社会福祉法人りべるたす 理事長
伊藤佳世子(いとうかよこ)
社会福祉法人りべるたす(以下、当法人)は平成20年から活動を始めて平成28年に社会福祉法人となり、「誰もが地域で生活し、活躍の機会をもてる社会を目指します」という理念のもと、現在、グループホーム、ホームヘルプ、通所事業、クリニック、訪問看護、相談支援等を運営している法人です。
当法人が医療的ケアのある方でも暮らせるグループホームの運営をしようと思ったきっかけは、医療的ケアのある方や難病の方が地域で生活できる場の選択肢を増やそうと考えたためです。私は以前、筋ジストロフィーの方が長期療養をする病院で介護職員として勤めていたことがあります。当時はほとんどの方が死亡退院という状況であり、家で暮らせない場合、退院はかなり難しいことでした。そこで、平成24年より千葉市中央区を中心に、医療的ケアがあっても暮らせるグループホームの展開を始めました。初めて受け入れたのはALS(筋萎縮性側索硬化症)の方で、開設が決まった矢先、気管切開・人工呼吸器装着となってしまったこともあり、人工呼吸器の方の対応からのスタートとなりました。介護職による喀痰吸引が法制化された年でもあり、介護職が医療的ケアを担いながらグループホームで受け入れることに挑戦しましたが、当初は医療との連携に苦慮しました。介護職が医療行為を行っているから、また、グループホームで暮らしているから具合が悪いのではないか、などといわれることもあり、大変なプレッシャーがありましたが、現在もその方は利用をされており、安定して暮らしています。
現在は19ホーム89床に増え、介護サービス包括型の指定をとっています。皆さんそれぞれの生活を楽しんでおられます。利用者の区分は5・6の方が半数以上となっています。年代では40歳代の方が一番多いですが、20歳代の方が増えています。また、性別は男性の方が多いです。医療的ケアの状況については、呼吸器や酸素などを使っている方が7割、車いすの利用をしている方が8割、吸引または胃ろう等が必要な方が半数以上となっています。疾患ではALS、筋ジストロフィー、脳性麻痺等の方が多い状況です。
グループホームの個別支援計画をそれぞれの入居者に合わせて作成をしています。常時介護が必要でケアが多く必要な方の場合、相談支援専門員と連携して「区分4以上の特例」として外部ヘルパーを入れる場合もあります。入浴や食事の時間をしっかりとマンツーマン、または2人体制でとれるようにしています。そのためには、自法人だけでは難しいので、複数のヘルパーステーションや訪問看護ステーション、訪問診療、訪問薬局に入っていただいて対応をしています。複数の事業所で関わっていくメリットとしては、自法人だけで抱え込まずに他法人とも協力し合いながら理想的なプランをつくれることです。そして、支援やケアに関わる目が複数法人の多事業の方となるので、透明性が高くなり、虐待のリスクを減らすことができると思っています。また、ケアの質が悪いと交代することも可能なので、質の向上にもつながりやすいです。自法人よりもケアの上手な事業所が入ることで、自法人のケアのスキルを上げることにつながっていると実感しています。
グループホームの体制ですが、当法人の職員数は174人(令和5年3月現在)で、うち91人が喀痰吸引等研修修了者となっています。法人のスタッフにはできるだけ医療的ケアができるよう育成をしています。
統一した支援を行うために、ケアの内容を動画で撮り、スタッフが共有しており、事故防止に努めています。ヒヤリハット報告の共有も徹底しています。また、ヒヤリハットが多い人工呼吸器関連については、チェック表をつくり、入出前に自分が関わるケアの道具の確認をしています。そして服薬も間違いがないように各部屋管理にしています。また記録の徹底を行っています。他法人多事業の医療職と介護職がみて分かる、記録等の共有化を行っており、それぞれの方のケア内容に合わせた記録用紙を使って、共有を図っています。例えば痰の吸引をする時の痰の状態について記録するにあたり、痰の硬さや色、何時に吸引をしたか等を記載するようにしました。看護師が来た時に必要な医療情報をとってもらい、異変があった時に対応をしてもらえるようにしています。また、緊急時の対応については、リスクに備えた対応の一覧を作成しています。体調の急変等があった時に、こうなったらこうするというところがはっきりと書かれていると介護者が迷いなく、医療職につなげられるようリスクに備えた対応一覧等を具体的に書いて壁に貼りました。
個別のケア内容については医師、看護師、介護職等がそれぞれ別々の法人であるため、「Medical Care STATION」(医療介護連携のためのコミュニケーションツール)を活用して、常時共有を図っています。
グループホームには統括リーダーが2人、またそれぞれにホーム長、サブホーム長がおり、分からないことや困ったことがあった時の即時の相談窓口があります。ホームのスタッフの方たちは「LINE Works」で共有を図っています。
グループホーム全体で共有する事案については、月1回の定例会議を行っています。こちらはグループホーム全体についての情報共有と研修会を行っています。
利用されている方の病気の進行により、重度化していった時の対応をどこまで自分たちができるのか等はとても悩ましく思っています。救急搬送が増えているので、そのような時は緊急で誰かが駆けつけることも多くあります。また、看取りを希望される方もいますが、難病の方の看取りは数名の方について経験はあるものの、対応に苦慮することもありました。
そして、身体障害が重い方のグループホームはどうしてもハード面のコストがかかります。当初アパートの一部を借りて運営をしてきましたが、ハード面での対応が難しく、建設をしました。グループホームの居室も医療機器や福祉機器が非常に多いため、居室もあまり狭いわけにはいかず、緊急時に居室にストレッチャーがさっと入れるよう大きな扉にしたり、廊下も車いすがすれ違うことができる幅にしたり、トイレ等が車いすの方でも利用できるようなスペースが必要であったり、寝台浴槽を設置する必要があったりで、建設コストが上がってしまいます。特別に必要な仕様の部分については、費用の公的助成がないと広がりにくいと考えています。
令和2年度に障害者総合福祉推進事業で国立病院機構が運営する病院の療養介護(筋ジストロフィー病棟)利用者の地域移行に関する実態調査をやっており、その結果をみました。「このまま入院生活を継続したい/せざるを得ない」と回答した方の理由については、「家族に介護負担をかけたくないから」が63.6%、「自分が暮らせる場所が他にないと思うから」が50.6%いらっしゃいました。
未だ、家と病院以外の選択肢は充実できていないと感じる結果でした。
今後、医療的ケアのある方が暮らせるグループホームが増えることを応援したいですし、現在取り組んでおられるところとつながりをもてるようにしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
※りべるたすの活動については、ホームページをご覧ください。
https://libertas-mail.jp/