地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-動くことは学ぶこと~身体に不自由のあるこどもたちにとっての電動移動機器が世界を変える

「新ノーマライゼーション」2024年3月号

びわこ学園医療福祉センター草津
高塩純一(たかしおじゅんいち)

1. 小児理学療法の最終目標は歩くことですか?

今世紀に入るまで多くの理学療法士は、障がいのあるこどもに対して正常運動発達を促すことで、その先にあると思われる歩行というゴールに向かって各々の手技(しゅぎ)を行ってきました。しかし、今世紀に入り国際生活機能分類(ICF)という考え方に変化する中、2011年にRosenbaum(ローゼンバーム)教授とDr.Gorter(ゴーター)の論文「The ‘F-words’ in childhood disability: I swear this is how we should think!」(障害のあるこどもの‘F-の言葉’私たちはこう考える)が投稿されたことで、小児リハビリテーションは歩行神話の呪縛から解き放されつつあります。しかし、電動車椅子になるとその安全性を鑑みて一定の認知面が発達するであろう小学校低学年に加え、交通ルールが理解できることが給付対象になります。そのためこどもたちが自由に動かすことができる電動移動機器が開発されてきませんでした。

2. なぜ電動移動機器を用いてでも動くことが必要なのか

2003年に開催された日本赤ちゃん学会第2回新・赤ちゃん学国際シンポジウムで、カリフォルニア大学バークリー校のJ.J. Campos(ジョセフ・キャンポス)教授の基調講演「認知機能の発達: 発達心理学からの提言」を拝聴することがなければ、障がいのあるこどもたちに早期移動経験の重要性について考え続けることもなかったと思います。この講演の中で、Campos教授は、赤ちゃんがハイハイという移動手段を用いて環境探索することが、発達全体を促進する引き金には重要な役割を果たすことを知りました。そして移動の際に下肢を動かしたのか、ジョイスティックを操作したのかの違いは、脳の中では出力系部位の差に過ぎないことに衝撃を受けました。このことが発端となり、立位で乗る電動移動機器「Multilocomotor」(マルチロコモーター)を2004年に開発しました。しかし当時はまだまだ歩行獲得至上主義であったため、批判的な声もありました。

3. Kids Loco Project(キッズロコプロジェクト)の設立と機器開発

滋賀県立大学の安田寿彦教授から障がいのあるこどもたちが使える電動移動機器を一緒に開発しませんかとの提案があり、2007年に任意団体Kids Loco Projectを立ち上げました。当初は全方向に移動可能なタイプや衝突回避・ライントレースなどのハイテク機器を搭載したタイプを製作してきました。しかしそれではこどもたちの手に届けられる物にはならないことに気付かされ、Baby Loco(ハイハイを開始する時期から使用可能な機器で椅子の部分はお子さんが使用)・Carry Loco(使用している車椅子を簡易電動化するユニット)の開発にかじを切り、同時にワークショップを開催し全国に仲間の輪を広げて参りました(詳細はKids Loco Projectのホームページを参照)。

この活動を広げていく中、Baby Locoをご自宅で使用しているお母様からは、「それまでは公園に行くのが嫌だったのですが(歩けるお子さんを見るだけで涙がでてきたりしていた)、公園にBaby Locoを持って行って乗ることで、他のお子さん方が近寄って声をかけてきたりと、私自身も前向きな気持ちになってきました」とおっしゃっていました。

4. 今後の課題と展望

この活動を通して、全国の親御さんや療育関係者の皆さまとつながりを持てるようになってきました。しかし、未だに電動移動機器の使用に懐疑的な考えを持つ方もいらっしゃることも事実です。また、電動車椅子に係る補装具費の支給は学齢児以上に限られており、乳幼児期から使用できる電動移動機器が存在しても親御さんは自費で購入するしか手段がありません。こどもたちが自ら動くことは基本的人権の保障です。発達保障の観点からも、この活動を皆さまに知っていただくことを切に願っております。


カナダのMacmaster(マックマスター)大学にあるCanChild(キャンチャイルド)のRosembaum教授らが提唱している「F-word」という障害児の生活把握方法。WHOのICFの枠組みに障害をもった子どもの生活に重要な6要素を当てはめてつくられている。6要素とは「Fitness フィットネス」「Function 機能」「Friends 友達」「Family 家族」「Fun 楽しみ」「Future 未来への期待や夢」。

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