修正議長草案と議長草案の比較
川島聡・長瀬修 仮訳
(2006年4月4日付)
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
- 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待
(それらのジェンダーに基づく側面を含む。)から家庭の内外で障害のある人を保護するためのすべての適当な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる 。
80
- また、締約国は、特に、障害のある人及びその家族並びにケアの提供者に対する適当な形態の
ジェンダー及び年齢に敏感な援助及び支援を確保すること(暴力及び虐待の事件を防止し、認識し及び報告する方法に関する情報及び教育を提供することを含む。)により、
あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防止するためのすべての適当な措置をとる。
締約国は、保護サービスが年齢、ジェンダー及び障害に敏感であることを確保する 。
81
あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、締約国は、障害のある人のために設けられたすべての設備及び計画が独立の当局により効果的に監視されることを確保する 。
82
- 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待による被害者である障害のある人の身体的、認知的及び心理的な回復、リハビリテーション及び社会復帰を促進するためのすべての適当な措置をとる(保護サービスの提供を含む。)。このような回復及び復帰は、障害のある人の健康、福祉、自尊心、尊厳及び自律を育成する環境において行われなければならず、
また、ジェンダー及び年齢に特有なニーズを考慮に入れる 。
83
- 締約国は、障害のある人に対する搾取、暴力及び虐待の事件が発見され、調査され、かつ、適当な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策
(ジェンダー及び子どもに特有な法令及び政策を含む。)を定める 。
84
第17条 個人のインテグリティの保護
85
- 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の個人のインテグリティを保護する 。
86
- 締約国は、いかなる現実の又は認識された機能障害であっても、それを矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する。
- 非自発的介入を必要とする緊急医療の場合又は公衆の健康上の危険が生じる事柄の場合には、障害のある人は他の者との平等を基礎として取り扱われるものとする。
- [ 締約国は、次のことを確保する。
(a) 代替策を積極的に促進することにより、障害のある人への非自発的治療を最小限にすること。 (b) 法律で定める手続に従い、かつ、適当な法的保護を適用して、例外的な環境においてのみ障害のある人への非自発的治療を行うこと。 (c) できる限り最も制約の少ない環境において障害のある人への非自発的治療を行うこと、及びその者の最善の利益を十分に考慮すること。 (d) 障害のある人への非自発的治療が、その者にとって適当であり、また、その治療を受ける個人又はその家族に対して費用の負担なしに提供されること。]
第18条 移動の自由
及び国籍
87
- 締約国は、次のことその他を確保することにより、他の者との平等を基礎として、移動の自由、
居所を選択する自由及び国籍についての障害のある人の権利を
認める 。
88
-
障害のある子どもは、出生の後直ちに登録される。障害のある子どもは、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその親を知る権利及びその親によって養育される権利を有する。
92
第19条 自立した生活及び地域社会へのインクルージョン
この条約の締約国は、
障害のあるすべての人が他の者と平等な選択を有して地域社会で生活する平等な権利を認め、また、次のことその他を確保することにより、
障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適当な措置をとる 。
93
(a) | 障害のある人が、他の者との平等を基礎として居所並びにどこで誰と住むかを選択する機会を有し、かつ、特定の生活様式で生活することを義務づけられないこと。 |
(b) | 障害のある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援を含む。)を利用することができること。 |
(c) | 地域社会における公衆向けのサービス及び設備が、障害のある人にとって平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人のニーズに応ずること。 |
第20条 個人の移動性
94
締約国は、次のことその他により、障害のある人の最大限可能な自立を伴った個人の移動性を確保するための効果的な措置をとる 。
95
- 「あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待」の後に「(それらのジェンダーに基づく側面を含む。)including their gender based aspects」を挿入。
- 「搾取、暴力及び虐待」の前に「あらゆる形態のall forms of」を挿入。「適当な形態の援助及び支援」を「適当な形態のジェンダー及び年齢に敏感なgender and age sensitive援助及び支援」に修正。「締約国は、保護サービスが年齢、ジェンダー及び障害に敏感であることを確保する。States Parties shall ensure that protection services are age, gender and disability sensitive.」を追加。
- 「搾取、暴力及び虐待」の前に「あらゆる形態のall forms of」を挿入。
- 「また、ジェンダー及び年齢に特有なニーズを考慮に入れるand takes into account gender and age specific needs」を追加。なお、議長草案及び修正議長草案では、integrationという言葉は使われていないが、social reintegrationという言葉は本条で使われている。social reintegrationは「社会への再統合」と訳すこともできるが、ここでは「社会復帰」と訳した。この関連規定である子供の権利条約39条の政府訳は、social reintegrationを「社会復帰」と訳している。なお、子どもの権利条約23条の政府訳は、social integrationを「社会への統合」と訳している。
- 「法令及び政策」の後に「(ジェンダー及び子どもに特有な法令及び政策を含む。)」を挿入。
