音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

シンポジウムII
1.厚生労働省の関連施策の動向

厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神障害保健課

司会●では始めさせていただきます。「厚生労働省の関連施策動向」と題しまして、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課の吉田様よりお話を伺います。

吉田●皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました厚生労働省の吉田と申します。今日は、20分間お時間をいただきましたので、私の方から関連施策の説明の方をさせていただきたいと思います。座らせていただきたいと思います。20分ということなので、途中、駆け足になったり,お聞き苦しいところもあるかと思いますが、資料を後でよくご覧いただければと思っております。

まず初めに、最初の10分程度で、そもそもなぜ地域移行支援が必要なのか,それから今後方向性についてどう考えているのかというのをお話しさせていただきたいと思います。その後、10分間で、地域生活への移行に関する支援施策、それから住宅確保に関する支援施策、これらをご紹介して私のご説明とさせていただければと思っております。

まず、最初に、精神科病院の外来・入院の状況についてデータをもとにご説明したいと思います。皆様も既にご存じのことかもしれませんが、国全体として今、こういう状況にあるということをご確認いただければ幸いです。

まず、最初に外来患者数ですが、平成11年以降、増加の一途をたどっておりまして右肩上がりの状況になっております。入院患者数は一定程度でずっと推移してきているわけですが、外来患者数が非常に右肩上がりで増えてきているという状況になっています。

その外来患者さんというのがどういった方がいらっしゃるのか、どういった疾病をお持ちなのかということで、特に躁うつ病などの気分障害、アルツハイマーの疾患の方が近年、増加傾向にあるということで、その増加傾向がそのまま全体の患者数の増加につながってきているという状況になっています。

一方、その入院患者はどうかと見てみますと、統合失調症の患者さんが年々減少傾向にありまして、平成17年から平成20年にかけては1万人ぐらいの入院患者の減少が見られる。一方、アルツハイマー病であるとか、認知症の方であるとか、こういった疾患をお持ちの方々が近年は入院されるという傾向になってきておりまして、全体として少しずつ精神病床の入院患者さんは減ってきているのですが、全体として横ばいに近い形で推移をしているという状況にございます。

一方、入院している患者さんの年齢を見てみますと、非常に高齢化しているのがわかるかと思います。平成20年の患者調査では、65歳以上の方が47%ということで、入院されている患者さんの約半数が65歳以上のご高齢の方という状況になっています。

一方、精神疾患の総数ですが、この中の入院期間別推計入院患者数の推移というのを見てみますと、平成20年のグラフを見ていただければと思いますが、1年未満の方が11万6,000人ということでトータルが33万1,500人ですので、約3分の1が1年未満で退院されています。残りの3分の2の方々は1年以上の入院いうことで、前から言われていることですが、依然として入院が長期化する、全体として長期の入院になっている患者さんの割合が多いということが、現状です。

こういったことから、疾病別の課題というのが言われておりまして、統合失調症の患者さんについては長期入院の方がいらっしゃって、地域移行と地域生活の支援というのが課題になっています。

認知症の患者さんについては、高齢化に伴い、最近急速に増加をしていて、精神科病院への入院が長期化する傾向にある。そのことから処遇のあり方とか退院先、支援のあり方といったことが今後、課題となってくると考えられております。

一方、近年,気分障害、うつ病の方が外来患者の割合として増えてきており、ニュースなどでもとりあげられるようになっています。

一方、入院患者の中で、身体の合併症をお持ちの方が増えてきています。精神と身体の合併症を持つ方の医療の提供の仕組みをどうするかということについても課題となってきるというような背景が、現在の状況でございます。

こういった背景から、国として様々な対策を考えていかなければいけないということで平成16年9月に精神保健医療福祉の改革ビジョンというものが出されています。この中で入院医療中心の今までの施策から、地域生活中心への施策へ改革していきましょうとの提言がされていまして、国民の理解を深めていきましょうということ、それから精神医療の改革を進めていきましょうということ、それと合わせて地域生活支援への強化を進めていきましょうという3本セットで、入院医療中心から地域生活へという改革を進めていきましょうということが示されました。

この改革のスパンというのは10年間ということで、平成26年までという目標ですけれども、例えばこのビジョンを背景に、精神医療の改革でいえば、平成18年、平成20年の診療報酬の改定の中で、地域生活中心へという理念に基づく改定が行われたり、平成18年には自立支援法が施行されまして,法律としても体系化されたという背景があります。

この改革ビジョンというのは、途中、5年間の取り組みを反省して、今後5年間の施策をもう一度考え直しましょうということになっていました。それを受けまして平成20年4月から、今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会というものを、24回にわたりまして開催してきました。その報告書が今年の9月に出まして、その報告書の内容がスライドということになっています。

背景として、精神疾患による生活の質の低下であったり、社会経済の損失というのは非常に大きくなってきていて、一方で地域生活を支える医療・福祉というのは支援体制が不十分である。一方、入院をみると依然として多くの統合失調症による長期入院患者さんがいらっしゃって、入院医療中心の施策の結果というのを、行政を含めて関係者が反省に立って改革を進めていかなければならないという方向性が出されました。

精神保健医療の体制について,地域への重点化などを中心に再構築していくことや、精神医療のそもそもの質を上げていくこと,さらに、地域生活支援体制を強化していくこと、普及啓発の重点的な実施をしていくことなどが、改革の柱として示され、統合失調症の入院患者さんを平成26年までに15万人程度まで減少させていくということと、精神病床約7万床の減少というのを進めていきましょうということが目標値として出されています。

