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【研究1】薬物治療に関する医師間の情報交換と薬物治療に対する態度の関連検討

研究目的

 医師がエビデンスに基づく質の高い薬物治療を行うためには、薬理学的な情報及び臨床における経験的な情報を得ることが有用と考えられる。その手段の1つとして、医師間の情報交換があげられる。本研究では、医師がどのように他の医師と薬物治療についての情報交換を行っているか、またその情報交換のスタイルと薬物治療に対する態度の関連を検討した。

研究方法

(1)対象

調査期間は2ヶ月間であった。急性期治療を目的とした精神科病棟を有する44施設から調査協力が得られ、その施設に所属する388人の精神科医師の回答が得られた。アンケートに回答した医師の平均年齢は37.4(SD=10.1)歳だった。平均の経験年数は9.7(SD=9.6)年だった。388人の参加者のうち、306名(79.3%)が男性だった。

(2)方法

 「処方や薬剤に関するアンケート」を医師に配布し、回答を依頼した。他の医師との情報交換について、「周囲の医師から処方について助言を受けることがあるか」及び「周囲の医師に処方について助言をすることがあるか」という質問を設定した。薬物治療に対する態度については、エビデンスに基づく治療を行う上で有用な手段である薬物治療のアルゴリズム(以下、アルゴリズムとする)に関する知識の有無やアルゴリズムに対する考え方、抗精神病薬の処方頻度に関する質問を設定した。

分析では、1)医師の情報交換スタイルに関連する要因の検討、2)コミュニケーションスタイルと薬物治療に対する態度の関連の検討、を行った。

研究結果ならびに考察

(1)他の医師との処方に関するコミュニケーションについて

 「周囲の医師から処方について助言を受けることがあるか」及び「周囲の医師に処方について助言をすることがあるか」という質問に対する答えは表1の通りであった。2つの質問に対する回答から、回答者を「双方向」群、「する」群、「される」群、「なし」群の4群に分類し、その後の分析はこの4群について行った。およそ半数が「双方向」群に分類され、助言するが助言をされない「する」群がそれについで多かった。

表1.周囲の医師から処方について助言を受けることがあるか、周囲の医師に処方について助言をすることがあるか
  処方について助言をすることがある
はい いいえ
処方について助言を受けることがある はい 「双方向」群 201人(51.9%) 「する」群 121人(31.3%)
いいえ 「される」群 32人(8.3%) 「なし」群 33人(8.5%)

(2)医師の属性との関連

 情報交換スタイルの分類ごとに、医師の平均年齢を算出した。平均年齢が低かった順に提示すると、「する」群で32.0歳(SD=7.3)、「双方向」群で37.9歳(SD=9.5)、「なし」群で45.7歳(SD=12.6)、「される」群で46.2歳(SD=7.8)であった。分散分析の結果、群の主効果があり(F=33.6, df=3, p=0.00)、「する」群は他の3群より有意に平均年齢が低く(p<.05)、「双方向」群は「する」群より有意に平均年齢が高く(p<.05)、「なし」群と「される」群より有意に平均年齢が低かった。「なし」群と「される」群の間に有意差はなく、ともに「する」群と「双方向」群より有意に平均年齢が高かった(p<.05)。よって、「する」群が最も若く、「双方向」群が次に若く、「なし」群と「される」群が最も年齢が高かった。

 性別や所属している病院の種類や規模と、情報交換のスタイルには関連がみられなかった。

(3)アルゴリズムに対する態度と情報交換のスタイルの関連検討

アルゴリズムに対する態度について、1)アルゴリズムを知っているか、2)アルゴリズムを理解しているか、3)アルゴリズムの妥当性とエビデンスに疑問を持っているか、4)アルゴリズムは必要と思うか、という質問をした。それに対する回答と情報交換スタイルの関連を検討した(表2~6)。

① アルゴリズムを知っていますか
87.3%の医師が「アルゴリズムを知っている」と回答した。「する」群で、アルゴリズムを知っていると回答した比率が低かった。

表2.アルゴリズムを知っていますか
  いいえ N(%) はいN(%)
情報交換スタイル なし 5(15.2) 28(84.8)
される 2(6.3) 30(93.8)
する 26(21.5) 95(78.5)
双方向 16(8.0) 184(92.0)
合計 49(12.7) 337(87.3)
P<0.01 Fisherの直接法による