- integrityの訳語は以下に挙げたいくつかの例を見ても多様である。「Right to the integrity of the person人間の完全性についての権利」「the right to respect for his or her physical and mental integrity身体的及び精神的完全性を尊重される権利」欧州連合基本権憲章3条見出し及び同憲章3条1(松井他編『国際人権条約・宣言集(第3版)』東信堂(2005年)128頁)、「physical, mental, and moral integrity身体的、精神的及び道徳的尊厳」米州人権条約5条(松井他編『国際人権条約・宣言集(第3版)』東信堂(2005年)158頁)、「physical and mental integrity肉体的、精神的な保全」(宮崎編『解説・国際人権規約』日本評論社(1996年)134頁)、「the dignity and the physical and mental integrity of the individual個人の尊厳と、 身体的、精神的完全性」自由権規約委員会一般的意見20第2パラグラフ(大阪弁護士会訳(デザイアス他『国際人権「自由権」規約入門』明石書店(1994年)171頁))。これらの例を含め、integrityは、さまざまな文脈でさまざまに訳されるが、本条の文脈においても、「完全性」、「保全(性)」、「不可侵性」、「無傷性」、「純一性」、「一体性」、「統合性」、「統一性」、「インテグリティ」等さまざまに訳されうるであろう。また、the integrity of the personについても、「人身の不可侵」、「身体の不可侵性」、「身体保全」、「個人の完全性」、「個人の一体性」、「人格総体」、「人格の完全性」等さまざまに訳されうるが、さしあたり、ここでは「個人のインテグリティ」と訳した(外務省ウェブサイトでは、修正議長草案17条見出しは「人格の完全性の保護」と訳されている)。
- 「障害のある人の個人のインテグリティ」の英語版原文は、the integrity of the person or persons with disabilitiesとされているが、ここでのorはofの誤りと思われる(さしあたり、本翻訳では、orをofとみなして訳すことにした)。この箇所に該当する他の言語の原文では、la integridad personal de las personas con discapacidad(スペイン語版)、残疾人人身完整性(中国語版)、l’integrite de la personne des personnes handicapees(フランス語版)等とされている(英語版の国連文書では後に、orに関して、訂正文書(/Corr.)が出るかもしれないが、現時点では定かでない)。
- 「移動の自由」(議長草案18条見出し)を「移動の自由及び国籍Liberty of movement and Nationality」に修正。議長草案18条の本文全体に付されていた角ブラケットを削除。柱書と(a)(b)(c)から成る議長草案18条を、条文構成上、18条1柱書(a)(b)(c)(d), 2に修正。
- 「移動の自由についての障害のある人の権利を尊重し及び確保するための効果的な措置をとる。」を「移動の自由、居所の選択の自由及び国籍についての障害のある人の権利を認めるrecognize the rights of persons with disabilities to liberty of movement, to freedom to choose their residence and to a nationality」に修正。なお、自由権規約12条1の政府訳は、the right to liberty of movement and freedom to choose his residenceを「移動の自由及び居住の自由についての権利」と訳し、人種差別撤廃条約5条(d)(i)の政府訳は、The right to freedom of movement and residenceを「移動及び居住の自由についての権利」と訳し、女性差別撤廃条約15条4の政府訳は、the freedom to choose their residence and domicileを「居所及び住所の選択の自由」と訳し、子どもの権利条約9条1の政府訳は、the child's place of residenceを「児童の居住地」と訳している。
- 「国籍を取得する権利」を「国籍を取得し及び変更する権利」に修正。
- 「文書を所有し及び利用する能力their ability to posses and utilize documentation」を「文書を入手し、所有し及び利用する能力their ability to obtain, posses and utilize documentation」に修正。
- 議長草案に見られない新たなサブパラグラフ・内容。関連規定として子どもの権利条約10条2等。
- 議長草案に見られない新たなパラグラフ・内容。関連規定として子どもの権利条約7条1。
- 「締約国」を「この条約の締約国」に修正。「障害のあるすべての人が他の者と平等な選択を有して地域社会で生活する平等な権利を認め、また、…recognize the equal right of all persons with disabilities to live in the Community, with choices equal to others, and…」を追加。「障害のある人による選択の自由の完全な享有、自立した生活並びに地域社会への完全なインクルージョン及び参加full enjoyment by persons with disabilities of their freedom of choice, living independently and full inclusion and participation in the community」を「障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加full enjoyment by persons with disabilities of this right and their full inclusion and participation in the community」に修正。
-
作業部会草案(U.N. Doc. A/AC.265/2004/WG.1, 27 January 2004, Annex I)に付された「注72」によれば、作業部会において第20条の見出しがPersonal mobilityとされたのは、自由権規約12条(1)のright to liberty of movementと区別するためである(なお、Personal mobilityに該当する他の言語の原文は、
(中国語版)、Movilidad personal(スペイン語版)、Mobilite personnelle(フランス語版)等とされる。同じく、Liberty of movementは、迁徙往来自由(中国語版)、Libertad de desplazamiento(スペイン語版)、Liberte de circuler(フランス語版)等とされる)。
本翻訳では、さしあたりpersonal mobilityを「個人の移動性」と訳した(外務省のウェブサイトでは、Personal mobilityは「個人のモビリティー」と訳されている)。ただし、mobility aidsは「移動補助具」、mobility skills は「移動技能」、orientation and mobility skillsは「歩行技能」(24条3(a))と訳した。なお、障害者福祉研究会編『ICF 国際生活機能分類』中央法規(2002年)137頁は、mobilityを「運動・移動」と訳している。 - 「移動の自由liberty of movement」を「個人の移動性personal mobility」に修正。「次のことを含むincluding」を「次のことをその他によりincluding by」に修正。
- 「移動の自由liberty of movement」を「個人の移動性personal mobility」に修正。
- high qualityをqualityに修正(訳語の変更なし)。
- 「民間主体private entities」を「主体entities」に修正。