インドネシアの障害者政策: 障害者カードとその実施

マウディタ・ゾブリタニア(Maudita Zobritania)
国立重度知的障害者総合施設 のぞみの園 研究員(インドネシア在住)

2023年のある日、日本語試験を受験する際に会場で合理的配慮を受けるためには障害者証明書が必要であることを知りました。証明書の申請手続きの際、この国の官僚的事務処理の迷路に入り込み、不愉快な思いをしました。インドネシアで生まれ育ったにもかかわらず、私はそのような手続きとその複雑さには不慣れでした。インドネシアでは、この証明書はSurat Keterangan Disabilitas(スラット・カテランガン・ディサビリタス=障害者証明書)として知られています。それは、基本的に病院または全国にある政府指定の地域保健所「Puskesmas(プスケスマス)」の医療専門家が発行する、個人情報や検査結果、そして障害を証明する内容が記載された手紙です。

私はまずインターネットで検索することから始め、政府のウェブサイトにある手紙の定型書式を見つけました。しかし、そこには何の説明もありませんでした。そこで、次に地元の地域保健所のウェブサイトの記事を読み、その指示に従いました。保健所で尋ねたところ、「保健所には証明書を発行する権限がない」と言われました。総合病院に行くように勧められたので、一番近い病院へ行きました。

病院に着くと、スタッフは証明書について知らないようでした。私は説明し、辛抱強く待ちました。その間、職員は上部機関に相談したり、ネットで検索したりして、何とかこの問題を解決しようとしてくれました。そのような事態を想定し、あらかじめネットで見つけ印刷しておいた書式を職員に見てもらいもしました。結局、何度も説明し、長い間待たされたあげく、医師の診断を受けることになりました。しかし、その医師もどのような処置をすれば良いのかを知らない様子でした。結局、順番待ちの列は短かったにもかかわらず、手続きに3時間近くかかってしまいました。

悲しいことに、この経験は私に限ったことではありません。多くの障害者が似たような困難を経験していると聞いています。障害者証明書の入手は、小さな都市に住む人々や、聴覚障害などの専門的な判定を必要とする人々にとって特に困難な場合があります。このことは、障害を持つ人々が、必要不可欠なサービスや便宜を得るためにさらなる障壁に直面するという制度的な問題を示しています。

障害者カードや障害者証明書は、障害者を識別するための有用なツールであるだけでなく、インクルージョンを促進する戦略の1つでもあることは広く知られています。モント(Mont)他(2019年)は、障害者証明書にはその重要性の根拠となる3つの主な役割があると述べています。第一に、個人が恩典を受給する資格があるかどうかを立証する役割です。第二に、ある人が障害者であることを認定し、特別な給付を受ける資格があることを示す政府の政治的声明としての役割です。最後に、行政データ収集システムとしての機能です。

さらに、障害者証明書の主な目的は、一種の社会保障として機能することです。障害者証明書を取得することで、医療サービスから教育的便宜や配慮に至るまで、障害者が必要不可欠なサービスを利用できるようになります。障壁を減らし、社会への平等な参加を促進する上で、障害者証明書は重要な役割を果たしています。しかし、インドネシアのような国では、カードを取得するまでの道のりは、思ったほど平坦ではありません。

インドネシアは、障害者の権利を守る法的枠組みの確立において大きな進歩を遂げてきました。2011年に国連障害者権利条約を批准した後、2016年法律第8号を制定し、障害者の権利と保護について概説しました。第22条は、障害者カードを取得する権利を含む、障害者のデータ収集に関する権利について具体的に述べています。また、第121条は障害者カードについてさらに詳しく述べています。全国障害者データに登録されている障害者には障害者カードを取得する権利があると規定しています。また、障害者カードの発行は、ソーシャルセクターの行政事務を担当する省庁の権限下にあり、発行に関する詳細は省令により規定されています。

「ジャカルタ障害者カード」は、ジャカルタ市内の障害者住民を支援する取り組みとして2019年に導入されました。このカードは、ジャカルタ州ソーシャルサービスが管理する社会支援プログラムの下にあります。このプログラムの設立は、ジャカルタ首都特別州政府に関する法律2007年第29号、社会福祉に関する法律2009年第11号、障害者に関する法律2016年第8号、障害者の権利の尊重・保護・履行の実施に焦点を当てた地方規則2022年第4号、社会保護の観点に立った社会的支援の提供に関する州条例2022年第44号など、いくつかの立法機関制定法に基づいています。