アルゴリズムを知っていると回答した医師が、以下②③④の質問に回答した。

② アルゴリズムを理解していますか
「する」群と「なし」群で、「アルゴリズムを理解している」と回答した割合が低かった。

表3.アルゴリズムを理解していますか
  いいえ N(%) はいN(%)
情報交換スタイル なし 15(48.4) 16(51.6)
される 6(19.4) 25(80.6)
する 48(48.0) 52(52.0)
双方向 46(24.5) 142(75.5)
合計 115(32.9) 235(67.1)
p=0.00 Fisherの直接法による

③アルゴリズムの妥当性とエビデンスに疑問を感じますか
 「する」群で、「アルゴリズムの妥当性とエビデンスに疑問を感じる」と回答した割合が低かった。

表4.アルゴリズムに疑問を感じますか
  いいえ N(%) はいN(%)
情報交換スタイル なし 18(58.1) 13(41.9)
される 19(61.3) 12(38.7)
する 77(76.2) 24(23.8)
双方向 120(64.2) 67(35.8)
合計 234(66.9) 116(33.1)
p=0.1 Fisherの直接法による

④アルゴリズムは必要だと思いますか
「なし」群で、「アルゴリズムは必要だ」と回答した割合が低かった。

表5.アルゴリズムは必要だと思いますか
  いいえ N(%) はいN(%)
情報交換スタイル なし 8(25.8) 23(74.2)
される 5(16.1) 26(83.9)
する 11(10.9) 90(89.1)
双方向 18(9.7) 168(90.3)
合計 42(12.0) 307(88.0)
p=0.00 Fisherの直接法による

(4)抗精神病薬の処方頻度と情報交換のスタイルの関連検討

 医師の抗精神病薬に対する好みを知るために、処方頻度(定型薬と非定型薬のどちらの処方頻度が高いか)について質問し、情報交換のスタイルとの関連を検討した。「なし」群で、非定型薬の方が処方頻度が高いと回答した割合が低かった。

表6.定型薬と非定型薬のどちらの処方頻度が高いですか
  非定型 N(%) 定型N(%)
情報交換スタイル なし 20(60.6) 13(39.4)
される 28(87.5) 4(12.5)
する 101(83.5) 20(16.5)
双方向 163(81.5) 37(18.5)
合計 312(80.8) 74(19.2)
p<0.05 Fisherの直接法による

(5)考察

 アンケートに回答した医師を、薬剤処方についてのアドバイスを交換しない「なし」群、アドバイスをされるがしない「される」群、アドバイスをするがされない「する」群、アドバイスを交換している「双方向」群に分類して、群ごとに属性や薬物治療に対する態度を検討した。

 「なし」群の医師は、「する」群及び「双方向」群より年齢が高かった。アルゴリズムを知っていたが、理解していると回答した割合は低かった。また、アルゴリズムに対して疑問を感じていると回答した割合が高かった。また、アルゴリズムが必要だと回答した割合も低かった。非定型薬よりも定型薬を好む傾向があった。

 「される」群の医師は、「する」群及び「双方向」群より年齢が高かった。アルゴリズムを知っており、理解していると回答した割合が高かった。また、アルゴリズムが必要だと回答した割合も高かった。定型薬よりも非定型薬を好む傾向があった。

 「する」群の医師は、他の3群より年齢が低かった。アルゴリズムを知っていると回答した割合は低く、またあまり理解していないと回答した割合が高かった。しかし、アルゴリズムは必要だと回答した割合が高かった。定型薬よりも非定型薬を好む傾向があった。

 「双方向」」群の医師は、「する」群より年齢が高く、「なし」群及び「される」群より年齢が低かった。アルゴリズムを知っており、理解していると回答した割合が高かった。また、アルゴリズムが必要だと回答した割合も高かった。定型薬よりも非定型薬を好む傾向があった。