これらの取り組みを通じて、地域を拠点とする共生社会を実現することが報告書でうたわれています。

このように、地域生活への移行を支援していくということがまさに国の施策の方向性でございますけれども、その中でも特に、住宅の確保について現場でもご苦労されていると聞いておりますので、その関連施策をご説明したいと思います。

そもそもなぜ住宅の確保が必要なのかというのをデータでお話しさせていただくと、下の方の赤く囲んであるところをご覧いただければと思います。これは一つのデータですけれども、精神病床入院患者の退院先支援が整った場合の退院の可能性ということで、患者さんが入院されている現在の状態でも、もしくは状態の改善が認められるので近い将来退院可能な方というのが6割ぐらいいらっしゃるというデータが出ています。そうであれば、居住先支援というのをきちんと整備していくことがやはり必要だということです。

それからもう一つ別のデータでございますが、一番下の表のところで、「退院先」というところで、どの入院期間でも、約70%以上の方が家庭復帰もしくは転院という状況です。これらデータからも、安心して暮らせる住居を整備していくことが、患者さんが安心して退院して、当たり前のように地域で暮らせることにつながるということでございます。

住居の確保については、3つの側面があると考えました。1つは、ハードを充実させていくこと。それから2つ目として、ソフト面。円滑な入居を支援するために、今日も先ほどいろいろ発表がございましたが、入院中からの支援であるとか、関係機関との連絡調整であるとか、そういったことについて国の制度としてどのようなものを用意しているかということをご説明して、最後に経済的な支援についてお話させていただきたいと思います。

最初に「住まいの場の充実」ということですが、障害福祉計画という計画を各都道府県・市町村で作っておりまして、グループホーム・ケアホームを平成17年の3.4万人分を、平成23年に8.3万人分まで増やしていこうという計画になっています。

この障害福祉計画というのは、住民の方にも公表されている計画で、自分の地域の計画をお帰りいただいたらご覧いただければと思いますが、それぞれの地域で、これぐらい増やしますという計画になっています。障害福祉計画というのは、グループホームだけではなくて、障害福祉サービス全体をその地域においてどれだけ整備していくかという計画ですので、住民の方々にチェックしていただいて、その町のサービスが足りるのか足りないのか、また、足りなければいつまでにどれくらい作るのかといった計画ということになっています。

こちらは、国土交通省さんの施策ですが、公営住宅をグループホームとして活用できる仕組みです。まだ全体の戸数は少ないのですが、年々、数としては増えてきているというような状況にございます。

こちらは、グループホーム、ケアホームへの利用者が月々伸びてきているというグラフです。全体の伸び方と同様に精神障害者の利用者の方も伸びてきているということでございます。

それから、借上公営住宅制度ということで、これも国土交通省さんの方で、地域に既にあるアパートを借り上げて、そこを公営住宅としましょうという施策をやっております。既にあるものを自治体が買いあげて低額の所得者に貸していくというような施策もございます。

ここまでがハード面の整備としてご紹介したい事業です。

次に、ソフト面。円滑な入居をしていただくための仕組みをご紹介したいと思います。

こちらは、先ほどのシンポジウムでもありましたが、入院中から地域の方々が計画を作ったり、病院外の地域に出ていただいたり、そういった地域と病院をつなぐ事業として、地域移行支援特別対策事業というものを行っています。

この事業ですが、やはり退院をされるに当たって、きちんと橋渡しを支援していく仕組みというのは非常に重要だということで、今年の3月の自立支援法の改正案の中でも、これは補助金事業ではなくてきちんと法律の中で給付される事業にしましょうという改正案が出されておりました。現在,この改正案は廃案となっていますが、今後の動向にご注目いただければと思います。

それから、国土交通省さんのあんしん賃貸支援事業ということで、こちらは地域の中でどこに空いている住居があるのか、なかなかわからないので、それをきちんとデータベース化しましょうという、みんなで情報を共有しようということを目的にした事業になっています。

続いて、居住サポート事業ですが、こちらは厚生労働省がやっている事業で、目的は同じです。利用者の方と家主さんの間に,居住サポート事業者の方が入って、入居手続きのところで支援をしたり、また地域生活において24時間の緊急時の対応の支援をしたりということを通して、利用者の方や家主の方、ともに安心して入居していただくことを支援するという事業をしております。

目的は同じですので、これらを連携して行うと非常に効果的ではないかということで、こういった連携のフレームというものも提示しているところでございます。

それから退院する際,又は家族との同居から一人暮らしをする際に、グループホーム、ケアホームでの生活を体験することで、利用者さんに安心して入居していただく、そういった体験入居を、今年の4月から報酬上評価することにしたところでございます。

一方、賃貸契約をする際に証人がいないという問題もあると思います。これにつきましては、財団法人高齢者住宅財団というところがその家賃債務を保証しましょうという仕組みもございます。

また、地域生活へ移行する際に、身の回りのものを用意するのにお金がかかりますので、身の回りの生活品を買うのに1人当たり3万円を助成する事業もございます。

最後に、地域移行のイメージというところで、二つありまして、一つが、入院・入所から退院・退所する場合と、家族と同居している方がさらに自立した一人暮らしを始める場合です。例えば①の方が一人暮らしを始めるときに、生活保護の申請が退院のタイミングしかできないので、アパートの敷金・礼金が払えなくて困っているケースがあると聞いており、今後、検討すべき課題と考えております。この辺りについては、検討会の報告書でもご指摘をいただいているところですので、ご覧いただければと思います。

国の施策について非常に駆け足でご説明させていただきました。我々としましては、ご本人が望む場で生活をしていただくために必要な支援・制度を、これからもますます作ってまいりたいとの思いでおります。また皆様にはいろいろお世話になると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。以上で私の説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。