就労系サービスにおけるサービス管理責任者と地域自立支援協議会との関わりについて

「新ノーマライゼーション」2024年2月号

社会福祉法人あひるの会 あかね園/障害者就業・生活支援センターあかね園 統括施設長
松尾公平(まつおこうへい)

はじめに

私は平成10年に現在所属する社会福祉法人あひるの会あかね園(現在の就労系サービス、当時の授産施設)の職業指導員として採用されました。

山のような作業を目の前に、園生たちと必死になって働く日々でしたが、数年経ったある時当時の園長から「営業職」を命じられ、地域の企業や幕張メッセのイベント会場等をまわり、実習先、就職先、受注作業の開拓に奔走してきました。自分は「指導員?」「作業員?」「営業マン?」と当時は疑問をもちながらも懸命に活動していましたが、これらの経験が自分にとってかけがえのない財産になっていることに気づくのにはそれほど時間はかかりませんでした。

そんな中、平成20年に地元市から障がい者自立支援協議会を立ち上げるというタイミングで声をかけていただき、またほぼ時を同じくして県のサービス管理責任者研修の企画や講師としてのお手伝いを始めたことをきっかけに、以来、地域の自立支援協議会(6期目、会長職として4期目)と県のサービス管理責任者研修(約15年)と深く関わる立場で活動してきました。

ネットワークづくりの礎「地域自立支援協議会」

私の地元の習志野市は千葉県の北西部に位置し、面積規模は県内でも下から4番目(21km2)であるものの、人口は約17万人と人口密度の高い地域となります。産業面では元々農業と企業規模では9割以上が中小企業で構成される「コンパクト」な地域です。近年では都心へのアクセスの良さから、ベッドタウンとしての色が濃くなり、農地が減少、高層マンションが林立し、企業地帯では物流倉庫が続々と建設されています。

そんな私が属する習志野市の障がい者自立支援協議会(現:障がい者地域共生協議会。以下、協議会)では、現在、行政、学校、福祉、医療、企業、当事者(団体)等からなる委員34名が5つの部会に分かれ、毎月の部会活動の他、年2~3回の全体会、各部会長が集まっての運営会議が毎月と他市に比べてもかなり活発に活動している協議会だと認識しています。

「地元地域のために」と志高い委員と熱意のある市職員によって、地域の実情をタイムリーに共有、擦り合わせのできる機会があることは貴重な地域資源のひとつであると考えます。

就労支援部会での活動を通して

ここからは協議会の就労支援部会の実践について紹介します。

〇地域に知ってもらう活動

部会の本格的な活動は「地元習志野で障がい者の働く活動の活性化を図りたい」と広報誌の発行から始めました。広報誌の名称は「ならたく」(習志野市ではたらくの略)。地元で働く障がい者の活躍や企業のコメント等を掲載し、部会員である地元商工会議所の協力もいただき、市内約2,000社への配布と市民向け回覧板にも同封させてもらいました。「広報誌見ました」といった感想や障がい者施設への仕事の依頼、求人の相談等、少しずつですが反応も増えつつあります。

〇ネットワークづくり

長年継続している活動では地域事業所との「意見交換会」を開催しています。市内就労系サービスの事業所が定期的に一同に介し、顔の見える関係を構築することで、日頃からの情報共有や支援協力を円滑にする効果がみられました。

また、各事業所の近況や困りごとの報告を通して「地域課題」を抽出する中では「地元での職場実習の場がもっとほしい」との声をもとに、商工会議所の加盟企業を対象に障がい者の職場体験実習の受け入れのお願いとアンケートも実施しました。

こうした地域資源を活かしての異業種間でのスムーズな連携は協議会の最大の利点でもあります。

〇人材の育成と地域の支援力のボトムアップ

近年、就労系サービスが地域で続々と新設される中では業界初参入や異業種からの人材採用も多く、「支援者の育成」や「支援の質の向上(ボトムアップ)」も役割として求められてきました。

