なんでも創る・みんなが楽しい-応援、それは人を強くする~誰もが楽しめるスポーツ ユニバーサル野球®事業~

「新ノーマライゼーション」2023年12月号

堀江車輌電装株式会社未来創造事業部 部長
中村哲郎(なかむらてつろう)

ユニバーサル野球®(以下、ユニバーサル野球)は、年齢や性別、障がいの有無にかかわらず、誰でも楽しむことができるスポーツです。このスポーツは、筆者が発明しました。堀江車輌電装株式会社(以下、当社)は「柔軟な発想と実行力で広く深く社会に貢献する」という企業理念のもと、鉄道車両の整備・改造・点検を主軸に、障がい者雇用のサポートを行う障がい者支援事業やオフィスやビル、マンションの清掃業務を手掛けるビルメンテナンス事業を展開しています。現在、ユニバーサル野球は、未来創造事業部(2021年事業部設立)の事業となっています。

ユニバーサル野球をイメージするならば「大型の野球盤」。一般的な野球場の約20分の1の大きさです。バットは紐を引くだけで簡単に振ることができ、直径約10cmのボールは約10~45秒で1周回転する円盤上に置かれます。攻撃型のスポーツで、決められたイニング内で多く得点した方が勝利!難しい動作はなく、タイミングと運が勝負のスポーツです。実際の野球や野球ゲーム盤の経験の有無、年齢や性別、障がいの有無を問わず、誰もが最初から容易にプレイでき、野球の面白さを提供できることから、その技術は2020年7月に「野球ゲーム盤」として特許を取得しました。(特許第6729956号)

そんなユニバーサル野球の発明は、重度の障がいを持つ野球が大好きな少年の「野球をやりたい」という一言から始まりました。この少年の願いに応えるべく、2017年に製作を開始。試行錯誤を重ねた結果、2019年に「ユニバーサル野球場1号機」が完成し、現在は、5号機までバージョンアップ。バージョンアップを繰り返す中で、ユーザーのさまざまなニーズに合わせて現在では屋内型・屋外型の2球場を展開しています。また、当初よりワンボックスカー1台で全国各地へ回れ、軽量化にこだわった設計にしており、おかげさまで2019年の事業開始から全国各地で100試合を開催、老若男女問わず約5,000名の人々にユニバーサル野球を体験していただきました。

さまざまな背景や体格差、年齢差もある5,000名が同じ条件で平等に戦うことができるので、スポーツレクリエーションとしてだけではなく、道徳や障がい理解といった教育的側面を持ち合わせていることも特徴の一つです。こうした側面は、スポーツイベントだけではなく、教育機関や福祉施設での開催に繋がっています。実際に、小学校や特別支援学校、大学における体験授業として実施したユニバーサル野球では、障がいの有無にかかわらず、互いに声援を飛ばし、互いに励まし合う姿が見られました。また、体験授業を通じて、他人への配慮やコミュニケーションの方法などを考える機会にも繋がっています。「運動は苦手だけど、ホームランを打つことができ、誰でも活躍できるスポーツなんだな」そんな感想をいただいたこともありました。共生社会の実現、コミュニケーション教育の推進、運動機会の創出、さまざまなアプローチができるのがユニバーサル野球なのです。

そんなユニバーサル野球を事業として進めていく上で大切にしていることが2つあります。

ひとつは「ボランティアにしない」こと。ユニバーサル野球はこれまでの開催はすべて「有料」(学校授業は4万円~、イベント開催は8万円~※交通運搬費等別途)での実施です。有料での開催に賛否両論あるのは承知の上で、有料開催にこだわるのは、「事業として継続」していくことを何よりも重要としているからです。当社代表取締役の堀江をはじめ、事業担当者、そして社員は、これまでさまざまな障がい者スポーツにボランティアとしてかかわってきましたが、寄付金やボランティアによる運営で継続困難に陥ることや何かを諦めなければならない機会を多く経験してきました。どんなに良い取り組みでも継続していかなければ意味がありません。継続した事業を行っていく上で、「資金」というのは必要不可欠です。ユニバーサル野球は引き続き「事業」として展開し、継続的に多くの方へ体験する機会を提供していきたいと考えています。

もうひとつは「応援」する大切さ・「応援」される喜びを伝えていくこと。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(新型コロナウイルスの影響で実施は2021年7月)から早2年。2021年の夏は日本中がスポーツでアツく盛り上がったことを今でも鮮明に覚えています。「スポーツ」という共通のコンテンツは、「応援」が必ず付いてきます。そして、ユニバーサル野球は「応援、それは人を強くする」と考えています。また、誰もが平等に楽しめるスポーツ、つまりそれは、誰もが平等に戦えるスポーツでもあります。スポーツが得意な人も苦手な人も、スポーツに携わる機会があった人もなかった人も、プロ野球選手も小さな子どもでも、皆がチームの一員として打席に立つので、本気で「応援」し、「応援」されます。だからこそ、ホームランが出れば満面の笑みで喜び、アウトになればこれまで見せたことのなかった表情で悔しがる。これこそ、「応援」のもつ力であり、ユニバーサル野球だから提供できる機会なのです。ユニバーサル野球は「応援」を何よりも大切にしていることから、電光掲示板や音響設備の演出、ユニバーサル野球を熟知したスタッフによる審判や進行、ウグイス嬢による場内アナウンスなど事業を展開する上で、その演出にもこだわっています。

ユニバーサル野球が目指すのは「あらゆる人が同じ立場でひとつのスポーツに熱中し、応援され、その経験から自分の可能性を広げることができる」そんな未来です。ぜひ一度、あなたも打席に立ってみませんか。

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