行政の動き-「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」の改定

「新ノーマライゼーション」2024年1月号

総務省情報流通行政局地上放送課 課長補佐
矢野圭(やのけい)

1. はじめに

コロナ禍の3年間や度々発生する災害を経て、国民の命と暮らしに関わる情報を迅速かつ正確に提供する重要性が益々高まっています。国民の安全・安心を守るために放送が果たす社会的・公共的役割の重要性も踏まえ、視聴覚障害者等がテレビ放送を通じて迅速かつ正確に情報を取得し、社会参加を促進していく上で、総務省では、字幕放送・解説放送・手話放送といった視聴覚障害者等向けの放送番組を一層普及させていくことが大変重要であると認識しています。

本稿では、「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」の改定や今後の取組についてご紹介します。

2. 背景

平成9年の放送法改正により、放送事業者は字幕番組及び解説番組を可能な限り多く設けなければならないことが定められ、この改正を受けて、総務省において各種施策を推進してきました。

平成9年度以降、10年毎に各放送事業者の字幕放送等の普及目標値を定めた行政指針を策定しており、段階的に普及目標を引き上げることで、放送事業者に対して着実な取組を促しています。平成30年2月に策定した「放送分野の情報アクセシビリティに関する指針」では、令和9年度までの目標を定めつつ、技術動向等を踏まえて、5年後を目途に見直しを行うこととしていました。

そこで、総務省では、指針の見直しに向け、視聴覚障害者団体や放送事業者、有識者等を構成員とする「視聴覚障害者等向け放送の充実に関する研究会」を令和4年11月より開催し、障害者団体からの要望や放送事業者等の取組に加え、AIの活用等の技術動向を踏まえた議論を行ってまいりました。令和5年8月に本研究会において報告書が取りまとめられたことを受け、この報告書及び研究会の議論を踏まえた指針の改定案を公表し、意見募集を経て、令和5年10月に新たな指針を公表しました。

3. 「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」の改定について

新たな指針では、主なものとして次の点の改定を行いました。

(全体)

  • 令和4年5月に制定された「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」について追記。
  • 令和9年度目標を既に達成済みの放送事業者について、より高い目標値の自主的設定、更なる取組への期待を追記。
  • 生成AIの活用の検討に当たってはポテンシャルとリスクの両面があることを認識しつつ、技術開発や議論の動向を注視することを追記。
  • 4K・8K放送について、新たに目標を設定。

(解説放送)

  • 視聴者の生命・安全に関係する情報をチャイム音とともに緊急・臨時に文字スーパーとして送出する場合、できる限り読み上げる等により音声で伝えるよう努めるものとする旨を追記。

(手話放送)

  • NHKの目標時間を、週当たり平均15分からNHK総合では30分、NHK教育では5時間に大幅に拡大。
  • 大規模災害発生時等に手話通訳者が同席する会見等を中継する場合、できる限り手話を映り込ませるよう努めるものとする旨を追記。

放送分野における情報アクセシビリティに関する指針拡大図・テキスト

普及目標の推進のため、令和5年10月の地上基幹放送事業者等の再免許の交付の際に、本指針に基づいて字幕放送等の普及に取り組むことを放送事業者に要請いたしました。今後、本指針の改定を踏まえ、放送事業者による字幕放送・解説放送・手話放送の一層の拡充が図られることを期待しています。

4. 今後の取組

視聴覚障害者等向け放送の充実に関する研究会の報告書において、今後の取組について次の提言が行われました。総務省では、この提言を踏まえ、放送事業者の取組状況の確認等を行うフォローアップの場の開催に向けた働きかけや、利用者のニーズや放送事業者における実績に関する調査分析等の取組を行ってまいります。

(字幕放送)

  • 放送事業者等においては、まずは全ての放送事業者において現行指針の目標を達成するための一層の取組が必要であると考えられる。総務省においても、当該取組の状況等をしっかりとフォローアップしていくことが重要であることから、関係者が参加するフォローアップの場(会合)を設けることが望まれる。
  • 民放県域局においては生放送番組に対する字幕付与設備の導入が進んでいない。このため、字幕付与設備の共同利用を推進する等、より多くの放送事業者が字幕付与設備を利用可能な環境を整備することが望まれる。総務省においては、効果的な支援の在り方について必要な検討を行うことが求められる。
  • 生放送番組への字幕の付与については、生放送番組の字幕における誤りがどの程度許容されるか等について議論を行うことが望まれる。総務省においても、生放送番組の字幕等の内容に係る制度面・運用面の課題について整理し、必要な検討を行うことが望まれる。
  • 指針の対象となる放送時間や放送番組の拡大については、今後、利用者のニーズや放送事業者における実績について総務省において調査分析を行い、必要な検討を行うことが望まれる。

(解説放送)

  • まずは全ての放送事業者において現行指針の目標を達成するための一層の取組が必要であると考えられる。
  • NHKが行っている生放送における解説音声配信に関する取組の成果等のベストプラクティスの共有を図ること、NHKと民間放送事業者との協力を推進する場を設けることが求められる。
  • 以上を踏まえ、フォローアップの場において、解説放送についても取組状況等の確認を行うことが望まれる。
  • 解説放送における指針の目標の対象となる放送時間や放送番組の拡大についても、利用者のニーズや放送事業者における実績について総務省において調査分析を行い、必要な検討を行うことが望ましい。

(手話放送)

  • 全ての放送事業者において現行指針の目標を達成するための一層の取組が必要であると考えられる。総務省においては、地方に重点を置きつつ、テレビジョン放送における手話通訳人材の育成を継続することが求められる。
  • 字幕放送や解説放送と同様、フォローアップの場において取組状況等の確認を行うことが望まれる。
  • 視聴者のニーズや放送事業者における取組、更なる普及を図る上での課題について、総務省において調査分析を行うとともに、障害者団体、放送事業者等が参加する検討の場を設けることが求められる。

5. 最後に

字幕放送等の充実に向けては、関係者間で密にコミュニケーションを図り、共通理解を醸成し、深めていくことが重要と考えています。総務省としても、引き続き、視聴覚障害者団体や放送事業者等の御意見を踏まえて、字幕放送等の普及に向けた取組を推進してまいります。

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