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シンポジウムII
「地域で暮らすために何ができるか」
宇和島における取組から

財団法人正光会宇和島病院
院長 渡部 三郎

司会●ありがとうございました。引き続き、シンポジウムⅡ、「地域で暮らすために何ができるか」ということで、最初に宇和島における取り組みから財団法人正光会宇和島病院の渡部先生にお願いしたいと思います。 申し訳ございません、厚生労働省の吉田様、お時間の関係で、もうしばらくしたら退席ということですので、もしここでご質問等ございましたら、少しお時間をいただいてお願いしたいと思いますが、いかがでございましょうか? ……特にないようでしたら、吉田様、どうもありがとうございました。 それでは渡部先生、よろしくお願いいたします。

竹島●最初にシンポジウムⅡの構成の説明をさせていただきたいと思います。シンポジウムⅡの司会を担当します竹島です。

今日は、まず最初に、渡部先生にお願いするんですけれども、渡部先生は宇和島で地域活動、それから宇和島とか御荘、こちらから見るとどこなのかわからないんですけれども、愛媛県の西の方ですね。そこで地域精神医療をずっとされていて、宇和島アクトというのがございまして、私もこの間びっくりしたんですけど、地域エリア50kmぐらい、車でガンガンとばして1時間ぐらいのところまでをエリアにした地域医療をやっておられます。今日は宇和島からたくさんの方が一緒に来られています。渡部先生にはご自身の経験と視点で思い切ってしゃべってください、ただし20分ですということでお願いしてあります。

それから、その次に秋田先生です。秋田先生は熊本の明生病院の精神科医でして、生涯一精神科医と、管理職になることを嫌って、現場の精神科医の仕事をずっとされています。秋田先生にもご自身の経験からお話しいただきたいということにしています。

お二人は精神科医療のお立場からですが、最後の滝脇さんは、ここからですと南千住で降りたら一番近い、東京の山谷のエリアでさまざまな理由で困窮者となった方や、住所がなかなか定まりがたい、健康問題を抱えている人たちの居住支援をやっておられます。そういう意味では、精神疾患のことも含めて少し包括的な立場から、いわば制度を使い尽くす、制度をつくるという視点で、どんなことをやったらいいかということをお話しいただきます。それでは20分ずつということで、時間ギリギリですので、4時半というシメは守らなければいけないので、それぞれ自分のしゃべりをやってください。真打ち3人という感じでよろしくお願いします。

渡部●ご紹介いただきました宇和島病院の渡部でございます。社会的な入院者という方々。どういう方々か、イメージはそれぞれ違うのだと思いますけれども、その方々、家族が受け取れない方々に、新たな住まいをどういうふうに作っていくかという取り組みについて少し話をさせていただきます。

今、竹島先生におっしゃっていただきましたように、愛媛県の西ということでございますが、愛媛県は四国にございますが、高知と県境を接する西南端ということで、南の方に宇和島障害福祉圏域がございます。私の勤めております財団法人正光会は、3つの病院が3地域にございます。1つは南側にあります愛媛の最南端にある御荘病院、それから宇和島病院、それからしまなみ海道という橋ができましたが、そこに今治市というのがございまして、今治病院があります。

今の精神科医療の現状は、完全に民間に依存をしていて、県立の精神科病院がございません。それからこの2年ほどの間に県立の精神科病床、それから町立の精神科病床2つが閉鎖をしてしまいました。今現在、総合病院で精神科病棟を持っていますのは、大学の精神科病院、それから共済の病院が県内に2つあるだけでございます。

宇和島でございますが、下の方にありますが、1市3町。宇和島市と3つの町がございます。人口が13万4,000人。中核市になりますが、下にお城がありますがその宇和島市でございます。人口は今現在、8万7,600ぐらいでしょうか。平成17年に3町1市が合併いたしまして、そのとき9万1,600人。約4年の間に5,000人ぐらいの人口が減少しました。

これは宇和島病院を中心とした半径15km以内の宇和島病院を取り巻く社会資源です。皆さんのお手元の資料の中にはありませんが、スライドの下のところを見ていただきたいと思います。これは平成21年の愛媛県の住宅地の地価調査でございます。1エリア当たり1,000円ということで、松山市が9万3,400円、宇和島市は4万4,100円。生活保護の住宅扶助が、松山市以外はすべて2万7,000円でございます。3級地の方がいいということですね。実は宇和島は非常に住宅家賃、借り上げ料が高くなっています。生活保護の住宅事情というものが、現実とは随分乖離しているなというところが現場の印象でございます。

宇和島の隣にあります八幡浜市は6万2,200円ということでありますけれども、生活保護のケースワーカーに聞きますと、宇和島市の方がやはり家賃は高いということです。必ずしも地価の調査というのはあてにはなりませんが、やはり現実と住宅保護費というのは乖離しているなという印象がございます。

今、宇和島で取り組んでいることでございます。宇和島の居住サポートチームは平成18年、障害者自立支援法のメニューの中に、居住サポート事業が見いだされたときから始まりました。宇和島、そして愛媛県内の自立支援法の障害福祉計画の中に、居住サポート事業のことを書き入れてもらうことを最初の目標にいたしました。

