音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成12年度厚生科学研究 障害保健福祉総合研究事業外国人研究者招へい報告書
ディヴィッド・ルコントレポート

住宅

 門屋氏、やどかりの里の創始者である谷中輝雄氏が住宅こそ退院するために最も重要なニーズであるとしているのは全く正しい。多くの素晴らしい集合住宅を訪問してみた。これは外部からの何らかの支援を得て自立して暮らせるコンシューマーのためのものである。現在の住宅レベルは大多数の人にとって適切であるが、精神障害のある人だけの分離された集合住宅の代わりに、統合された住宅であるほうが望ましい。ニーズのレベルが高い人(重度の人)が地域で暮らすために必要な、スタッフが住み込みの支援付き住宅を見ることはなかった。川崎では病院(リハビリテーション医療センター)に隣接した集合住宅(援護寮)があり、それには地域の生活へのワンステップという役割もある。ここには北海道立病院の隣に位置する音更リハビリテーションセンターの援護寮「音更荘」と似ている面があった。私が訪問した中で、地域で最も整備されたケアのある住宅(援護寮)はやどかりの里にあった。3階建ての建物の2階に職員が常駐し、コンシューマーは3階に住んでいる。

 ニーズのレベルが高い人にはスタッフが支援する生活環境、すわなちコンシューマーと職員が地域で統合された普通の家で物理的に一日中一緒にいることができる居住環境を勧めたい。こうした環境は通常、一時的なものと見なされ、コンシューマーが自分のアパートで、外部や訪問スタッフの支援を得て、より自立して暮らすための技術を身につけるものである。私のプレゼンテーションでは、地域に展開する様々な家庭の中やそれ以外の201人分の場所にケアスタッフを備え、1年を通じて563名にサービスを提供していることを示した。種々のケアレベルに応じた居住形態の住居が連続性をもって作られており、地域に徐々に順応できるようにしている。クライシスホームは平均三日間滞在できる場所だが、最も短期的な形態である。こうした受け入れ先は家庭を開放して、退院後に一緒に住んでもらうために地域から募集され、トレーニングを受けた普通のファミリーである。デーン郡精神保健センターにある緊急サービスユニットの支援とバックアップがある。他の職員がケアを提供する居住形態には、グループホーム(内部にケアを提供する職員がいる住宅)があり、6から8名の人が住宅内の職員の支援を受けて暮らしている。ここにはシステム内で最もニーズの高い人がいる。これらのコンシューマーは長期の施設収容からすぐに来た人が多いが、入院していた時も地域のデイサービスと関係は保っていた人である。この集団は、症状が続き、治療にも反応しない、非常に数少ない人である。しかしこの集団の人も、時間が経つにつれていっそう自立的な居住形態に移行することが通常はできる。こうしたグループホームはコミュニティベースの住居施設(CBRF: Community-Based Residential Facilities)として州によってライセンスを与えられているのが普通で、通常は24時間態勢で職員がローテーションを組んで内部から支援を行っている。(ウィスコンシン州デーン郡で提供される住宅の種類とケアのレベル、利用者数については表1を参照されたい)。

表1.デーン郡の支援住宅

濃厚な支援から薄い支援の順(上から下へ)* 施設数 許容人数 年間利用者数**
グループホーム 82 93
受け入れセンター 20 139
クライシスセンター 182
短期ケアホーム 40
成人ファミリーホーム 35 35 48
賄い付き下宿 12 16
集合アパート 40 45
総数 64 201 536

(注)*
 典型的なグループホームは,6~8人の利用者が居住し,最低でも5.5人のスタッフが1日24時間常駐している。集合アパートでは,1人のスタッフがアパート全体の管理を担当している。

