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東日本大震災被災地における経験と取り組み

阿部一彦
JDFみやぎ支援センター
日本身体障害者団体連合会
仙台市障害者福祉協会

昨年3月11日に発生した東日本大震災は死者・行方不明者の合計が1万8千人を超す大惨事をもたらしたが、そのうちの59%が宮城県内の人々であった。そのような大きな被害を受けた宮城県内の障害者団体にとって、JDF(日本障害フォーラム)の支援は心強いものであった。3月23日、ライフラインや交通網が大きく破綻している中、JDF幹事会メンバーとの情報交換会に宮城県内の17の障害者団体が参加した。各団体から悲惨な状況と不安の声が寄せられた。そして、地元団体同士の連携の必要性とJDFによる支援の重要性が確認され、地元団体は緩やかなネットワークを結成した。
3月30日には、全国各地から参集した支援員と地元の団体等との連携をもとに、JDFみやぎ支援センターが開設された。JDFみやぎ支援センターでは、約1週間単位で交替する支援員の引継ぎによって毎日40名前後の人々が宮城県内の被災地等に出向いて活動した。JDFみやぎ支援センターでは障害者施設の被災状況の調査と再建支援に取組んだ。被災した多くの施設が通常のサービスを提供できなくなり、その影響は多くの利用者と家族に生活上の多大な困難をもたらしていた。そこで、再建支援は重要であった。

JDFみやぎ支援センターの支援員によると、一般避難所では障害者に出会うことは少なかった。一般の避難所では障害者にとってのバリアが多く、障害への理解不足から人間関係のトラブルが生じたりして、障害者は避難所を退去して被害の大きい自宅に戻ったり、親戚宅等を転々としたりせざるを得なかった。障害があっても利用しやすい避難所の設置や障害理解の促進が求められる。
JDFみやぎ支援センターでは依頼があれば、浸水した住居の汚泥の撤去・清掃作業、そして生活用品、福祉用具等の調達・配送等に取り組むことができたが、支援を求めている人の情報が届きにくかった。個人情報保護条例の壁は障害者との出会いを困難にし、適切な支援を妨げた。
福祉サービスを利用している人の情報は障害者施設とのつながりからある程度把握できた。また、障害者団体に属している人の情報は所属団体事務局を通してある程度把握できた。しかし、福祉サービスも利用せず、障害者団体にも属さない多くの障害者の情報は把握できなかった。また、行政から障害者の情報の提供を受けることはできなかった。災害時の個人情報保護の在り方については、今後検討しなければならないと切に思われる。

緩やかなネットワークをもとに地元の障害者団体はJDFみやぎ支援センターやJDFを構成する各団体の現地対策本部、難民を助ける会等との情報交換会を重ねた。情報交換会に集まる地元団体は当初は17団体であったが、次第に増え、60団体を超えるほどになった。地元の障害者団体は様々な活動を展開した。例えば、私が所属する団体では震災後直ちに安否確認活動を行うとともに、障害等による特別なニーズをもつ人々のために「福祉避難所」を開設した。また、震災後の混乱時の生活に必要とされる情報を会員等に墨字版、点字版、音声版、メーリングリスト版等で発信し続けた。他団体も障害特性に応じた活動を行った。ある団体は、テレビ等を通して酸素ボンベの入手情報を伝え続けた。ある団体は薬の入手方法に関する情報を発信し続けた。また、直接会員に生活必需品や医療品を配達する活動を行った団体もあった。 しかし、地元の障害当事者団体の活動には限界があった。所属する会員への支援はある程度行えたが、障害のある多くの人々は障害当事者団体に所属してはいない。そのような人々にとってJDFみやぎ支援センターの活動は重要であった。地元当事者団体とJDFみやぎ支援センターの収集した情報をもとに、多くの要望事項を政府や自治体に発信することができた。

また、障害者の死亡率が一般住民の死亡率の2倍以上であることが判明し、改めて災害弱者としての障害者への避難支援の在り方が問われている。
被災者の生活は時間の経過とともに大きく変化し、プレハブ仮設住宅や家賃補助を利用して民間の賃貸住宅での生活が続いている。障害があると家賃補助を受けて民間の住宅で生活している人が多いが、個人情報保護のため、どこで暮らしているのかという情報に乏しく、孤立を深める危険性がある。
やがて、被災した人々が社会とのかかわりを取り戻していくとき、障害者や高齢者が取り残されてしまう心配がある。障害のある人々が孤立することなく、健康を維持し、学んだり、働いたりして、地域社会に参加するためには、多様な支援の選択肢が必要である。障害があっても地域社会から隔離されることなく、バリアフリー化された復興公営住宅等を利用して地域社会の一員として充実した生活を営むことができるシステムの構築が求められる。被災地の障害当事者団体は、今後、地域の住民組織等との相互理解と連携を図り、誰もが孤立することのないインクリーシブ社会の構築のための活動を行っていく必要がある。被災者間の格差や被災地間の格差を生じさせない活動が求められる。

東日本大震災を契機に、人々の間に絆、つながり、支え合い、信頼関係の大切さが意識されているという報告があるが、これらを一時的なものにすることなく、日本の社会全体に定着させなければならない。加えて、今後危惧される災害に対して、障害や障害者の理解を図りながら、防災・減災に向けた意識啓発を、当事者から発信していくことも重要である。これらの促進を図るためにも、障害当事者団体の果たすべき役割は大きい。