宇和島の居住サポートの活動は、現実的には地域内での住み替え、入院者の居住支援の提供など、実績とすれば、合わせて10名前後でございます。まだまだインフラ整備の途上にあり、目的とする中核的な社会的入院者への居住提供という点においては、まだスタート前の状況です。このような状況にある報告であることをご了解ください。

これは平成18年に不動産屋さんの精神障害者に対する見方・現状です。宇和島市内69軒あるかと思いますが、そのうちの半分くらいの市内の不動産屋さんに1人のソーシャルワーカーが聞き取り調査に突撃しました。得られた情報をデジタル化し、KJ法でまとめたものです。5つのシマに分かれました。左は、精神障害の入居者には家賃の限界がある、また、業者の家賃値下げなどの協力も限界がある、家主の了解が得られればルームシェアは可能である、などのご意見を不動産屋さんからいただきました。

右上のシマは、入院時の条件で、家賃の債務保証など各種保険、保証人を2人必要とする、何かあればすぐに契約解除したい、出ていってもらいたいなど、厳しい条件が課せられています。業者の防衛的な姿勢が見てとれます。家主に安心感を与える、公的保証人制度が必要だというようなご意見もありました。

真ん中でございます。入居後にトラブルの防止とトラブルの迅速な対応を専門職などに求めています。要するに、日頃の細やかな対応と、何かあればすぐに飛んでこいとの要望でございます。

続いて右下です。障害者入居によるアパートの評判の低下。それによる一般入居者が減ることへの不安・懸念があります。そして、トラブルが起こってしまったら誰が責任をとるのか、誰が補償してくれるのかなど、それらの問題が挙げられています。

左下のシマでございます。現実的には障害者用には物件を取り扱っていない現状があります。安くて古い空き部屋を利用して支援体験を積み、地域の信頼を得てからまた来てくださいというような、3年前の不動産屋さんの方々の現状でございました。

現実的には宇和島のこういうサポートはここから始まりました。挙げられた課題、問題をひっくり返せば、帰るべき家を失った社会的入院者の新たな住まいを確保できるであろう。少なくともできること・できないことははっきりさせてやろう。各地域でも一般化、普遍化できることを意識しながら、けれんみなくやってみよう。そのようなことから現状打破のために試行的な取り組みを始めました。

前のスライドにありましたのを少しまとめました。いくつかの実践として、精神障害者の居住確保の必要条件、1から5です。イタリック体になっている分はまだ宇和島地域では実現できていないものです。

受け入れる側、すなわち大家・不動産屋さんの不安や問題から考えてみると、不動産屋さん、大家さん、彼らの求めるものは大部分は既に存在しています。既存のサービスを活用し、精神医療・精神保健のアウトリーチを拡大し、利用者との間にきちんとした契約ができれば、この問題に解決の糸口を見いだせるように思われます。

個々のサービス提供だけでは、過去においてたくさんの失敗を重ねておりますが、1から5のサービスをパッケージとして包括的に提供できれば、居住確保に道が開けてくるものと思われます。要は、必要なことはすべてやろうというこちら側の覚悟のようです。

24時間365日、必要なサービスが提供できる可能性を持つ精神科病院が主体的に取り組む、他の周辺と連携することが、大家さんや住民の安心にもつながり、賃貸住宅の確保が可能になると思われます。

宇和島地域の社会的な入院です。平成21年、今年の1月になりますが、愛媛県が社会的入院の実態調査を県内の精神科病院で行いました。宇和島圏域の社会的な入院者はそのとき88名ということがありました。

平成18年、保証人があるのかないのかということ、我々の法人、正光会3病院で調査をいたしました。認知症の方を除いた534名が対象になります。保証人がいないという方、正光会3病院で7%でした。それ以外に保証人の有力候補であるキーパーソンと連絡そのものがとれないという潜在的な保証人不在は4割に上りました。多くの社会的な入院者に保証人が得られない問題が明らかになりました。

これは平成19年度の障害者自立支援調査研究プロジェクトで行った、居住水準調査から得たデータです。旧宇和島市内に在住する障害者手帳を保有する、あるいはそれに相当する精神障害者259名を対象にいたしました。そのうち独居者で借家住まいの人たちは50人でした。この独居・借家住まいの精神障害者50人の散布図がこのスライドです。社会的入院者が地域に移行して居住を確保する場合の住まいの現状を、恐らく映しているものと思われます。一番下にありますのは、残念ながら住居の面積計測の協力が得られなかった方7名です。

横軸は家賃で、右は5万円。それから縦軸に床面積、居住面積です。70平米までということでとってあります。

最低居住面積水準、25平米というのは、すべての世帯が達成を目指すとされている居住水準です。健康で文化的な住生活の基礎として必要不可欠な住宅の面積に関する水準として、それを最低居住面積水準として国が定めています。国土交通省の絡みでしょうか。単身者の場合は25平米です。その未達成率は現在、4%。これを0%にしようというのが国の方針です。当然のことながら、精神障害者においてもこの基準を達成することが必要となります。縦軸ですが、生活保護の住宅扶助額は我ら宇和島市は3級地の2ですので、2万7,000円です。松山市以外の県内は同様の3級地の2です。ほとんどの方々は家賃3万円のライン以下で生活しています。

