ひと~マイライフ-さまざまなことを経験して、そしてさまざまなことに挑戦して

「新ノーマライゼーション」2024年2月号

森敦史(もりあつし)

先天性盲ろう者。2020年に日本で唯一の視覚・聴覚障害者のための大学である筑波技術大学の大学院を修了し、現在は同大学総務課総務係(広報)にて勤務。また、同大学障害者高等教育研究支援センターの技術補佐員として、「博物館等で触察を可能とするための基準試案」に関する研究に携わる。

私は生まれた時から目が見えにくく、耳が聞こえにくい盲ろう者です。2020年より筑波技術大学の事務補佐員及び技術補佐員として勤務しています。

普段は相手の手話を軽く触り読み取る「触手話」や点字ディスプレイに接続されたパソコン及び点字・音声情報端末を活用したメールやチャットを用いて、コミュニケーションを取ったり、情報を得たりしています。

また、プライベートでは盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業等を利用してラーメン屋さんや外国料理屋さんをめぐったり、駅員さんのサポートや現地のボランティアによる同行支援を受けながら趣味の鉄道の旅を楽しんだりしています。

しかし、盲ろう者にとっては得られる情報が限られるため、単純に「今話している内容を教えてほしい」「〇〇に行きたいから手引きしてほしい」などとお願いするだけでは解決できない問題があります。

特に、私の場合、生まれた時から、テレビ、周りの人の会話や行動等を見聞きしたことがなく、「見たことがない」「聞いたことがない」ために、「知らなかった」「予測できなかった」ということが非常にたくさんあります。そのために、今周囲で何が起きているかの状況を把握することが難しいことだけでなく、経験や知識が不足しているために、行動に移せないことが多くあります。

職場では他の人の会話や行動を見聞きすることができないために、上司や他部署の方にマナーとして、いつどのような形で挨拶や相談をしたらいいかわからなかったり、休憩時間に何をしたらいいのか予測できなかったり、知らない間に質問に対して的外れな回答をしてしまったりすることがあります。周りの人に「何かあったら教えてほしい」「こちらから質問がなくても違和感を感じたら教えてほしい」などとさりげなく伝えていくうちに、同僚や職場に来てくださる支援者などからも知らない間に起きている出来事の説明だけでなく、「今、ネクタイをしていない人が多いからもうつけなくてもよいのでは?」「上司から質問や提案があったら他の人はこのように答えている」などと細かなアドバイスをいただけることも増えました。

私は将来盲ろう者における一般就労に役立てるようなことをしたいと思っていますが、盲ろう者として求めるべき支援を考えるだけでなく、職場などを通して、一般の社会がどういうものなのかを学ぶこともよい経験になっています。

プライベートでも知識を増やすために、「触ること」「体験すること」「経験すること」を大切に、さまざまなことに挑戦しています。たとえば「サーフィン」というスポーツも、名前は知っていても見たことがなかったために、何となく海の上に浮かんだ板に乗って動くといったイメージしかありませんでした。しかし、数年前に体験する機会があり、初めてサーフボードを触り、またバランスを取ることの難しさを体感しました。

大学では、博物館等で盲ろう者が展示物を触って、形状・素材・大きさなどをイメージできるようにするための基準に関する研究をしています。

当事者や支援者ともに、障害者だから「できないだろう」「危ない」と何かをすることをあきらめてしまうことがあります。でも盲ろう者にとっては、言葉の説明だけではイメージしにくいこともたくさんありますので、可能な限りさまざまなことを経験するようにしています。皆さんも何らかの工夫をすればできることはたくさんあると思いますので、ぜひいろいろなことに挑戦してみてください。

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