実現・当事者目線の支援機器-「誰が」「何を」話したかがわかる。聞こえの違いをつなぐコミュニケーションツール「VUEVO(ビューボ)」

「新ノーマライゼーション」2024年2月号

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社View of Voice事業部
川田夏希(かわだなつき)

1. VUEVO開発の経緯-社会課題を解決したい-

発言内容をリアルタイムで文字起こしするサービスは多数ありますが、「VUEVO」の特長は発言内容の文字化にとどまらず、発話者の方向を把握できる点にあります。この点にこだわって開発したのは、実際に当事者の方の困りごとがあったからです。

聴者の場合、騒がしい環境であっても、音声を無意識に選択して話している人を特定したり、必要な情報をピンポイントで聞き取ったりすることができます。ところが、聴覚障がいや聞こえにくさがある方は、複数人と会話する状況になると発言者の特定や発言内容の聞き取りが難しいケースが多くなってしまいます。そのため、複数人の会話に参加する時、補聴器などを使用していたとしても、声の方向がわからない、聞き分けが難しいといった課題がありました。

実際に、聴覚障がいの方にヒアリングしたところ、誰が何を話しているのかわからないために会議に出席できない、したくない、招待されない、ざわざわした場所で友達とうまくコミュニケーションを取ることができないなど、多数の困りごとが見えてきました。

このような困りごとを解決し、コミュニケーションのバリアフリーを実現したいと考え、「VUEVO」を開発することになりました。当社は、社会的意義があるソリューションを連続的に世の中に生み出し、社会実装することを生業としています。コミュニケーションのバリアフリーの実現を後押しするソリューションを手掛けることは、とても社会的意義があると考えています。

聞こえの違いや、言語の違いを超えたコミュニケーションを実現するソリューションを生み出すために、プロジェクトをいくつか進めています。今回の「VUEVO」もその一環でした。

2. VUEVOの3つの特徴

1.誰が話しているかが直観的にわかる

まず一番の特徴として、「誰がどこから話しているのか」発話者の方向が直観的にわかります。会話を方向で認識し、その内容を文字変換してそれぞれの方向に表示します。さらには方向ごとに話者の名前を登録することで、誰が話しているのかもわかります。

より聞き取りが難しいのは複数人が同時に話すシーンです。一般的な文字起こしソリューションだと会話が混ざって文字変換が崩れてしまうことも多いのですが、VUEVOはそれぞれの発言を方向で切り分けて文字変換、表示することができます。

2.情報の遅れをなくしありのままを届ける

2つ目はリアルタイムな表示です。VUEVOは発言とほぼ同時、1秒以内に発話方向と内容を表示することができます。特に会議の場面では、発話者が突発的に変わったり、間に相づちなど他の人の反応が割り込んだり、非常に速いスピードでいろんな情報がめまぐるしく交わされます。

このような自然なコミュニケーションの情報も含めてリアルタイムに届けることで、会話についていくだけでなく、会話のニュアンスやリズムをつかみ取ったり、自分が発言するタイミングをつかめるようになったり、会議にも参加しやすくなります。

3.ChatGPTによる要約や会議の質をアップデートする先進機能

3つ目は、ChatGPTによる要約や記録などの先進機能の搭載で、会議の質そのものを進化させることができます。

会議中の会話を5分ごとにリアルタイム要約し、終了後は会議のタイトルや概要を自動で生成します。会議中は聞き取りに関わる負担が減り、会議の内容に集中できること、要約も含め内容が記録&保存できるので、正確に会議の内容が理解できるようになります。

最終的には会議の記録はシステム上に自動で保存され、議事録としての活用もできます。自分のタイミングでいつでも振り返りができ、周囲の人に会話の内容を聞き直す手間や心理的負荷も軽減され、結果的に業務の効率化や生産性向上にもつながります。

3. 開発にあたり苦労した点

技術的な面になりますが、マイクの小型化に苦労しました。サイズ感として、スマートフォンの幅ぐらいの大きさ(直径70mm程度)で作りたいとこだわりがありました。スマートフォンのように気軽にマイクを持ち運び、使いたい時に使っていただけるものにしたかったからです。

とはいえ、方向をリアルタイムで特定・分離するためには性能の高いマイクを複数搭載する必要があり、小型化はそう簡単なことではありません。最初に試作品を作った時の大きさは、フリスビーぐらいのサイズでした。良い製品であっても使いづらいことで結局使われなくなってしまうと意味がありません。ここから半年間かけて試行錯誤を繰り返し、ようやく今のマイクの形に仕上げることができました。

直径70mmよりは少し大きくなりましたが、ワイシャツの胸ポケットに入るコンパクトなサイズ感と持ち運びやすい軽さになりました。お客様に持っていただくと、「思ったより軽い!コンパクト!」と驚いてくれます。

4. お客様の声

いただく声で一番多いのは「会議や職場での会議内容がより理解できるようになり、聴覚障がいの方と上司や同僚の方、双方の業務の生産性が上がった」という声です。聴覚障がいの方がより会話を理解できるようになったことはもちろん、会話についていけるようになり、職場に溶け込めるようになったとのことです。

また、自席での雑談の聞き取りに使っている方もいます。「今まで周囲で何の話をしているのか全くわからなかったけど、VUEVOによってどんな話をしているのか把握できるようになった。これまではできなかった雑談への参加や、同僚とのコミュニケーションのきっかけが生まれている」。

私たちが目指しているコミュニケーションバリアフリーの世界が少しずつ広がっています。

5. 今後の展開

子どもから高齢者まで、そして、自宅、学校、会社、あらゆる場所で、また日本に限らずグローバルでもVUEVOがコミュニケーションの場に“当たり前にある”環境にしていきたいと思っています。難聴者は世界で約15億人いるといわれていますので、一人でも多くの方の困りごとを解決したいです。

また、現在、会話内容を相手を見ながら把握できる眼鏡型ウェアラブル端末「スマートグラス」の開発にも取り組んでいます。「スマートグラス」は眼鏡のレンズ越しに発言者の近くに発言内容を字幕で表示し、会話の参加者の発言を瞬時に文字表示、複数人の会話にも対応できます。

今後もこれまでと同様、「VUEVO」の普及に尽力しながら、新たなソリューションの開発も進めていきたいと思います。

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