音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

シンポジウムI
居住サポート事業

桑田 久嗣
(NPO法人千葉精神保健福祉ネット)

司会●ありがとうございました。引き続き、保健福祉ネットの桑田様より、「居住サポート事業」についての発表をお願いいたします。

桑田●ご紹介いただきました、武井と同じくNPO法人千葉精神保健福祉ネットの桑田と申します。自分は松戸市で行われている居住サポート事業を担当しておりまして、それの説明をさせていただきます。平成20年度からまだ2年目なので、まだ1年弱の活動ではありますが、その中での取り組みや、見えてきた課題というのをお話しさせていただければと思います。

まず概要です。対象となる方は松戸市内に住民票があり、精神科病院に入院されている方。松戸市及びその周辺でアパート契約での単身生活を希望する方。服薬や金銭管理、生活能力など退院の準備が整っている方。支援を受けながらでも単身の生活が送れる方というのを対象にしております。

具体的な支援内容としましては、地域生活を送る上での相談や関係機関との連絡等。物件探し、契約手続きなど、住まいを整えるための支援。その他、必要に応じた支援ということです。単身生活を送る上での環境整備や支援のネットワーク作りを行う事業になっています。退院後はこの事業との関わりは終了になって、地域の支援機関に引き継ぐということになっています。よって24時間の支援ということもございませんし、退院支援というのを念頭にスタートしているので、対象も精神障がい者のみで、アパートからアパートへの住み替えというのは対象としておらず、退院のみの支援ということになっています。

平成20年度と21年度途中までの実績です。20年度、1年目は利用者が15名のうち11名退院で、再入院は休息入院された方が1名です。主に松戸市内の精神科病院、松戸市内には精神科担当の病院は1ヶ所ですけれども、そこを主に対象としているので、当時そこの病院で退院支援というのを活発に行っていたので、スムーズにこの事業の導入が可能になりました。病院スタッフと共同で、退院準備グループという、グループでの退院支援を行っていたので、複数の利用者を同時に支援して、一度に動く事で支援を効率化することができました。

平成21年度は、利用者10名中、7名が退院して再入院はありません。昨年度と比較して、市外の医療機関にも支援対象を拡大し、多数の医療機関と関わることが多くなりました。そこで移動時間を含めて活動に必要な時間というのが増加し、多数の病院スタッフとの関係を構築する必要が出てきました。一方、昨年度のグループ支援から個別支援というのが主になってきましたので、医療機関や本人の状況に応じて対応の変化を容易に行うことができるようになりました。

活動している松戸市の概要ですけれども、人口が約48万人で、手帳や自立支援医療の利用の数はご覧のとおりになっています。精神科病院は370床の病院が市内に1ヶ所ありまして、その周りの近隣市や他県の精神科病院にも松戸市民の入院患者が広範囲に入院しているという状況です。

松戸市の社会資源ですけれども、相談機関としましては、松戸市の障害福祉課さん、精神の担当の方は訪問活動を積極的に関わっていると感じています。中核地域生活支援センターほっとねっとは、後ほどご説明があると思いますけれども、24時間365日、連絡できる相談機関として運営されています。松戸市の委託相談支援事業である、ふれあい相談室おおぞら。こちらは電話や来所の相談を主に行っています。ケアマネジメントを行う指定相談支援事業所というのが市内に2ヶ所あります。

日中活動としては、地域活動支援センターⅢ型。以前、作業所と呼ばれていたものが7ヶ所。

住居のサービスとして、グループホームが男女各1ヶ所ずつ。障害者グループホーム等支援事業は竹村さんが行っているところですけれども、それと私ども松戸市居住サポート事業。そのほか、ホームヘルプの事業所や金銭管理を行う日常生活自立支援事業などがあります。

実際に関わった事例の概要です。年齢40代男性で統合失調症です。生活歴は、3人兄弟の第1子で、勉強が好きではなかったけれども、読書が好きで高校時代は交友関係が広く、高卒後、製造業に就職をしています。19歳頃、仕事で叱られ、2~3日家出をして、それ以降、嫌なことがあると昼間は本屋などで時間をつぶし、公園などに寝泊まりするようなことを繰り返していました。その19歳頃より、「家出しろ」という内容の幻聴に影響されて、家出や放浪を繰り返して職も長続きしませんでした。昭和62年にB病院を受診し、同じ年に入院。以後、同じ病院で6回入退院を繰り返しています。よってトータルの入院期間というのは非常に長い入院をしていたということです。

退院に向けての課題として、ご家族が退院後の同居を拒否してアパートの保証人も拒否されていました。本人の視力がとても弱く、右目は失明で左目は弱視。日常生活に支障があるという状況です。メガネである程度の矯正が可能だけれども、初めてお会いしたときは壊れているという状況。単身生活の経験がなく、調理に関しては全くの未経験。障害年金を取得しているけれども、家族が管理しており、預貯金の残高が不明。しかも年金収入のみで生活を継続するのは難しいという状況の方でした。

本人や関係者とお話を聞いてみると、「家出しろ」という幻聴は落ち着いていて、能力自体はとても高い方。具体的な問題が起きたら自分で周りの人に質問ができるし、人間関係も良好に築けるということで、環境や支援体制を調整すれば単身生活が可能と判断して支援を開始しています。