同カードの利用者には月額30万ルピア(約2,800円)が支給され、3ヶ月に1度、DKI銀行を通じて引き出すことができます。金銭的な特典だけでなく、このカードは、使い勝手がよく、必要な商品やサービスへのアクセスを容易にすることを目的としたさまざまな特典を提供します。例えば、このカードはデビットカードとして機能しますので、カードで金融取引を行うことができます。さらに、ジャカルタの主要交通サービスのひとつであるトランスジャカルタを無料で利用することも可能で、障害者の交通費の負担を軽減します。また、カード所持者はジャカルタの有名な食料品店であるJakgrosir(ジャックグロサル)で食品購入時に補助を受けることができ、主食を割引価格で入手することができます。さらに、生活必需品を購入する際には、DKI銀行からの特別割引が受けられます。

このカード取得のための要件は、ジャカルタ市の住民であることを証明する有効な身分証明書を持っている低所得世帯の障害者で、指定されたウェブサイトおよび統合社会福祉データ(DTKS)システムを通じて障害者データ収集に参加した人であることです。

「ジャカルタ障害者カード」は、インドネシアの首都における障害者支援の大きな前進ではありますが、適用範囲が限られていることを認識することが重要です。このプログラムの恩恵は依然として都心部に限られており、国内のほとんどの障害者はまだその恩恵を受けていません。

他の地域では、冒頭で述べた、障害を認定するための代替手段として、Surat Keterangan Disabilitas(スラット・カテランガン・ディサビリタス=障害者証明書)を使用しています。「ジャカルタ障害者カード」とは異なり、この証明書は障害者であることを証明するものであり、これにより毎月の手当や必要なサービスの料金割引などの特典が与えられることはありません。この証明書は通常、政府系企業の求人に応募する際や、障害者を対象にしたプログラムに参加する際に使用されます。

このように、ジャカルタと他の地域とでは支援制度において格差があります。障害者カードによる全国の障害者支援プログラムがより効果的で公平な手法により実施される必要性が差し迫っています。この課題に対処するには、都心部以外の地域にも行き渡る、障害者を含んだ、包括的な政策を策定・実施するための、国と地方の両レベルでの総合的な取り組みが必要です。

インドネシアにおける障害者カード・証明書制度の実施には、さまざまな困難と限界があります。第一に、これらの制度を利用できる地域が限られているため、必要不可欠な給付を受ける際の格差がさらに悪化し、指定地域外に居住する障害者は不利な立場に置かれています。

この課題に取り組むには、単にプログラムの適用範囲を広げるだけでなく、総合的なアプローチが必要です。多様なニーズや状況を考慮した包括的な戦略です。それには、アクセシビリティ(利用しやすさ)を向上させるインフラ整備への投資、プログラムの認知度を確保するための啓蒙活動や啓発キャンペーンの強化、そして、制度の実施を促進するため、地元の関係者や地域団体間の協力関係の構築などが含まれるでしょう。

もうひとつの大きな課題は、既存の制度の実施にあります。例えば、現在は医療、補助器具、交通機関など、必要不可欠なサービスについての配慮が不十分です。障害者はその特有のニーズにより、しばしばより大きな経済的負担を強いられます。特定の容態に関連した専門的な治療を受けるときなど、高額な医療費を払わなければならない状況に遭遇する可能性が高いです。さらに、車椅子、補聴器、義肢装具などの補助器具が必要な人は、経済的な負担がさらに大きくなります。これらの必須補助器具は高額であることが多く、標準的な医療保険ではカバーされないのです。

さらに、受益者数、現場の状況、利用者からのフィードバックを含む、プログラムの定期的なモニタリングと評価報告がないため、プログラムの効果を追跡することが難しく、対象となる個人が適切な支援を受けられるようにする努力が阻まれています。定期的な評価を実施し、障害者、医療提供者、支援団体を含む関係者からのフィードバックを集めることで、認証プロセスの有効性について貴重な理解を得ることができるでしょう。

これらの課題に効果的に取り組むためには、障害者支援制度に関する包括的なデータを収集し、その影響と効果を評価するために定期的な評価を実施し、関係者間の協力を促進し、外国の最良事例から学ぶことが重要です。協力的でデータ主導のアプローチを採用することで、インドネシアは障害者支援の取り組みの包括性と有効性をさらに促進し、全国の障害者の完全参加とエンパワーメントを確保することができるでしょう。

参考文献:
Dinas Sosial(2023年)。KPDJ(Kartu Penyandang Disabilitas Jakarta)。ポータルResmi Provinsi DKI Jakartaより検索。www.jakarta.go.id
障害者に関する法律第8号(2016年)。 https://peraturan.bpk.go.id/Details/37251/uu-no-8-tahun-2016
Mont, D., Palmer, M., Mitra, S.他(2019)。障害者IDカード: 効果的デザインの問題。Development 第62巻、 96〜102頁。https://doi.org/10.1057/s41301-019-00216-1

menu