子どもと一緒においしく食べたい!一般社団法人mogmog engineの取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年12月号

一般社団法人mogmog engine 共同代表
加藤さくら(かとう)

私は、一般社団法人mogmog engineの加藤さくらと申します。共同代表の永峰玲子と私の娘は、摂食嚥下障害があります。

私たちが活動を始めるきっかけになったのは、2019年、都内の特別支援学校を舞台に開催した『特別支援学校の特別おもしろ祭』(主催:一般社団法人障害攻略課)というイベントです。さまざまなおもしろいコンテンツを紹介する中で、『おもしろい食』のブースでは、みんなで一緒に食べるインクルーシブフードを提供しました。経口・経鼻・胃ろうから楽しめる「もぐもぐはそれぞれ3種のスープ」、レンゲにペースト状のシャリとネタをのせて噛まずに飲める「にぎらな寿司」、とろみ付きのドリンクが選べる「とろみ自動調理機」を試食いただき、みんなで同じものを「おいしいね♪」と食べる空間をつくりました。

参加者は摂食嚥下障害がある子どもやその家族が多かったため、「せっかくなのでみなさんのお困りごとをヒアリングしよう!」となり、話しやすい雰囲気を演出するために、ブースの内装を場末のスナックの世界観にして、スタッフはスナックのママという設定に(図1)。店名も『スナック都ろ美(とろみ)』として、摂食嚥下障害がある方がフラッと寄りたくなるネーミングにしました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

イベント当日、ブースに来てくださった100名を超える方々に「子どもの食事について困ってることな~い?」と聞いたところ、「子どもの摂食嚥下障害に関する情報が少ない!」「おいしく食べたい、らくしたい!」「気軽に気楽に外食したい!」といった親たちの切実な叫びが多く聞こえました。

永峰と私も、同じく摂食嚥下障害がある子どもがいる親として深く共感したとともに、「これは社会課題として世の中に発信しつつ、攻略していかなければならない!」と強く想い、イベントからスピンオフする形で、摂食嚥下障害がある子どもとその家族のためのオンラインコミュニティ『スナック都ろ美』を立ち上げました。2023年11月現在、約550名の登録者がいます。ちなみに、スナック都ろ美では登録者のことを“常連さん”と呼んでいます。

「子どもの摂食嚥下障害に関する情報が少ない!」という声を解消するため、常連さん同士が情報共有をすることができる場をつくりました。月数回zoomでバーチャルスナックをオープンする他、LINEのオープンチャットを活用して、24時間365日気軽に相談できる場を設けています。オススメの商品、食べる時の姿勢、専門職探し、学校給食についてなど、子どもの食に関するあらゆる相談や情報が飛び交う場として活気が溢れています。

さらに、コミュニティ内で出た愚痴(ニーズや課題)は愚痴で終わらせず、社会課題として企業や自治体に掛け合い攻略していくため、2022年一般社団法人mogmog engineを立ち上げました。目的は、『食を通してインクルーシブな世の中にする』。図2のように、外食先で「もぐもぐは、それぞれ」の光景を当たり前にすることが私たちが目指すビジョンです。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

2022年11月と2023年3月にこの光景を体現するイベントをしました。2022年度の東京都と東京医科歯科大学・東京大学の共同事業『インクルーシブフードの開発と普及』にて、コーディネーターとしてmogmog engineが関わり、常連さんにヒアリングをして摂食嚥下障害がある子どもたちの目がキラキラする、やわらかお子さまランチ『もぐもぐBOX』と『スイーツ』を開発しました(図3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

摂食嚥下障害がある方もない方も、ごちゃ混ぜのテーブルでみんなで同じものを食べるイベントです。いつもミキサーなどの調理加工が必要な子どももそのまま食べられるように調理してあるので、メニューが運ばれてきてから「いただきます!」と同時に家族と一緒にもぐもぐすることが可能です。鼻や胃のチューブからもぐもぐする子は、手元調整で注入が可能になります。

イベントに参加した方から、「この空間に“障害”はなかった」という声がありました。私たちはこの経験を元に、食に関する障壁を一つずつクリアにしていくことで、食のバリアはなくせると確信しました。

そして、メニュー開発のみならず、外食しやすい世の中にするために『咀嚼配慮食サービス』を展開しています。咀嚼配慮食サービスでは、その名のとおり、咀嚼に配慮が必要な方が安心して外食できるようにお店側で提供するサービスのことです。

例えば、現状では外食先のメニューで食べられる形態のものがほとんどないため、食形態を加工するための調理機器やそれが難しい時のためにレトルト食品の持ち込みをする必要があります。しかし、荷物が増えるだけでなく、ミキサーの音が気になる、使用後の洗う場所がないなどの課題があります。飲食店の中には、ミキサー使用NGと言われることも。以前、常連さん向けのスナック都ろ美簡易調査で『飲食店でミキサー使用やレトルト持ち込みを断られたことはありますか?』と聞いたところ、55名中11名が「断られたことがある」と回答しました。外食がしたくてもできない家族がいるのです。

そこで、4つのステップを考え、お店側にはできるところから取り入れていただけるようにしました。

STEP1 調理機器、レトルト食品の持ち込みOK
STEP2 調理機器、カトラリー類の貸出
STEP3 メニューの加工(お店側できざみやミキサー食の対応)
STEP4 インクルーシブフード&ドリンクの提供

導入先に、分身ロボットカフェDAWN ver.β(東京)がありますが、STEP2と4(※インクルーシブドリンク)を実施しています。なんと希望者にはとろみ剤のサンプルを無料提供する取り組みもあります。

お出かけ時の荷物が減るだけでなく、入店拒否や店内で肩身が狭い思いをすることなく過ごせるなどストレス軽減にも繋がるため、今後、全国の飲食店で展開できるように推進していきたいです。

最後に、摂食嚥下障害がある子どもたちとその家族の食をサポートすることは、摂食嚥下障害がある高齢者や予備軍である私たち自身の今後の食をサポートすることにもなります。

お食い初めからお食い締めまで食を楽しみ、人生の最期まで「おいしいね」を大切な人たちと共有する幸せな時間を過ごすために、ぜひ一緒に食を通してインクルーシブな世の中を創りませんか?

※マンスリーサポーター募集中(1,000円/月~)
https://community.camp-fire.jp/projects/view/666777

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