その実際の退院の準備のスケジュールです。病院の依頼というか状況で、1ヶ月足らずで退院をしてほしいということでご希望があり、始まった日から22日後に退院というふうになっています。ご本人にとっては怒濤の勢いだとおっしゃっていました。とても忙しく活動していました。

まず物件、アパートの下見をして、その後でデイケア、日中活動の保障の体験参加や、布団や日用品、必要なものの購入や支援をするところとの顔合わせなど行って、物件を契約した後に外泊。契約をしてすぐに退院ではなくて、一度外泊をして、その後で退院ということにしました。

退院に向けてのアプローチとして、B病院では作業療法士とともに支援を行っています。退院準備で外出する際に作業療法士の方にも同行していただいて、本人と病院や居住サポートを行っている支援者、双方の不安を軽減することができました。院内の支援者の調整役になっていただいて、看護師や精神保健福祉士、薬剤師などの協力が得られています。

退院準備の活動を作業療法として治療に活用するということで、市役所での手続きや日用品の購入などを通して、在宅での単身生活に役立つ知識や経験を身につけていただきました。

さらに、B病院が以前から退院支援を行っていたので、そこで関わりを持っていた不動産業者に物件紹介を依頼しています。

それに加えて、退院後の支援体制を見据えて準備を進めていきます。退院直後にホームヘルパーが利用できるように準備を進めることと、関係機関と入院中から顔合わせを行うということを行ってきました。

主に大変だったものとしては、退院に向けてのアプローチとして、家族調整。退院後は同居を拒否されていましたが、説明した結果、単身での退院というのは了承をしていただいています。入院費の支払いはお父さんが行っていたので、病院のPSWより調整を依頼して、父親が管理していた通帳を本人に戻していただいて、アパートの契約や壊れていたメガネをまた作るときなどはお父さんと支援をいただくことができました。退院後も本人宅へのお父さんが訪問してくるということや、ゴールデンウィーク中に実家に泊まることができたりというふうに、入院中はあまり関係がよくなかったというか、ほとんど交流がなかったところが、退院を機に関係が少し強くなっていくということがありました。

そして、アパートの契約です。それまでB病院で利用していた不動産業者に紹介を依頼。具体的な条件は、目が悪いため1階で段差が少ないところ。退院後も病院のデイケアに行くので、病院の支援が入りやすくするため、病院から近いこと。保証会社の利用が可能なこと、または保証人が要らないこと。生活保護を見据えて家賃4万6,000円以内。松戸市の生活保護の家賃補助が出る条件が4万6,000円でしたので、それ以内であること。そしてご本人の希望として、収納が多いことというのを希望していました。そこで、本人への支援が継続していることを条件に、保証人不要の物件を紹介してもらえました。

支援体制の構築。退院直後にホームヘルパーを利用するため、入院中から利用に向けての手続きをされました。中核地域生活支援センターほっとねっとさんや、福祉事務所に入院中から顔合わせを済ませておいて、退院後にスムーズにつながるようにしています。多くの支援機関をケアマネジメントする必要があると考え、指定相談支援事業所に連絡をして、退院前に関係を持つようにしています。

利用者、支援者、両方とも孤立しないように支援ネットワークを築くことの重要性を感じています。

退院後の支援は、デイケアに週4回、訪問看護週に1回、外来が1週間に1回、ホームヘルパーが週に3回。ほっとねっとや障害福祉課の相談などの支援も入っています。退院後2ヶ月の成果ですが、ご本人はとても料理が好きになっていって、1人でも調理できるようになっていたので、週3回のヘルパーを週2回に減らしました。 仕事への意欲も出てきたので、作業所などの利用を検討しています。

退院後の生活で出てきた課題ということで、目が悪いということでお皿の汚れの洗い落としが見えなかったりとか、タオルを1回使って洗濯のかごに入れても洗わずにもう1回使ってしまったりとか、古くなって色が変わったモヤシを食べてしまったりとかという衛生への配慮という問題。その他金銭管理や食べる量の増加という問題が起こっているので、それはケアマネジメント、指定相談支援事業所が定期的に会議を開いて情報を共有して継続して支援を行う等をしています。

考察です。入院中は本当に単身生活を送れるか心配だった方も、退院準備を始めてみると思わぬ能力を発揮するケースというのがとても多いです。病院内での状況だけでご本人の生活能力を評価するのは難しい。そういった中で、退院準備をご本人と一緒に動くことで、実践に即した生活能力を評価して、ご本人、支援者同士の関係を作り、地域生活の練習を行うことができると思っています。

退院後の支援については、入院中から準備を行うということと、当事者同士、ピアサポートの力を活用すること。なので、同じ立場が集まる場所にご本人を連れていくことがとても重要なのだなと思っています。本人の意欲さえあれば、困難さはあれども退院は可能ではないかと思っています。

今後の課題としましては、連帯保証人の問題。保証会社に断られるケースでは、家族も保証人も拒否した場合、アパートの確保が困難になってしまいます。家族や不動産業者と交渉・連携して関係を作っていく必要があります。実際に大家さんが直接支援している人に会いたいということでご連絡をいただいて、こちらの名刺をお渡しして、信頼をいただいて保証人なしで契約できた方もいらっしゃいます。そういったことをするためにも、関係機関との信頼関係やネットワークを作るということが何よりも重要。個別のケースを積み重ねていくということで徐々に、顔が見える関係というのも強くなっていくし、この人が退院できたら他の人も退院できるじゃないかということで対象者も広がっていくのではないかと思います。どうもありがとうございました。