います。

そこら辺までつなげると、私たちの役目は終わって、次のキーパーソンとなる人を見つけて、地域に移っていくことになります。体験宿泊というのはこんなようなところです。