「ばりあふりーお食事会」の取り組み~摂食嚥下障害の子どもと家族に外食の機会を~

「新ノーマライゼーション」2023年12月号

新潟大学医歯学総合病院 口腔リハビリテーション科
伊藤加代子(いとうかよこ)

新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野
井上誠(いのうえまこと)

ばりあふりーお食事会とは

「人生の最大の楽しみは食事である」とも言われていますが、ご自宅等での毎日のお食事に加え、たまに外食をすることは、人生に彩も与えてくれます。

摂食嚥下に問題を抱えた障害児の大半は、やわらかい食事やミキサー食を食べたり、経鼻胃管や胃瘻(いろう)等から栄養を摂取したりしていますが、このような特別食を作ることができる飲食店はほとんどないのが現状です。そのため、家族で外食をする場合、別に持参をすることを余儀なくされ、同じメニューを楽しむことができません。また、こまめに吸引をしたり、食事中に身体を横たえて休憩したりするためのスペースが必要なことがありますが、対応できる飲食店もほとんどありません。

そこで、新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野、にいがた摂食嚥下障害サポート研究会、特別支援学校スタッフ、ホテルオークラ新潟のシェフが協力し、2005年から「ばりあふりーお食事会」を開催しています(図1)(2019年から2022年まではコロナ禍のため休止)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

ばりあふりーお食事会で提供している食事

ホテルオークラ新潟のシェフに協力いただき、フルコースを普通食(図2)、後期食、中期食(図3)、初期食(図4)、注入食の5段階で提供し、参加者の摂食嚥下障害の状態に合わせて選べるようにしています。家族全員が「同じメニューを食べる」というコンセプトのもと、普通食を舌でつぶせる柔らかさや飲み込みやすい性状、あるいは経鼻胃管に注入できるように工夫して調理しつつも、彩りや飾りつけにも趣向を凝らし、目でも楽しめるコースとなっています。各段階の特別食作成にあたっては、スタッフで事前に試食会を行い、検討を重ねています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2・図3・図4はウェブには掲載しておりません。

4年ぶりのばりあふりーお食事会開催

COVID-19感染症拡大予防のため、お食事会は2019年から休止していましたが、2023年10月22日に4年ぶりに開催しました。前菜としてノルウェーサーモンのマリネ レモン風味 ズッキーニとカリフラワームース添え 爽やかなトマトとハーブ風味のドレッシング、スープはカボチャのクリームスープ、メインはビーフシチューと和牛入りハンバーグの盛り合わせ マッシュポテトと彩り野菜の飾り ドゥミ・グラスソースの味わい、最後のデザートには和栗のモンブランとコーヒーまたはコーヒーゼリー、パンとバター、ジャムが提供されました。16家族45名(普通食28名、後期食3名、中期食3名、初期食8名、注入食3名)が参加し、会場は久しぶりの笑顔でいっぱいになりました。食事会には、摂食嚥下障害に携わっている医師や歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士が参加し、食事の介助方法についてアドバイスしたり、実際に食事介助をしたりしました。また、シェフも各テーブルを回り、メニューの説明や、調理の工夫の仕方などについての情報提供がなされました。会場中央に設けた試食コーナーでは、各段階の食事を提供し、参加者が自由に試食できるようにしました。さらに、介護食品、介護食器具、口腔ケアに関する企業による展示も行いました。

参加者からは、「家では食べないメニューで笑顔が見られました。」「いつもは食欲がないのに、今日は、もっともっとという感じでたくさん食べていました。」「大満足です。今後もこのような食事会を続けてほしいです。」といった声が多く聞かれました。

摂食嚥下障害を抱える子どもたちが外食をする際の課題

今回のお食事会に参加した16家族に、外食の機会についてアンケートを行ったところ、「数年に1回」と回答したのは4家族(25.0%)、「ほぼない」が5家族(31.3%)で、半数以上がほとんど外食をすることができていないことが明らかになりました。外食をする際に困ることとしては、「特別食提供がない」(11家族,68.8%)、「スペースが狭い」(4家族,25.0%)が挙げられていました。また、「すべて刻まなければならず、落ち着いて食べることができない」、「大型の車椅子でお店に入れるか、席につけるか、ミキサー食の持ち込みが可能か確認するのに時間がかかる」、「ミキサー食を伝えても、なかなか認知されない」といった声もありました。

これらの課題を解決するためには、特別食を調理することができる人材を育成すること、車椅子やバギーを使用するスペースや、おむつ交換などが可能なスペースが必要であることについての理解を広め、対応可能な施設を増やすことが求められます。

ばりあふりーお食事会を継続するために

今後もばりあふりーお食事会を継続し、またこの取り組みを広げるために、私たちは今年、クラウドファンディング「障がい児童生徒さんが、ご家族とともに外食を楽しむための輪を広げよう」を実施しました。目標を600万円として実施したクラウドファンディングでしたが、362名から8,201,000円のご寄付をいただくことができました。

今後は、ばりあふりーお食事会の開催の継続および拡大、特別食を提供できる調理師および調理師を目指す学生等の人材育成を行う予定です。また、この取り組みについての情報発信にも努めていきたいと思っています。摂食嚥下障害を抱えるすべての方、そしてそのご家族が外食を楽しむ機会が増え、笑顔が広がることを願ってやみません。

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