和田浩一(わだこういち)
公益社団法人NEXT VISION
私の眼の病気が発見されたのは13歳の時でした。進行性の眼の難病で、視野狭窄と夜盲で始まり、その後、徐々に視力が低下し、35歳ころに信号機の色が判断できなくなり、移動が大変困難となりました。現在65歳で全盲です。
視覚障害者が白杖を使って単独歩行をする際に、スマホの活用は、安全でスムーズな移動に大変有効です。GPSとコンパスによる地図アプリ、ビデオ通話機能を活用した人的サポートやAI(人工知能)による画像認識で、スマホのカメラが眼として利用できるようになりました。自由な移動のための工夫をご紹介します。
「アイナビ」というiPhone用の無料アプリを使用すると、AIによるカメラ画像の認識で、信号機の色、進路上の人や自転車の存在、点字ブロックや横断歩道などを音声で知らせます。また、経路案内と周辺情報も知ることができるので便利です。
点字ブロックに2次元コードなどで案内情報を付加した「コード化点字ブロック」や「shikAI(シカイ)」アプリも利用しています。これらのアプリは足元の情報を読み取るためにスマホのカメラを下に向ける必要があります。
また、iPhone Proの「拡大鏡」アプリで利用できる人の検出機能は、人との距離を音声と振動で知らせます。他にビデオ通話機能も便利です。遠隔の支援者に映像を見せて説明してもらうこともあります。
人の検出機能を使うと、前を歩いている人との距離がリアルタイムに分かります。前から近づいてすれ違う人も分かりました。駅のホームでは、乗車口の列の最後尾に並ぶのが楽になり、一定の距離を空けられます。前の人が進むと、距離の変化を音の違いで容易に確認できます。近くの人に援助を依頼する場合も適度な距離から話しかけられるので確実に頼めます。
助かったのは電車やバス、病院、駅の待合室などでの空席確認です。人が座っていないと分かれば椅子の向きは触って確認できます。銀行のATM(現金自動受け払い機)コーナーでも気兼ねなく安心して利用できました。アイススケートにも挑戦しましたが、人との距離を測りながら、心地よく滑ることができました(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。
このような歩行支援機能を利用するための工夫として、首からぶら下げて胸の位置にスマホを固定するホルダーを作成しました。点字ブロックの情報も読み取れるように下方向きに角度を変えることができるようにしています。また、スマホが揺れないように固定するベルトも付けました(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。
スマートフォンを手に持っての移動は危険なので、ハンズフリーが便利です。イヤホンを使用すると、周囲の環境音が聞き取りにくくなるので、耳をふさがないタイプの骨伝導や眼鏡型のスピーカーを使用しています。このように首掛け式ホルダーを使ってスマホの眼が利用できることは安全で快適な歩行に役立っています。