赤の斜め印ですが、生活保護を受給していない者を表しています。対象50人のうち生活保護を受給していない者は5名のみです。その5名は、就労により賃金を得ている方々です。社会的入院者の地域移行の問題が現実的な生活保護者の問題。生活の保護の問題であるということがわかりました。

続いて四角で囲んだもの。これは公営住宅に入居している方々です。広くて安い居住が確保できていることがわかります。爆弾マークは建築後40年を超えた住宅を表しています。狭い、古い、汚い、怖い住環境が現状です。

最低居住水準をほぼ満たす1人用のアパート、1Kの家賃相場は、宇和島で築後10年以内で約4万円から3万5,000円です。生活保護の住宅扶助額、2万7,000円との乖離は大きなものがあり、住宅政策の市場化が言われている中で、住宅の市場化政策から大きく取り残されている精神障害者の現状があります。

家賃2万7,000円以下の物件を取り扱っている市内不動産業者は69業者のうち、わずか4社で5%のみです。一方、住宅扶助の特別基準額である3万5,000円の物件を取り扱っている業者を調べると22社となり、大きく選択の幅が広がります。住宅扶助の特別基準額は身体障害者が住居を確保する場合に、住宅環境に配慮が必要なため、一人世帯でも二人世帯と同様な住宅扶助額、即ち1.3倍額を設定したものです。全国には精神障害者に対する特別基準額の適用により居住の質が確保され、住宅市場化政策にのった物件を手に入れることができ、住宅提供者とのWin-Winの関係が成立し、居住の場の確保につながったところがあります。

居住の質の確保、それを可能にする家賃補助。特別基準額の適用が、社会的入院者の受け皿として必要な居住の量の確保を生み出す構造になっていると思われます。

昨年度の研究事業の一つ、生活保護などを活用した精神障害者居住支援に関する全国調査の結果がこのスライドです。先ほど申し上げました住宅扶助の特別基準額ですが、それを認めているのは360自治体。全国1,166自治体のうちの31%に上ります。そのうち精神障害者にも認めているのは151自治体です。愛媛県内ではまだ認められていませんが、我々が予想していた以上に多くの自治体が障害者に対し、そして精神障害者に対して住宅移住の特別基準額を認め、活用していることが明らかとなりました。こんなにもたくさんあるのかと、まさに驚きでした。

下の図は、主な地区調査の結果でございますが、精神障害者が居住できる公営住宅が十分にあると答えた自治体はわずかに3.3%でした。公営住宅をあてにできない現状が明らかになりました。わが国の住宅政策も、フロー重視かストック重視。住宅の市場化を掲げており、今後も公営住宅に大きな期待をすることは難しいと思われます。

これはタウンミーティングのスライドでございます。平成20年度の研究事業の一環で、計10回、問題発見ラウンド、課題解決ラウンド、それから市民発表会という形で、計10回行いました。精神障害者の地域移行と共生について、課題と模索を話し合い、それがこのタウンミーティングです。何とか市民の壁に穴をあけたいという思いから開きました。

タウンミーティングの結果、右上のような意見地図を形成します。何を心配し、どうすればできると思っているのか、市民の思いが浮かび上がってきます。昨年度の結果は2月の宇和島地域個々の健康フォーラムにて参加者自ら市民の方々が会場に向けて発表されました。

これは全国6地域7ヶ所でしょうか、居住の先進地調査をまとめたものです。時間がございませんのでこれは割愛させていただきます。

まとめでございます。まず居住の確保が必要です。民間住宅にベクトルを定めますが、決して実現困難な課題ではないと思われます。地域住民とともに住み、ともに生活することとなる地域移行は、本人への対応と地域住民への対応が必要となりますが、社会的入院下の地域移行の事前準備は十分ではありませんが、これから小さな成功体験を積み重ねながら対応していかなければなりません。

社会的入院者といっても生活障害が重度で病状も安定・固定しているものではありません。切れ目のない生活支援・医療支援が必要とされます。入院中の働きかけ、先のシンポジウムの中にもありましたが、そういうものを参考にしながら、我々がしていかなければいけないだろうと思っています。

また、公的な精神科医療が次々と後退していく全国的な現状の中で、民間病院の役割はますます重要となっていきます。入院医療中心から地域生活中心へ、精神科医療の構造が変わっていくこととなりますが、外来地域移動からどう利益を生み出していくのか、インセンティブを約束されているのか、経営上の心配は尽きません。しかし、入院の短縮の方向で精神科医療が進めば、社会的入院者は医療機関にとって利益を生み出す資産から、不良資産となっていきます。いずれの精神科医療機関にとっても、戦略的判断が必要とされる事態となってきているのは間違いないことだと思います。

地域移行の重要性、居住の確保の重要性というものを中心にお話しさせていただきました。以上でございます。