通過型グループホームの取り組み

「新ノーマライゼーション」2024年1月号

社会福祉法人豊芯会
古俣孝浩(こまたたかひろ)

1. 社会福祉法人豊芯(ほうしん)会の歴史

1978年、精神障害者の地域生活支援制度等が無かった時代に、初代理事長穂積登(精神科医師)が精神障害者の集い、語り合える場が地域に必要であると自己資金を投じて、東京都豊島区に開設したのがスタートです。1981年に通所者の一時宿泊と生活訓練のための施設を開設(現在のショートステイ事業)しました。その後、精神障害者と共に働く場づくりや地域の在宅障害者を対象に自立生活を支援する活動としてグループホーム開設、豊島区精神障害者退院促進事業や豊島区地域生活支援拠点コーディネート事業の受託など相談支援事業充実に向けた取り組み、2024年には豊島区東部・西部障害支援センターを受託開始する予定です。この間を2代目理事長上野容子(東京家政大学名誉教授)、3代目理事長岩崎香(早稲田大学教授)とバトンを引き継ぎながら、利用者のニーズや地域状況に合わせながら事業展開を進めています。

2. 東京都における通過型グループホームとは

通過型グループホーム(以下「通過型」という)とは東京都知事等による指定を受けたグループホームで、東京都福祉保健局長が通過型として指定したものとされています。グループホームから単身生活への移行を図るための取組や援助を行うことを目的としており、世話人には精神保健福祉士または社会福祉士等の国家資格を取得している者を配置することが原則とされています。通過型の場合は、利用期間は基本3年間になります。滞在型とは異なり、通過型はずっと利用できるわけではありません。特別な理由がない限り、期間終了時点で退居し、一人暮らし等を始めなければいけません。そのため期限内に衣食住・金銭・生活スキル等、さまざまな要素へのアプローチを行い、一人暮らしの模擬体験のような経験をしながら、自立した生活に繋がるよう支援します。東京都の特徴としては、都内住所者が対象で概ね3年以内での退居(一般的には2年が原則、1年の延長が可能という解釈)、世話人は常勤で精神保健福祉士等の国家資格があることが原則、また国基準に上乗せの加算や空室補償(最大3か月間)、精神科医療連携体制加算があるなどです。これらによって多くの場合で利用者の家賃負担がありません。

3. 社会福祉法人豊芯会グループホームつくしんぼう(外部サービス活用型)の現状

(1)つくしんぼうの概要

JR山手線池袋駅隣の大塚駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅街にあり、鉄筋コンクリート3階建ての集合住宅、総部屋数20部屋内の5部屋がグループホームです。1Kタイプ(6畳ほど)、ユニットバス、IHコンロの設備。TVや冷蔵庫、洗濯機等の家財道具は本人の準備となります。部屋ごとのためプライベートは確保されており、一般住民も同じ建物に住んでいるため一人暮らしに近い環境です。1993年開設当時からの定員数5名を大きく変えず、小規模なグループホームとして継続しています。背景には在宅障害者の自立生活を支援する活動に主軸を置き、グループホームよりも地域のアパート等での生活支援を重視してきたことが挙げられます。近年では他団体のグループホームが増加しているため、当会の部屋数は増やさず、紹介等を行いながら、利用ニーズ充足を図っています。できるだけ地域のアパート等での生活を重視しつつ、必要な方に通過型で生活スキル等へのアプローチを行い、地域での生活に繋げていく動きを行っています。主な対象者は、精神科病院に長期入院していた人、精神科病院に入退院を繰り返してきた人、地域での単身生活が困難な人、入所施設等から一人暮らしを目指している人等です。

(2)支援内容

一人暮らしに近い形態の仕組みであるサテライト型住居で、比較的自立度が高い方が利用されることが多いです。入居当初の頃は比較的手厚い関わりを行い、徐々に関わり内容が変化していきます。食事の提供は基本行っておらず、献立や買い物、栄養面などを一緒に考える支援等を行います。掃除が苦手な方の場合は、訪問して一緒に掃除を行いながら、掃除スキルを一緒に考えます。主に日中活動を他事業所等の活用としていますので、連携しながら状況把握等をしており、必要時連絡体制を整え、利用者とは24時間の電話連絡体制を確保しています。個別支援計画の見直しは制度上よりも頻度を高め、3か月に1回は見直しを行っており、独自のアセスメントシートを活用して行っています。衣食住、経済、医療、制度、対人等幅広い内容を確認しており、相談支援専門員の視点と重なるところが多いです。

