日本グループホーム学会 代表
荒井隆一(あらいりゅういち)
平成元年に制度化されたグループホームですが、早いもので35年が経とうとしています。
制度が始まった時には、身辺自立要件や就労要件もあり、全国で100か所ほどからスタートしました。平成12年には要件も撤廃され、支援度の高い方でもグループホームを利用できるようになり、平成18年に障害者自立支援法が始まった時には精神障害の方とも制度が一本化されました。少し遅れましたが、平成24年には身体障害の方もようやく対象になり、この時からすべての障害を持たれる方(難病の方も)が、希望すれば使えるようになりました。
そのような中で、現在は全国で約18万人の方がグループホームを利用して暮らしています。もちろん、その中には全身性の障害者、重症心身障害者で医療行為が必要な方、強度行動障害者など、支援度の高い方もいらっしゃいます。また、近年は高齢化や重度化ということもあり、看取りの支援を行う所も増えてきています。
しかし、全体の数字で見ると、障害支援区分5・6を合わせても21%程度*(介護サービス包括型)となっており、まだまだ支援度が高い方をしっかりと支えられるサービスとはいえないこともわかります。
これは、制度当初の身辺自立要件や就労要件などの印象が残っていて、利用する側も支援度が高い人は利用できないのではないか?という思いがあり、事業所側にも、希望があっても、支援度の高い方は利用できませんと断るケースや、本人の状態が変わり支援度が高くなると利用を断るケースがでてきており、双方共にグループホーム制度に対する認識不足や誤解があることが影響していると思います。例えば、未だに昼間はどこかに通わなければならず、グループホームにいることはできないという誤解や、居宅介護や訪問看護、訪問入浴などのさまざまなサービスの併用もできるのですが、あまり利用されていない実態もあります。この辺りのノウハウが浸透していないことが、支援度が高い方のグループホーム利用が今一つ伸び悩んでいる要因だと思います。
また、グループホームができて30年以上経ち、当初の仕組みとは大きく制度も様変わりをしてきています。特に近年は、利用者数は増加の一途をたどっていますが、制度が目まぐるしく変遷し、現在では「住まいの場」とはいえない所も出てきています。
現在は、サテライト型と呼ばれる一人の利用形態もできるようになり、日中サービス支援型という、夜勤も義務付けられ、昼間も含めて24時間支援体制を組むことが求められるものもできました。人数規模も当初は4~7名だったのですが、2~20名までと、大規模のものもできるようになり、近年は人手不足の問題なども絡み、一つの建物の利用定員が大きくなってきている傾向が見られます。
しかし、本来のグループホームに求められていた役割を考えると、これで良いのでしょうか?そういった意味では、30年の間にさまざまなものを詰め込みすぎて、グループホームというものがものすごく広い枠組みになりすぎた印象があります。同じグループホームという言葉を使ってはいても、一番端と端を比べると、全く違うといってよいほどの差があります。
日本は2014年に国連の障害者権利条約に批准しました。基本的には、障害者総合支援法もその条約に反してはいけないことになります。権利条約では、障害のある人は障害のない人と同様に、本人が望む暮らし方を選択し、地域社会の一員として生きる権利を有していることや、障害の程度にかかわらず、その権利を具現化できる障害福祉サービスのあり方を追求していく必要があることが規定されています。
2022年9月に出された対日審査の総括所見では、かなり厳しい見解が出され、現在の入所施設だけではなく、グループホームに関しても改善することが求められました。総括所見の中には、2022年5月末、国連障害者権利委員会が出した「緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン(案)」を参考にしたとされています。この脱施設化ガイドラインには、どんな重い障害があっても自分の好きな地域で自分らしい暮らしをどのように構築するかが書かれています。
また、ガイドラインでは入所施設の特徴として、次の要素を挙げ、施設収容を施設名・形態だけではなく要素の有無の問題とするとなっています。
ということは、私たちはこれらをしっかりと守っていくことを勧告されたことになります。
他にも、平成元年にグループホームの制度を創るために奔走された一人の中澤健さんは、以下のようなメッセージをくださっています。
『グループホームは当初、4~5人での暮らしへの支援という考え方でしたが、「当たり前の暮らし」という建前から考えると変です。人は縁もゆかりもない数人のグループで暮らすのが当たり前ではないからです。そこでゆき着いたのは「暮らしの基本は世帯もしくは個人」という当然のことでした』というようなことをおっしゃられています。グループホーム制度を創られた時から、その先に目指すべきところを見据えていたのだと思います。
また、次のようなこともおっしゃられています。
『(前略)障害者が長く管理されてきた歴史に鈍感になってはいけません。ふつうの暮らしがしたいという本人の願いが基本です。福祉職員は、その専門性で理念を構築すべきです。専門性で難しければ、もし自分が入居者ならどう感じるか、自分に当てはめて考えることはできるでしょう。(中略)福祉従事者に期待します。多くの本人の声を聞いてください。福祉とはそもそも何だったのか、熱く論議してください。巻き込み語り合い、みんなで時代を創って欲しいのです。少人数と管理性の排除はグループホームの“命”です。“命”は大切に守らねばなりません。行政も現場も、この点を共通理解し、それぞれの役割を果たせば、後は時間をかけてその質を高める努力をすれば確かな道がたどれます。障害を持つという理由で願いが切り捨てられる理不尽を、決して許さないという覚悟が大切です(後略)。』
これは目指すべきことは利用者さんが望む暮らしの実現にあると考えてグループホーム制度を創られたということです。グループホームをやることや運営することを目的にしてはいけません。あくまでも利用者さんの普通の暮らし(望む暮らし)を実現するための手段なのです。
最後に、私たちが最終的に目指すべきことは「ノーマライゼーションの実現」であり、それに向けて障害の程度にかかわらず、ご本人さんたちに丁寧に確認をして声を聴き「どこで誰とどのように暮らしたいか?」を実現していくことなのだと思います。そのためには、ニーズに合わせて制度設計をしていくことも大事です。制度に利用者さんを当てはめるのではなく、利用する方に対して制度を構築していくことが大切だと思います。
現在のグループホーム制度は、建物とサービスが一体となっていますが、まずはこれを別けた方が良いと思います。建物は社会のインフラとして整備して、あくまでも本人の住居である仕組みとして、そこに支援として入る仕組みが「グループホーム」(名称も地域生活援助に戻す)ということから考えても良いと思います。
そのようにしていくと、もしかしたら今のグループホーム制度はなくなることが出てくるかもしれません。しかし、それが利用される方たちのニーズであるならば、それを考えていくことが大切なのだと思います。
*日中サービス支援型では区分5・6を合わせると50%程度となっています。ただ、日中サービス支援型の利用者総数は1万人程度ですので、外部サービス利用型を合わせた総数の割合でも22%程度になります。