(注)**
 利用者の変動があるため,当該年度の利用人員は許容人数よりも多くなる。


解説:デーン郡の支援住宅(2001年の資料)
 この表はデーン郡精神保健サービスによって予算が提供され運営される支援住宅の統計である。デーン郡にある精神障害をもつ人々が利用できる住宅はここに掲載したものだけではない。普通の公営住宅でも,外部からホームヘルプサービスが提供され,精神保健チームによるケースマネジメントによって種々の支援が受けられるからである。以下施設名,施設数,許容人数,年間利用者数の順に解説を加える。利用者の変動があるため,当該年度の利用人員は許容人数よりも多くなる。
 この表に掲載された住宅の種類は,濃厚な支援から薄い支援の順に記されている。まず,訓練を目的とし,支援スタッフによって生活の組み立てや日常の生活技能を身に付ける監督者つき住宅であるグループホームが9施設,許容人数は82,年間利用者数は93である。典型的なグループホームは,6~8人の利用者が居住し,最低でも5.5人のスタッフが1日24時間常駐している。集合アパートでは,1人のスタッフがアパート全体の管理を担当している。次に受け入れセンターとして一時的滞在のできる住宅が1施設,許容人数は20,年間利用者数は139にのぼる。次に危機を迎えた時に利用するクライシスセンターが9施設,許容人数は9,年間利用者数は182にのぼる。短期ケアホームは3施設,許容人数は3,年間利用者は40である。代替的な家庭の雰囲気を提供する成人ファミリーホームは35施設,許容人数は35,年間利用者数は48である。それほどケアを必要としない人に対しては,賄い付き下宿が3施設,許容人数は12,年間利用者数は16である。最もケアレベルの低いの施設は集合アパートで4施設,許容人数は40,年間利用者数は45である。
 総じて,施設数は64,一時の利用者は201人,年間利用者数は536人にのぼる。
Source: LeCount, D. (1998).

 入院を最小限にすると共に、コンシューマーが地域で暮らせる可能性を最大限にするためには、退院の前に自立して生活できるところまでトレーニングを行うのではなく、職員による高いレベルのケアがある居住形態を地域で提供する必要がある。私の経験では、心理社会リハビリテーションは自分のニーズを満たす中で、実用的な日常生活への対応が学べる地域でこそ最良の結果が得られる。

模範的実践

 地域での取り組みを促進するための個別の実践を通じて何が可能なのかを示す数多くの例を目にした。帯広の門屋氏、大宮の谷中氏の確信に基づいて、適切な住居を獲得し、多少の支援を得た多くの人の生活が、向上した。強く印象に残ったのは門屋氏が帯広で、金銭的余裕のある複数の個人から支援を得て、住宅を確保していたことである。官民の相乗効果は印象的である。特別なニーズのある人に質が高く、安全で、安価な住宅の提供に関する場合はなおさらである。谷中氏の場合は全国的なモデルである。個人的な献身が支援の小さな核を形成し、そこから地域支援システムの発展させることができることを示す好例である。やどかりの里は30年以上の歴史があり、サービスのネットワークを徐々に形成してきた。居住の場所から始め、就労の機会のあるデイサポートまでである。こうしたサービスは完全に地域に統合されている訳ではないが、地域がこれらを包み込んでいる。このようにして、存在感、継続的な情報提供により、ある程度の受容と統合が存在していると私は考えている。やどかりの里の強力な支援体制の中で暮らしているコンシューマーを訪問してみたら、はっきりとしたプラスが見られた。積極的に取り組み、自分の仕事に誇りを持ち、将来に希望を抱く複数のコンシューマーに会えたのである。

 川崎では各区単位での地域精神保健活動や地域サービスの開発を通じて多くの人の暮らしが向上してきた。それにはチームアプローチ、複数の機関からの協力による貢献もあった。宮前区に好例がある。精神保健と福祉の多岐にわたるサービス機関に属する献身的な職員が毎月会合を持ち、ケースマネジメントと全般的な連絡調整について話し合っている。パワーポイントを使った私のプレゼンテーションは、コアとなる精神保健福祉サービスと関連するシステムがケアの地域システムとして協力する必要性を強調した。川崎の例は自発的な努力が達成できることを示す素晴らしい例である。川崎市のリハビリテーション医療センターは分野を越えたチームを結成し、地域に出て行き、積極的な訪問活動を行って行く計画があると聞いた。これはコミュニティ指向のシステムを形成するためには不可欠の要素である。

地域指向の精神医療

 地域指向の精神医療はほとんど存在していないし、日本ではよく理解されていない概念のようだ。残念ながら良好な精神薬理学的な地域指向の精神医療が欠如し、また、チームアプローチ、確信、責任を持って危険を冒すという尊厳の促進、地域で展開されるプログラムやサービス抜きで地域での取り組みを進めることは不可能とまではいかずとも非常に困難である。精神科医が一部の会場ではプレゼンテーションを行ったのに私は着目しているし、帯広でのセミナー、施設訪問で数名の精神科医が活動していることには特に感銘を受けた。