こうして始まった部会の研修会では制度や地域の実情に即した就労系サービスに求められる姿勢や役割等の確認の機会ともなってきました。

例えば、福祉サービスで活動する障がい者の工賃がなかなか向上していかない要因のひとつには支援者の意識の問題もあります。企業からの安定した作業(量)の提供を条件に(実態に見合わない)安価であっても安易に受け入れることは支援者が障がい者の「働く価値」を低めることともなります。

企業からの仕事の対価(報酬)が「障がい者(施設)だから」という理由ではなく、純粋に「仕事の出来」によって適正に評価されるためには、まずは支援者が「障がい者の働いた成果」を適切に捉えること、また「一円でも高い工賃(給与)を」という意識の両方を地域全体で有していくことが必要です。

こういった意識レベルからの地道な地域連携が支援の質の向上や地域共生社会への歩みにもつながります。

〇ソーシャルアクション

地域にない資源や不足している資源に対し、創出や活性化を促す活動も行ってきました。

平成25年4月に施行された障害者の優先調達法(国や地方公共団体等が率先して、障害者就労施設等へ業務の発注や物品等の調達を推進することを講じた法律)の施行を契機にこれまで特定の課にとどまっていた発注を「市庁舎内の幅広い課へと拡げる」ことに大きな意味があるとし、市職員の業務用HPへの発注協力の掲載や各課の担当者を集めての説明会を実施してきました。福祉サービスでの就労活動の紹介を踏まえ、各課での業務の切り出しを提案する等の活動を積み重ね、現在では庁舎内からの発注先の幅も随分と拡がり、発注額の向上にも繋がっています。

また、「地域の実情に即して」の柔軟な変化(対応)も大切です。中小企業が中心の地元地域において障がい者の雇用が思うように進まない課題がある中、次回制度改正では中小企業での障がい者雇用を促進するための強化策が打ち出されています。この「追い風」を活かすために就労支援部会も今年度より、名称を「雇用促進部会」とし、地元の中小企業への雇用促進を図ることに特化した部会として目的を絞っての活動が始まっています。

サービス管理責任者としての「視点」

ここまでは就労支援部会での活動の一部をご紹介してきました。部会を立ち上げた当初は「地域にとって」と何から着手すればよいか部会委員で頭を悩ませましたが、そんな時に思いついたのが「サービス管理責任者(以下、サビ管)」としての視点(役割)でした。

サビ管の主な役割は自事業所でのサービス提供の計画作成、進捗の確認、質の担保等がありますが、広義の視点としては部会の実践にも記したように1.地域連携、ネットワークの構築2.人材の育成3.資源をつくる(創造、改革、促進)といった役割も求められています。

しかしながら、近年では利用者さんの抱える「困難性」や「ニーズ」も多岐となり、サビ管さんも目の前の支援に精一杯で、知らず知らずのうちに外(地域)に向けての目や足が遠のきがちとなります。

そのような時こそサビ管さんは(現場に遠慮することなく)事業所を出て、地域のネットワークに飛び込んでいくことも大切です。サビ管が「自事業所の課題」を抱え込むことなく、「地域の課題」として見方を変えて向き合うことが「地域にとって」「サビ管にとって」の多くの助けにもなるかと思います。

さいごに

近年、サビ管研修の新規受講者は増加する一方で、資格更新者が大幅に減少しており、業界における人材定着の課題を痛感しています。サビ管という仕事は多くの人との出会いや関わりを通して自身が成長していくことのできる、とてもやりがいのある仕事だと思っています。そしてまた、サビ管さんのつくる「個別支援計画」は利用者さんだけではなく、支援従事者にとっての達成感ややりがいにもつなげる力を有しています。各地域で活躍するサビ管さんによって、この福祉の仕事を生涯の仕事と感じてもらえる人が一人でも増えていければと切に願っています。

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