<支援の例1>知的障害者向けのグループホームを利用していましたが、事業閉鎖により利用することになりました。本人の気持ちや思いを重ねていく中で、実は一人暮らしをしたかったとのこと、そこに向けて一つずつ取り組んでいくことになりました。その一つが食事でした。以前は、食事の用意がされ、目の前に出された食事を食べるという生活でしたが、通過型での生活は、毎日の食事を本人が選んでいくことになります。食事の選択肢が多すぎて何を選べばいいのかわからないという状態で、結果的に、好きな唐揚げばかり選んでしまう状況になり、健康診断でも良くない値が出てしまいました。日中活動先と連携しながら栄養バランスのよい食事のとり方を教えてもらい、病院からの助言内容を踏まえて本人と食事のとり方を一緒に考えていきました。本人は好きなものを食べたいという欲求はあるものの、栄養管理に真面目に取り組んでおり、電子レンジで温めて食べる野菜や、袋から出して炒めるだけのキット、食事サービス等外部サービスも活用しながら、最近では自身で簡単な調理にも挑戦しています。

<支援の例2>精神科病院長期入院を経て利用することになりました。初期段階は、住まいアメニティ整備や近隣のお店等の把握、ADLや能力等の本人のアセスメント及び関係性づくりの時期として重視しています。中期段階では、さまざまな事柄にチャレンジし、うまくいくことも、うまくいかないことも大切にしながら共有し、体調面を含めて見つめています。初期段階から卒業を意識して本人と関わりますが、後半段階では、その卒業イメージ等を共有しながら、積み重ねてきた事柄を大切な実績として共有し、次なるステージの関係者に繋ぎながら卒業に向かいます。この方は長期入院を経ての利用でしたが、本人の頑張りから、就労に向けて日中活動の福祉サービスをステップアップしていき、見事一般就職して卒業し、一人暮らしをスタートすることができました。フォーマルな資源との連携に加えて知人や町会等のインフォーマルな資源とも連携していきました。

(3)退居前後の支援や不動産業者との連携等の取組

退居先物件探しは、利用者一人で探す場合もありますが、同行希望の場合が多いです。不動産業者によっては精神障害者と伝えただけで対応してもらえない場合もあり、すぐに良い物件が見つかることは少なく、数多く不動産事業所を巡ります。物件探しの他、生活保護であれば移管する橋渡しや新しい住居の街を一緒に歩いて周辺確認、転居に伴う業者とのやり取り等の支援を行います。指定一般相談事業の支援に近い印象があります。

卒業された9割以上の方が一人暮らし等自立した生活をされており、ありがたいことに退居後も安定して生活されている方がほとんどです。卒業後は半年間を目安に週1回程度電話等で状況確認しています。卒業前に次に繋がる支援体制を整備して進めていますが、中には卒業後も安定しにくい方もおり、最長で卒業後10年間ほど継続支援した方もいました。

2~3年の定期的に卒業される方がいますので、不動産業者との連携は欠かせません。数多く巡る中で少しずつではありますが、生活保護の有無や本人の状況、希望に応じて連携できる不動産業者の繋がりが増えてきました。稀ではありますが不動産業者から空いている物件があるという連絡をもらうこともあります。また精神障害者の住まい環境の充実に向けて居住支援協議会等への働きかけも行っています。今後も連携できる不動産業者との繋がりを増やしていきたいです。

4. 現状と今後について

東京の家賃相場がとても高いことが要因ですが、退居の時に、利用者の理想物件と入居できる物件の差が生じやすいことが課題です。またグループホームの設備が良すぎると、一人暮らしで住む住居設備とのギャップが大きくなる場合もあります。利用者には入居当初から、卒業時住む地域によっては、物件状況が悪くなることがあることを伝えています。住環境は病状に大きく影響するため、上記については大きな課題と感じています。行政や居住支援協議会等へ働きかけを行っており、今後制度面からも改善を図っていけたらと思っています。また利用者が重度化傾向にあります。重度の障害があっても地域で生活できることはとても大切に思います。通過型グループホームを通して利用者が選択・決定しながら自分の暮らしのあり方や住みたい場所で生活ができるよう支援をしていきたいと思っています。

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