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平成12年度厚生科学研究 障害保健福祉総合研究事業外国人研究者招へい報告書
ディヴィッド・ルコントレポート

基本的前提

 本報告書の主要な前提としてあるのは、日本が比較的短期間に病院中心のシステムを構築し、大多数の人を対象にサービスを提供していることである。日本全体を通してよく見られる勤労倫理、献身、細部への配慮は精神保健システムの中でもよく示されている。このシステムを構築した文化は世界でも最良の地域を拠点とする精神保健システムを構築する態勢、サービスを作り上げる可能性を秘めている。その実現のためには、病院を治療の焦点とするのではなく、地域を治療の焦点とするパラダイムシフトが必要である。本報告書は将来に向けての多くの希望を含んでいる。

背景

 本報告書は2000年10日から24日までの2週間の精神保健コンサルテーション、講義、セミナー、施設訪問に基づいている。この期間に日本の7都市を訪問した。帯広から大阪、神戸までであり、東京は到着、出発時に加え、途中でも訪れた。この滞在は比較の視点を開発するための素晴らしい体験で、病院、地域の精神保健プログラムへの訪問といったあまりフォーマルでない形、講義、セミナー、ワークショップ等のフォーマルな形両方を通じて情報収集・交換ができた。フォーマルな形での発表はどれも多くの参加者を得た。参加者は精神保健専門家、学生、一部のコンシューマーであり、質疑応答の時間はフロアからの参加の素晴らしい時間だった。

マディソンモデルに関するプレゼンテーション

 パワーポイントを使って事前に準備したプレゼンテーションのタイトルは「マディソンモデル:地域での治療を継続すること」であり、米国ウィスコンシン州マディソンでの私たちの包括的なケアのシステムを説明するための中心的な材料となった。このプレゼンテーションは帯広での日本精神障害者リハビリテーション学会での基調講演のために特別に準備したものであり、他の訪問先全てにおいても用いた。このプレゼンテーション資料は、ウィスコンシン州マディソンで包括的なケアのシステムを構築した経験に基づき、地域での精神保健のサービス・原則に関する議論のベースとなった。これが各訪問地での議論の焦点となり、考えを共有し、地域でのサービスに関心を持ってもらうために役だった。このプレゼンテーション資料からは本報告書を通じて引用している他、このプレゼンテーション資料の中で簡潔に触れられている地域での精神保健の原則を説明する部分も本報告書には含まれている。

反応

 訪問に際して用意したパワーポイントのプレゼンテーションの一部として、追加的情報をhttp://userpages.chorus.net/lecount/に掲載した。このウェブサイトには米国帰国以来、日本から100件以上のアクセスがあった。私のメールアドレスLeCount@chorus.netも紹介したため、数多くの電子メール、マディソンへの訪問希望が寄せられてきた。私の帰国後、既にマディソンを訪問したグループもある。積極的地域治療プログラム(PACT:パクト)は1972年にマディソンで開始された先駆的事業であり、地域を拠点とする治療の有効性を初めて証明したものだが、そのマニュアル(Allness, & Knoedler, 1998) は現在、日本語に翻訳作業中である。パクト(PACT)はマディソンモデルの一部ではあるものの私の責任範囲内にはないこと(マディソンモデルとよばれるケアのシステムはマディソン市含むデーン郡の管轄、パクトはウィスコンシン州からの直接補助金で運営されている)、進行中のこの情報交換には密接な関係があることには留意していただきたい。

本報告書の文脈と論及

 本報告書をまとめるにあたり、日米両国に関する多くの比較をすることになる。その際に、自文化優越主義を示したり、一つのアプローチが他のアプローチよりも優れていると強調することは本意ではない。類型や傾向に注目し、私の印象を述べることが目的である。もちろん、印象には私の体験、そしてバイアス(偏り)がつきものである。ここで私のバイアスとは地域を拠点とする治療を支持することであることを明らかにしておきたい。入院に反対するということではなく、入院は地域を拠点とする治療ネットワーク内の一つの治療アプローチとして見なされなければならず、主として最も重症の急性症状に対して短期間用いられなければならないと私は信じている。両国には文化、そして社会、法律、経済、政府に関する大きな違いがあることは承知している。普遍的な人間的価値が本報告書で強調されることは確実である。本報告書での情報提示の起点が、私の視点、私の文化からとなることは十分に意識している。日本文化には敬意を持っているし、読者には私が日本文化を完全に理解しているという誤解を抱いてほしくはない。また、知識不足のまま価値判断を下しているという誤解も望まない。精神保健システム内にいる個人が自らの変化と成長の過程に責任が持てるようにエンパワーされるべきであるのと同様で、ケアのシステムも政府=政治=社会システム、文化という文脈の中で最善の変革を起こすためにどうしたらよいのか、独自に判断を下す必要がある。私たち全てが優れた実践例、有効性という視点から、私たちの持つ長所をさらに発展させ、目標に達することが私の希望するところである。なお、一つ留意して頂きたいのは、私の交流は通訳を通じて行われた点である。したがって本報告書に含まれている情報の一部が不正確である危険性があり、それは誤解、言語的違いによる場合がある。もし実際にそうしたことがあれば、その点についてはお詫びするし、不正確な情報については批判的に判断して頂きたい。また、精神病院の入院者数の歴史的推移、費用などに関しては矛盾する情報を受け取った場合もあり、現在も私は混乱していることをご理解頂きたい。そうした混乱は対話を促進するため、そして必要な説明を求め正確な情報へたどり着くためにも記述されている。